6割強の事業所が外国人従業員に対する何らかの就労・教育支援を実施
 ――UAゼンセン「外国人労働者の雇用・生活状況に関する調査報告書」

労働組合の取り組み

外国人労働者が比較的多く働く飲食サービス業なども組織化しており、すでに1万人を超える外国人組合員を抱える産業別労働組合のUAゼンセン(松浦昭彦会長)は、2023年3月に「外国人労働者の雇用・生活状況に関する調査報告書」をまとめた。UAゼンセン傘下の外食産業を中心とする事業所では、同じシフトに指導係を配置するなど、6割強が何らかの就労・教育支援を行っていた。それらの事業所に勤務する外国人従業員の半数弱は、仕事上の悩みはないと答えたが、あがった項目としては「日本語の難しさ」などの割合が高かった。

報告書は、2021年4~9月に行った単組調査、2022年4~5月に行った事業所調査と従業員調査、2022年9~10月に行ったインタビュー調査の結果を収録している。2021年4~9月に行った単組調査については、本誌2022年4月号で結果の概要を紹介している。本稿では、2022年4~5月に行った事業所調査と従業員調査の結果を紹介する。

<調査方法>

事業所調査は、2022年4月に調査票を配付し、同年4~5月に回収。回答はWebアンケートを使い、一部は紙の調査票での回答となっている。UAゼンセンの総合サービス部門フードサービス部会の運営組合を中心とする31組織における事業所を対象としており、各単組を通じて事業所ごとに調査票を配付した。有効回答数は1,076件。一方、従業員調査は、事業所調査の事業所に配付した調査票を、従業員・組合員に回答してもらっている。有効回答数は1,317件となっている。

<事業所調査>

〔調査した事業所の特徴〕

回答事業所の業態は「ファミレス」「居酒屋」など

まず、回答した事業所のプロフィールから眺めると、業態は、「ファミレス」が46.6%、「居酒屋」が24.4%、「うどん・そば・ラーメン」が10.9%、「その他」が5.9%、「すし」が4.5%、「焼肉」が3.0%などとなっている。

外国人従業員がいる事業所は43.8%。「工場(食品加工など)」(93.3%)、「うどん・そば・ラーメン」(62.4%)や「焼肉」(65.6%)などでは6割以上に及んだ一方、「ファミレス」(41.3%)は4割台で、「居酒屋」(29.3%)はほぼ3割となっている。外国人従業員がいると回答した471事業所のうち、外国人の組合員がいる事業所の割合は65.4%。65.4%の内訳をみると、「全員が組合員である」が53.1%で、「一部が組合員である」が12.3%となっている。

外国人従業員数の平均人数は3.9人

外国人従業員が1人以上いる事業所について、従業員数の平均をみると34.6人で、外国人従業員数の平均は3.9人。外国人従業員の平均人数を雇用形態別にみると、「正社員」が0.1人、「パート・アルバイト」が3.8人となっている。全従業員に占める外国人比率をみると、「正社員」が4.7%で、「パート・アルバイト」は17.9%。従業員総数の外国人比率は16.5%となっている。

外国人従業員の国籍(3つ以内で選択)をあげてもらったところ、「中国」が47.3%で最も回答割合が高く、次いで「ベトナム」(46.9%)、「ネパール」(13.2%)、「それ以外のアジア」(10.2%)、「フィリピン」(8.9%)などの順で高い。在留資格(複数回答)は、「留学」が52.9%で最も高く、次いで「身分に基づく在留資格(永住者等)」(44.8%)、「特定活動」(20.4%)などの順で高くなっている。

〔外国人従業員に関する職場の取り組み〕

6割以上の事業所が働きぶりがよいと回答

事業所は外国人従業員のために職場でどのような取り組みを行っているのか。まず、事業所が外国人従業員の働きぶりをどう捉えているのかについて、「外国人従業員ははたらきぶりがよい」にあてはまるかどうか尋ねた結果をみていくと、「あてはまる」が27.6%、「ややあてはまる」が34.8%、「どちらともいえない」が31.8%、「ややあてはまらない」が3.0%、「あてはまらない」が1.3%で、働きぶりがよいと考えている事業所が6割以上に達している。

さらに、「外国人従業員がいないと仕事がまわらない」について聞くと、「あてはまる」が22.1%、「ややあてはまる」が24.8%、「どちらともいえない」が28.9%、「ややあてはまらない」が6.4%、「あてはまらない」が15.7%で、4割以上が、外国人従業員がいないと仕事が回らないとの感覚を抱いていることがわかった。

「店舗運営」「営業全般」「食品衛生」「安全衛生」「危機管理」という5分野のマニュアルについて、事業所(外国人がいる事業所)で活用している言語について「外国語版あり」と回答した割合を抜き出してみると、「店舗運営」のマニュアルが30.6%、「営業全般」が25.1%、「食品衛生」が22.5%、「安全衛生」が20.0%、「危機管理」が16.8%で、「店舗運営」のマニュアル以外は3割以下にとどまった。

