企業では、雇用上限の70歳への延長や経験を活かした役割付与、処遇上の工夫などの動き。地域の産官が連携して就職支援に取り組む事例も
 ――地域での改正高年齢者雇用安定法への対応

地域シンクタンク・モニター特別調査

改正高年齢者雇用安定法が2021年4月から施行され、70歳までの就業確保が努力義務となった。今回の地域シンクタンク・モニター調査では、特別調査として、各地での法改正への対応状況を尋ねた。各モニターからは、継続雇用の上限年齢の70歳への延長、高齢従業員の新人教育役への任命、一定の条件下での上限年齢の撤廃、専門性の高いシニア向けの処遇制度などに取り組む企業の事例や、ワンストップ相談窓口の設置など地域をあげて就職支援に取り組む事例が報告された。

役割を明確にして自分のペースで働ける制度を導入する介護施設も――岩手県

岩手県のモニターによると、介護事業を営む社会福祉法人みちのく大寿会(洋野町)は、定年制度を改定して60歳から65歳へ延長したほか、継続雇用の上限年齢も65歳から70歳へ引き上げた。また、高齢従業員のための短時間勤務制度を導入したほか、得意分野を活かした役割の明確化を行い、自分のペースで働くことを可能にしたという。

岩手県を中心にスーパーマーケットを展開する株式会社ベルジョイス(盛岡市)では、高齢従業員はスキルが高く店舗についても熟知していることから、店舗における新人教育の指導役を担わせている。さらに「リリーバー制度」として、本社に所属する高齢の従業員が近隣店舗での指導を行っている。最近では新型コロナの感染などに伴う出勤停止が発生した際に応援に入るなど、制度の有効性が高まっているという。

厚生労働大臣最優秀賞の受賞企業では一定の条件のもとで年齢上限なく雇用――東海地域

東海地域のモニターは、「高年齢者活躍企業コンテスト」で2022年度厚生労働大臣表彰の最優秀賞を受賞した菓子製造業の株式会社恵那川上屋(岐阜県恵那市)の取り組みを紹介している。同社の定年は65歳で、希望者全員を70歳まで継続雇用している。さらに70歳以降も、一定条件のもとで年齢の上限なく雇用しており、最高年齢者は79歳となっている。65歳定年後は本人の希望に合わせて、所定労働日数または所定労働時間が少ない勤務形態を選択できる制度を整備している。また、高年齢者が多いパート社員については、役務遂行レベルを定義したクラス制度、人事評価制度、時給制度を実施し、年2回の昇給を設けることでパート社員の戦力化と定着を促進している。

清掃事業や警備事業を営む株式会社環境システム社(岐阜市)は、パートタイム従業員の定年を設定していない。高齢者雇用を促進するため、高齢者向けの業務マニュアルを整備するとともに、体力に合わせた適度な働き方を推進している。

地銀で70歳までの高齢者活用の動き――福島県、中国地域

地方銀行での取り組みが複数のモニターから報告された。福島県のモニターによると、株式会社東邦銀行(福島市)は「シニアサポーター制度」を創設。65歳までの継続雇用を終了した者を対象に、さらに最長70歳までの継続雇用を行っている。社員区分はパートタイムで契約期間は1年としており、70歳まで契約更新が可能。賃金制度はシニアサポーター用の基本給を適用している。

中国地域のモニターによると、株式会社広島銀行(広島市)では60歳の定年退職後、従来は65歳まで時給制で再雇用していたが、これについて、専門性の高い業務を担うシニアコンサルタントには、成果に応じて人事評価で給与や賞与に反映させる制度を新設した。定年前の7割前後の収入が見込めるという。さらに再雇用期間も、従来の65歳から70歳まで引き上げている。

自治体や商工会議所がワンストップで対応できる就業相談窓口を運営――山形県

山形県のモニターは、県の高齢者就業促進事業の一例として、山形商工会議所や山形市シルバー人材センターなどからなる「やまがた生涯現役促進地域連携事業協議会」の取り組みを報告している。同協議会では、求職希望者の就業相談にワンストップで対応可能な常設相談窓口「よりあい茶屋(カフェ)」を運営している。フルタイムでの就業希望者をハローワークとつないだり、パートタイムでの就業希望者にはシルバー人材センターの事業内容を説明したりするなど、求人企業と求職シニアのマッチングを行っている。

