2017年5月の新着図書紹介

1.ロバート・B・ライシュ著『最後の資本主義』東洋経済新報社

(xvii+346+17頁,四六判)

オバマ政権に影響力のあった米国リベラル派の経済学者である著者が、資本主義の未来について解き明かす1冊。これまでの選択肢だった「自由市場」か「政府」かはまやかしだったと断じる。この2項対立的な見解の相違の間げきをぬって、大企業、ウォール街、個人投資家の影響力が強大化する一方、中間層は没落の一途をたどった。富の偏在に対して、かつては労働組合を通じて対抗することなどができたが、組織率の低下とともに拮抗力を失い、労働者の賃金も下落を続ける。今後数年のうちに政治を二分する線が「民主党か共和党か」から「反体制派か体制支持派か」にシフトすると予見する。拮抗力を取り戻すためには、まず巨額な資金を政治から排除すべきだと主張。

請求番号:332.06/sai
書誌番号:JB00107914
ISBN:9784492444405

2.デービッド・アトキンソン著『新・所得倍増論』東洋経済新報社

(305頁,四六判)

「日本の生産性は世界第27位。先進国内では最下位」――米証券会社でパートナー(共同出資者)にまで登りつめた著者は、日本が潜在能力を発揮すれば「所得倍増」「国内総生産(GDP)1.5倍」は必ず実現できると見通す。日本は長期的に人口増加型の経済モデルにより運営されてきたため、1990年代に入って人口減に転じた際に、経済のあり方を全面的に変える機会を失った。日米の生産性ギャップの約半分は日本人女性の生産性・収入の少なさで説明できるとし、女性の潜在能力の活用を最重要課題にあげる。また、1980年以降、海外で政府が経営者に「時価総額向上」の圧力をかけてGDPを引き上げた例をあげ、日本政府も同様の対応をするようすすめる。

請求番号:332.107/shi
書誌番号:JB00107918
ISBN:9784492396353

3.大内 伸哉著『AI時代の働き方と法』弘文堂

(ix+226頁,四六判)

情報通信技術(IT)や人工知能(AI)が今後、雇用や労働にどのような影響を及ぼすのかは差し迫った政策課題といえる。「労働の現場でも新しい技術は深く浸透しており、いまやIT抜きでの仕事は考えられない」と著者は言う。これまでの労働法の対象となるのは「従属労働者」だったが、第4次産業革命の進展により、自営業者が拡大することになり、発想を180度変える必要があると説く。日本では、第2の「労働法」ともいえる、従来の正社員を中心とした雇用制度が機能しなくなるかもしれない。だからといって、単純に非正社員の増加をもたらすわけではないとも警告する。本書は、将来の「脱労働時代」を予言し、その際には労働法の出番はなくなると悲観的だ。

請求番号:366.14/aij
書誌番号:JB00107909
ISBN:9784335356872

4.山田 久著『同一労働同一賃金の衝撃』日本経済新聞出版社

(viii+271頁,四六判)

正規・非正規格差の是正と賃金底上げを念頭に、政府主導で始まった「同一労働同一賃金」の検討。著者はその真の意義は「働くすべての人々が属性にかかわらず、それぞれ個性をいかして能力を発揮することを促すための報酬面での有効な基準である点」だと述べる。従来労働力の中核だった男性正社員が減少していくなか、女性やシニア、外国人といった多様な人々の能力を十分に引き出すことが重視されており、方向性は正しい。しかし、本来の意義に照らすと、働き方の選択肢を増やし、制約のある働き手でも能力がいかせる環境を整える必要があるという。また、欧州の雇用実態や日本企業が取り組むべき課題を探るほか、「働き方改革」の方向性と議論すべき点を提起する。

請求番号:366.4/doi
書誌番号:JB00107927
ISBN:9784532321291

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2017年2月~3月の労働図書館受け入れ図書

  1. 圓生和之著『一番やさしい地方公務員制度の本』学陽書房(188頁,A5判)
  2. 本台進著『インドネシアの経済発展と所得格差』日本評論社(x+226頁,A5判)
  3. 伊賀泰代著『生産性』ダイヤモンド社(244頁,四六判)
  4. 小野耕司著『経営改革は“人事”からはじめなさい』幻冬舎メディアコンサルティング(214頁,新書判)
  5. 中野麻美他著『新しい労働者派遣法の解説』旬報社(291頁,A5判)
  6. 荻原勝著『実務に役立つ育児・介護規程のつくり方』産労総合研究所出版部経営書院(vii+231頁,A5判)
  7. 藤原佳典他著『就労支援で高齢者の社会的孤立を防ぐ』ミネルヴァ書房(xi+294頁,A5判)
  8. 眞保智子著『障害者雇用の実務と就労支援』日本法令(188頁,A5判)
  9. アルン・スンドララジャン著『シェアリングエコノミー』日経BP社(390頁,四六判)
  10. 司馬遼太郎著『ビジネスエリートの新論語』文藝春秋(200頁,新書判)