キャリアコンサルティングが役に立ったとする労働者の約半数が「仕事への意識の高まり」を実感
 ――厚生労働省の2022年度「能力開発基本調査」

調査結果

厚生労働省がさきごろ公表した2022年度「能力開発基本調査」結果によると、正社員や正社員以外の従業員にキャリアコンサルティングを行う仕組みがある事業所は約45%で、キャリアコンサルティングを行う目的は「労働者の仕事に対する意識を高め、職場の活性化を図るため」が正社員、正社員以外ともに最も回答割合が高かった。一方、労働者調査によれば、キャリアコンサルティングを受けた人の割合自体は1割程度とそれほど高くはないものの、キャリアの相談が役に立ったと回答した人の約半数は「仕事に対する意識が高まった」を、その具体的な内容としてあげた。

調査は、能力開発や人材育成の実態を明らかにするため2001年度から実施しており、「企業調査」「事業所調査」「個人調査」からなる。「企業調査」「事業所調査」は、常用労働者30人以上を雇用している企業(7,332社)と事業所(7,046事業所)を対象に実施し、「個人調査」は、調査対象事業所に属する労働者(2万581人)を対象に実施した。2022年10月1日時点の状況について調査し、有効回答率は「企業調査」が55.0%、「事業所調査」が53.8%、「個人調査」が44.5%となっている。

<キャリアコンサルティングの状況>

正社員・正社員以外の両方に行う仕組みがある事業所は約27%

キャリアコンサルティングは、労働者の職業の選択や職業生活設計、または職業能力の開発・向上に関する相談に応じ、助言・指導を行うこと。事業所調査によると、正社員や正社員以外(直接雇用でない者は該当しない)に対してキャリアコンサルティングを行う仕組みを導入している事業所は45.3%で、その内訳は「正社員、正社員以外どちらもある」26.7%、「正社員のみある」18.3%だった。「キャリアコンサルティングを行う仕組みがない」事業所は54.6%となっている。

キャリアコンサルティングを行う仕組みがある事業所の割合を産業別にみると、正社員では「金融業・保険業」(85.1%)、「複合サービス事業」(76.4%)、「電気・ガス・熱供給・水道業」(74.7%)などで特に高く、正社員以外では「複合サービス事業」(65.3%)や「金融業・保険業」(55.3%)などで特に高くなっている。

企業規模別にみると、正社員については規模が大きくなるほど高い割合となっており、「30人~49人」(34.1%)などは3割台にとどまったが、「1,000人以上」(63.9%)では6割以上に及んだ。

目的のトップは「仕事に対する意識を高め、職場の活性化を図る」

キャリアコンサルティングを行う目的(複数回答)をみると、「労働者の仕事に対する意識を高め、職場の活性化を図るため」が、正社員(69.1%)、正社員以外(63.5%)ともに最も高くなっており、「労働者の自己啓発を促すため」(同68.3%、60.8%)、「労働者の希望等を踏まえ、人事管理制度を的確に運用するため」(同50.9%、39.9%)、「新入社員・若年労働者の職場定着促進のため」(同46.1%、30.4%)、「労働者の主体的な職業生活設計を支援するため」(同36.9%、34.3%)なども比較的高い割合となっている。

キャリアコンサルティングを行った効果(複数回答)については、正社員、正社員以外ともに「労働者の仕事への意欲が高まった」(正社員45.4%、正社員以外45.2%)が最も割合が高く、次いで「自己啓発する労働者が増えた」(同36.0%、33.3%)、「人事管理制度に労働者の希望等を的確に反映して運用できるようになった」(同29.6%、23.0%)、「労働者が主体的に職業生活設計を行うようになった」(同20.7%、16.2%)などの順で高い(図表1)。

図表1:キャリアコンサルティングを行った効果(複数回答)
画像:図表1

(公表資料から編集部で作成)

労働者の主体的なキャリア形成に向けて実施した取り組み(複数回答)をみると、「上司による定期的な面談の実施(1on1ミーティング等)」が66.0%と最も割合が高く、次いで「職務の遂行に必要なスキル・知識等に関する情報提供」(51.4%)、「自己啓発に対する支援」(46.7%)、「人材育成に関する基本的方針の策定」(37.0%)などの順となっており、1on1ミーティングが普及している様子が垣間見られる。

労働者の1割がキャリアコンサルティングを受ける

個人調査の結果から、労働者が職業生活設計についてどのように考えているのかをみると、正社員では30.2%が「自分で職業生活設計を考えていきたい」、37.7%が「どちらかといえば、自分で職業生活設計を考えていきたい」などと回答し、3分の2以上の労働者が主体的に職業生活を考えていきたいとしている結果が得られた。

