課題に対応することが自組織の活動促進につながる
 ――連合がビジネスと人権に関する考え方をまとめる

国内トピックス

連合(芳野友子会長)は8月の中央執行委員会で、「ビジネスと人権に関する考え方」を確認した。考え方は、ビジネスと人権について、企業の責任で取り組む課題との認識が根強く、労働組合が関与すべきとの認識が労使ともに不十分だと指摘。課題に対応することで、労組は日常活動との関連性に対する理解を深め、活動の意義を再認識し、さらなる活動促進につなげることができるなどと強調している。

労組が関与すべき課題との認識が労使ともに不十分

考え方は、ビジネスと人権をめぐる課題として、まず、「ビジネスと人権課題は企業の責任で取り組むものであるとの認識が根強く、労働組合が関与すべき課題であるとの認識が労使ともに不十分」だと指摘。また、問題は海外で起きているとの認識も根強く、労組も含めて、日本国内における労働組合権の軽視、ハラスメントや差別、外国人労働者への人権侵害などもビジネスと人権の問題であるという認識が希薄だとした。

また、政府の「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020~2025)」やガイドラインが策定されているが、これらは「各企業に十分浸透し、実行されているとは言い難い状況」だと言及し、連合全体としてビジネスと人権に関する理解が進んでいるとは必ずしもいえないと述べた。

中小企業での対応が停滞していることもあげ、「中小企業は公正取引の問題では被害者にもなり得るが、取り組みは広がっていない」などと現状を分析した。

人権尊重の社会をつくるのは連合の本来的な社会的責務

こうした課題と現状をふまえ、基本的な考え方を整理した。第1に、「連合行動指針」で人権尊重や差別禁止をうたっていることもあり、「連合の各組織が重層的に取り組むことにより、人権が尊重される社会をつくることは連合の本来的な社会的責務である」と強調。また、国連指導原則が労働者をはじめとする権利保持者の人権侵害リスクに対処する観点からの取り組みを求めていることもあり、「連合は社会正義の追求と人権の尊重を中心に据えてこの課題に取り組む」とした。

第2に、労組が関与する意義を述べ、「ビジネスと人権課題への対応を通じて、労働組合は、日常組合との関連性に対する理解を深め、活動の意義を再認識し、さらなる活動の促進につなげることができる」と取り組みによるメリットを言及。また、人権デュー・ディリジェンスの過程に関与することで、「人権が尊重された働きがいのある職場づくりの実現だけでなく、企業の社会的評価の維持・向上や持続可能性にも貢献できる」とした。このほか、一連のプロセスに関与することにより、労使間の信頼関係が強まり、建設的な労使関係の構築にもつながることなども指摘した。

加盟するすべての組合がそれぞれの現場で取り組みを

第3に、労組が企業活動における特別なステークホルダーとして取り組む必要性を強調。政府のガイドラインにも労使の関与が記載されていることも意識し、「企業規模・業種・海外取引の有無にかかわらず、連合加盟のすべての労働組合がそれぞれの現場で取り組みを進めていくことが必要」だとした。また、海外にサプライチェーンを持つ企業で、海外の取引先や調達先に関係する労働者・労働組合などからの問題提起が増加することが予想されるとして、「連合加盟の労働組合は自社の国内外のサプライチェーン上のすべての人権課題の有無にまで視野を広げ、対応力を強化することが重要」だと指摘し、自社と直接、契約関係にないサプライヤーについても対応を問われる場合があることへの認識を高める必要があるとした。

4つめには、労組として、ILO(国際労働機関)の中核的労働基準の5分野(結社の自由・団体交渉権、強制労働、児童労働、差別、労働安全衛生)を最も重視して取り組むことをあげ、5つめには、連合は国連指導原則を最も拠るべき文書ととらえ、指導原則の3本柱に掲げられた「人権を保護する国家の義務」「人権を尊重する企業の責任」「救済へのアクセス」に則した対応を基本とするなどとした。

