2019年度までの精神障害の認定要因は、具体的出来事では男性は「仕事内容・量の大きな変化」が最多、女性は事故や災害の体験・目撃などが上位に
 ――2022年版「過労死等防止対策白書」が閣議決定

スペシャルトピック

政府は10月21日、過労死や過労自殺の実態をまとめた2022年版「過労死等防止対策白書」を閣議決定した。今回の白書は、増加傾向にある精神障害で労災認定された事案について男女別に分析しているのが特徴の1つ。とりわけ、精神障害事案の労災認定要因について「心理的負荷による精神障害の認定基準」が策定された後の、2019年度までの過去8年の精神障害で労災認定された事案について認定要因を分析したところ、男性では「恒常的な長時間労働」が最も多かったのに対し、女性では「悲惨な事故や災害の体験や目撃」や「セクハラ」をあげる割合が高かった。具体的出来事だけでみると、男性では「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」が最も多い。過去10年間の傾向を分析すると、労災認定された精神障害の発症時年齢は2010~14年度は30歳台がピークだったが、15~19年度はピークが40歳台に移っている。重点業種に関する分析では、情報通信業で女性の精神障害が増加傾向にあることが明らかとなった。

労働時間やメンタルヘルス対策等の状況

週60時間以上労働する雇用者は8.8%で、近年は減少傾向

白書はまず、2021年の労働時間とメンタルヘルス対策等の状況について概観している。長時間労働者に着目すると、週労働時間が60時間以上の雇用者の割合は減少傾向にあり、2021年は8.8%(290万人)。新型コロナウイルス感染症の影響で2020年に9.0%と1割を割り込んだところだったが、さらに低下した。

これを属性別にみると、男性では40歳台(9.9%)や30歳台(9.6%)で割合が高く、一方女性で最も高いのは20歳台(2.5%)、次いで30歳台(2.0%)となっている。

業種別にみると、「運輸業、郵便業」(18.6%)、「教育、学習支援業」(14.1%)、「宿泊業、飲食サービス業」(14.0%)などの順で高い。ただし、増加に転じた業種も多く、業種別にみると、「宿泊業、飲食サービス業」を除き、おおむね2020年を上回っている。

年次有給休暇の取得日数、取得率ともに増加傾向

厚生労働省の「就労条件総合調査」結果から、年次有給休暇の状況をまとめている。それによると、取得日数は、1997年~2007年まで少しずつ減少していたが、2008年以降は増減しながらも微増傾向にあり、2020年には10.1日と、2年続けて10日を上回った。

また、取得率をみると、2000年以降は5割を下回って推移していたが、2017年に51.1%と5割を上回り、2020年には56.6%と6年連続で上昇している。企業規模別にみると、2010年以降は、規模が大きくなるほど取得率が高くなっており、2020年は「1,000人以上」で60.8%、「300~999人」で56.3%、「100~299人」で55.2%、「30~99人」で51.2%となっている。

終業時刻から次の始業時刻までの間に一定時間以上の休息時間を設ける、いわゆる「勤務インターバル制度」を導入している企業は、2021年で4.6%と、前年から0.4ポイント上昇している。産業別にみると、「金融業、保険業」が10.3%と最も高く、以下、「情報通信業」と「運輸業、郵便業」がともに9.2%、「宿泊業、飲食サービス業」が7.5%などと続く。同制度については、導入していない理由に「制度を知らなかったため」をあげた企業割合が2割近くにのぼっており、制度の周知も課題となっている。

不安、悩み、ストレスを感じる労働者の割合は依然として5割超

仕事や職業生活に関して、強い不安や悩み、ストレスを感じている労働者の割合は、2021年で53.3%と、2017年(59.5%)以降、4年連続で減少しているものの、依然として5割を超える状況となっている。悩みの内容(複数回答)は、「仕事の量」が43.2%で最も割合が高く、次いで「仕事の失敗、責任の発生等」(33.7%)、「仕事の質」(33.6%)、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」(25.7%)などの順で高い。

