集中労働相談を2021年から3年連続で実施。関連団体との連携や地方連合会、構成組織との情報共有も
 ――連合による外国人労働者の課題に向けた取り組み

労働組合の取り組み

外国人労働者数が増加するなか、労働組合のナショナルセンターである連合(芳野友子会長)は、外国人労働者の受け入れ政策に対して一貫して、すべての外国人労働者の権利保護などを求めてきたが、運動方針では2022年以降、外国人労働者の課題に向き合い、つながりながら、外国人労働者の労働条件を改善するなどの取り組みを盛り込んでいる。行政やNGOなどの関係団体とも連携し、本部による外国人労働者を対象とした集中労働相談ホットラインを2021年から開始。外国人労働者に関する課題解決に向けた取り組みを進めている。

最初に連合の考え方を策定したのは2004年

連合が外国人労働者に関する考え方を最初に策定したのは2004年。それ以降、ほぼ20年が経過したが、①すべての外国人労働者の権利を保障すべき②受け入れ対象は「専門的・技術的分野」の外国人とすべき③安易かつなし崩し的な受け入れは行うべきではない――との考え方の柱は変わっていない。

2022年12月に考え方の補強を中央執行委員会で確認したが、これは、外国人技能実習制度をめぐっての人権や処遇、労働条件などの課題が急速に問題化したのが主な理由。なお、補強では、労働者保護の観点から、外国人技能実習制度における指導監督の強化や監理団体の許可要件の強化、特定技能制度の検討プロセスの透明性を確保したうえでの見直しなどを求めることを追加している。

運動方針のなかでは、外国人労働者に関する取り組みに関して、2021年開催の第17回定期大会から2期連続で、留学生も含めて「仕事やくらし、人権などの諸課題に向き合い、互いに認め合う『共生』に向けた環境整備を推進する」ことと、「フェアワーク」を推進する取り組みの一環として、外国人労働も含め「多様な働く仲間とつながり、組織化や労働条件の改善、政策への反映などの課題解決や社会的波及力の強化に向けて、行政・NGO・NPO等各種関係団体と連携した取り組みを推進する」ことを、重点分野の取り組みとして掲げている。

こうした方針もあり、連合本部では、外国人労働者向けの集中労働相談ホットラインを2021年から実施。これまで計3回行った。それまでは、外国人労働者に限定した集中相談は、連合本部では行ったことはなく、普段の労働相談のなかで対応していた。そのため、集中労働相談ホットラインの実施にあたっては、外国人労働者に対する取り組みで長年の実績があるUAゼンセンと、ミャンマー人を支援する労働組合も加盟する金属・機械産別のJAMの協力を得るとともに、事前に、外国人労働者に詳しい専門家や関係団体だけでなく、公的窓口である外国人在留支援センター(FRESC)や外国人技能実習機構(OTIT)、一般財団法人Japan Leading Edge Foundation(JLEF財団)との連携体制も整えた。

オンラインでも相談できるようにSNSも活用

第1回目は、2021年1月26日~27日の2日間で実施した。

日本語、英語、中国語、ベトナム語、ミャンマー語で相談に対応できるようにし、電話と、Facebookに登録している人どうしがチャットできるFacebookメッセンジャーを使用した。オンラインでの手段も設けたのは「たとえSIMカードが入っていないスマホしかなくても、Wi-Fiのある場所に来れば相談できるから」(連合・総合運動推進局の若月利之局長)。相談には、連合本部、弁護士、中国語・ベトナム語・ミャンマー語それぞれの通訳者が受けた。

2日間で35件の相談が寄せられ、Facebookメッセンジャーでの相談が28件と多くを占めた。ベトナム国籍者からの相談が29件で最も多かった(ほかはミャンマー国籍者4件など)。

相談内容は、「食品製造工場で働いているが、仕事で差別をうけている」(技能実習)、「10カ月働いているのに給料明細書を2回しかもらっていない。保険証を社長が返してくれない。給料天引き引きしているのに国民年金保険料を国に納めてくれない」(技能実習)、「日本人と処遇が全く違い、外国人ということで差別しているのではないか」(永住・正社員)、「現場の日本人から暴力やハラスメント」(技能実習)などで、在留資格から労働環境、生活相談まで多岐にわたった。

