若手どうしで協力して地元行事やボランティア参加などの企画・運営を行い、仲間意識醸成と組織強化につなげる
 ――島根県安来市職員労働組合「ユース部」の取り組み

労働組合取材

自治労加盟の島根県安来市職員労働組合(亀瀧真人・執行委員長)では、32歳までの組合員で構成する「ユース部」をつくっている。若手職員どうしが協力して企画・運営を行い、地元で行われる伝統行事やボランティアにも参加。また、同世代の仲間との意見交換会・交流会の開催などを体験することで、組合活動への理解や仲間意識の醸成を促し、組織強化につなげている。

ユース部設立の背景と仕組み

若年男性だけでなく若年女性も一緒に運動を進める

島根県の東端に位置し、鳥取県との県境にある安来市の職員労働組合(以下、「安来市職労」)は、2011年に「ユース部」を設立。ユース部は、行政職員をはじめとして、公営企業や市立病院、関係団体職員の4つの団体に所属する組合員のうち、32歳以下の若手組合員全員が対象となっている。部員数は約140人で、活動の中心となる役員が26人いる。

前身の組織は「青年部」として活動しており、若年層の男性のみが所属していた。安来市職労書記長の勝部健一氏は、当時の状況について、「活動は活発に行われていたが、課題もあった」と振り返る。

「自治体職員の採用抑制などの影響を受けて、所属人数が次第に減少してきていた。これまでの活動で、若年男性に対する課題は若年女性と共通するものも多かったことから、若年層の女性も一緒に労働運動を進めていくことにした」

同様に組織化する動きが県内や他県で広がっていたことにも後押しされ、ユース部として衣替えし、現在の活動がスタートした。

運営はグループの裁量に任せる

活動は主に、①組織グループ②事業グループ③教宣グループ④調査グループ⑤自治研グループ――の5つに分けて企画・運営している。それぞれのグループ長は、役員のなかから選ばれており、各グループはグループ長も含めて10~20人ほどの構成人数だ。

活動は基本的に、各グループに裁量がゆだねられている。ユース部長の松浦瑞樹氏によると、「各グループでそれぞれ会議や調整を進めてもらい、企画の途中で困ったことがあれば部長など上役に相談してもらう形を取っている」そうだ。また、ユース部全体の会議も1カ月に1回のペースで実施しており、各グループ活動の進捗はその場でも確認されている。

各グループでの取り組み

学習会・意見交換会で組合活動への理解促進や連帯意識を高める

組織グループは、新入組合員を対象とした学習会や職種別の意見交換会、ワークショップ形式による学習会などを企画している。テーマは職場での悩みや疑問点など、仕事や生活のなかで発生する事案を設定。各部員が話し合い、問題を共有することで、一人ひとりが組合活動の意義・目的を理解し、部員相互の連帯意識を高めることにつなげている。

地元のまつりに新入職員チームで出演し、同期の交流の機会に

事業グループは、地域行事・ボランティアへの参加のほか、スポーツ交流会や懇親会など、レクリエーションの企画・運営を担当。地域に貢献するほか、自主性や積極性、協調性を喚起し、部員間のつながりや団結を深めるような活動を実施している。

特に、毎年8月に開催される地元の「月の輪まつり」には、ボランティアとして花火大会の警備や片付け・清掃作業を手伝うほか、まつり内で開催される仮装パレードに出演者としてエントリーすることが伝統となっている(写真1)。

写真1:月の輪まつりに参加する様子
画像:写真1

(安来市職労ユース部提供)

パレードは男性チーム、女性チームなどで分かれて参加するほか、入職1年目の職員だけで構成されたチームでも参加しており、仮装内容も新入職員どうしで企画している。安来市は2004年に1市2町で合併して以降、分庁舎方式をとっており、庁舎が離れた同期どうしの交流機会は少ない。そのため、こうしたイベントへの参加は、同期が集まり、協力して取り組む機会の1つとなっている。

