ウイズ・アフターコロナに伴う社会変化に適応した活動へ。リスキリングや法改正に対応する組織も
 ――産別の運動方針

ビジネス・レーバー・モニター定例調査

ウイズコロナ、そしてアフターコロナで社会が変わるなかで、その変化に沿った組合活動を進める――JILPTが産別労組モニターを対象に実施した調査では、今年の運動方針・補強方針の特徴においてこのような傾向がみられた。新たな生活様式への変化を「好機」と捉える考えや、コロナ収束後の産業のあり方を模索する動きなどが把握できた。また、ここ2年余り、延期やオンライン開催となっていた組合員の会合を、今後は可能な限り対面で開催すると確認した産別もある。リスキリングを含めた学び直しの支援や法改正への対応といった、社会変化への適応を試みる動きもみられた。

調査では、モニターを委嘱している産別24組織、単組27組織に調査票を配布し、産別13組織、単組13組織から回答を得た。調査期間は10月5日~10月21日。なお、単組はほぼすべて大手企業の労組で構成している。

ウイズコロナ・アフターコロナを見据えた方針を実践するスタートの年に/電機連合

電機メーカーの労働組合で構成する電機連合は、2021年の定期大会で、ウイズコロナ・アフターコロナを見据えた労働運動・活動のあり方を盛り込んだ中期運動方針を策定した。中期運動方針は、新型コロナの流行が終息しても以前の姿に戻るとは考えにくく、また、次なる感染症が拡大したとしても企業活動や労働環境、組合活動への影響が最小限にとどまる施策を講じておく必要があると考え、ニューノーマル(新常態)における労働組合の運動・活動のあり方を検討したもの。そのうえで2022・2023年度について、「中期運動方針を本格的に実践していくスタートの年」と位置づけた。

今年の定期大会では、中期運動方針をふまえたうえで、新たな生活様式への変化を「好機」と捉え、①一人ひとりが意識を高め、想像力を発揮し、行動に移すこと②従来のやり方に捉われない新しい行動様式を創造=作り上げていくこと③これまで変えたくても変えられなかったものも、これを機に思い切って変えていく、チャレンジしていくこと――の3点を全面に押し出した。

AP22で労使が共有した「人への投資」をAP23でも継続/基幹労連

鉄鋼や造船重機、非鉄金属などの労組を組織する基幹労連は、9月に定期中間大会を開催し、2022年度の活動方針を決定した。活動方針は、昨年の定期大会で確認した2年間の運動方針をもとに、前半年の活動結果や環境変化もふまえ、より効果的な取り組みを志向した補強内容となっている。

主要な取り組みは、①安全衛生活動②組織強化と組織拡大③労働政策の推進④産業政策、政策・制度、自然災害に関する政策の推進⑤持続可能な運動の推進と組織の発展――の5つ。

基幹労連は、「魅力ある労働条件づくり」と「産業・企業の競争力強化」を好循環させていくとの基本理念に基づき、2年サイクルでの労働条件改善(AP:アクションプラン)に取り組むことを基本とし、環境変化に応じて単年度ごとの要求も可能としている。AP22では、鉄鋼部門はおおむね2年分を要求し、造船・非鉄・建設部門では多くの組合が2022年度分の要求を行った。その結果、鉄鋼大手の各組合が3年ぶりの賃金改善を獲得したのをはじめ、全体でみても平均獲得額が連合や金属労協(JCM)を上回るとともに、過去との比較で前進回答率、平均獲得額が向上した。

こうした経緯をふまえ、労働政策の推進では、AP22を「全体感として『人への投資』が好循環につながる重要な要素であることを労使で共有することができたものと受け止めている」と振り返ったうえで、AP23について、「こうした醸成された共有認識を大切にしながら、継続した『人への投資』を実現する取り組みとしなければならない」と強調している。

産業・労働政策ビジョンの見直しを提起

また、10年先を見据えて2017年に策定した「産業・労働政策中期ビジョン(2017年改)」にのっとり、基幹産業にふさわしい処遇の実現、誰もが安心して働き続けることができる環境整備に向けて取り組みを進める。

