新設の育成就労制度における就労開始前の評価方法や、本人の意向による転籍要件を明示
 ――政府が「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議最終報告書を踏まえた政府の対応について」を閣議決定

スペシャルトピック

外国人材の受け入れ・共生に関する関係閣僚会議は2月9日、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議最終報告書を踏まえた政府の対応について」を閣議決定した。同方針は、2023年11月に政府の「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」が公表した最終報告書を踏まえ、技能実習制度と特定技能制度の今後のあり方や仕組みの見直しについて定めたもの。新たに創設する育成就労制度では受け入れ対象分野を特定技能制度における「特定産業分野」に限定することを示したほか、同制度の就労開始前・同制度から特定技能1号への移行時の評価方法、本人の意向による転籍に関する要件も明確にした。政府は3月15日、育成就労制度の創設を盛り込んだ出入国管理・難民認定法などの改正案を閣議決定し、国会に提出した。※有識者会議最終報告書については本誌2024年1・2月号にて詳報。

総論として育成就労制度の創設や特定技能制度の存続を提示

方針は今後の両制度のあり方について、日本人と外国人が互いに尊重し安全・安心に暮らせる共生社会の実現を目指して、「外国人がキャリアアップしつつ国内で就労し活躍できる分かりやすいものとする」と打ち出すとともに、「日本が魅力ある働き先として選ばれる国になる」観点に立ち、地方・中小零細企業における人材確保にも留意して検討を進めるとした。

そのうえで、両制度における総論として、①現行の技能実習制度を実態に即して発展的に解消し、人手不足分野における人材確保・育成を目的とする育成就労制度を創設すること②現行の企業単独型技能実習のうち、育成就労制度とは趣旨・目的が異なるが引き続き実施する意義のあるものは、別の枠組みでの受け入れを検討すること③特定技能制度は適正化を図ったうえで存続させること――の3点を提示した。

育成就労制度の受け入れ見込み数は特定技能1号と同様に設定

主に育成就労制度について、外国人の人材確保や育成、人権保護・労働者としての権利性の向上などのあり方をまとめた。

人材確保についてはまず、育成就労制度の受け入れ対象分野について、現行の技能実習制度の職種などを機械的に引き継ぐのではなく、特定技能1号への移行に向けた人材育成を目指す観点から、「特定技能制度における『特定産業分野』に限るものとする」と言及。技能実習2号移行対象職種のうち、対応する特定産業分野が設定されているものは、その分野が特定技能制度において外国人材による人材確保が必要と認められていることを前提に、「育成就労制度においても、原則として受け入れ対象分野として認める方向で検討する」とした。

一方、対応する特定産業分野が設定されていないものは、「現行の技能実習制度が当該職種に係る分野において果たしてきた人材確保の機能の実態を確認したうえで、特定産業分野への追加について検討を進める」とした。

育成就労制度の受け入れ見込み数については、特定技能1号と同様に、受け入れ対象分野ごとに受け入れ見込み数を設定し、受け入れ上限数として運用するとしている。

なお、育成就労制度および特定技能制度における受け入れ対象分野や受け入れ見込み数は、適時・適切に変更できるものとすることにも言及。これらの設定や特定技能評価試験のレベルの評価などは、有識者・労使団体などで構成する新たな会議体の意見を踏まえて政府が判断するものとした。

そのほか、地域の特性などを踏まえた人材確保として、自治体が地域協議会に積極的に参画して受け入れ環境整備に取り組むことや、季節性のある分野について業務の実情に応じた受け入れ・勤務形態を認めることへの検討などを示している。

業務範囲も特定技能制度の業務区分と同一に

人材育成については、まず育成就労制度を、3年間の就労を通じた期間で外国人ごとに育成就労計画を定めて特定技能1号の技能水準への育成を目指すものとしたうえで、「適正化方策を講じた特定技能制度と連続性を持たせる」と指摘。外国人が従事できる業務の範囲を現行の技能実習制度よりも幅広くし、特定技能制度の業務区分と同一としつつ、業務区分のなかで修得すべき主たる技能を定めて計画的に育成・評価を行うとした。

育成就労制度の評価方法については、外国人が就労開始前までに、日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5等)に合格すること、または相当する日本語講習を認定日本語教育機関などで受講することを要件とした。また、外国人の技能修得状況などを評価するために、受け入れ機関は育成就労制度による受け入れ後1年経過時までに、同試験および技能検定試験基礎級等(すでに試験に合格している場合を除く)を外国人に受験させることも明記している。

あわせて、育成就労制度から特定技能1号への移行時には、技能検定試験3級等または特定技能1号評価試験の合格と、日本語能力A2相当以上の試験(日本語能力試験N4等)の合格を要件、特定技能1号から特定技能2号への移行時には、従前の特定技能2号評価試験等の合格に加え、日本語能力B1相当以上の試験(日本語能力試験N3等)の合格を要件とすることも示した。