職場におけるメンタルヘルス対策の状況をみると、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所割合は、2021年は59.2%で、前年の61.4%をやや下回った。事業所規模別にみると、「50人以上」では90%を超えるものの、「10~29人」では49.6%と5割以下となっている。

2015年から、いわゆる「ストレスチェック(医師、保健師等による心理的な負担の程度を把握するための検査)」の実施が50人以上の事業場に義務化されたが、メンタルヘルスケアの取り組み内容で最も多いのが「ストレスチェックの実施」の65.2%で、次いで、「職場環境等の評価及び改善(ストレスチェック結果の集団ごとの分析を含む)」の54.7%だった。一方、仕事上の不安、悩みまたはストレスについて、職場に事業場外資源を含めた相談先がある労働者の割合は70.3%と、前年をやや上回った。

勤務問題を原因・動機とする自殺者割合はおおむね増加傾向

自殺者数の推移をみると、1998年から14年連続で3万人を超える状況が続いていたが、2010年以降は減少傾向にあり、2021年は2万1,007人と前年比74人の減となった。しかし、勤務問題を原因・動機の1つとする自殺者の割合は、2007年以降おおむね増加傾向にあり、2021年は9.2%(1,935人)だった。

勤務問題の内訳をみると、「仕事疲れ」が28.3%で最も高く、続いて「職場の人間関係」が24.6%、「仕事の失敗」が17.0%、「職場環境の変化」が14.0%などの順となっている。勤務問題を原因・動機の1つとする自殺者を年齢層別にみると、「40~49歳」が25.9%と4分の1を占めた。

過労死等をめぐる労災支給決定(認定)事案の分析

過去10年間の脳・心臓疾患は、男性が95%を占める

白書は、過労死等をめぐる調査・分析結果を紹介している。「過労死等の防止のための対策に関する大綱」では、国が取り組む重点対策として、過労死等の調査研究を行うことを明記している。

2010年度から2019年度までの10年間の過労死等の労災支給決定(認定)された事案について、労働安全衛生総合研究所過労死等防止調査研究センターが、前半の5年と後半の5年に分けて傾向を比較分析した。

それによると、脳・心臓疾患について10年間の事案2,734件を分析したが、男女別にみると、男性が2,611件で95.5%を占め、女性は123件(4.5%)だった。年度別の推移をみると、2012年度をピークに2016年度を除き減少傾向が続いている。

前半5年(2010~2014年度)に比べると、後半5年(2015~2019年度)で、各年齢層とも件数が減少している。特に、「29歳以下」および「30~39歳以下」で減少の割合が大きい。

業種別に前後5年で比較すると、事案数、割合ともに増加したのは「宿泊業、飲食サービス業」「農業、林業」「その他の事業」だった。事案数は減少したが割合が増加したのは「運輸業、郵便業」「製造業」だった。

同様に、前後5年で職種別に比較すると、事案数、割合ともに増加したのは「運搬・清掃・包装等従事者」だった。事案数は減少したが、割合が増加(同率含む)したのは、「輸送・機械運転従事者」「サービス職業従事者」「生産工程従事者」「保安職業従事者」「農林漁業従事者」だった。

精神障害事案では男性が67.8%、女性が32.2%

精神障害については、10年間の事案4,491件を分析した。これを男女別にみると、男性が3,043件(67.8%)で、女性が1,448件(32.2%)だった。脳・心臓疾患に比べると、女性の割合が高くなっている。年度別の推移をみると、2012年以降はほぼ横ばいとなっている。

発症時年齢別の事案数について、前半5年(2010~2014年度)と後半5年(2015~2019年度)を比べると、20~59歳の各年齢層で、後半5年のほうが、件数が増加している()。特に、「40~49歳」で、544件から767件へと増加幅が大きくなっている。また、精神障害の発症時年齢のピークは、前半5年では「30~39歳」だったが、後半5年では「40~49歳」が最多となっており、ピーク年齢が40歳台へとシフトしている。

図:発症時年齢階層別の事案数(精神障害)
画像:図

(白書掲載図をもとに編集部で作成)

