2017年9・10月の新着図書紹介

1.玄田 有史編
『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』慶應義塾大学出版会

(xxi+310頁,A5判)

現在、日本の労働問題の根幹に係わる重要な問いとして「人手不足なのに賃金が上がらない」がある。この問題は他国からも注目されており、第一線で活躍する日本の研究者に構造解明が期待されている。本書では、編者の呼びかけに応じた21名の新進気鋭の研究者が労働経済学や人事・労務管理論、社会保障論、社会学などそれぞれの専門分野から困難な問題にアプローチ。その結果、① 医療・福祉産業で賃金が上昇しない一番の理由は診療報酬制度や介護報酬制度によりサービスが抑制されていることによる ② 「就職氷河期世代」の賃金が低いのは能力開発の機会が乏しかったため ③ 非正規社員を意識する正社員が自らの賃上げ要求を抑制する――ことなどが浮かび上がった。

請求番号:366.4/hit
書誌番号:JB00108042
ISBN:9784766424072

2.バリー・シュワルツ著 『なぜ働くのか』朝日出版社

(198頁,四六判)

「なぜ、私たちは働くのか」と著者は問う。アダム・スミスは『国富論』のなかでピン工場の例を使い、細かな分業体制で、いかに効率を上げることが重要かを説き、それ以外の充実度の高い仕事は特権的だと主張。この言説は学界のみならず、経営にも大きな影響を与えてきた。しかし、著者は給与明細だけが労働の動機とはいえないケース(病院掃除、カーペット作りなど)を紹介し、「仕事に意味があると感じられることが人々を満足させている」と結論づける。いまこそ、アダム・スミスに代わる物語を育まなければならないと力説。仕事が他者の生活向上に多少なりとも貢献していると答えられるのなら、どんな職場でもやりがいを見いだすことができるようになると結ぶ。

請求番号:366.94/naz
書誌番号:JB00108599
ISBN:9784255009940

3.大室 正志著 『産業医が見る過労自殺企業の内側』集英社

(205頁,新書判)

著者は、パソコンやモバイル機器を四六時中使用する現代人の脳は「バッテリー容量は同じなのにアプリだけ増えているスマホ状態」だとし、人類史上もっとも脳が疲れる生活を送っていると警告する。そのうえ、長時間労働や会社の人間関係などでストレスが加わると「コップから水があふれるように」人はうつ状態になり、最悪の場合、自殺に追い込まれる。著者は、のべ50社以上の産業医を務め、のべ数万人の会社員を診てきた経験から「自殺する社員のタイプ」「社員を自殺させる会社の問題点」などを鋭く分析。明確なのは睡眠不足を誘発する過度な長時間労働は万人の身体に悪いこと、脳の集中力が保てる時間は有限だと「認める」ことからスタートすべきだと訴える。

請求番号:366.99/san
書誌番号:JB00108703
ISBN:9784087208856

4.楠木 新著 『定年後』中央公論新社

(xi+221頁,新書判)

会社員生活も50歳を迎えるころになると、誰しも「定年」を意識するようになる。社会とつながってきたという自負のある人も会社や組織を離れると、仕事や仲間を失い、孤立しかねない。お金や健康、時間のゆとりだけでは問題は解決しない。重要なのは、定年前から何らかの形で社会と接点をもっていること。だからこそ、従来の自分の経験を基に備えることが求められる。定年退職者が社会とつながるには、① 組織で働く ② 以前の会社と関連のある仕事に就く ③ いままでとまったく異なる生き方をする――の3つのケースが想定されるが、いずれを選択するにせよ、「報酬がもらえる」「自分の個性で勝負できるものに取り組む」の2点にはこだわったほうがいいと強調する。

請求番号:367.7/tei
書誌番号:JB00108596
ISBN:9784121024312

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2017年6月~8月の労働図書館受け入れ図書

  1. 鈴木 孝嗣著『グローバル展開企業の人材マネジメント』経団連出版(126頁,A5判)
  2. 加賀 博著『人材組織教育総合手法』日本生産性本部生産性労働情報センター(xii+289頁,A5判)
  3. 今野 晴貴著『ブラック奨学金』文藝春秋(223頁,新書判)
  4. 難波 利光他編著『雇用創出と地域:地域経済・福祉・国際視点からのアプローチ』大学教育出版(230頁,A5判)
  5. 立石 泰則著『日本企業が社員に「希望」を与えた時代』七つ森書館(237頁,四六判)
  6. 刎田 文記他著『成功する精神障害者雇用』第一法規(202頁,四六判)
  7. 中沢 彰吾著『東大卒貧困ワーカー』新潮社(189頁,新書判)
  8. 藤田 結子著『ワンオペ育児:わかってほしい休めない日常』毎日新聞出版(215頁,四六判)
  9. 中日新聞社会部編『新貧乏物語:しのび寄る貧困の現場から』明石書店(319頁,四六判)
  10. 中村 淳彦著『絶望の超高齢社会:介護業界の生き地獄』小学館(222頁,新書判)