30年前から続く若手の協議会活動で、人材交流や発掘、会社に対する理解の促進に貢献
 ――全矢崎労働組合の「ROY」の取り組み

労働組合取材

全矢崎労働組合(本部:静岡県裾野市、白戸康章中央執行委員長)では、30年以上も前から、「ROY」という青年協議会が執行部の後押しのもとで活動しており、年1回の研修・懇親、工場見学などのプログラムなどを企画・運営している。30歳以下の若手が主体的に活動し、企業グループ内の人材交流だけでなく、次世代リーダーの人材発掘・育成、会社や仕事に対する理解促進にも重要な役割を果たしている。

ROYの組織と活動の概況

各支部にも担当の議長と副議長を置く

全矢崎労働組合は、自動車向けワイヤーハーネスなどの製造で知られる矢崎総業のグループ会社である「矢崎計器株式会社」「矢崎部品株式会社」「矢崎エナジーシステム株式会社」の従業員を組織化している。

組合員数は約6,700人。「Y-CITY」と呼んでいる静岡県裾野市にある矢崎グループ・メイン拠点に組合本部を置き、静岡県内の各工場・製作所や、栃木工場、新見工場(岡山県)などに計12の支部を置く。

同労組では、30年以上前から、「ROY」という名称の青年協議会を運営している。ROYは、「Revolution Of Youth」(若手の改革)の略語だ。

ROYの活動の柱は、「学習」「文化・体育・レクリエーション」「ボランティア」の3つからなる。全矢崎労組でROYのサポートを担当する柴山直哉・中央副書記長によると、活動の内容などは、「執行部が決めるのではなく、ROY自らが考えて、活動している」という。組合本部として予算を用意し、活動は執行部が後方からサポートする形だ。

もちろん、組合本体と同じ方向で活動を展開している。同労組は活動部門を「クリエーションセンター」「ユニティセンター」「レイバーセンター」「ソーシャルセンター」という4つの機能に分けており、それぞれのセンターが、相互扶助、組織充実、経営参画や社会公益などを柱に活動している。ROYもこれらの組合の活動の柱は常に意識し、各センターとお互いに協力している。

ROYの対象となるのは、30歳以下の組合員。この年代に該当する組合員はいま、1,600人弱いる。

事務局体制は、各組合支部に、ROY担当の「議長」「副議長」を置いている。議長が男性なら、副議長は女性にするなど、各支部で人員バランスの工夫もみられるという。

中央の事務局として、東部エリア、中部エリア、西部エリアの担当役員を1人ずつ置き、中央にも「議長」と「副議長」を置いている。「議長」と「副議長」の任期は2年間(1期)とし、次々と役員をバトンタッチして多くの若手がROYの運営の経験を共有できるようにしている。

「クリエイティブ ダ セイフ」「ROYナビ」が活動の2本柱

ROYの代表的活動には、「クリエイティブ ダ セイフ」という学習イベントと、「ROYナビ」という工場見学を兼ねた交流会がある。

「クリエイティブ ダ セイフ」からその内容を紹介すると、名称にある「セイフ」という言葉は、青年と婦人を合わせた「青婦」を意味している。毎年1回の開催で、2022年は3月に開催した。「青婦」という言葉を由来としていることからわかるように、2022年が35回目という、伝統のあるイベントだ。ROYが設立されたのも1991年と30年以上前のことになるが、柴山中央副書記長は「ずっと前からあるので、いつ設立されたのか実は聞いたことがない」と苦笑いする。

通常は2泊3日で、労働組合の教育活動支援なども行う公益財団法人「富士社会教育センター」の研修施設(静岡県御殿場市)に集まり、若手を対象とした組合活動などに関する研修を行う。ROY事務局でつくる実行委員会が企画した学習イベントと、富士社会教育センターが行う政治研修を組み合わせたプログラムとし、もちろん若手組合員が懇親を深められるイベントも盛り込んでいる。

過去に行われた回の日程をみると、多彩なメニューで構成され、工夫がこらされていることがわかる。例えば、メインの学習プログラムやチームビルディングのほかに、「マナー教育」や施設の「館内体験」、「私のおすすめ発表」や「キャンプファイヤー」も組み込んでいる。「懇親イベントとしては、基本的に2泊3日の間で、力を合わせて何かをつくるということをしてきた。劇をつくって、最後はみんなの前で演じてもらうような企画もあった」(柴山中央副書記長)。

