24時間・365日ノンストップの生産現場を実現し、新たな取り組みや業務改善に人員を投入
 ――土屋合成のデジタル技術活用による作業自動化

企業取材

筆記用具の樹脂部品などを製造する土屋合成(群馬県・富岡市)は、2006年から積極的に工程の機械化・デジタル技術を活用したシステム化を進め、製造から梱包までのほとんどの作業を自動化することで、24時間・365日ノンストップの生産現場を実現した。安定した製造と生産・品質管理が行えるようになったと同時に、手作業が少なくなったことで、その分の人員を新たな取り組みや業務改善作業に充てることができ、会社の発展につなげている。

ほぼ無人で生産を行う工場も

土屋合成は1972年創業。精密プラスチックの射出成形品加工事業を展開している。主要製品はボールペン、シャープペンシルなどの筆記用具の樹脂部品で、売上構成の74%を占めている。そのほか、ギア部品などの自動車関連部品が22%、ナースコールの外装部品といった医療関係部品が3%を占めており、月産300品目・6,000万個を製造している。

同社の強みは、24時間・365日ノンストップでシステムが作動し、工場が操業している点だ。製品の取り出しや検査、加工過程でのロボットによる作業自動化や、IoT(Internet of Things)を駆使したシステムでの原材料のストック管理など、デジタル技術を活用して、24時間停まらない生産現場を実現している。群馬県富岡市にある3つの工場のなかには、機械・ロボットによる自動操業で、ほぼ無人で生産を行う工場もある。

デジタル技術の活用は、社長の土屋直人氏が社長に就任した2006年以降、積極的に進めてきた。業績は年々上昇し、昨年は過去最高益を更新。この17年間で売上高は6.3倍、付加価値額3.8倍、従業員数も2.8倍と大きく伸びている。コロナ禍を経て特に近年は、こうしたスマート工場化が注目され、行政からも表彰を受けている。

かつては夜間・休日の人手不足や手作業による工数圧迫に悩む

土屋氏が入社した1991年当時、同社はまだ手作業が主体の零細企業だった。機械1台に従業員1人以上が付いて対応し、製品の取り出しや検査、箱詰め作業など、多くの工程を何人もの従業員の人力でまわしていた。仮に機械を導入したとしても、性能が今ほど高くなかったため、安定した品質で生産ができなかったという。

一方で、当時から24時間体制で製造していたものの、夜間・休日は人手が足りないことが多く、生産力が低下することが課題だった。外国人労働者に頼ることも多かったが、馴染めない場合もあったことから、先代社長の父が自ら出社して、会社に寝泊まりしながら足りない作業を穴埋めしていたことも頻繁にあったそうだ。

また、顧客からの品質に対する要求レベルも年々上がり、品質検査の工程や納品方法などが多様化、複雑化するようになったことで、手作業が増えて工数が圧迫されるようになっていた。土屋氏自身、増加する単純作業をひたすらこなすことを経験するなかで、「こんなところで働きたくないし、従業員も働かせたくない」と思っていた。

ゲートカットロボットの導入をきっかけにデジタル技術活用を進める

社長就任後、デジタル技術活用推進のきっかけとなったのは、2006年頃から出始めていたゲートカットロボットの導入だった。ゲートカットとは、射出成形時に製品部とランナー(製品を固定する部分)がプラモデルのようにくっついて成形されるため、その結合部であるゲートをニッパーで切り取り、製品部を取り出す作業のこと。これまでは従業員が手作業で1つずつカットしていたが、単純作業の繰り返しであるため、これを自動化できないかと考えた。

当時のロボットは現在よりも高額で、設備投資には大きな金額を要することとなった。現場からも、導入により自分たちの仕事がなくなるのではとの反発を受けたこともあったが、思い切って導入した結果、生産体制の効率化が進んだという。

土屋氏自身の意識も変化し、「ロボットの得意な仕事を自動化することで、人のやるべき仕事で人が活躍するべきではないか」と考えるようになった。このことから、大きな投資であったとしても、できるところから少しずつデジタル技術活用による作業自動化を進める方向に、転換することとなった。

多くの製造過程をロボットが担当、稼働状況もリアルタイムで確認

その後、さまざまな工程に機械・ロボットを導入。外部のSIer(System Integrator)と連携してシステムの開発・運用を進めたり、低コストで自動化できるよう工夫をしながら進めた。

現在は、製品の製造過程から完成品の袋詰め・箱詰めまでの一連の流れのほとんどをロボットに任せている。検査・測定作業も、以前は成形後に不良品がないか、従業員が目視で確認していたが、現在は最先端の画像処理技術や測定器を活用し、データに基づいた正確かつ迅速な品質管理を提供している。在庫管理についてはIoTを活用し、数百種類にのぼる材料を個別に管理して、場所・残量などが瞬時に特定できるようになっている。