連合本部は政府への働きかけ、春闘のなかでの取り組みを展開

そのうえで、連合全体としての具体的な対応について、連合本部、構成組織(産別労組)、単組、地方連合会に分けてそれぞれ整理した。

連合本部からみると、まず、政府への働きかけとして、政府の「ビジネスと人権に関する計画推進円卓会議・作業部会」などに積極的に参画し、行動計画やガイドラインの周知や実施の促進、業種別ガイドラインの策定を求めていくことや、実施状況や実効性の検証を通じ、一定の期限を区切った見直しを進めていくことをあげた。

春季生活闘争のなかでも取り組み、闘争方針に、ビジネスと人権に関する取り組みの実施を盛り込み、取り組みを推進するとしている。

また、国際組織であるITUC(国際労働組合総連合)やILO、各国のナショナルセンターなど、国際労働運動と連携し、情報収集・提供に努めるほか、海外における法整備の動向に関する情報収集や提供にも引き続き努めるとしている。

経済団体との連携では、政府などへの働きかけの際に、「個別あるいは複数の関係者間で意見交換を実施するなど連携して対応する」としている。

産別は方針を策定し、国際ネットワークも構築

構成組織(産別労組)の対応では、まず、国際産別組織とも連携しながら、「加盟単組の取り組み促進に資する取り組み方針を策定する」とし、その際は、企業内労使でこの課題を扱う場の設定のあり方や、単組企業特有の人権リスク・課題の提示など、各組織の実情に応じて策定するとしている。

また、産業別経営者団体などとの連携・意見交換などを通じて課題を的確に把握したうえで、必要に応じ、業種別ガイドラインの策定を要請するとともに、策定への関与に努める。

国際的な労組ネットワークの構築に努め、国際産別組織とその加盟単組と連携して、国境を越えた労使対話や人権状況改善などに有効なグローバル枠組み協定(GFA)の締結を検討することも掲げた。

さらに、ビジネスと人権課題に対処するためには集団的労使関係を通じた対応が重要だとして、国際産別組織・加盟単組と連携しながらサプライチェーン全体の組織化に取り組むことを盛り込んだ。

単組は労使協議機会を確保する

単組の対応では、まず、「構成組織の取り組み方針にもとづき、労働組合として対応すべき自社に関する人権課題などを確認しつつ、実情に応じて取り組みを策定する」とした。

企業に対して求める事項としては、①自社における研修機会の確保②ビジネスと人権課題を扱う労使協議機会の確保③国連指導原則に従った企業の人権尊重の取り組みのプロセスへの実効的な関与――の3つの分野に分けて言及。自社では、自社の人権方針や国連指導原則をはじめとする国際規範、取引先の対応などについてのビジネスと人権に関する教育・研修の実施を求めることをあげた。

労使協議機会の確保については、企業内で協議・検討する場が必要であるとして、既存の労使協議の場で扱うことや、必要に応じて委員会や協議機関の設置を求めるなど、労使対話の制度化に努めるとした。

プロセスへの関与では、「人権尊重に関する方針を策定することが、企業の取り組みの第一歩である」と指摘。方針がない場合は企業に策定を働きかけるとしている。また、労使協議などの場を通じて、企業が人権デュー・ディリジェンスを実施するよう働きかけることなども盛り込んだ。

すべての企業でビジネスと人権をめぐる苦情が発生する可能性があるため、自社だけでなくサプライチェーン全体の労働者も含めたステークホルダーが利用できる相談窓口の設置など、苦情処理メカニズムの構築を働きかけることも提起している。

地方連合会は地方経営者団体とも意見交換する

地方連合会の対応では、地方自治体や地方出先機関に対する政策・制度要請のほか、地方経営者団体との意見交換などをあげた。

地方でも外国人労働者に対する人権侵害など、問題がすでに生じているとして、労働相談・労働組合づくりなどを通じて個別事例への適切な対応を行うとしている。

(調査部)

2023年11月号 国内トピックスの記事一覧