中期ビジョンについては、「策定時よりさまざまな環境条件が変化してきており、見直しの必要性があるとの判断のもと、基本的な考え方と見直しの方向性について検討していく」考え。今後は「国際情勢の悪化や、新型コロナウイルス感染症のまん延といった大きな変化に加え、引き続く超少子高齢・労働力人口減少社会のなかで、これまでと同様に製造業を『日本の屋台骨』と位置づけ、われわれ製造業が日本を支える」という認識のもとで、プロジェクト会議を設置し具体的な検討を行っていく。2023年9月開催の定期大会で、見直し後の「産業・労働政策中期ビジョン(2023年改)」を特別報告として取り扱う予定。

リスキリングやリカレント教育などの学び直しを情報提供で支援/生保労連

生命保険会社の労組を束ねる生保労連は、2022年度の運動方針に、「労働条件・働き方関係の取り組み」として、①営業職員のオンライン活動や内勤職員のテレワークについて、今後はコロナ禍の状況に関わらず、これまでに導入された制度・施策を積極的に活用しつつ、新たな活動・働き方の定着・実効性向上を一層はかる観点から、各種の取り組みを行う②社会的関心の高い「学び・学び直し」(リスキリング、リカレント教育、自己啓発等)について、情報提供や情報交換等を行う③2021年度に実施した「『管理職の働き方および役割の変化』に関する研究」の取りまとめについて組織内外と広く共有する観点から、11月に「キャリアフォーラム」を開催する④今後の春闘について、共闘効果を一層発揮し、各加盟組合のさらなる後押しにつなげる観点から、特別委員会として「今後の総合生活改善闘争に関する研究会」を設置して検討を行う――ことを盛り込んでいる。

また「組織・政策関係の取り組み」では、2020・2021年度は延期もしくはオンライン開催としていた、組合員を対象に全国で開催する各種会合について、2022年度は感染拡大状況に十分留意しつつ、「可能な限り対面で行う」ことも確認した。

今年の大会では、「組織運営の要として大きな役割を担い、組合員の働き方やモチベーションに大きな影響を与えている『管理職』について、『管理職のさらなる役割発揮』と『より多くの組合員が管理職をめざせる環境整備』の2つの視点から研究・検討を行い」、提言をとりまとめた。

中期目標の「2025年20万労連」達成を目指す/情報労連

NTTやKDDIなども含む情報通信関連の労働組合でつくる情報労連は、2021~2022年度の中期運動方針をふまえ、①25万労連の追求②加盟組合活動の充実③産別政策の深化と実現④政治啓発活動⑤社会的役割発揮――の5点を2022年度の運動方針の重点に据えた。

このうち25万労連の追求については、中期目標の「2025年20万労連」達成を目指すとともに、その延長線上にある25万労連の実現を見据え、組織拡大の基盤整備に取り組む。

加盟組合活動の充実に向けた支援強化としては、加盟組合の組織実態に応じたきめ細かな支援や集団的労使関係の充実に向けたサポートを強化するとともに、ウイズコロナにおける組合活動の活性化や、人材育成等に資するオンラインセミナー等を積極的に開催する。

産別政策については、日本における社会・経済的な課題解決に向けたICT利活用の推進をはじめ、デジタル社会における諸課題をふまえたICTS政策へとブラッシュアップする。

割増賃金率の引き上げを顧客の理解を求める絶好の機会に/運輸労連

月60時間超の時間外労働への割増賃金率は、現行、大企業の50%に対して中小企業は25%だが、2023年4月からは中小企業も50%に引き上げられる(いわゆる「2023年問題」)。

また、36協定が締結された場合の時間外労働の上限規制は、月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内、年720時間以内とされているが、現行では「自動車運転の業務」「建設事業」「医師」など一部の事業・業務は2024年3月まで猶予されている。それが2024年4月からは、自動車運転の業務では年間960時間が上限となる(いわゆる「2024年問題」)。

これらの問題への対応について、トラック運輸などの輸送分野の労組を組織する運輸労連は、年間総労働時間が全産業と比べて長い運輸業界にとっては「かなりインパクトのある法施行」との認識を示したうえで、「我々の業界にとっては、問題ではなく、荷主である顧客への理解を強く求める絶好の機会と捉え、労使で取り組んでいきたい」との方針を示している。

包摂的な社会の構築に向けた運動を推進/JEC連合

化学・エネルギー関連の労組で構成するJEC連合の運動方針は、「一人ひとりが社会の一員として互いに支え合い幸せに暮らせる『包摂的な社会の構築』に向けて、運動を推し進める」ことを前提に、「強い連帯をもって、運動の原点を常に意識し能動的に取り組む」姿勢を提起。あわせて、「労働組合が果たすべき社会的役割を踏まえつつ、包摂的な社会実現のため、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて取り組む」ことを訴えている。