また、現有するすべての成形機はネットワークに接続し、工場内だけでなく、社内のモニターやタブレットなどあらゆる場所から遠隔で、リアルタイムで稼働状況・生産状況を把握することが可能となった。異常が発生した際には通知が来て、その機械の様子を見に行くことができるため、トラブルにも迅速に対応できる。機械1台に従業員1人以上が常に付いたり、見回りをしたりということは基本的に無くなった。特に人手不足が課題となっていた夜間・休日は、3~5人という少人数でシフトを回しても十分に管理できるようになっている。

安定的に大量生産ができるようになったことで、長年のメイン顧客である大手文具メーカーの基幹工場からの多品種製造依頼への対応もスムーズになった。売り上げが急激に上がったことで、現人員で現場をコントロールすることも大変になったが、不良率は過去3年間で見ても微減に抑えられており、自動化の効果が出ていると感じている。

「これがないと困る」という成功体験を通して理解を促す

デジタル技術の活用推進に対する従業員の抵抗感をどのようになくしていったのか。土屋氏に聞くと、「機械は社内で一斉に導入するのではなく、部署ごとに少しずつ導入していたため、部署の従業員にその都度、機械の性能やどういった利便性があるかを説明した」。実際の操作により「デジタル技術の活用で仕事が楽になる感覚と、これがないと困るという成功体験を積み重ねてもらう」ことで、従業員に作業自動化についての理解を促すことを心がけたという。

また、作業自動化で生じた余力で、今まで外注化していた金型を内製化する取り組みを始めたり、新たな改善業務や、研究開発に人員を充てることができるようになっており、土屋氏が意識した「人がやるべき仕事で人が活躍する」という流れにつながっているという。

専門部署としてDX課を設立し、異業種と連携したビジネスも展開

スマート工場化を進めてきた同社は2022年に、デジタル技術を活用して内部の改善を行う専門部署として「DX課」を新たに設立した。これまでは、土屋氏が自ら機械化したほうがよい工程を見つけて提案したり、従業員からの意見を吸い上げてそれに沿った機械を探して導入することが多かったが、会社の規模が大きくなったことで現場の問題点が見えづらくなっていたことから、部署として活動することを考えた。

デジタル化に関心を持つ従業員7人ほどが、製造や生産管理、品質管理の業務と兼務して担当しており、各部署からの要望やDX課内での話し合いを通して、効率化・業務改善につなげている。

最近では、このDX課が独立して同社の自動化・システム化などの活用実績やノウハウを活かしてソリューションの開発と提供を行う新会社を東京に設立した。農業・漁業分野における自然情報や、これまでの経験値をデジタル技術でデータ化する取り組みなど、異業種と連携した5つのビジネスを現在進めており、実証実験を行う場も同社が提供している。

その1つに、現場管理をスマートフォンで行うソリューション開発がある。現場機械の故障原因や復旧までの時間、担当者の情報など、これまで口頭や紙でとりまとめていたものをスマートフォンに記入する形に変え、集計システムで一括管理できる。若者に身近なスマートフォンに置き換えることで、今後のものづくり現場に必須となる新たなツールになると考えており、現在は同社で試験導入している段階だが、今後本格的な実証実験を行うことを予定している。

これからもデジタル技術を活用し、楽しく作業効率化を目指す

スマート工場化が進む同社だが、デジタル技術を活用すればするほど他の課題が浮き彫りになっていて、土屋氏は「まだ改善すべき点、取得すべきデータがたくさんある」と感じている。

例えば、機械の揺れや朝晩・季節ごとの温度や湿度によって製品の品質も変化するため、特に厳しい品質を求められる製品については、機械稼働後も定期的な確認作業などが発生するそうだ。こうした温度・湿度を稼働中にリアルタイムで集約し、見た目だけでなく、データ上でもより安定した生産・品質を裏付けられるようにしていきたいと考えている。

実は、土屋氏自身はこれまで、デジタル技術推進を意識して機械やロボットを導入してきたわけではない。「製造業でもSDGsが求められ、従業員の作業効率化を目指すなかで、これまでの常識が通用しない時代が到来していると感じた。それに対応するためにはデジタル技術の導入は必然で、それを楽しむことがDX(デジタルトランスフォーメーション)だった」

これからもデジタル技術を活用し、従業員にとって作業が楽になり、楽しく働いてもらうための効率化を今後も目指したいと考えていると話す。

(田中瑞穂、荒川創太)

企業プロフィール

株式会社土屋合成

所在地:
群馬県富岡市宇田22番地2号
代表者:
代表取締役社長 土屋直人
事業種目:
精密プラスチック射出成形加工
射出成形金型から組立てまでの一貫製作
従業員数:
約90人
売上高:
14億円(2022年)

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