この2年間は、新型コロナウイルスの感染流行のせいで、宿泊を伴う内容にはできなかった。2020年は3月に開催を予定していたが、直前で急遽中止を余儀なくされ、2021年、2022年はオンライン方式で開催した。当初は、実行委員会の準備がたいへんで、計画どおり実施できるか心配されたが、「実行委員会の若手メンバーが楽しみながら、まじめに準備してくれて、逆に今までに無い密な活動ができた」と柴山中央副書記長。学習プログラムはオンラインで行うことにはなったが、例年どおりの内容で変更なく行うことができ、「Zoomのブレイクアウトルームの機能を使って、少人数ごとに盛り上がる企画を考えるなど、若手なりの工夫がみられた」という。

懇親メニューの1つとして2021年に、映像効果などもある本格的な、チームメンバーで謎解きできるゲームを一部外部委託して行った。楽しい企画だったが、各自宅からのオンラインでの参加にしたため、Zoomの手順書作成や、ブレイクアウトを円滑に進めるための名前付け、オンラインでのアイスブレイク手法の検討、夕方5時以降の懇親会(オンライン飲み会)の準備(イントロクイズなど)といった、初めての自分たちでの作業も伴った。たいへんだったが、この経験が、後段で説明するROYナビの同年の企画・運営に活かされた。

「オンライン運動会」(オンROYン運動会)を企画したが、「自分たちでもできそうだ」と言って、自分たちで作り上げた。「やりきった感から、最後の事務局あいさつでは涙を流すメンバーも見られ」、オンラインという制約ができたからこそ、いままで以上に若手が「自分たちでつくる」という意識を高める機会となった。

今年の『クリエイティブ ダ セイフ』では、司会を担当した支部の通信状況が悪い場面があったが、進行表は各支部で共有していたので、ちがう支部のメンバーが臨機応変に司会をかわりに務めた。「若手の力を感じた瞬間だった」と柴山中央副書記長も感心する出来事だった。

工場見学はグループの業務を知るよい機会に

もう1つの代表的な活動である「ROYナビ」は、自分たちの会社や仕事をより深く知るという時事学習会の意味合いが強く、工場見学を柱とし、それにバドミントン大会やバレーボール大会など、交流できるイベントを組み合わせている(写真1)。工場見学は、グループ内の工場を中心に行うが、最近は周辺の他企業の工場を見学するときもある。毎年5月ごろに開催している。

写真1:集合して開催していたときのROYナビでの活動の様子
画像:写真1

(全矢崎労組提供)

組合がカバーするグループ内企業が「矢崎計器株式会社」「矢崎部品株式会社」「矢崎エナジーシステム株式会社」と冒頭で紹介したが、それぞれ、自動車メーター、ワイヤーハーネス、電線やガス機器などと製造している品目が異なるため、組合員にとっては矢崎グループ全体を理解する良い機会となる。

もともとは1泊2日で開催してきた。こちらもコロナの影響で集合開催ができなくなったが、「工場見学による学習+交流」というコンセプトを崩さずにオンライン方式で行った。工場見学をオンライン方式でどのように行ったかというと、パワーポイントを使っての説明のほか、工場の説明者のインタビューやクイズ、周辺地域の紹介などを内容とする動画をつくることを、実行委員会が自分たちで考えたという。

「YouTubeでモノを製造している動画を事務局があらかじめ探しておき、テレビの『何をつくっているのでしょうか』とクイズを出す番組のように、各班で視聴してもらった(写真2)。動画をもとに事務局があらかじめつくっておいたフォーマットに、各班が視聴後に議論してキャプチャを貼ってもらうというクイズをつくるなど、この活動でも若手がいろいろと工夫した」

写真2:クイズ企画を実施している際の画面
画像:写真2
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(全矢崎労組提供)

工夫のかいもあって、イベントは好評で、普段の仕事ではパソコンを扱わない仕事に従事する組合員も、楽しみながら参加した。

「クリエイティブ ダ セイフ」も「ROYナビ」も、通常はそれぞれ50人程度を参加定員としており、興味をもった組合員に申し込んでもらう方式となっている。実施後には、参加者だけでなく、上司からもアンケートをとるのがユニークなところだ。感想をみると、「最初は行くのが面倒くさいと思ったときもあったが、仲間が増えて良かった、また行きたい」といった反応が多く、上司から「次回もぜひ行ってほしい」との好意的な回答が寄せられることも少なくないという。