そのほか、2月の節分の時期には、安来市内の各保育園で行われる豆まき行事にボランティアで鬼役として参加。保育園からも好評で、例年各保育園に、その年の鬼役のボランティアが必要かどうか募集をかけると、応募が殺到する人気事業となっている(写真2)。

写真2:地元保育所の豆まきボランティアでの鬼役の様子
画像:写真2

(安来市職労ユース部提供)

紙媒体にこだわってユース部独自の教宣紙を発行

教宣グループは、ユース部独自の機関紙と教宣紙の発行を担当している。年5回ほど、安来市職労や自治労本部の機関紙、教宣紙のタイミングに合わせて配布。内容は部員の趣味を紹介するコーナーや、活動報告など、楽しみながら部員どうしの理解を深め、ユース部の活動や組合に興味を持ってもらえるものとなるよう意識されている。

発行は紙媒体にこだわっており、ユース部員の手元に必ず現物として届くようにすることで、組合活動やユース部の仲間を身近な存在と感じてもらえるようにしている。

生活実態調査の回答内容はユース部の独自要求にも取り入れ

調査グループは主に、交流促進調査と生活実態調査の企画・実施に取り組んでいる。交流促進調査では、ユース部員自身や、その部員が気になっているお店など日常に関する内容を尋ねており、教宣紙などで調査報告を紹介。一方、生活実態調査はアンケート形式で、職種ごとのギャップやユース部員ならではの問題点など、各職場の労働環境に関する項目を尋ねている。

なお、ユース部では基本組織と連携しつつ、独自要求も行っており、生活実態調査の回答や意見交換会などで出た意見も取り入れている。要求は「アンケートの内容もふまえて議論を重ね、1年ほどかけて要求項目を作成し、基本組織の要求タイミングと合わせて実施している」(勝部氏)。

地域交流や地元の魅力あるまちづくりを目指して自治研グループも設置

自治研グループは、約4年前に立ち上げた比較的新しいグループで、地域交流を進め、地元の魅力あるまちづくり、安心して生活できる環境づくりにつなげていきたいという思いから立ち上げられた。主な活動は地方行政や地方自治研究政策、サービスなどの状況について研究するほか、新しい地域イベント参加などの企画も実施している。

近年は、コロナ禍で地元のまつりやイベントも中止を余儀なくされてきたが、そのような状況下でも地域に貢献できる方法を模索するなかで、2020年末に市内の多目的交流施設「やすぎ懐古館一風亭」のボランティア大掃除を企画(写真3)。松浦氏が一風亭の館長と親交があったことがきっかけで、「古い建物で扉の障子が黄ばんだり破れたりしていたが、人手が足りず張り替えできていなかったと聞いたので、ユース部でお手伝いできないかと考えた」そうだ。個人的なつながりから、コロナ禍でも活動できる取り組みにつなげている。

写真3:障子張り替えボランティアの様子
画像:写真3

(安来市職労ユース部提供)

自治研グループを除いて、ほかのグループでの活動は青年部だった頃から実施されてきたものとなっているが、時代や状況に合わせて内容はより良い形に更新されている。また、安来市職労が主催するイベントや取り組みとの連携も行うなど、常に各グループで活発に活動している状態だ。

なぜ若手職員の活動への参画が進んでいるのか

入職3年以内の職員を中心にグループを運営

なぜユース部は職員の参画が進み、活発に活動できているのか。要因の1つとして、松浦氏は、「入職3年以内の職員をグループの中心として構成していること」をあげる。入職して間もない1年目から、ある程度強制的にグループに参加してもらっており、どのグループに入るかも基本的には「決め打ち」にしているという。

その場合、ユース部での活動や組合活動自体をよく分かっていない職員がグループに入ることになるが、活動へのサポートはどうしているのだろうか。尋ねたところ、「安来市職労に加入した人にははじめに、執行委員長から組合活動に関するレクチャーを受けてもらっている。また、組織内議員の講演などを通して、組合活動の基本を学習するような仕組みが取られている」と、安来市職労書記次長の小林耕平氏は語る。