精神障害の認定要因は、全体でみれば男性が「長時間労働」、女性は「事故や災害の体験・目撃」がトップ

精神障害事案の労災認定要因について、「心理的負荷による精神障害の認定基準」が策定された後の2012~ 2019年度までの割合をみると、男性では「恒常的な長時間労働」が32.1%で最も多く、次いで「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」(24.8%)、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」(17.4%)、「2週間以上にわたって連続勤務を行った」(16.9%)、「上司とのトラブルがあった」(15.7%)、「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」(13.4%)などの順で続く。具体的出来事だけでみると、男性では「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」(24.8%)が最も多くなっている。

一方、女性では「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」(22.0%)が最多で、「セクシュアルハラスメントを受けた」(21.9%)も2割を超える。そのほかの回答割合は、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」19.2%、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」16.7%などとなっている。具体的出来事では、男女で回答順位の傾向に明らかな違いがみられた。

精神障害の労災認定要因は時系列でどのように変わったのか。2012~2014年の3年間(前3年)と2015~2019年の5年間(後5年)の変化を上位5項目でみると、後5年で大きく増加した項目は「2週間以上にわたって連続勤務を行った」(前3年:9.3%、後5年16.2%)や、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」(同19.2%、24.0%)だった。

これを男女別にみると、男性ではすべての項目で後5年の割合が増加している一方、女性では、「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」との割合は減少し(前3年:23.9%、後5年:21.0%)、他の4項目は増加した。特に「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」(同15.5%、21.2%)や「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」(同13.1%、18.6%)で大きく増加している。

過労死等をめぐる労働・社会分野のアンケート調査結果

テレワークの頻度が高い人ほど睡眠時間が長く、うつ傾向・不安は少ない

白書は、労働・社会分野の調査結果(アンケート調査)も紹介している(同じく労働安全衛生総合研究所が実施)。それによると、1週間あたりの実労働時間が長くなるほど睡眠時間が短く、また睡眠時間が短いほど、うつ傾向・不安がある人の割合が高いことが明らかになっている。

また、テレワークの影響についても詳細に分析している。コロナ禍により、多くの企業がテレワークを導入したが、感染拡大後に導入割合の増加が大きかったのは、「生活関連サービス業、娯楽業」の4.8倍、「運輸業、郵便業」の4.6倍、「宿泊業、飲食サービス業」の4.4倍などで、どの業種でもコロナ前に比べ2倍以上と大きく導入が進んでいた。

就業先にテレワークが導入されている就業者に、過去1年間(2020年10月~2021年9月)のテレワーク頻度を聞いたところ、男女とも「週2~3日」(男性24.9%、女性22.8%)が最も多く、「一時的に行った」(同20.7%、22.5%)が続く。

テレワーク実施者に睡眠時間を聞いたところ、テレワークの頻度が高いほど、睡眠時間が6時間未満の就業者は減少する傾向がみられた。

テレワーク実施頻度別にうつ傾向・不安の状況をみると、テレワークを実施したことがある就業者の中では、実施頻度が高くなるほど、「うつ傾向・不安なし」の割合がおおむね高くなっている傾向にあった。

テレワークの実施頻度別に、主観的幸福感(「とても幸せ」~「とても不幸せ」の10段階評価)を聞いたところ、男女ともに、「週1日程度」(主観的幸福感:男性6.6、女性6.8)や「週2~3日程度」(同6.7、6.7)、「週4日程度」(同6.6、6.7)のテレワーク実施者は、「一時的に行った」(同6.4、6.4)、「一度もテレワークをしていない」(同6.2、6.4)層よりも幸福感が高くなっている。

世帯収入が少ない、また単身世帯ほど、うつ傾向・不安割合が高い

世帯収入とうつ傾向・不安を分析すると、世帯収入が少ないほど、うつ傾向・不安がある割合が高い。また、新型コロナウイルスの感染拡大により、収入が減少したと回答した人が3割を占め、この層は、収入の変わらない層に比べ、うつ傾向・不安のある割合が高くなっている。