事務局は定期的なプレゼンで自己啓発活動も

こうした活動のほかに、ROYでは、ボランティアや、事務局メンバーの自己啓発活動も行っている。ボランティアでは古着を収集して寄付したり、ベルマークを集めて、特別支援学校に寄付している。

自己啓発活動では、事務局メンバーが、自分が特に関心があるテーマについてレポートをまとめ、事務局の仲間に対して発表している。年2回実施している。

テーマは、組合活動や仕事に関連することでなくてもよい。「サウナの魅力」「プリン」「牛肉の世界」など、自分が大好きなものを選ぶ人もいる。

今年は、中央議長が「SDGsについてみんなで学びたい」と発案。「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「ジェンダー平等を実現しよう」など、各支部が1つずつ関連するテーマを選び、発表した。「自分たちで理解したうえで、わかりやすく発表してくれるので、聞いているほうも多々気づきがある。また、いまはオンラインで実施しているので、他のメンバーが気軽にチャットでツッコミを入れることができ、楽しい会にもなっている」(柴山中央副書記長)。プレゼン技術の勉強になることから、組合リーダーや職業人としての良い学習にもなっている。

長年、活動を続けられてきた秘訣

能力・やる気の高い事務局人材

若手だけで運営してきたにもかかわらず、なぜ、これほど長い間、活発に活動が維持されてきたのか。

大きいのは、積極的に関わる若手が常に出てきてくれることだという。「議長や副議長になってくれる人はポテンシャルが高く、本当にやる気が高い。なので、その後に、組合の中央の役員になったり、管理職として活躍する人も多い」(柴山中央副書記長)。

また、毎年、新しい内容を考え、マンネリ化させないのもコツだ()。

表:2018年以降の「クリエイティブ ダ セイフ」のテーマとサブテーマ
時期 テーマ サブテーマ
35回
オンライン
2022年3月 35回、ROYの大冒険~It's show time~ なんでもかんでもやってみよう!!!
34回
オンライン
2021年3月 3みつ~親密な関係、濃密な時間、いいとこみつける~ Link with ROY
34回(中止) 2020年3月 令和’n team ~勇気をもって一歩前進~
33回 2019年3月 シナジースマイル ~ 点と点から線へ ~
32回 2018年3月 まごころ How nice!!~いいねの心~

会社の協力的な姿勢もあげられる。例えば、「クリエイティブ ダ セイフ」を2泊3日、木曜日~土曜日で開催していた時は、開催日が就業日と重なっていたが、それを理由に参加しづらいといった状況はなかった。研修の内容が、会社や仕事に対する理解促進にも役に立つとの考えがあるからだ。

また、職場の上司も元組合員であり、長年続いてきた活動だけに上司も参加経験がある場合もあり、「上司の多くは部下が参加することに理解を示してくれる」(柴山中央副書記長)。

会社を好きになるきっかけになればそれでよい

近年はよく、「組合役員のなり手がいない」などの声も聞かれる。ROYでは実際に事務局のメンバーがその後、執行部入りすることもあるものの、「中央執行部としては、もちろんその期待はあるものの、前面に出すようなことはない。ROYの活動が、会社を好きになるきっかけになればそれでよい」と柴山中央副書記長は話す。

ここ2年間はコロナによってイレギュラーな運営を強いられたが、「やっぱり、コロナが明けたら、原点に帰って、仲間が集まる対面の活動をしたい」という。今後に向けては、「いまの時代、みんなの意識も多様化しているので、万人受けする企画をたてるのは難しい。全員でなくてもいいから興味をもってくれるテーマにするとか、逆にこういう人たちを誘い込みたいから、このテーマにしようとか、企画のバラエティを増やしていきたい」(柴山中央副書記長)。

(荒川創太、田中瑞穂)

組織プロフィール

全矢崎労働組合

本部:
静岡県裾野市御宿1500Y-CITY厚生センター
中央執行委員長:
白戸康章
組合員数:
約6,700人(矢崎総業グループの「矢崎計器株式会社」「矢崎部品株式会社」「矢崎エナジーシステム株式会社」の従業員を組合員化)
上部団体:
JAM