【特別調査:中東情勢の地域経済への影響】
石油由来の資材・原料の価格高騰・調達難に企業は価格転嫁などで対応。自治体は相談窓口設置や緊急融資で事業活動を支援
地域シンクタンク・モニター特別調査
イスラエルと米国によるイランへの攻撃に端を発した中東情勢の混迷が、日本経済にも影響を及ぼしている。ナフサなど石油関連の原材料の不足や価格上昇などにより、各産業への影響が注視されている。JILPTでは、年4回実施している地域シンクタンク・モニター調査の特別調査として、中東情勢の地域経済への影響を尋ねた。調査結果をみると、石油由来の資材や原料の価格高騰や調達難が生じているとの報告もあり、企業は価格転嫁や調達先の調整で対応している。自治体は情報収集、相談窓口の設置、緊急での融資による資金繰り支援などに取り組んでいる。雇用への影響については、現時点ではみられないか、あるいは限定的とする見方が多かった。
一部の化学製品の欠品で資材調達が厳しい状況、資金繰り悪化の懸念も――北海道
報告内容を地域別にみていくと、北海道では、産業活動や地域経済にさまざまな影響が生じることが懸念されることから、経済産業省北海道産業局が地域経済に関する情報共有と連携強化を目的に4月2日に、「中東情勢に関する北海道連絡会議」を開催した。モニターは同会議の資料をもとに報告した。
会議では、北海道庁が実施した燃料と石油化学製品の高騰等の影響・動向についてのヒアリング調査の結果が報告された。それによると、調査時点(3月23~25日)で大きな混乱は生じていないものの、供給・価格両面で先行き不透明感が高まっている。
企業活動の足元の動きとしては、仕入れ価格の上昇や輸送・製造コスト等の上昇とともに、一部の化学製品の欠品により、資材調達が厳しくなっており、先行きの収益圧迫、資金繰り悪化が懸念されている。さらに、燃料の供給制限が生じた場合、物流の停滞や地域の流通体制の維持にも影響が及ぶおそれがあるという。すでに仕入れ価格高騰に備えた運転資金の相談も発生しており、中東情勢が長期化することになれば、同様の相談が増えていくことが懸念される。
農業では飼料原料価格が上昇傾向
燃料・石油化学製品の高騰等の影響について、ヒアリング調査の結果から業種別にみていくと、「製造」は足元では自社在庫やメーカー在庫により、すぐに不足はしない状況。しかし、価格は先行きが不透明で、供給面では仕入れメーカーによる供給調整が予想され、不安が残る。
「観光」は、燃料やクリーニングの価格が上昇しており、供給はされているものの、長期契約が難しくなっているものもある。さらに、外出控えによる旅行需要の減少が懸念される。
「農業」では、飼料原料価格が上昇傾向にあるものの、飼料・肥料の調達にただちに影響することはない。しかし、燃料に混合して使用するとうもろこし由来のエタノールの需要が高まることで、飼料原料向けの生産が減少することが懸念されている。
「漁業」では、漁業用燃料の価格が2月比で1.2倍になっているが、販売制限はない状況。今後は漁業用燃料の確保、安定供給が課題となる。
一方、道民生活においては、灯油の需要期は過ぎたものの、日常生活で使用する製品の多くで原油価格高騰の影響による値上げが進み、物価上昇が一段と進むことが見込まれている。
雇用への影響は、現状ではみられない
このように、北海道のモニターは会議の資料に基づき報告したうえで、雇用面への影響について、「現状、雇用面においては、特に影響はみられていないが、中東情勢が長期化することになれば、企業活動におけるさらなるコスト上昇や資材等の供給遅れが深刻になり、それに伴って、雇用面にも一定の影響が生じることが懸念される」との見解を示した。
また、「例えば、製造業での原材料や、建設業での建設資材の供給遅れが常態化し、それが長期化することになれば、工場や現場での手待ち時間が生じることになり、結果的に労働者の勤務時間や賃金の減少につながることが懸念される」とした。
県が中小企業向け、農林漁業者向けの相談窓口を設置――岩手県
岩手県のモニターによると、中東情勢の緊迫化を受けて、県は3月24日から中小企業および農林漁業者向けの相談窓口を設置しており、資金繰りや融資、コスト低減対策の相談に対応している。4月には、「中東情勢に関する庁内連絡会議」を立ち上げており、県内における影響の把握や情報の共有を図っている。燃料・電力・資材価格の高騰、燃料購入制限、納品遅延、資材調達難などの報告が寄せられている。
また、6月補正予算案では、LPガス利用者への負担軽減策、運輸・交通事業者への事業継続支援、介護・福祉・医療施設への光熱費等支援、農業・水産業資材の価格高騰対策などを盛り込んだ。
現時点では雇用の影響は少ない