6割強の事業所が何らかの就労・教育支援を実施

外国人従業員への就業支援や教育で取り組んでいること(複数回答)をみると、「特に取り組んでいない」が35.2%で、6割強は何らかの取り組みを行っていた(図表1)。取り組みの内容をみると、「同じシフトに指導係を配置」が37.4%で最も割合が高く、「同じシフトに同じ国の従業員を配置」も27.4%と比較的高い割合だった。一方、「相談窓口の設置」(8.3%)や「意見聴取の場の設定」(7.6%)まで行っている事業所は少ない様子も見てとれた。

図表1:外国人従業員への就業支援、教育(複数回答)
画像:図表1

(報告書をもとに編集部作成)

外国人従業員と一緒に働くうえで課題になっていること(複数回答)は、「日本語での会話のやりとりが難しい」が41.6%で最も回答割合が高く、「日本語での読み書きが難しい」が33.8%、「職場や働き方の慣習になじめていない」が14.0%、「安全衛生教育が難しい」が12.7%など。「特に課題はない」とする事業所も29.9%とほぼ3割あった。

組合活動の課題のトップは組合や活動が認知されていないこと

事業所調査の回答者が組合役員、委員の場合に限り、外国人組合員と一緒に組合活動を行ううえで課題になっていること(複数回答)を聞いてみたところ、「組合・組合活動が認知されていない」(55.2%)で最も回答割合が高く、次いで「言葉のコミュニケーションが難しい」(46.6%)、「ニーズ把握が難しい・できていない」(27.6%)、「組合活動への参加に協力的でない」(20.7%)、「組合費に対する理解を得るのが困難」(19.0%)、「組合加入の理解を得ることが難しい」(17.2%)、「役員の外国人労働者への知識が不足」(15.5%)などの順で高かった。

これまでに外国人組合員からの相談を受けて対応したことがあるか聞くと、「ある」は20.7%とほぼ2割にとどまり、「ない」が79.3%で8割近くを占めた。

外国人組合員から相談を受けて対応したことがあると回答した事業所に、相談内容を解決するためにどのような対応をとったのか(複数回答)をみると、「自分で解決した」が75.0%で最も割合が高く、「会社に相談した」が25.0%、「単組本部に相談した」が8.3%だった。

労働組合が外国人従業員を組合員化したほうがよいかと聞いたところ、「そう思う」が55.2%、「どちらかといえばそう思う」が29.3%、「どちらかといえばそう思わない」が3.4%、「そう思わない」が1.7%などとなり、組合員化に賛成する回答が圧倒的に多かった。

〔外国人従業員の賃金、労働時間、仕事内容等〕

アルバイト社員の最高時給は1,100円台

事業所が答えた外国人従業員の就労状況について、賃金からみていくと、外国人のパート・アルバイト社員の最高時給は平均1,114円で、最低時給の平均は1,042円となっている。

外国人のパート・アルバイト社員の週の出勤日数は「3日」(43.4%)が最も大きな割合を占め、「4日」が31.9%。平均は3.3日となっている。1日あたりの労働時間は、「3~5時間未満」(49.4%)が5割近くを占めて最も割合が高く、次いで「5~7時間未満」(39.3%)が高い。平均は5時間10分となっている。

外国人のパート・アルバイト社員の、正社員と比べた業務内容と責任の程度をみると、「業務内容も責任の程度も変わらない」が21.2%、「業務内容は同じだが責任の程度は異なる」が35.7%、「業務の内容も責任の程度も異なる」が41.4%で、正社員と業務内容や責任の程度が近い社員は少なくない。業態別にみると、「業務内容も責任の程度も変わらない」の割合は「ファーストフード」(31.8%)で最も高く、次いで「ファミレス」(25.1%)が高くなっている。

次に、パート・アルバイト社員のうち、日本人従業員と外国人従業員の業務内容と責任の程度の違いをみると、「業務内容も責任の程度も変わらない」が67.7%と7割近くに及び、「業務内容は同じだが責任の程度は異なる」が19.5%で、「業務の内容も責任の程度も異なる」が9.8%だった。

採用理由のトップは国籍に関係なく人物本位

外国人従業員を採用する理由(複数回答)は、「国籍に関係なく能力や人物本位で採用している」(58.6%)が際立って高く、以下、「日本人では適当な人材が集まらない」(37.4%)、「日本人より採用・人手確保が容易」(16.6%)などと続いた。

