2022年第4回経済財政諮問会議 有識者議員提出資料「DXを活かした地方創生と地方行財政改革に向けて」で副業・兼業の促進による雇用創出などを提案

資料

4月13日に開催された経済財政諮問会議(議長:岸田文雄首相)では、地方活性化と経済・財政一体改革(社会保障)について議論が交わされた。地方活性化については有識者議員(十倉雅和氏(住友化学会長)/中空麻奈氏(BNPパリバ証券グローバルマーケット総括本部副会長)/新浪剛史氏(サントリーホールディングス社長)/柳川範之氏(東京大学大学院経済学研究科教授))から、副業・兼業の促進による雇用創出・付加価値創造といった内容も提起された。以下は、提出資料の内容(脚注は割愛している)。

「DXを活かした地方創生と地方行財政改革に向けて」

コロナ禍において、東京への人口純流入の動きには歯止めがかかったものの、多くの地方公共団体で人口減少と若年人口の流出の動きが続いている。

地域活性化に向けては、「集中から分散へ」がカギであり、大学を拠点としたイノベーション・エコシステムの強化や、一次産業・中小企業の活性化等を通じた雇用機会の拡大、脱炭素やサプライチェーンの再編等を契機とした国内投資の拡大が不可欠。そのためには、デジタル田園都市国家構想の下、全国隅々へのデジタル実装を進め、地域内外の多様な人材を活用することが重要となる。また、そうした動きを加速するためにも、多様な広域行政を含め、DXを前提とした地方行財政改革を推進する必要がある。

1.地方の輸出力、イノベーション力、無形資産価値の強化による雇用創出等

地方の輸出力、イノベーション力、無形資産価値の強化に重点を置き、地域の特性を最大限に生かした雇用創出、新たな付加価値創造を促すべき。

  • 世界的な部品不足の中、DXの活用、商社機能による橋渡しを通じて、世界の需要ニーズにこたえ、輸出競争力を強化するとともに、事業の新陳代謝を促し、地域中小企業を再生すべき。
  • 各地方大学や学術機関においては、それぞれの地域課題の解決に向け、オープンイノベーションと国際的人的ネットワークを備えた知的拠点となるよう、産学連携の強化、調達支援等の工夫を通じ、スタートアップや高度人材の集積を推進すべき。
  • DXの活用や副業・兼業の促進、関係人口の拡大により、内外の知恵を各地域に集結させ、雇用創出・付加価値創造を促すべき。そのためには、新規就農を進めるほか、一次産業の高度化・輸出産業化を積極的に推進すべき。その際、農地の所有・利用に係る国家戦略特区や国公有林の樹木採取権制度等の利活用を通じて企業経営の参入を促し、継承者不足や投資不足を解決すべき。
  • 地方では、脱炭素が投資拡大の契機となる。地方自治体のグリーン事業の推進のためのグリーン地方債等の発行拡大に向け、発行団体・債券保有者双方へのインセンティブの強化等を推進すべき。また、林業の脱炭素社会への寄与と成長産業化の両立に向け、新技術による生産性向上や木質資源の利活用を推進するほか、森林REITの組成等を含め、地方への民間資金の流れを強化するため、必要な制度整備や人材確保の方策等についても検討すべき。
  • コロナ禍で縮小したインバウンドの復活に向け、大阪・関西万博の開催も見据えて観光振興を推進していくべき。その際、コロナ禍で進んだデータ利用の取組も生かして、重要な無形資産として位置付けられるべき日本の文化・自然等が、地方経済や地方の生活に新たな付加価値を生み出し、結果としてこれら無形資産への再投資にもつながるような仕組みを検討・構築すべき。

2. 関係人口の拡大と多様化

地方では労働人口が大きく減少する中、上記1.に掲げた分野における多地域での居住、兼業・副業等の就労機会の拡大に加えて、オンラインでの交流も含め、多様な関係人口の拡大と関係人口の積極的な地域との交流が重要となる。

  • 関係人口拡大に向けては、多地域居住者等の動向をデジタル等で把握できるようにするとともに、多地域居住者等へのサービス提供の実態把握とふるさと納税等を活用した負担共有の仕組みを展開すべき。
  • 単に関係人口の数を増やすのではなく、いかに地方企業や地域人材との交流や連携を増やすかが地域活性化の大きなカギとなる。各地方公共団体は上記の実態把握のデータも生かしながら、各地域の大学と連携して大学を交流のハブとしたり、図書館や公民館等を交流の場として提供する等、交流や連携を積極的に促進すべき。
  • 地域内外の移動・滞在が多様化する中、利便性の高い公共交通と住居の提供が重要となる。地域公共交通における自動運転技術の導入やサブスクリプションの自由化をはじめとするダイナミック・プライシングを進めるべき。また、空き家の利活用を推進すべき。

3.未来を見据えた地方行財政改革

人口減少・少子高齢化が進む中、業務のDXを大胆に進め、行政の機能を集約し、効率的かつ効果的に公的サービスを提供できるようにすべき。

(業務の効率化)

  • 地方行財政のDXにおいては、データ基盤の整備、国の官庁会計システムとの接続、マイナンバーの徹底利活用の検討に加えて、地方自治体事務のコード化による業務共通化及び予算決算内容の縦覧性確保など、行財政全体を俯瞰・見える化が急務。
  • 公的給付の迅速かつ確実な支給にむけ、特定公的給付制度を拡張し、マイナンバーを用いた世帯の所得や公的サービスの受給等を把握する仕組みの構築を検討すべき。
  • 業務の効率化、簡素化の徹底に向け、国・県・市町村間の紙ベースの行政手続きとその重複を一括検証・是正すべき。また、国は法令上の新たな計画等の義務付け・枠付けについて必要最小限とするとともに、既存の計画との統合や他の地方公共団体等との共同策定ができることを原則とすべき。

(広域行政化)

  • 執行段階の事務の広域化は進んでいるが、計画・企画立案に係る業務は進捗していない。また、DXの進展の中で、今後、地域間の各種公共サービス格差が拡大することも懸念される。市町村連携、都道府県による市町村業務の補完・支援体制の強化等に向け、サービスの地域間格差等を目安にして、国等が広域行政化の更なる取組を後押しする仕組みを検討すべき。
  • 人口の移動が特に多い東京圏では、国とも連携し、東京圏全体として継続的に公共サービスの提供に係る協力・調整を行う体制の構築に着手すべき。
  • 地方制度調査会の審議において、10~20 年先の地域住民サービス(行政需要や老朽インフラの維持・管理、福祉需要等)の受益と負担のバランスを見据え、国・地方、自治体間の連携体制の在り方が明確化されることを期待。

(2023 年度予算に向けて)

  • コロナ対応として行われた国から地方への多額の財政移転について、事業実施計画や決算等を踏まえて、その内容と成果の見える化を実施したうえで、成果と課題の検証をすべき。
  • 税収改善が見込まれるが、一般財源の総額について前年同水準を実質的に確保するとの目安に沿って対応すべき。また、早期に地方財政の歳出構造を平時に戻していくべき。

(調査部)