2021年度中にキャリアコンサルティングを受けた人の割合をみると、「労働者全体」では10.5%、「正社員」でも13.5%と1割台で、「正社員以外」では5.1%だった。

キャリアに関する相談をする主な組織・機関は、「職場の上司・管理者」が正社員(76.8%)、正社員以外(65.6%)ともに最も割合が高い。

キャリアに関する相談が役立ったことに関する回答結果の内訳をみると(複数回答)、「仕事に対する意識が高まった」をあげる人の割合が、正社員(51.1 %)、正社員以外(48.5%)ともに最も高く約5割にのぼり、正社員では次いで「自分の目指すべきキャリアが明確になった」(34.7%)が高く、正社員以外では「現在の会社で働き続ける意欲が湧いた」(30.1%)が高い。

6割近い正社員が相談を利用したいと考えている

キャリアコンサルタントによる相談を利用することに関する要望をみると、正社員では「費用を負担することなく、社内で利用できるのであれば、利用したい」が30.5%、「費用を負担することなく、社外で利用できるのであれば利用したい」が26.1%、「社外で、費用を負担してでも利用したい」が2.5%となっており、6割近くの正社員がキャリアコンサルタントによる相談を利用したいと望んでいる状況となっている。

正社員以外では、「利用するつもりはない」が31.5%と最も割合が高いものの、約36%の人がキャリアコンサルタントによる相談を利用したいと考えている。

キャリアコンサルタントに相談したい内容(複数回答、3つまで)をみると、正社員では「将来のキャリアプラン」(58.9%)が最も高く、次いで「仕事に対する適性・適職(職業の向き不向き)」(42.8%)、「適切な職業能力開発の方法(資格取得、効果的な自己啓発の方法等)」(35.9%)、「仕事に対するモチベーションの向上」(35.3%)などの順で割合が高かった。正社員以外では、「適切な職業能力開発の方法(資格取得、効果的な自己啓発の方法等)」(37.5%)が最も割合が高い。

<OFF-JTと自己啓発の状況>

企業の5割が教育訓練費用を支出

企業調査によると、2022年度に、教育訓練費用(OFF-JT費用や自己啓発支援費用)を支出した企業は50.3%と約半数で、前年(50.5%)から0.2ポイント減少した。

支出の内訳をみると、OFF-JTと自己啓発支援の両方に費用を支出した企業は19.8%で、OFF-JTのみは26.5%、自己啓発支援のみは4.0%となっている。一方、OFF-JTと自己啓発支援のどちらにも支出していない企業は49.6%だった。

企業がOFF-JTに支出した費用の労働者1人あたり平均額(2021年度に費用支出した企業の平均額。以下同じ)は1万3,000円で、前年(1万2,000円)から1,000円増加。一方、自己啓発支援に支出した費用の労働者1人あたり平均額は3,000円で、前年(3,000円)と同水準となっている。

2割弱の企業で正社員への過去3年間のOFF-JT支出が増加

正社員に対して、過去3年間にOFF-JTに支出した費用の実績をみると、「実績なし」(49.2%)が約半数を占めて最も割合が高く、「増加した」(18.5%)が「減少した」(11.3%)を7.2ポイント上回っている。

今後3年間の支出見込みについては、「増加させる予定」が36.2%と、「減少させる予定」(1.1%)を大きく上回ったものの、「実施しない予定」(39.9%)が約4割で最も割合が高い。

正社員に対する、過去3年間の自己啓発支援に支出した費用の実績は、「実績なし」(70.1%)が約7割を占め、「増加した」(9.3%)が「減少した」(6.1%)を3.2ポイント上回った。今後3年間の支出見込みについては、半数以上が「実施しない予定」(56.3%)としたが、「増加させる予定」(27.8%)も3割近くにのぼった。

正社員以外に対しては、OFF-JTに支出した費用が過去3年間で「実績なし」とした企業割合が72.5%で最も割合が高く、「増加した」6.6%、「減少した」5.0%となっている。自己啓発支援でも「実績なし」(82.4%)が圧倒的に多く、「増加した」が3.4%、「減少した」が2.8%。今後3年間の支出見込みも「増加させる予定」としたのは、OFF-JTで18.4%、自己啓発で14.6%と、いずれも正社員に比べ低水準にとどまる。

正社員以外へのOFF-JT実施事業所割合はここ3年間で3割を切る

OFF-JTの実施状況を事業所に聞くと、「正社員または正社員以外にOFF-JTを実施した」とする事業所は71.5%。内訳は、「正社員と正社員以外、両方実施した」が28.6%、「正社員のみ実施した」が41.9%、「正社員以外のみ実施した」が1.0%となっている。

OFF-JTの実施対象を職層等別にみると、正社員では「新入社員」が57.5%、「中堅社員」が56.8%、「管理職層」が45.8%となっており、「正社員以外」は29.6%。