そのうえで、「安全衛生活動」の取り組みとして、「加盟組合の組合員一人ひとりが、安全で安心し健康で働くことができる職場環境の構築を目指せるよう、研修会や工場見学等を取り入れ、安全衛生活動の充実をはかる」としている。「雇用を守る取り組み」では、産業政策と加盟組合へのサポート体制を通年の取り組みと位置づけて、充実を図る構え。「労働条件・処遇の維持向上」への取り組みとしては、一人ひとりが幸せに暮らせる社会となるよう、すべての働く者の「ディーセント・ワーク」の実現を目指し、働く者の味方という社会的使命を受けて運動を担っている自負を持ち、労働条件・処遇の維持向上へ取り組むとしている。

労働組合の有無によらず、産業を支える仲間の雇用を維持/航空連合

航空関連産業の労組で構成する航空連合は、運動の柱として①事業・産業の存続と雇用の確保・拡大②圧倒的な生産性向上の実現と成果の公正な配分③運動の変革へのあくなき挑戦と社会的課題への対応強化――の3つをあげている。

「事業・産業の存続と雇用の確保・拡大」では、「安全運行の堅持、安全・安心サービスの提供は、産業存続と発展の基盤であり、航空安全政策の実現と安全意識の醸成に主体的に取り組む」との考えのもと、事業・産業の存続に必要な経済的支援や需要喚起策について、職場の声をもとに積極的に提言、要請を行う。また、「産業の基盤、財産である人材の雇用を守ることこそが、将来の日本の航空産業の健全な発展と安全性、利便性の向上につながる」との考えに基づき、労働組合の有無によらず、産業を支える仲間に対する雇用維持、確保に向けた政策の実現に取り組む。このほか、航空連合のスケールメリットをいかした組合員の生活の安心につながるサービスの提供や、会費の減免など、組織運営上の工夫にも取り組む。

「圧倒的な生産性向上の実現と成果の公正な配分」については、産業全体で「圧倒的な生産性の向上」を実現することにより、コロナ収束後も社会から必要とされる産業として生き残り、さらなる成長を目指す。職場で取り組んでいる生産性向上施策は継続したうえで、規制の見直しや業界全体でのイノベーションの推進によって、過去にない生産性向上の産業全体での実現も目指す。

「運動の変革へのあくなき挑戦と社会的課題への対応強化」については、多様性を尊重し、ジェンダーをはじめとする多様な仲間が活躍できる組織運営に努める。特に、「航空連合ジェンダー平等推進計画(2021年10月~2025年9月)」の達成を目指すとともに、ジェンダー平等推進に関する活動に積極的に取り組む。このほか、産業別組合として積極的な社会貢献活動を進めるが、特に航空関連産業として脱炭素社会の実現に貢献すべく、独自のボランティア活動を企画し、段階的に活動を進めていく。

非正規労働者の組織化に向けた考え方を整理/ゴム連合

タイヤ、履き物、工業用品などの業種の組合で構成するゴム連合は、定期大会で決定した運動方針の特徴として、①ウイズコロナ(コロナとの共存)において、ゴム産業に与える影響を注視し、雇用を維持するために有益な情報の提供および相談対応を行うとともに、必要に応じて支援を行う②ゼロ災害をめざし、組合員一人ひとりが安全意識の高揚や行動の変革に繋がるよう、施設・設備の安全対策、安全な人づくりの両面から取り組む③メンタルヘルス対策の強化に向けて、情報収集を行い加盟単組に展開する④定年年齢の延長・定年制廃止に関し、社会動向や他産別、他単組等の取り組み事例や先進事例の共有を図る⑤地協間交流など産別機能の強化に向けた取り組みを推進する⑥男女共同参画の取り組み方針の周知と多様性の理解促進に向け、新たな会議体を設置し、現状把握と課題の整理を行い、必要な取り組みを企画・推進する⑦非正規雇用労働者の組織化に向けた産別としての考え方を整理する⑧連合新会費制度移行について、中長期的な視点で対応を図る――の8つをあげる。

コロナからの回復期での課題を取りまとめて解決に取り組む/サービス連合

宿泊業、旅行業、航空貨物業の組合が加盟するサービス連合は、「新型コロナウイルス感染症の影響について、今後は、産業の回復期での課題について取りまとめ、解決にむけて取り組む」ことを報告している。

