物流コストが増加し、石油由来の資材の不足や原料・資材価格の上昇も
 ――【特別調査】業界・企業に聞く、中東情勢の事業活動への影響

ビジネス・レーバー・モニター特別調査

イスラエルと米国がイランへの攻撃を開始して以降、混迷が続く中東情勢。ホルムズ海峡の閉鎖などもあり、原油の供給や原油価格にも影響が及んでいる。そこでJILPTでは、年4回実施しているビジネス・レーバー・モニター企業・業界団体調査の2026年5月調査で特別調査項目を設け、中東情勢の事業活動への影響を尋ねた。影響として指摘があったのは、主に、①燃料の不足、原油やガソリン価格の高騰②石油由来の資材・製品の不足――の2点。物流にかかる費用の増加、原油由来である樹脂、インキ、包装容器などの不足や価格上昇などについて具体的な言及がみられた。

特別調査項目に回答したモニター数は、企業が20社、業界団体が24組織。モニターの回答から、雇用や職場への影響と、業界団体としてどのような対策を講じているかを含めて、みていく。

影響1:燃料の不足、原油やガソリン価格の高騰

原油の供給不足で物流費削減の対応が必要

【造船・重機】では、企業モニターは「原油の供給不足により一部の事業で操業に影響が出始めている」としている。【金属製品】の業界団体モニターは、原油価格の高騰で「物流費が増加している」とし、今後は物流費を削減するため、「配送回数の削減や効率的な配送ルートの構築などの対応が必要と考えている」とコメントした。

【セメント】の業界団体モニターによると、「物流ではインタンク(自家給油設備)での補油が困難となっており、市中スタンドで給油することでコストアップとなっている」という。地域差はあるものの、元売り・販売店から供給制限を受けており、こうした状況は船舶についても同様だとしている。

買い換え需要の減退につながる自動車の走行距離の減少

【自動車販売】の企業モニターは、営業活動での車両使用を極力控えるなど経費削減に努めているが、今後については、ガソリン価格が再度高騰して長期化すれば、顧客の外出機会が減り、走行距離が減少することで「整備部門でタイヤやオイルなどの消耗品の売り上げが減少する可能性がある」と答えた。また、新車・中古車の販売部門でも、「走行距離の減少により買い替え需要が減少する可能性がある」としている。

【シルバーサービス】の業界団体モニターは、在宅訪問系のサービスや通所・入所系の送迎サービスなどで「ガソリン価格の高騰が経営に大きく影響している」と報告した。

影響2:石油由来の資材・製品の不足

国内建設への影響は顕在化していないが、資材の調達状況で複数の問い合わせ

【建設】では、企業モニターが、国内の建設において中東情勢の緊迫化によって中止や延期となる案件は「まだ顕在化していない」としたものの、複数の顧客から資材の調達状況の問い合わせを受けていると報告した。

また、一部の石油由来製品の価格が上昇しているため、「顧客と早期に情報を共有し、インフレスライド条項に即した価格協議や工程見直しなどの対策を図っていく」としている。

海外事業については、「資材価格の高騰や資材供給の不安定化、サプライチェーンの混乱への対応等に伴い、事業コストが増加する可能性があるが、請負金額や物件売却価格に反映して影響の最小化を図っていく」とした。

【石膏】では、企業モニターが、「ユニットバスに代表される住宅資材の供給が滞っている」と報告した。

接着剤など資材の調達価格が上昇

【木材】では、業界団体モニターが、「製造に使用する接着剤をはじめ、各種資材の調達価格が軒並み上昇しており、製造コストの上昇を余儀なくされている」と報告。業界全体として経営環境が厳しくなっているという。

【中小企業団体】の業界団体モニターは、樹脂・シンナー関連製品が枯渇しているとし、「軒並み値上げとなっているほか、他の材料も価格が上昇している」とした。【電機】の企業モニターも「樹脂等の高騰が利益に影響する」としている。

機械油の確保に見通しが立たない状況

【セメント】では、業界団体モニターが、物流面で「アドブルー(尿素)の調達が困難になってきている」と報告。工場では機械油(作動油・潤滑油)の確保に見通しが立たないほか、粉砕を行う際に「粉砕助剤」と呼ばれる石油化学工業製品を少量添加するが、その確保の見通しも立っていないとしている。

ナフサの影響は工作機械では解消に向かっているが、印刷では広範囲に波及

【工作機械】の業界団体モニターは、ナフサ由来の原材料の調達が一時は「目詰まり」を生じたことでの不安感もあったものの、現時点ではおおむね解消に向かっており、「さほどの問題は生じていない」との認識を示した。

一方、【印刷】の業界団体モニターは、ナフサ系原料を起点として、溶剤・インキ・樹脂・フィルム・用紙へと広範囲に影響が波及しているとした。サプライチェーンのなかで、上流の原料供給は必ずしも不足していないとの見方もあるが、流通や中間工程での影響が重なり、結果として下流の生産・出荷に影響が及んでいる可能性があるとしている。

現時点では、溶剤を中心とした供給制約、樹脂・フィルム・副資材への波及、加工工程における受注制限、広範な価格改定が同時並行で発生しているという。また、流通段階での目詰まりや代替調達による供給維持の動きも確認されているとしている。

