2008年1月の図書紹介(2007年11月受け入れ図書)

1.小倉一哉著『エンドレス・ワーカーズ』日本経済新聞出版社(ⅹⅱ+261頁,B6判)

 働きすぎは、日本人の社会的性格なのであろうか。本書は、当機構が行ったアンケート調査や官庁統計を基に、過労死・過労自殺等の日本の厳しい労働時間の状況を提示している。一方、日本人は労働自体に意義を見出していることにも言及、様々な人々の労働時間に対するニーズを受け入れる社会の寛容性を説いている。

2.下崎千代子他編著『少子化時代の多様で柔軟な働き方の創出』学文社(ⅹⅰ+218頁,A5判)

 テレワークにも栄枯盛衰があり、再びブームを迎えている現在、多様な働き方、豊かな生活のために大いなる期待がかけられている。本書は、ワークライフバランスの実現に向けた関西テレワーク研究会の10年以上に渡る地道な研究活動の成果である。テレワークは、少子高齢社会への対応にも有効な手段となるであろう。

3.石田成則著『老後所得保障の経済分析』東洋経済新報社(ⅹ+272頁,A5判)

 労働市場からの完全引退後の所得をいかに確保するかは、団塊世代の先頭集団が60歳に達した現在、現代日本の大きな課題となっている。公的年金がその基本となるが、制度の将来性を勘案すると、私的年金等の自助努力で対応せざるを得ない部分も大きい。本書は、公私の年金システムを経済理論に基づき考察している。

4.大橋範雄著『派遣労働と人間の尊厳』法律文化社(ⅷ+208頁,A5判)

 派遣労働者数は増加の一途を辿り、2007年には255万人に達し、全労働者の中の一大勢力と化したが、著者は、派遣労働者の使用者責任、派遣労働者と派遣先の正規従業員との均等待遇問題、労働組合の役割等について、ドイツの派遣法にも言及しつつ分析している。派遣労働者の権利を中心においた研究書となっている。

5.上田眞士著『現代イギリス労使関係の変容と展開』ミネルヴァ書房(ⅹⅰ+286頁,A5判)

 組織率低下と労使関係の個別化は、組合活動のあり方を問い直している。重厚長大産業を中心に運営されてきた労働組合は、連帯を基礎とした伝統的な集合主義から、人的資源管理の個別化の下、いかなる方向に進もうとしているのか。労組の役割と可能性を信ずる著者は、英国の現状を詳述しその方向性を模索している。

6.島田晴雄他著『雇用改革』東洋経済新報社(194頁,B6判)

 労働力人口の減少に直面する日本は、経済力を維持するため労働生産性の向上を必要としている。著者は「雇用の質」を改善することにより、同じ労働力でも高い生産性が達成可能と説く。建設、流通、農業等の分野で様々なアイデアが披露されているが、この俯瞰的提言を実現していくための作業が必要とされるであろう。

  1. 湯浅誠著『貧困襲来』山吹書店(201頁,B6判)
  2. 橘木俊詔編『経済からみたリスク』岩波書店(ⅹ+178頁,A5判)
  3. 若林幸男著『三井物産人事政策史』ミネルヴァ書房(ⅵ+248+7頁,A5判)
  4. 安立眞理子他編著『フェミニスト・ポリティクスの新展開』明石書店(460頁,B6判)
  5. 上西充子編著『大学のキャリア支援』経営書院(234頁,A5判)
  6. 浜林正夫著『物語 労働者階級の誕生』学習の友社(191頁,B6判)
  7. 佐久間信夫編著『コーポレート・ガバナンスの国際比較』税務経理協会(4+4+240頁,A5判)
  8. 木下武男著『格差社会にいどむユニオン』花伝社(359頁,B6判)
  9. 朝日新聞「分裂にっぽん」取材班著『分裂にっぽん』朝日新聞社(279頁,B6判)
  10. 日本労働弁護団50年史刊行委員会編『日本労働弁護団の50年』日本労働弁護団(全4巻,B5判)

今月の耳より情報

 例年どおり、当館が所蔵する和洋雑誌の製本作業が始まった。すべての雑誌ではなく、研究論文が掲載される可能性が高い雑誌が中心であるが、洋雑誌は、収集している雑誌のほとんどを製本している。前年度もご紹介したが、製本対象雑誌をもれなくとりそろえるのも大変な作業である。発行されていても納品されなかった雑誌があったり、遺憾ながら不明になる雑誌もある。発行機関に再寄贈をお願いしたり、研究員等に返却督促をすることになる。現在その作業はほぼ終了し、大方の雑誌は現在、製本業者さんのところにある。新年には配架され、利用可能な状況になるが、緊急に目を通したい雑誌があったら、お気兼ねなくご連絡いただきたい。製本業者さんからFAXで取り寄せ、複写サービスとして対処させていただいている。製本しない雑誌は、これも例年どおり、不用処理手続に入る。これは、配架のスペースがないという理由ですぐに廃棄処分にするのではなく、できるだけ資料を再利用しようとする試みである。まずは、当機構内で管理換えを行い、次にHP等に買取・交換の公告をだし、さらに関係機関にも案内し希望を聴取、引き取り手のない資料だけ、廃棄処分するというものである。このような手続をとっている図書館は意外と少なく、学術情報の利用促進をはかるメールマガジンであるACADEMIC RESOURCE GUIDEで「注目したい取り組み」として評価していただいた。買取・交換の公告は来年1月中に当機構のHP等に掲載予定である。不用リストをご覧いただき、買取等の申込をしていただければ幸いである。

図書館長のつぶやき

 11月29,30日に開催された専門図書館協議会の秋季セミナー「アピールするライブラリー:広報戦略を考える」に参加した。何回か本欄でつぶやいたが、当館は、日本有数の労働関係資料を所蔵している専門図書館であるが、立地条件の制約もあり、所蔵資料のわりに外部来館者の人数が少ないのではないかと悩んでいた。当館へのアクセスが多少不便であっても来館していただけるためには、いかなる広報をしたらいいのか迷っていたからである。本セミナーでは、国立国会図書館のカレント・アウェアネス・ポータル事業、トヨタ自動車博物館の図書室活動、図書館流通センターのブログ事業の紹介など、それぞれに目新しく、参考になる情報も多々あったが、最も参考になったのが、巻頭講演のお茶の水女子大学附属図書館の茂出木理子講師の「人を惹きつける。広報戦略」だった。広告が「Buy me !」であるのに対し、広報は「Love me !」であるというのも納得できたし、広報には物語が必要であり、来館者個々人のための物語を提示し、他人を巻き込み、口コミしたくなるようにさせる、というのもなるほどと思った。広報が意識すべきは「外向きのマネジメント」の最前線であること、というのもそういうことかと感心させられた。セミナー参加者間でのグループ討議でも、来館者アンケートの回収の際に、回答してくださった方に直接ご意見をうかがっている、というような経験も報告された。完璧を期さずとも、ともかく一歩踏み出すべきという発言は最も胸に染み込んだ。これらの報告や経験を参考に、当館の広報戦略をいかに組み立てるか、目下模索中である。