中長期ビジョンの実現に向けたロードマップを策定/日建協

建設産業の労働組合で組織する日建協は今年の定期大会で、昨年度に策定した産別の中長期ビジョン「日建協ビジョン2030」の実現に向けたロードマップを確認した。

ロードマップでは取り組み事項として、①時間外労働の削減②4週8閉所の推進③適性工期確保にむけた取り組み④賃金(処遇)の向上⑤担い手確保⑥魅力向上・魅力発信⑦産業内外との連携⑧ダイバーシティ&インクルージョンの推進⑨人材育成支援――を列記しており、「運動方針において、このロードマップに沿ったビジョンの展開・実現を掲げている点が特徴」としている。

短期的な解決が困難な課題に対応できる中期ビジョンの策定を/紙パ連合

紙パルプ・紙加工産業で構成する紙パ連合は定期大会で、中期ビジョンの策定について議論した。

報告によると、「これまでも時代の変化に即応しながら運動を進めてきた」一方で、「社会・経済・産業構造などが大きな変貌を遂げてきたなか、産別運動に求められている役割は多様化してきている」として、中期的な方針の必要性を指摘。

「とりわけ、紙パ産業内における人材不足対策やジェンダー平等をはじめ一人ひとりが尊重された職場環境づくりといった課題については、短期的な解決が困難であることからも、計画性をもって段階的な対策を講じていく取り組みが求められている」「今後においても、新型コロナウイルス感染症予防を想定した新しい生活様式の定着をはじめ、カーボンニュートラルの達成など、新たな諸課題に直面していくことも推測される」などの背景があるなかで、「引き続き魅力ある産業・企業と魅力ある紙パ連合を目指していくためには、産別運動の基盤となる組織強化(拡大)に向けた取り組みをはじめ、現状の諸課題について精査を行って、一歩ずつ着実な成果へとつなげていくことができる具体的な目標(将来のあるべき姿)と方向性を示して取り組みを進めることも必要だ」と結論付けた。

これらをふまえて、中央執行委員会・組織財政委員会を中心に現状の諸課題について精査を行い、紙パ連合が中期的に目指すべき目標(中期ビジョン計画)を策定していく考えだ。

ウイズコロナ・アフターコロナを見据えた規約改定を/印刷労連

印刷・情報・メディア産業の組合で構成する印刷労連は、運動方針の柱に①産業政策の再構築と印刷産業の発展②組織強化と組織力の向上③総合的な労働諸条件維持向上の取り組み④男女平等参画・ジェンダー平等の推進⑤ニューノーマル(新常態)に対応した組織運営と人財育成⑥労働者福祉の向上⑦組織の社会的責任と国際平和――を掲げている。

このうち「ニューノーマル(新常態)に対応した組織運営と人財育成」については、ウイズコロナ・アフターコロナを見据えた規約改定を行うことを確認した。

加盟全組合での加入率70%達成と組織人員3万人を目指す/セラミックス連合

セラミックス産業の労組で構成するセラミックス連合は、運動方針のポイントとして①組織率向上・組織拡大の対応強化②産業政策の推進③安全衛生対策強化④構成組織の組織強化および地方本部・構成組織との連携強化⑤ゆとり・豊かさの追求⑥共助活動の充実・強化の取り組み――を掲げている。

組織率向上については「全組合での加入率70%達成」、組織拡大については「組織人員3万人」を目指し、対応を強化する。具体的には「第4次組織拡大とりくみ方針」に基づき「パート等正規従業員以外および60歳以降の継続雇用者の組織化・過半数労働組合の達成」「構成組織関連・系列企業組合および産別未加盟組織に対する『仲間づくり』の展開」を進める。

安全衛生対策のさらなる強化も

安全衛生対策強化については、安全点検・衛生点検活動のさらなる強化として、安全衛生に関する法令の遵守徹底と、その予防対策に努めるほか、メンタルヘルスおよびストレスチェック制度に関する情報提供や、粉じん対策のさらなる強化を行う。

構成組織の組織強化および地方本部・構成組織との連携強化については、構成組織とのコミュニケーション強化に向けてホームページを見直す。また、地方本部における学習会や研修会等で、組織訪問を通じた連携強化等にも取り組む。

(調査部)

2022年12月号 ビジネス・レーバー・モニターの記事一覧