OFF-JTの実施事業所割合の5年間の推移をみると、正社員に対して実施した割合は7割程度で推移し、正社員以外に対しては2020年に約10ポイント低下して以来、3割を切っている(図表2)。

図表2:OFF-JTを実施した事業所割合の推移(正社員、正社員以外)
画像:図表2

(公表資料から編集部で作成)

OFF-JTを実施した事業所割合を産業別にみると、正社員では「電気・ガス・熱供給・水道業」(96.4%)、「複合サービス事業」(91.9%)、「情報通信業」(87.1%)などで実施率が高く、「生活関連サービス業、娯楽業」(49.3%)、「宿泊業、飲食サービス業」(56.7%)などで低くなっている。

正社員以外については、「複合サービス事業」(80.4%)でほぼ8割と高く、以下、「医療、福祉」(45.7%)、「サービス業(他に分離されないもの)」(43.0%)が続く。「建設業」(18.2%)や「生活関連サービス業、娯楽業」(22.7%)では低い。

実施率を企業規模別(以下「規模別」)にみると、正社員では規模が大きいほど高く、「30~49人」では52.3%と約5割にとどまるが、「1,000人以上」(87.0%)では約9割が実施している。正社員以外についても、規模が大きいほど高く、「1,000人以上」では43.2%と、4割を超えている。

OFF-JTを実施した教育訓練機関(複数回答)は、正社員、正社員以外ともに「自社」が最も高く、それぞれ78.2%、86.8%だった。実施したOFF-JTの内容は、「新規採用者など初任層を対象とする研修」(75.1%)が最も高く、以下「新たに中堅社員となった者を対象とする研修」(47.8%)、「ビジネスマナー等のビジネスの基礎知識」(44.8%)などとなっている。

正社員以外のOFF-JT受講率は正社員の半分以下

個人調査の結果から、2021年度にOFF-JTを受講した人の割合をみると、労働者全体で33.3%(前年30.2%)、正社員でみると42.3%、正社員以外では17.1%となっている。

男女別にみると、「男性」(40.4%)に比べ、女性(25.3%)の受講率が低い。最終学歴別にみると、「大学(文系)」(42.4%)、「大学(理系)」(41.1%)など、大学卒業以上の受講率は4割以上なのに対し、「専修学校・短大・高専」(25.7%)や「中学・高等学校・中等教育学校」(27.7%)は2割台となっている。

年齢別にみると、「20~29歳」(42.6%)が4割強と最も高く、「30~39歳」(35.1%)、「40~49歳」(33.3%)、「50~59歳」(30.9%)など、年齢が高くなるほど受講率は低くなる。

OFF-JT延べ受講時間は正社員以外の7割が10時間未満

OFF-JTを受講した人の延べ受講時間をみると、労働者全体では「5時間未満」が24.1%、「5時間以上10時間未満」が27.0%と、10時間未満が半数を占める。

正社員と正社員以外を比べると、「5時間未満」は正社員が19.7%に対し、正社員以外は44.1%と2倍以上の多さだった。正社員以外では10時間未満が7割近くを占めるなど、受講時間が短くなっている。

自己啓発の延べ時間数は半数が20時間未満

2021年度に自己啓発を行った人の割合は、労働者全体で34.7%。雇用形態別には、正社員が44.1%に対し、正社員以外は 17.5%と実施率が低い。男女別にみると、「男性」(40.9%)に比べ、女性(27.6%)で低いのが目立つ。

自己啓発の実施方法(複数回答)は、「eラーニング(インターネット)による学習」(正社員44.8%、正社員以外36.4%)が最も高く、次いで「ラジオ、テレビ、専門書等による自学、自習」(同39.1%、32.9%)や「社内の自主的な勉強会、研究会への参加」(同21.7%、19.9%)が続く。

自己啓発を行った人の延べ実施時間は、労働者全体では「5時間未満」(13.9%)、「5時間以上10時間未満」(17.3%)、「10時間以上20時間未満」(17.7%)と、半数近くが20時間未満だった。

自己啓発の自己負担費用は2万円未満が4分の3

自己啓発を行った人の延べ自己負担費用をみると、労働者全体では「0円」が38.0%と最も多い。「1円以上1,000円未満」は3.6%、「1,000円以上1万円未満」が22.8%、「1万円以上2万円未満」が12.0%と、8割近くが「2万円未満」だった。

自己啓発を行った理由(複数回答)をみると、正社員、正社員以外ともに「現在の仕事に必要な知識・能力を身につけるため」(正社員80.6%、正社員以外73.0%)が最も高く、次いで「将来の仕事やキャリアアップに備えて」(同60.4%、40.3%)、「資格取得のため」(同34.6%、26.7%)などが続く。

(調査部)