2008年5月の図書紹介(2008年4月受け入れ図書)

1.西川潤他編『連帯経済』有斐閣(290頁,B6判)

 政府や市場の失敗に対して、公共セクターが注目を集めて久しい。本書は、経済独裁主義から決別し、人間性の復興をめざす「連帯経済」について、生活経済政策研究所に設置された研究会の、2年間の研究活動の成果である。社会的企業や協同組合の取り組み等、現実が先行している中で理論化・体系化を試みている。

2.小谷良子著『<専業的主婦>の主体形成』ナカニシヤ出版(ⅹⅲ+358頁,A5判)

 有配偶女性の7割が家事・育児の大部分を担う専業<的>主婦であるが、著者は、彼女たちの自立と共同生活における主体性がいかに形成されるかを、アンケート調査と面接調査によって計量的に分析するとともに、家庭生活と地域生活両面から主婦の生活実態を追究、理論的・実証的に主婦の主体形成の途を探っている。

3.牧陽子著『産める国フランスの子育て事情』明石書店(241頁,B6判)

 出生率の低下が問題になっているが、子どもがほしいと思った時、日本は産みやすい国であろうか。夫に同行し、世界有数の高い出生率を誇るフランスで出産・子育てを経験した著者は、フランスの高出生率の理由を、政府の家族支援政策だけでなく、男性の育児参加、女性の自己実現を当然と考える社会等に求めている。

4.樋口美雄他編著『人口減少社会の家族と地域』日本評論社(ⅹⅲ+407頁、A5判)

 本書は、財務省財務総合政策研究所に設置された「人口減少、家族・地域社会の変化をめぐる諸問題に関する研究会」の成果である。非正規の貧困化、正規労働者の長時間労働という労働市場の二極化や人口減少に対し、欧州の事例を参考に、地域の実情に合わせたワークライフバランスの実現が求められる、としている。

5.笹沼弘志著『ホームレスと自立/排除』大月書店(312頁,B6判)

 実態調査によれば、数年前に比べホームレスの数は減少しているが、個々の状況が改善されているかは疑問なしとしない。著者は、究極の社会的排除であるホームレスの改善方法を、憲法に基づき「自立のための保護」に求めている。ホームレス自立支援法施行後ほぼ6年が経過したが、真の自立はなお課題となっている。

6.土田武史他編著『社会保障改革』ミネルヴァ書房(ⅷ+265頁,A5判)

 少子高齢化の進展により、社会保障改革は、現代日本の喫緊の課題である。ドイツとの共通点が多い日本の制度の改革には、ドイツモデルの動向が参考になる。本書は、2005~2007年の3年間にわたる日独研究者による研究活動の日本側の研究成果であるが、ドイツモデルにおける連帯と競争の新たな形も提示している。

7.吉原直毅著『労働搾取の厚生理論序説』岩波書店(ⅹⅱ+298頁,A5判)

 本書は、マルクスの労働搾取概念を媒介に、市場経済の原理的特性を現代経済学理論により分析している書である。貧困、格差が問題になっているとき、これまで用いられなかった視点・方法でこれらの問題に接近したときに見えてくる相貌とはいかなるものなのであろうか。中間報告の段階であるが、大いに期待したい。

8.久谷與四郎著『事故と災害の歴史館』中央労働災害防止協会(320頁,新書判)

 過労死がマスコミでとりあげられる頻度が高まっているが、労働災害による死亡者数は着実に減少している。しかし被害者の家族は、回復できない心の傷をかかえて以後の人生をおくることになる。本書には、著者が直接取材した24の歴史的な事故・災害が収録され、安全を守るための関係者の懸命の努力が紹介されている。

9.大山典宏著『生活保護vsワーキングプア』PHP研究所(251頁,新書判)

 生活保護年収以下のワーキングプアの存在が世間に衝撃を与える一方、生活保護申請に対する行政の水際作戦も問題化している。若者に広がる貧困にいかに対応すべきなのか。生活保護行政に携わるとともにボランティアとして多くの生活保護世帯の相談に応じてきた著者は、生活保護制度を利用した自立を提示している。

10.金春著『中国の倒産制度における労働者の地位・処遇』商事法務(ⅷ+213頁,A5判)

 サブプライム問題等により暗雲がたちこめているとはいえ、日本経済は景気拡大を続けているが、倒産件数に減少は見られない。本書は、日本で研究する中国人研究者が、日中の倒産制度における労働債権の取扱い、再建型倒産手続等における労働者の地位・処遇を分析しているが、労働者にとって厳しい結論となっている。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2008年3月に労働図書館受け入れ