相談を聞いたうえで、その内容に応じて、労働基準監督署やハローワーク、FRESCなど、適切な機関を紹介することも行ったという。

2回目からは利用の少ない電話をやめてオンラインに特化

1回目の経験から、2回目以降では電話をやめて、Facebookメッセンジャーとメールだけで対応するようにした。2回目は、2022年6月28日~29日に実施。対応言語は、日本語、英語、ベトナム語、ミャンマー語とし、連合本部、弁護士、各言語の通訳者が相談を受けた。中国語での対応を見送ったのは、SNSが規制されていると言われることもあり、また、前年の実績から相談はほとんど来ないものと判断したため。

UAゼンセン、JAMに加え、JLEF財団にも協力してもらった。事前に集中労働相談ホットラインを実施することを外国人労働者に知ってもらうことが特に難しいことから、JLEF財団には情報を拡散することに特に協力を仰いだ。

1回目よりも多い40件の相談が寄せられ、やはり、ミャンマー(17件)、ベトナム(14件)の国籍者の相談が多かった。主な内容は、差別、労働時間、賃金、安全衛生に関すること。「社長からのハラスメント」(技能実習、女性)、「いじめ・パワハラ。ほぼ毎日けがをしている」(技能実習)、「4年働いているが有給休暇がもらえない」、「労働契約上の労働時間は8時~17時だが、朝6時20分に事務所に着き、現場に1時間半移動でも残業代が払われない」(技能実習)、「1カ月の未払い賃金を請求したい」、「仕事でけがをして1週間就業不能となったが、その間の給料はでないと会社にも監理団体にも言われた」(技能実習)、「とび職だが安全帯をみなつけてないし、つけようとすると止められる」(技能実習)といった声が寄せられた。

日本人の労働者なら、しないような扱いも

2023年に、3回目を6月20日~21日に2回目と同じ体制で行い、27件の相談を受けた。相談者の国籍は、ミャンマーが14件、ベトナムが7件、フィリピンが2件など。

20代女性の技能実習生の相談者は、惣菜加工工場で働いているものの、1日500円で社長の家の掃除も指示され、猫のシートを交換していなかったことをきっかけに仕事をさせてもらえなくなったと訴えた。「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つ30代男性は、退職する場合には会社に弁済するという契約をさせられ、1年未満で転職しようとすると弁済請求書が送られてきて、実際に約30万円が賃金から弁済に充てられたという。義兄が工場の事故で亡くなったが、義兄に派遣元の会社側から全く補償がないとの相談もあった。

計3回の集中相談を振り返って、若月局長は「外国人だからというような、日本人の従業員だったら、しないような扱い・振る舞いをされるケースも目につく」と話す。また、特に小規模の事業所で、経営者の法に対する認識や理解が足らないことを背景として、外国人労働者の保護がないがしろにされることがあるのではないかと指摘する。

労働相談情報共有会でも外国人労働者問題を取り上げる

連合本部では、地方連合会や構成組織向けに、隔月で労働相談情報共有会を実施し、労働相談に関する現状や課題について共有している(以前は毎月実施していた)。今後、各地方でも外国人労働者をめぐる問題が増えてくることが予想されたことから、2022年7月に開いた情報共有会では、外国人労働者に関する課題について取り上げ、外国人労働者から相談を受ける際の留意点などについて共有を行った。

例えば、関係団体と日頃から連携をとることの重要性や、外国人労働者に接触する際の手段として、技能実習生はFacebookが連絡ツールとして「ダントツ1位」であること、紙ベースの媒体はほとんど見てもらえないことなどを説明。また、若月局長によると、日本人にはすっかりなじみのあるLINEは、日本に住む外国人労働者には実はあまり使われておらず、外国人労働者への接触ツールとしてはあまり有効ではないそうだ。

一方、連合東京や連合新潟、連合大阪、連合徳島など、外国人労働者に対する取り組みを進めている地方連合会や産別組織もある。連合東京では、NPOと連携して、NPOに賃金未払いの相談に来たベトナム人技能実習生を組織化して支援した。結成したユニオンには20人以上が加盟しているという。連合新潟では、増加しているベトナム人技能実習生に絞って、相談体制を整備。ネット上で専用相談窓口を設置し、ベトナム語での街宣も実施したという。これらの活動内容は、事例集を作成して組織内外に公開している。

連合本部では、情報共有会の取り組みとあわせて、こうした地方連合会の取り組み事例を参考にして、外国人労働者のために効果的な取り組みを行う加盟組織が拡大していくことに期待している。

(荒川創太)

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