モニターが県内企業に実施した調査によると、中東情勢の混乱による経営への影響について「大いにマイナスの影響が生じている」が23.2%、「ややマイナスの影響が生じている」が43.6%、「現時点でマイナスの影響はないが今後生じる可能性がある」が28.2%などとなっている。影響の内容は、原油由来の原材料や製品等の価格の上昇、調達難が多数を占めた。
影響をふまえた現在の対策については、「価格転嫁」と「経費の削減」が約4割を占めて上位となった。一方、雇用に関連する項目は「生産・業務体制の見直し」が8.1%、「人員の抑制」は2.9%となっており、モニターは「現時点では雇用への影響は少ない」とみている。
ただし、影響をふまえた今後の対策(検討中を含む)を尋ねると、「生産・業務体制の見直し」が17.4%、「人員の抑制」は7.6%と、どちらも現在の対策状況よりも割合が高くなる。
今後は価格転嫁が進み、コスト高が一段と進展する――山形県
山形県のモニターによると、中東情勢に起因する原油の供給不足は、燃料価格の上昇などを通じて全産業の利益を圧迫しており、なかでも川上の製造業種における影響が特に目立っているという。
出荷する際の包装資材、塗装や洗浄に使用する有機溶剤、機械加工に必要な潤滑油・切削油などがいずれも値上がり・調達難となっている。現状は調達難で事業の縮小・停止に至る企業は限定的となっている。
モニターは今後について、「値上がり分の価格転嫁が進み、コスト高が一段と進展する」とみているほか、「調達難が長期化することにより、事業の縮小・停止に追い込まれる企業が増加する懸念もある」とした。
ナフサ関連商品で調達リスク――福島県
福島県のモニターは、帝国データバンク郡山支店の「福島県・『ナフサ関連製品』サプライチェーン動向分析調査」の結果を紹介している。それによると、ナフサ由来の基礎化学製品を製造する主要な化学製品メーカー52社から直接・間接的(二次流通まで)に仕入れる福島県内の製造業は615社。集計対象とした製造業2,063社の3割にのぼっており、ナフサ関連製品の調達リスクの可能性があることがわかった。なかでも、「化学工業、石油・石炭製品製造」では6割を超えている。
また、モニターが4月末ごろに県内企業に対してナフサ等石油製品の影響について聞き取りしたところ、「ホームセンターにおいて、塗料など全く入荷しない製品がある」などと、マイナス影響が出ているとする回答があったものの、化学メーカーなど製造業では、「まだ原材料を確保できており、マイナス影響が出ていない」という状況だった。
9割超の企業で経営にマイナスの影響。対応策は価格転嫁が半数超――茨城県
茨城県のモニターが県内企業に6月に実施した調査によると、中東情勢緊迫化が自社の経営に「マイナスの影響がある」とする企業は92.9%にのぼっている。マイナスの影響の詳細は(複数回答)、「原材料・資材コストの上昇」(79.2%)が最も高く、「原油・エネルギー価格の上昇」(68.8%)、「物流コストの上昇」(48.0%)などが続いた。
調査に回答した企業からは、「原材料や資材の仕入価格、エネルギー費用の高騰が激しく、業績に影響し始めている」(その他の製造業)、「ナフサ不足や各種石油製品の値上げなどにより、上向きかけていた業績に陰りが見える」(食料品製造業)など、仕入れ価格の高騰などが業績に影響を及ぼしているとの声が聞かれた。
影響への対策を尋ねたところ(複数回答)、「製品・サービス価格への転嫁」(55.4%)が最も高く、「コスト削減の取り組み強化」(42.4%)、「原材料・エネルギーの調達先多様化」(32.1%)など続いた。企業からは「仕入価格上昇の影響が大きく、顧客に価格見直しをお願いしている状況」(輸送用機械)、「薬品関係の納品や発注が受け付けられず、一時的に別の仕入先より調達した」(電子部品・デバイス)など、販売価格の見直しや調達先の調整を行ったという声が聞かれた。
県が補正予算で資金繰りを支援――北陸
北陸地域のモニターは、中東情勢の影響を受けた各県の対応策を報告している。それによると、富山県は6月補正予算において、中東情勢特別対策枠として融資枠100億円を創設。要件を緩和し、保証料率を半分にするなどとしている。
石川県も6月補正予算で100億円規模の緊急特別融資制度を創設。リーマンショック時よりも低金利となっている。
福井県は中小企業向けに中東情勢対策の資金繰りを支援している。
建設業やプラスチック製品製造業で高まる懸念――東海
東海地域のモニターは、大垣共立銀行の主に愛知県、岐阜県内の支店長に対し、5月に実施したアンケートの結果を報告した。それによると、「中東情勢の影響に対し、取引先企業の間で警戒感が高まっている」との見方に対して、98.7%(「非常にそう思う」:64.1%、「ややそう思う」:34.6%)が「そう思う」と回答した。