  1. 鈴木正仁著『ゲーム理論で読み解く現代日本』ミネルヴァ書房(ⅳ+234頁,B6判)
  2. F.A.Hayek著『社会正義の幻想』春秋社(ⅰ+279頁,A5判)
  3. 大塚啓二郎他編著『貧困と経済発展』東洋経済新報社(ⅹ+301頁,A5判)
  4. 稲葉寿編著『現代人口学の射程』ミネルヴァ書房(ⅹ+257頁,A5判)
  5. 土井教之編著『産業組織論入門』ミネルヴァ書房(ⅵ+260頁,A5判)
  6. 奥村宏著『会社はどこへ行く』NTT出版(ⅲ+257頁,B6判)
  7. 駒崎弘樹著『「社会を変える」を仕事にする』英治出版(254頁,B6判)
  8. 金井壽宏他著『組織行動の考え方』東洋経済新報社(ⅹ+283頁,A5判)
  9. 福谷正信編『アジア企業の人材開発』学文社(ⅹⅰ+244頁,A5判)
  10. 岡田行正著『アメリカ人事管理・人的資源管理史』同文舘出版(305頁,A5判)
  11. 安元稔編著『近代統計制度の国際比較』日本経済評論社(ⅹⅶ+280頁,A5判)
  12. 平井晶子著『日本の家族とライフコース』ミネルヴァ書房(ⅹⅱ+231+3頁,A5判)
  13. 金子勇著『格差不安時代のコミュニティ社会学』ミネルヴァ書房(ⅹⅰ+210+14頁,A5判)
  14. 盛山和夫編著『変動する階層構造』日本図書センター(ⅶ+471頁,A5判)
  15. イアン・ホリディ他編『東アジアの福祉資本主義』法律文化社(ⅲ+278頁,A5判)
  16. 神村昌志著『仕事原論』幻冬舎メディアコンサルティング(194頁,B6判)
  17. 角田邦重他著『現代雇用法』信山社(ⅹⅲ+320頁,A5判)
  18. 大橋範雄著『派遣労働と人間の尊厳』法律文化社(ⅷ+208頁,A5判)
  19. 蓼沼謙一著『労働団体法論』信山社出版(ⅹⅳ+528+ⅳ頁,A5判)
  20. 毎日新聞社編『雇用SOS』毎日新聞社(278頁,B6判)
  21. グロービス経営大学院著『MBA』ダイヤモンド社(ⅲ+243頁,A5判)
  22. 山口憲二編著『キャリアデザインの多元的探究』現代図書(261頁,A5判)
  23. 下田健人著『働く元気とエグゼンプト』麗沢大学出版会(212頁,B6判)
  24. 鈴木康央著『会社を襲う! バリキャリ・シンドローム』駒草出版(230頁,B6判)
  25. 野川忍著『わかりやすい労働契約法』商事法務(8+214頁,B6判)
  26. 労働新聞社編『労働裁判における和解の実際』労働新聞社(242頁,A5判)
  27. 野添憲治著『蜂起前後』社会評論社(350頁,A5判)
  28. ホルヘ・アンソレーナ著『世界の貧困問題と居住運動』明石書店(230頁,A5判)
  29. 広井良典編『「環境と福祉」の統合』有斐閣(ⅹ+341頁,A5判)
  30. 小田兼三他編著『人口減少時代の社会福祉学』ミネルヴァ書房(ⅹⅱ+283頁,A5判)
  31. アジア経済研究所編『障害と開発』日本貿易振興機構アジア経済研究所(ⅹⅰ+332頁,A5判)
  32. 宮崎冴子著『キャリア形成・能力開発』文化書房博文社(208頁,A5判)
  33. 坂本恒夫編『キャリア形成ガイドブック』中央経済社(6+8+244頁,A5判)
  34. ジュヌヴィエーヴ・プジョル他著『アニマトゥール』明石書店(376頁,A5判)
  35. 本田由紀著『「家庭教育」の隘路』勁草書房(ⅹⅰ+241+ⅲ頁,B6判)
  36. 天笠崇著『現代の労働とメンタルヘルス対策』かもがわ出版(142頁,A5判)
  37. 小池直人他著『福祉国家デンマークのまちづくり』かもがわ出版(208頁,A5判)
  38. 乾由紀子著『イギリス炭鉱写真絵はがき』京都大学学術出版会(ⅴ+300+8頁,A5判)
  39. 大江正章著『地域の力』岩波書店(ⅷ+199+3頁,新書判)
  40. 谷口正和著『24時革命』日本コンサルタント・グループ(371頁B65判)