配偶者の有無など世帯の状況別にみると、1週間あたりの実労働時間はほぼ変わらないものの、「配偶者あり」「2人以上の世帯」の方が、「配偶者なし」「単身世帯」に比べ主観的幸福感が高く、うつ傾向・不安の割合は低くなっている。

重点業種の分析結果(建設業、情報通信業)

建設業、IT産業ともに発注者の納期が厳しく時間外労働に

2021年度は、大綱の重点業種等に位置づけている「建設業」と、IT産業を含む「情報通信業」にフォーカスして、過労死等事案の分析を行ったことから、その結果を紹介した(同じく労働安全衛生総合研究所が実施)。

時間外労働が生じる理由を明らかにするため、建設業とIT産業にヒアリング調査を実施したところ、建設業、IT産業ともに、発注者(クライアント)からの納期の厳守が求められたり、作業工程の遅れのしわ寄せなどにより、時間外労働が生じていることが明らかになった。

建設業において、2010年~2020年までの過労死等労災認定事案の推移をみると、脳・心臓疾患事案は2012年の38件をピークに減少傾向にあり、精神障害事案は2016年に急増し54件を記録し、その後は少しずつ減少している。

精神障害事案の具体的出来事をみると、「2週間以上にわたって連続勤務を行った」が26.0%で最も高く、次いで「(重度の)病気やケガをした」が21.6%で続く。この2項目は、全産業平均の割合の約2倍と高くなっている。

無理のある納期などによる長時間労働で幸福度が低下

建設業就業者を対象にしたアンケート調査の結果では、週60時間を超える就業者割合は12.5%で、全産業の8.0%より高くなっている。アンケート調査結果をふまえ、所定外労働時間が生じる理由について深掘りするため、建設業10社にヒアリング調査したところ、仕事の繁閑の差が大きい理由については、「発注者から納期を守ることが強く求められる」や「納期が年度末など特定時期に集中するため」などの回答がみられ、所定外労働が生じる要因については「天候、資材搬入の遅れ、他社の工事の進捗などの外的要因がある」との回答がみられた。

顧客からの「無理のある納期」や「無理な業務依頼」が長時間労働の要因となり、こうしたことが重なるにつれ、主観的幸福感の低下や、うつ傾向・不安がある人の割合の増加、疲労回復状況への悪影響となっていた。

こうした状況から白書は、建設業の所定外労働を減少させるためには、「適正な工期設定等に対する発注者等の理解を深めるとともに、納期の設定や工程の遅れ等について発注者が柔軟に対応するよう働きかけていく必要がある」とし、また「重層下請構造による下位事業者へのしわ寄せ防止の推進が求められる」としている。

情報通信業では、特に女性の精神障害事案が増加傾向に

情報通信業では、クライアントが作業工程を理解していない、急な仕様変更などが生じる、などの回答がみられた。

IT産業を含む情報通信業の2010年~2020年の過労死等労災認定事案をみると、脳・心臓疾患事案は2012年をピークに全産業と同様に減少傾向にあるが、精神障害事案は22~35件で推移し、特に女性で事案数、割合ともに増加傾向がみられる。

精神障害の労災認定の要因の推移をみると、男性では「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」の割合が最も増加した。一方、女性では「セクシュアルハラスメントを受けた」の割合が最も増加した。女性のセクハラの内訳は、33.3%が勤務時間外に発生しており、相手も事業場外のクライアントが16.7%を占めた。

ヒアリング調査で業務量が多い理由をたずねたところ、「納期が最優先される」、「製造工程の最後にソフトウェアを実装するためソフトウェア業にしわ寄せがくる」、「クライアントの経営層からの鶴の一声で仕様変更が生じることが多い」など、業界の構造的な問題を指摘する回答があった。

白書は、ヒアリング結果等を受け、IT業界の業務内容等についてクライアントと認識を共有し理解を得ながら業務量の削減に取り組むとともに、「女性へのセクシュアルハラスメントの防止対策の徹底に取り組む必要がある」とまとめている。

(調査部)

2022年12月号 スペシャルトピックの記事一覧