なお、就労開始前、特定技能1号への移行時、特定技能2号への移行時の日本語能力に関してはともに、現行の取り扱いを踏まえて、より高い水準を設定することができる。また、育成就労制度で育成を受けたものの、特定技能1号への移行に必要な試験などに不合格となった場合は、同一の受け入れ機関での就労を継続する場合に限り、再受験に必要な範囲で最長1年の在留継続を認める。

そのほか、日本語能力の向上方策として、受け入れ機関が日本語教育支援に積極的に取り組むためのインセンティブとなる認定要件の設定や、A1相当からA2相当までの範囲内で設定される水準の試験を含む新たな試験の導入、母国における受験準備のための日本語学習支援の実施などを進めることを示した。

やむを得ない事情での転籍は現行の対象範囲を拡大して手続きも柔軟化

人権保護・労働者としての権利性の向上については、育成就労制度における「やむを得ない事情がある場合の転籍」と、「本人の意向による転籍」の2点に言及。

やむを得ない事情がある場合の転籍では、労働条件について契約時の内容と実態との間で一定の相違がある場合に労働法理・慣行に照らして改善状況などを考慮しつつ対象とすることを明示するなど、「範囲を拡大・明確化するとともに手続きを柔軟化するものとし、現行制度下においても、可能な限り速やかに運用の改善を図る」と指摘した。

本人の意向による転籍では、本来は3年間を通じて1つの受け入れ機関で就労することが効果的であり望ましいものの、「ア 同一の受け入れ機関において就労した期間が一定の期間を超えていること」「イ 技能検定試験基礎級等及び一定の水準以上の日本語能力に係る試験に合格していること」「ウ 転籍先となる受け入れ機関が、転籍先として適切であると認められる一定の要件を満たすこと」の3点を満たす場合には、同一業務区分内に限り転籍を認めることとしている。

なお、アにおける「一定の期間」は当分の間、「各受け入れ対象分野の業務内容などを踏まえて、受け入れ対象分野ごとに1年から2年までの範囲内で設定する」と提示。人材育成の観点で1年とすることを目指しつつも、1年を超える期間を設定する場合には、受け入れ機関において就労開始から1年経過後に転籍の制限を理由とした昇給・待遇の向上などの仕組みを検討することとしている。また、育成途中の外国人による特定技能1号への在留資格変更は、育成就労を経ないで特定技能1号の在留資格を得るために必要となる試験への合格およびアの要件を満たす場合に限って認めることとした。

イにおける「一定の水準以上の日本語能力に係る試験」は、各受け入れ対象分野の業務内容などを踏まえて「各受け入れ対象分野において、日本語能力A1相当の水準から特定技能1号への移行時に必要となる日本語能力の水準までの範囲内で設定するもの」としている。

そのほか、転籍前の受け入れ機関が支出した初期費用などで転籍後の受け入れ機関にも分担させるべき費用について、転籍前の受け入れ機関が正当な補塡を受けられるようにするための仕組みや、転籍ブローカーなどの排除を担保するために転籍の仲介状況などの情報を把握できる仕組みを設けることなども示された。

登録支援機関の適正化や悪質な送出機関の排除に向けた取り組みを

方針ではほかにも、監理支援機関・登録支援機関や受け入れ機関、送出機関などのあり方などをまとめている。

監理団体(監理支援機関)については、受け入れ機関と密接な関係を有する役職員の監理への関与の制限や、外部監査人の設置の義務化などで独立性・中立性を担保することを提示。また、特定技能外国人に対する支援が適切になされるように、受け入れ機関が支援業務を委託する場合の委託先を登録支援機関に限ることとしたうえで、登録支援機関・受け入れ機関の要件の厳格化・適正化を行うこととしている。

受け入れ機関については、育成・支援体制等の要件の適正化や、就労期間に応じた昇給・待遇の向上、相談対応体制の確保といった外国人の適正な受け入れに必要な方策を講ずることを示した。

送出機関については、二国間取決め(MOC)を新たに作成し、悪質な送出機関の排除に向けた取り組みを強化するとともに、原則として取り決めを作成した国の送出機関からのみ受け入れを行うものとすることに言及。また、送出機関に関する情報の透明性を高めることや、外国人が送出機関に支払う手数料などを受け入れ機関と外国人が適切に分担するための仕組みを導入し、外国人の負担の軽減を図ることとした。

そのほか、外国人技能実習機構を外国人育成就労機構に改組し、育成就労制度の対象となる外国人に対する支援・保護業務のほか、特定技能外国人への相談援助業務も行わせるとともに、監督指導機能や支援・保護機能を強化することを掲げている。

なお、方針では最後に、人権侵害行為に対して現行制度下でも可能な対処を迅速に行うことや移行期間の確保・事前広報などを行うことを明記。「育成就労制度を通じて、永住につながる特定技能制度による外国人の受け入れ数が増加することを予想される」として、永住許可制度の適正化を行うことも示した。

(調査部)

2024年4月号 スペシャルトピックの記事一覧