また、ユース部でも別途、対象の新入組合員に向けた学習会を実施しており、「安来市職労とは違った内容や堅苦しくない内容を説明している」(松浦氏)。グループ活動中も役員をはじめ、経験豊富な先輩組合員がサポートする形で、若手職員の成長を促している。

楽しんで活動できることを一番に考える

部員が楽しみながら活動できることを重視している点も、要因の1つだ。勝部氏は、「青年部だった頃は賃金交渉など、闘争・交渉を全面に出した活動がメインとなり、堅苦しくなってしまっていたが、ユース部になったことにより交流・組織強化をメインとした風土ができあがったのではないか」と推察している。

現在の活動について、松浦氏は「部員が楽しみながらやらなければ活動が続かないし、ユース部だからこそできることだと思うので、学習会なども部員が楽しめる内容にすることを第一に考えて企画している」と話す。

また、部自体の雰囲気が良いところもポイントで、小林氏は、「会議室から楽しそうに打ち合わせをやっている声が聞こえてくると、とても柔らかくて良い空気感があると感じる」そうだ。ユース部への加盟は入職時にほぼ強制的にすることになるが、その後の活動が部員にとって辛いもの、しんどいものとならないような雰囲気づくりや工夫が施されている。

コロナ禍でも可能な限り対面での活動を

コロナ禍においても、安来市職労やユース部は対面でのコミュニケーションを重視。交流会などの開催は難しかったものの、上部団体とも相談のうえ、会議などは可能な限り対面で実施した。勝部氏は、「組織強化の観点からも、オンラインでの実施を推奨してしまうと、後々対面で取り組むところまで戻ってこられないのではないかという危惧があった」と話す。

また、安来市は比較的若年層の採用も多いことから、「最初の段階から対面で説明していかなければ、組合活動に参加することのメリットを見出してもらえないのではないかと考えた」(勝部氏)そうだ。こうした視点も、若手職員の組合活動への理解を深めることにつながっている。

課題と今後の展望

地域による参加への温度差をなくし、つながることの大切さを伝えたい

活動しているうえで、どのような課題を感じているのか尋ねると、小林氏は、職種やエリアによって活動への参加に温度差があることを指摘。「庁舎によってはユース部員が少なく、活動が弱くなったり、消極的になることがある」として、積極的に声を掛けたり、活動している姿を見せることで、「自分も協力しようと思ってもらえるようにしていきたい」と考えている。

また、新入組合員の価値観が以前より変化している点も言及。かつては組合活動の仲間と懇親会をするなど対面でつながることが前提となっていたが、コロナ禍でそうした機会がなくなったり、懇親会自体を断る若手職員も増えていると感じている。

「若者にどのようにアプローチし、より良い環境で働けるよう手助けしていくかを探らないといけない。若者の組合離れが進んだり、職員どうしのつながりが薄くなってしまうので、人とつながることの大切さや、有益さをどのようにして伝えていけばよいのか考えていきたい」

ソフト面から興味を促し組合活動のメリットを伝える

勝部氏も、若者が学生時代からデジタルやSNSなどに触れてさまざまな情報を調べていることから、「自治労共済や組合貸付事業以外にも、NISAやiDeCoなど、一般的な制度について知りたいと考える人も増えていると感じる。がちがちの労働運動だけを推し進めるのではなく、ソフトな面から興味を持ってもらいたいが、基本は助け合いの精神を伝えていきたい」と語る。

松浦氏は、ユース部特有の取り組みである自治研グループなど、「地元を盛り上げるための活動をきっかけに、若者にも組合活動の良さや楽しさを知ってもらいたい」と希望を寄せた。


(田中瑞穂)

組織プロフィール

自治労島根県安来市職員労働組合

本部:
島根県安来市安来町878-2
中央執行委員長:
亀瀧真人
組合員数:
506人
上部団体:
自治労島根県本部