また、山形県では「介護に関する入門的研修」を県内各地域で開催するなど、介護分野でのシニアの就労促進を図っている。子育てが一段落したアクティブシニアが介護助手として介護施設での補助的な業務を担うことで、現場職員の負担軽減につながる介護人材確保を目指す。

法改正に対応の企業の77%が「70歳までの継続雇用制度」を導入――北海道

北海道のモニターは、2021年に道内企業を対象に改正高年齢者雇用安定法への対応状況についてアンケート調査を実施しており、その結果を報告した。それによると、法改正について「法改正があったことも知っており、内容もおおよそ知っている」が53%、「法改正があったことは知っているが、内容は詳しく知らない」が36%で、あわせて89%となっている。さらに、法改正について知っている企業に対して、対応の有無を尋ねたところ、「対応している、または対応を予定していることがある」が55%、「対応していることはない」が45%となっている。

法改正に「対応している、または対応を予定していることがある」と回答した企業に対して、その具体的内容を尋ねたところ(複数回答)、特に多いのが「70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入」で77%となっている。以下、「70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入」(13%)、「70歳までの定年引き上げ」(12%)、「定年制の廃止」(7%)などの順となっている。

法改正に対して、対応していない企業にその理由を尋ねたところ(複数回答)、「従業員の世代交代を図りたいため」(33%)が最も多かった。以下、「既存の社内規定で、すでに法改正に対応できているため」(30%)、「高年齢者は能力などに個人差が大きく、労働条件や処遇などの個別対応が難しいため」(23%)、「高年齢者は、健康面や体力面でのリスクが高いため」(22%)などの順となっている。

懸念を示す意見としては「新卒採用に影響」「安全面で心配」など

アンケートに回答した企業からの法改正に対する具体的な声では、「高年齢者でも労働意欲があり、会社側も必要とするなら良い改正だと思う」(電気通信工事)、「希望があれば高齢者の継続雇用を行っている。今までの知識や人間関係を活用できるため、会社にとってのメリットが大きい」(建材卸売業)といった肯定的な意見もみられた。

一方で、懸念を示す企業もみられ、具体的には「高年齢者を継続雇用すると、新卒や若い人の雇用に影響し、中小企業では、慎重に進める必要があると考える」(家具製造業)、「生産現場や営業、総務、経理各部署での高年齢者用の仕事確保が難しい。能力、体力の問題がありどのように改善していいかわからない」(コンクリート製品製造業)、「現場での作業が多いため、高齢者雇用にはケガなど安全面での心配が多い。任意保険等にも加入するためコストアップが見込まれる」(機械器具卸売業)、「高齢者雇用の一般化にむけては従来の福利厚生、労働安全施策の範囲のままで良いのか、高齢者であることを前提とした不測の事象に備える施設整備、休業のあり方等、検討すべき事項が多々存在していると考えるが、雇用継続のメリットのみに議論が進んでいると感じる」(食料品卸売業)などの声があった。

島根県が70歳以上まで働ける制度のある企業割合のトップに

複数のモニターが各労働局の公表資料を紹介している。秋田県のモニターは、秋田労働局が公表した「高年齢者雇用状況等報告」(2022年6月1日現在)を紹介。それによると、秋田県の「66歳以上まで働ける制度のある企業割合」は52.8%で、前年比2.6ポイント増加した。全都道府県で2番目に高い(全国平均は40.7%)。また、「70歳以上まで働ける制度のある企業割合」は50.7%で、同2.2ポイント増加した。こちらも全都道府県で2番目に高い(全国平均は39.1%)

岩手県のモニターによると、岩手県の「66歳以上まで働ける制度のある企業割合」は48.8%、「70歳以上まで働ける制度のある企業割合」は47.2%で、いずれも全国平均を上回っている。

北陸地域のモニターによると、「70歳以上まで働ける制度のある企業割合」は富山県が45.1%で全国平均を大きく上回っている。福井県は38.5%、石川県は38.1%で全国平均を下回っている。

中国地域のモニターによると、島根県の「70歳以上まで働ける制度のある企業割合」は51.8%で全国1位となっている。その背景には、高齢化率が高く人手不足が顕著なため、法律の施行前から制度導入が検討されていたことがあるという。

(調査部)