また、「中東情勢の影響を受ける可能性のある業種から仕入価格や資金繰りに関する相談が増えている」との見方に対しても、56.5%(「非常にそう思う」:10.3%と「ややそう思う」:46.2%の計)が「そう思う」とした。
「中東情勢の影響をきっかけに調達先見直しや経営戦略の再検討の動きが出てきている」については、48.7%(「非常にそう思う」:5.1%と「ややそう思う」:43.6%の計)が「そう思う」とした。
特に中東情勢の影響を受けそうな業種を尋ねたところ(複数回答)、「建設業」が79.5%で最も高くなっており、塗料や接着剤、建材などで価格高騰や供給制約が顕在化しているとの声があがった。次いで高かったのは「プラスチック製品製造業」(76.9%)で、石油由来製品を扱う業種への影響拡大が懸念されている。
原油価格高騰の影響をシミュレーション――近畿
近畿地域のモニターは、中東情勢の悪化で原油価格が高止まりした場合の関西経済への影響について、モニター自身によるシミュレーション結果を報告した。それによると、原油価格が2026~2027年度を通じて1バレル120ドルで推移すると仮定した場合、2027年度の日本のコア消費者物価指数は0.5%ポイント、企業物価指数は2.9%ポイントそれぞれ上昇するほか、実質GDPは0.20%低下するという。
また、関西においては、2027年度のコア消費者物価指数は0.40%ポイント上昇し、実質GRP(域内総生産)は0.12%低下するという結果になった。実質GRPの低下幅が全国の実質GDP(0.2%低下)よりも小さいことについてモニターは、「原油高は家計部門を中心に関西経済を下押しするものの、輸入減少による純輸出の改善が、GRPへの影響を一定程度緩和する結果となった」としている。
6月に値上げした食品容器のさらなる値上げや出荷調整の可能性も――中国
中国地域のモニターによると、中東ショックは自動車や食品包材をはじめ、地域の生活に密着した産業に大きな影を落としているという。岡山県内の自動車部品メーカーで構成する協同組合ウイングバレイでは、原油・ナフサ供給不安に起因する石油製品の確保と値上がりに対して、安定供給の対策を求めている。
岡山県内では、自動車整備業界でもオイル類や塗料の価格高騰と在庫不足が深刻化している。エンジンオイル・ブレーキオイルの交換の受付停止や店舗間での融通が広がっているほか、塗料は調達量が従来の4分の1に満たないとの報告もある。6月からは塗料の仕入れ価格が25~35%引き上げられる見込みで、休業を余儀なくされる懸念もある。モニターによると、石油製品の必要量は確保されているといった政府の説明と、サービス現場での肌感覚にはギャップがあるという。
また、食品容器業界では、地域の大手メーカーが6月出荷分から一斉に値上げしているが、さらなる値上げや出荷調整の可能性を示唆しており、ナフサの供給不足が価格転嫁に直結する構図となっている。
原材料の価格上昇や調達難が企業活動に影響――四国
四国地域のモニターが、四国に本社を置く企業に実施した調査によると、中東情勢緊迫化による影響の有無については、「既に大きなマイナス影響が出ている」が21%、「既に小さなマイナス影響が出ている」が37%、「現在マイナス影響は出ていないが、今後半年以内に見込まれる」が18%となっている。
また、すでに出ている具体的な影響を尋ねたところ(複数回答)、「原材料や部品コストの上昇」が88%で最も高く、次いで「原材料や部品の調達難」(70%)、「エネルギーコストの上昇」(62%)、「物流コストの上昇」(54%)などとなった。
今後懸念される影響を尋ねたところ(複数回答)、「原材料や部品コストの上昇」が70%で最も高く、次いで「原材料や部品の調達難」(66%)、「エネルギーコストの上昇」(62%)、「物流コストの上昇」(57%)などとなった。
中東地域への輸出は「自動車」が大半。仕向地の変更などで対応――九州
九州地域のモニターによると、塗料やシンナー、潤滑油などのさまざまなナフサ由来の製品の調達難が報告されているという。
九州と中東地域との貿易構造については、輸入は大部分を「原油及び粗油」に依存している。輸出は「自動車」が大部分を占めており、次いで「ゴムタイヤ製品」の割合が高い。自動車は3月以降、一部のメーカーで減産が行われるなど生産に影響が生じているが、その後は仕向地の変更などで対応しており、大きな影響にはなっていないという。
一方、雇用については、各県労働局の5月中旬時点での民間事業者へのヒアリングによれば、一部の事業者において中東情勢の影響で求人を出し控えるような動きがあるものの、モニターは「依然として影響は限定的」とみている。