外国人従業員の採用を行う際の日本語能力の確認方法(2つ以内で選択)は、「面接時のコミュニケーション」(93.0%)をほとんどの事業所があげ、「求職者のもつ日本語能力検定」が20.8%、「現在の通学先」が9.3%など。「日本語能力はほとんど重視しない」(1.3%)と回答する事業所はごくわずかとなっている。

今後1年間の外国人従業員の採用見通しについては、「これまでどおり採用する」が57.1%と6割弱を占め、「採用を増やす」が21.4%などとなっている。

<従業員調査>

〔外国人従業員の属性〕

最も割合の高い出身国はベトナム

回答者の出身国・地域をみると、「ベトナム」が48.2%で最も割合が高く、これに「中国」(22.0%)、「ネパール」(10.1%)などと続いた。在留資格は、「留学」が39.5%で最も割合が高く、次いで「身分に基づく在留資格」(18.6%)、「家族滞在」(13.9%)などの順で高い。

日本語能力の資格は、レベルが高い順から「N1」8.9%、「N2」23.0%、「N3」24.2%、「N4」6.6%、「N5」6.5%となっており、「取得していない」が25.9%。

回答者の性別は、男性が33.8%、女性が63.5%で、年齢は「20~24歳」(37.1%)と「25~29歳」(23.6%)で全体の約6割を占める。

7割以上がパート・アルバイト

就業形態は、「パート・アルバイト」(74.7%)が7割以上。「正社員」は8.5%と1割以下で、「契約社員」が12.0%など。就労先の業態は、「ファミリーレストラン」(23.1%)と「工場(食品加工など)」(20.7%)が20%台で、「うどん・そば・ラーメン」(14.9%)、「居酒屋」(12.2%)が10%台となっている。

労働組合の組合員かどうかについては、「はい」との回答が27.4%、「いいえ」が39.0%、「わからない」が28.6%だった。

〔外国人従業員の就労環境〕

悩みのトップは日本語の難しさ

仕事をしているときの悩みを聞くと(複数回答)、「特に悩んでいることはない」が46.9%と半数近くを占めた。一方、悩みの内容としては「日本語が難しく仕事ができない」が13.8%で最も割合が高く、次いで「仕事の内容に対して給料が少ない」が12.0%で高かった。

日本で働き始めてから、職場でのいじめ、暴言、暴力などのハラスメントを受けたことがあるか尋ねると、「ハラスメントを受けたことがある」は9.5%と約1割で、「ハラスメントを受けたことはない」が69.4%となっている。

ハラスメントを受けたことがある人に対し、誰からハラスメントを受けたか聞くと(複数回答)、最も回答割合が高いのは「同じ職場で働く日本人」で43.5%。「上司」も41.7%と同じく4割台で、「お客」が35.2%、「同じ職場で働く日本人以外の人」が9.3%などとなっている。

要望は母国語のマニュアルの用意や日本人との交流機会など

いま働いている会社に対する希望を聞くと(複数回答)、「特にやってほしいことはない」が43.0%で最も高かったが、希望の内容としては「出身国の言葉のマニュアルを用意」が14.1%で最も高く、次いで「日本人従業員が参加する交流会」(12.0%)、「意見聴取の機会の設定」(9.7%)、「日本語学習の機会拡大・金銭的支援」(9.4%)、「社員に対する差別を防ぐ研修の実施」(6.1%)などの順で高くなっている(図表2)。

図表2:仕事への希望(複数回答) 上位項目のみ
画像:図表2

注:一部選択肢の回答結果を割愛して作成。

(報告書をもとに編集部作成)

いまの仕事への満足度をみると、「とても満足している」が31.8%、「まあまあ満足している」が48.0%、「やや不満がある」が7.3%、「とても不満がある」が1.0%などとなっており、8割近い人が満足している状況だった。

半数が収支トントンの状況

配偶者の給料や親からの仕送り、奨学金などを含めたこの1カ月の収入と支出の状況では、「十分生活できる」が21.7%、「収入と支出が同じくらい」が49.3%、「いまの収入だけでは生活できない」が14.3%などとなっており、収支がトントンの生活をしている人はほぼ半数となっている。

普段の生活のなかでどのような不安があるかを聞くと(複数回答)、「特に不安なことはない」が26.7%で、不安の項目としては「在留資格の更新・変更ができるか」(18.8%)で最も割合が高く、次いで「日本語を身につけるのが難しい」(14.3%)、「貯金や家族への送金ができない」(13.8%)、「出身国にいる親の介護に不安がある」(10.1%)などの順で高い。

仕事や生活で困りごとがあったときに相談したり、役に立ったと思う人や組織をあげてもらうと(複数回答)、「家族や親せき」が39.3%で最も回答割合が高く、次いで「同じ職場の人」(13.7%)、「日本人の友人」(13.4%)、「日本人以外の友人・知人」(13.2%)がほぼ同割合。「労働組合」は1.4%にとどまっている。

(調査部)

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