2011年8月の図書紹介(2011年7月受け入れ図書)

1.高橋潔著『人事評価の総合科学』白桃書房(ⅹⅰ+384頁,A5判)

 成果主義が人事評価に与えた影響は大きく、多くの不満を残したが、著者は様々な人事評価法の特徴を整理し、公平・透明性の高い制度構築を目指している。人事評価の考え方、人的資源の評価要素、人事評価の実証研究、の3部で構成された本書は、研究者と実務家を対象にした意欲的著作。努力主義評価の可能性も模索している。

2.中原淳著『職場学習論』東京大学出版会(ⅶ+188頁,A5判)

 職場での能力向上の実態を、職場の組織的特徴、他者からの支援内容、コミュニケーションや組織風土、の面から分析。2つの共同研究で得られたデータの再分析、モデル構築、Off-JT・OJTの見直しも行っている。意外と知られていない、仕事の学びを科学する「職場の中の学習」(職場学習論)の今後の発展を期待したい。

3.山田省三他編『労働者人格権の研究』信山社(上=ⅹⅹ+500頁,下=ⅹⅹ+478頁,A5判)

 労働者の権利に対する侵害に抗する概念である、職場における労働者人格権の現状を総合的に分析・追究している角田邦重教授の古希を記念する論文集。本文上巻500頁、下巻462頁に及ぶ大著。中央大学労働判例研究会メンバーや外国人5人を含む日独労働法協会の会員等40人もが執筆に参加。角田教授も総論を執筆している。

4.馬欣欣著『中国女性の就業行動』慶應義塾大学出版会(ⅹⅷ+328頁,A5判)

 本書は、1978年の計画経済から市場経済への移行後の中国都市女性の就業行動・賃金決定のメカニズムを明らかにするとともに、男女間賃金格差を実証的に分析することを目的としている。中国の広範な地域を対象とし、日本との比較も加え、時系列的に変化を把握し、政策提言も行っている。書き下ろし原稿と既発表論文で編集。

5.北野賢三著『僕はジョブコーチ』文芸社(331頁,B6判)

 障害者の就業意欲の高まり、企業のCSR浸透等により、平成22年の民間企業の障害者雇用率は過去最高に達したという。本書は自身も障害者である著者が、社会的企業を経営しながらジョブコーチ(職場適応援助者)としての経験を3年間ブログとして発表したものを再構成。企業と雇用されている障害者は同志、が著者の信念。

6.石倉洋子著『グローバルキャリア』東洋経済新報社(262頁,B6判)

 オープン化、特色の組み合せ、ユニークさ、がキャリア形成のキーワードになる、と21世紀のキャリアの方向性を説明。学生や20・30代のビジネスパーソンに、厳しい現実から一歩踏み出すよう優しくエールを送っている。7人の若者と著者自身のキャリアを事例に、グローバル人材となるためのキャリア形成をポジティブに考察。

7.金谷千慧子著『「働くこと」とジェンダー』明石書店(214頁,A5判)

 長年、女性の職業・キャリアについての研究や活動を続けてきた、「女性と仕事研究所」代表理事であり、実践的研究者を自認する著者による女性労働に関する著書。女性労働の歴史、多様な就業形態、性・家族問題等、4部18項目で編集されている。学部生向けの「参加型授業」のための教科書ともなっている。差別禁止法も提案。

8.高原彦二郎他編著『中国進出企業の労務リスクマネジメント』日本経済新聞出版社(347頁,B6判)

 中国進出日系企業は製造業中心に3万社と言われ、独自の組織風土等に苦悩する企業も多い。さらに昨年、日系企業でもストライキが発生、労務リスク対応は喫緊の課題である。本書は、現場で危機管理に対応しているコンサル企業が労務リスクマネジメントのポイントを実務的に解説。新日本的労使協調の構築を目指している。

9.五石啓路著『現代の貧困ワーキングプア』日本経済新聞出版社(479頁,B6判)

 相互移動の頻繁性故に、失業者や非労働力人口もワーキングプアに含めて現状、問題点、改革案等を論じている。福祉事務所や地方の職業紹介所へのアンケート調査、国際比較を通じて、現在の社会保障・福祉制度では貧困に対応できないことから、雇用・福祉・住宅の連携、社会的企業による雇用創出、福祉施設等の見直し、を提言。

10.志賀和人他編著『地域森林管理の主体形成と林業労働問題』日本林業調査会(424頁,A5判)

 本書は、全国森林組合連合会が林業雇用改善促進事業を実施する中で行った現地調査を含む長年の調査研究成果の集大成。森林管理制度、雇用改善、就業実態の3部構成。地域の森林管理制度が新たな局面を迎えようとしているが、林業労働問題を包括的に分析。グリーン・ニューディールである日本林業の再興を望みたい。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2011年5月-2011年6月に労働図書館受け入れ

