2024年度に「賃上げを実施予定」の企業割合が6割を超え、昨年度から3.1ポイント増加
 ――日本商工会議所・東京商工会議所の「中小企業の人手不足、賃金・最低賃金に関する調査」

国内トピックス

日本商工会議所と東京商工会議所が2月に発表した「中小企業の人手不足、賃金・最低賃金に関する調査」結果によると、2024年度に「賃上げを実施予定」とする企業の割合が61.3%と6割を超え、昨年、2023年度について尋ねた調査結果(58.2%)を3.1ポイント上回った。「賃上げを実施予定」の企業を100として、業績の改善がみられないが賃上げを実施予定とする「防衛的な賃上げ」企業の割合をみると60.3%で、昨年度(62.2%)に引き続き約6割を占めている。

調査は全国の中小企業2,988社が回答。2024年1月4日~26日に実施した(回答率49.7%)。

「賃上げ実施予定」企業割合は2022年度比では約15ポイント増

2024年度の賃上げの予定を尋ねると、「業績が好調・改善しているため賃上げを実施予定」が24.4%、「業績の改善がみられないが賃上げを実施予定」が36.9%、「現時点では未定」が34.7%、「賃上げを見送る予定(引き下げる予定の場合を含む)」が3.7%などとなっており、「業績が好調・改善しているため賃上げを実施予定」と「業績の改善がみられないが賃上げを実施予定」を合わせた「賃上げを実施予定」の企業は61.3%となっている。

「賃上げを実施予定」の企業割合は、2022年度:45.8%→2023年度:58.2%→2024年度:61.3%と増加傾向にある。

ただ「5人以下」の企業では約3割まで低下

従業員規模別にみると、「賃上げを実施予定」とする企業割合は、「5人以下」が32.7%、「6~10人」が50.3%、「11~100人」が62.6%、「101~300人」が65.5%、「301人以上」が65.9%となっており、「5人以下」になると3割程度、「6~10人」では5割程度までその割合は落ちる。「5人以下」では、「賃上げを見送る予定(引下げ予定を含む)」と答えた企業も16.8%あった。

業種別にみると、「賃上げを実施予定」とする割合が最も高いのは「介護・看護業」で66.7%。以下、「製造業」64.2%、「建設業」63.4%、「その他サービス業」63.0%、「卸売業」62.4%、「情報通信・情報サービス業」60.5%などと続く。「小売業」(48.7%)や「宿泊・飲食業」(54.1%)といった対消費者・BtoCの業種で比較的低くなっている。

「賃上げを実施予定」の企業を100として、「防衛的な賃上げ」の割合をみると、「宿泊・飲食業」(41.9%)を除く全ての業種で50%以上となっており、「介護・看護業」では88.5%と9割近くに達した。

「3%以上」の賃上げ率を見通す企業が約37%

2024年度の賃上げ率の見通しを尋ねると、「5%以上」とする企業が10.0%、「4%以上5%未満」が9.3%、「3%以上4%未満」が17.3%、「2%以上3%未満」が24.7%などとなっており、「3%以上」とする企業が合計で36.6%と4割近くに達し、2023年度について尋ねた昨年よりも3.1ポイント多かった。

賃上げの内容を聞くと(複数回答)、「定期昇給」は2023年度について尋ねた昨年から5.7ポイント低下して70.4%となる一方、「ベースアップ」は同8.3ポイント増で49.1%となった。「賞与・一時金の増額」は同5.5ポイント増の35.7%だった。

賃上げ率の見通しを業種別にみると、「3%以上」とした企業の割合は「宿泊・飲食業」(46.3%)が最も高く、次いで「その他サービス業」(39.9%)、「卸売業」(37.7%)、「金融・保険・不動産業」(37.3%)などの順で高かった。一方、「防衛的な賃上げ」の割合が高い「介護・看護業」では「3%以上」する企業の割合は11.5%と約1割にとどまっている。

「防衛的な賃上げ」の理由のトップは「人材の確保・採用」

2024年度に「防衛的な賃上げ」を予定する企業にその理由を尋ねると(複数回答)、「人材の確保・採用」が76.7%に達し、「物価上昇への対応」も61.0%にのぼった。

「賃上げを見送る予定・引下げる予定」とした企業に対してその理由を尋ねた結果では(複数回答)、「売上の低迷」(55.9%)がトップにあがり、「原材料費等のコスト負担増」(43.2%)がこれに続いた。「人件費の価格転嫁が難しいため」は33.3%だった。

4割近い企業が最低賃金を下回って賃金を引き上げ

2023年10月の最低賃金引き上げ(全国加重平均43円、961円から1,004円へ上昇)の賃金への影響を聞くと、「最低賃金を下回ったため、賃金を引上げた」とする企業は38.4%と約4割で、「最低賃金を上回っていたが、賃金を引上げた」とする企業も29.8%と3割近くにのぼった。「最低賃金を上回っていたが、賃金を引上げた」とする企業の割合は昨年度から5.2ポイント増加し、2017年の調査開始以降で最も高い。

業種別にみると、「最低賃金を下回ったため、賃金を引上げた」企業の割合は「介護・看護業」が61.5%で最も高く、「宿泊・飲食業」(58.7%)と「小売業」(54.1%)が5割以上に及んでいる。

「宿泊・飲食業」では9割近くが最賃に負担感

現在の最低賃金の負担感をみると、「大いに負担になっている」が20.5%、「多少は負担になっている」が45.2%で、「負担になっている」とする企業が合計で65.7%となり、昨年度から10.6ポイント増加した。「負担になっている」とする企業の割合を業種別にみると、「宿泊・飲食業」では9割近く(88.3%)にのぼり、「介護・看護業」(79.4%)や「小売業」(78.2%)も8割近くに達している。

最低賃金引き上げに伴う人件費増加にどう対応したかをみていくと(複数回答)、「原材料費等増加分の製品・サービス価格への転嫁」(26.4%)や「人件費増加分の製品・サービス価格への転嫁」(25.1%)で対応した企業がほぼ4社に1社あったが、その一方で、「具体的な対応が取れず、収益を圧迫している」とする企業も26.2%あった。

ほぼ3社に2社が「人手不足」で、前年からさらに微増

人手が「不足している」と回答した企業は65.6%で、前年の64.3%から1.3ポイント増加した。同割合を業種別にみると、「2024年問題」への対応が求められる「建設業」(78.9%)や「運輸業」(77.3%)、「介護・看護業」(76.9%)、「宿泊・飲食業」(74.4%)、「情報通信・情報サービス業」(71.6%)で7割以上に及んでいる。

人手不足への対応方法(複数回答)は、「採用活動の強化(非正規社員含む)」(81.1%)が最も割合が高く、8割を超える企業があげた。このほかでは、「事業のスリム化、ムダの排除、外注の活用」が39.1%、「女性・高齢者・外国人材など多様な人材の活躍推進」が37.3%、「従業員の能力開発」が34.6%などだった。

(調査部)

2024年4月号 国内トピックスの記事一覧