  1. 寺本実編著『現代ベトナムの国家と社会』明石書店(199頁,A5判)
  2. 自治体の偽装請負研究会編『自治体の偽装請負』自治体研究所(174頁,A5判)
  3. 音無通宏編著『功利主義と政策思想の展開』中央大学出版部(ⅹ+564頁,A5判)
  4. 塩見英治他編著『東アジアの地域協力と経済・通貨統合』中央大学出版部(ⅹ+303頁,A5判)
  5. 長谷川聰哲編著『APECの市場統合』中央大学出版部(ⅶ+213頁,A5判)
  6. 江橋崇編著『東アジアのCSR』法政大学現代法研究所(215頁,A5判)
  7. 小河原直樹著『日本の強みを破壊した経営者たちへ』ファーストプレス(201頁,B6判)
  8. 林曻一他編著『現代経営戦略の展開』中央大学出版部(ⅷ+294頁,A5判)
  9. 山田基成著『モノづくり企業の技術経営』中央経済社(3+7+291頁,A5判)
  10. 日本在外企業協会編『海外派遣者ハンドブック ベトナム編』日本在外企協会(157頁,B5判)
  11. 村井啓一著『創発(はぐれ)人材をさがせ』日本経済新聞出版社(233頁,B6判)
  12. 楠田祐他著『破壊と創造の人事』ディスカヴァー・トゥエンティワン(318頁,B6判)
  13. 楠木新著『人事部は見ている。』日本経済新聞出版社(207頁,新書判)
  14. 谷田部光一著『キャリア・マネジメント』晃洋書房(ⅶ+214頁,A5判)
  15. 野口大著『労務管理における労働法上のグレーゾーンとその対応』日本法令(207頁,B6判)
  16. 伊藤勝彦他著『サービス残業という地雷』幻冬舎メディアコンサルティング(163頁,新書判)
  17. 赤津雅彦著『伸びる組織のための人事・賃金基礎講座』労働法令(163頁,B5判)
  18. 池田晃一著『はたらく場所が人をつなぐ』日経BP社(239頁,B6判)
  19. 総合研究開発機構編『財政再建の道筋』総合研究開発機構(134頁,A4判)
  20. 労働問題研究会編『労働相談事例集 改訂新版』労働教育センター(621頁,B5判)
  21. 渡辺章他編『労働基準法:昭和22年』信山社出版(4上=ⅷ+573頁,4下=ⅶ+388頁,A5判)
  22. 野川忍著『Q&A震災と雇用問題』商事法務(ⅷ+222頁,B6判)
  23. 北海道雇用開発協会編『農業分野における就職支援調査報告書』北海道雇用開発協会(93頁,A4判)
  24. 岩田正美研究代表『女性の多様なキャリア開発のための基礎的研究』日本女子大学現代女性キャリア研究所(144頁,A4判)
  25. 竹中恵美子著『現代フェミニズムと労働論』明石書店(352頁,A5判)
  26. ILO編『世界給与・賃金レポート』一灯舎(ⅷ+119頁,B5判)
  27. 連合東京編『連合東京20周年記念誌』連合東京(35頁,A4判)
  28. 中村和雄他著『「非正規」をなくす方法』新日本出版社(221頁,B6判)
  29. 埋橋孝文著『福祉政策の国際動向と日本の選択』法律文化社(ⅶ+218頁,A5判)
  30. 春日キスヨ著『変わる家族と介護』講談社(200頁,新書判)
  31. 信濃毎日新聞取材班著『認知症と長寿社会』講談社(263頁,新書判)
  32. 伊藤一雄他編著『キャリア開発と職業指導』法律文化社(ⅵ+169頁,A5判)
  33. 統計研究会編『科学技術開発の雇用創出効果の評価枠組の開発』統計研究会(ⅱ+77頁,A4判)
  34. 河合忠彦著『ホンダの戦略経営』中央経済社(4+5+287頁,A5判)
  35. 堀江邦夫著『原発労働記』講談社(364頁,文庫判)
  36. 當間克雄著『新素材開発プロセスのマネジメント』中央経済社(4+5+200頁,A5判)
  37. 伊藤実著『成功する地域資源活用ビジネス』学芸出版社(199頁,B6判)
  38. 松井一洋他著『こちらFMハムスター』ジャパンインターナショナル総合研究所(183頁,A5判)
  39. 日本芸能実演家団体協議会編『実演芸術家等の社会保障・地位に関する報告書』(193頁,A4判)
  40. 高橋潔編著『Jリーグの行動科学』白桃書房(ⅵ+296頁,A5判)