紙・パルプ各社には製造コストの影響が「不可避」に

【紙パルプ】では、業界団体モニターは「紙・板紙の原料であるパルプは、再生可能な資源である森林を源泉とした木材およびリサイクル古紙であり、石油を由来とするものではない。また、国内のパルプ製造に必要となる木材チップや輸入パルプ・古紙等については、ホルムズ海峡を経て調達しているものではないため、紙・板紙製造における原料確保の面では、中東情勢の影響を受けるものではない」と説明し、現時点では、「業界各社から生産・供給面において支障が生じているという話は出ていない」と報告した。

ただ、紙・板紙の製造工程において使用する石油由来の副資材の供給不安や、燃料価格の高騰、輸送コストの上昇などが顕在化しているとし、これに伴う製造コストへの影響は業界各社にとって「不可避なもの」となってきているとしている。

食品では予防的に商品パッケージデザインを変更する動き

【食品】では、業界団体モニターは「燃油や食品の包装容器等に使う石油製品について、コストの高騰、供給の目詰まりを懸念する声が寄せられている」としている。こうしたなか、今後の供給不安が生じた場合に備えて、予防的に商品パッケージのデザインを変更する動きも出ているという。

【パン・菓子】の業界団体モニターは、業界では日々、大量かつ多種多様な包装パンを製造・供給しているため、中東情勢の影響によりパンの袋用ポリプロピレンやトレイ用ポリスチレンなどのプラスチック樹脂、中敷き用のフィルム、インク、表示ラベルなどの値上げの要請は、「経営環境の悪化に大きく結びついている」と指摘した。

事業所給食やシルバー産業の企業から衛生消耗品の値上げを懸念する声

【事業所給食】の業界団体モニターは、「調理用手袋など消耗品の価格が5月から上がっており、容器包装類の価格は6月から上がる」「衛生消耗品は2割から3割の値上げが相次いでいる」といった会員企業の声を紹介。【シルバー産業】の企業モニターは、原油由来の物品の供給不安や納期遅延などにより、「事業運営に影響が出る可能性がある」と指摘しており、特に手袋や消毒液、おむつ、マスクといった衛生資材の調達に支障が生じた場合は、「事業継続に直接影響することを懸念している」とした。

影響3:雇用や職場への影響

雇用や職場には現時点では大きな影響はなし

雇用や職場への影響については、現時点では想定していないとする回答が多かった。

【ホテル】の企業モニターは、「雇用への影響は特に想定していない」とし、【硝子】の企業モニターも、「雇用や賃金、労働時間等への影響は現時点では想定していない」とコメントした。

【造船・重機】の企業モニターは、「直接的な影響については、現時点では顕在化していない」としたものの、今後の事業環境の変化によっては、「影響が出る可能性がある」としている。【自動車】の企業モニターは、すでに一部の工場では数日間の稼働停止を実施するなどの影響が生じているものの、「雇用の安定を前提としつつ、外部環境の変化に適切に対応する」「事業への影響を最小限に抑えつつ、安定的な雇用維持に努めていく」としている。

建設は脱化石燃料の市場活性化を期待

一方、中東情勢に起因する混乱をビジネスチャンスと捉える回答もあった。【建設】の企業モニターは、「化石燃料への依存リスクが意識され、原子力発電所や再生可能エネルギー施設の重要性が再評価されつつある」としたうえで、今後、関連市場が活性化することを期待しているとしている。

業界団体の取り組み

工作機械では懸念事項を早期に政府へ伝達

今回の事態を受けて、業界団体として取り組んでいることをみると、【工作機械】では、業界としての懸念事項を早めに政府に伝え、払拭に向けた協力と行政の指導を要請していると回答。

さらに、中小受託取引適正化法(取適法)に基づき「自主行動計画」を作成し、会員各社には部材の調達、部品加工などを依頼する取引企業との間で、価格や納期面で無理のない調整に応じることを周知しているという。

【印刷】では、関連団体に対して情報提供を依頼し、価格動向や供給状況について情報収集を行っているとした。現場レベルでは接着剤の価格高騰やシンナーなどの溶剤の品薄といった情報も一部で確認されているものの、断片的な情報も多いため、まずは情報伝達の迅速化と業界内での状況共有を重視していると回答した。

パン・菓子は会員企業の状況を農水省に伝達

【パン・菓子】では、会員企業の状況を継続的に聴取して取りまとめたうえで、主管する農林水産省に伝達。仮に供給制限により実際の影響が生じそうな場合、あるいは生じた場合には、「当会あるいは個別業者が個別案件ごとに速やかに伝える」としている。

【セメント】では会員企業に対して、「物流面」と「工場」についてヒアリングを実施し、その概要を会員企業にフィードバックしている。今後も動きがあった場合は、再度ヒアリングを実施する予定だという。

道路貨物は決起大会を開催して、決議内容を関係省庁へ要請

【道路貨物】では、3月27日に「燃料価格高騰等経営危機突破決起大会」を開催。軽油を安定的に確保できる環境整備、激変緩和措置の継続、燃料高騰分の価格転嫁と燃料サーチャージの周知徹底などを決議し、関係省庁のトップへの要望を行った。

その後、政策として石油備蓄の放出、激変緩和措置の充実、個別相談フォームの設置などが行われたこともあり、「安定供給と安定的な価格については落ち着きを取り戻しつつある状況となっている」としている。

一方、ナフサ不足の影響によるエンジンオイルや尿素水などの石油関連商品の不足が顕著になっているため、政府には「これらの目詰まり解消に機敏に対応すること」や、「激変緩和措置について事態が鎮静化するまでの間は継続していただくよう強く要望したい」としている。

【ホームセンター】では、経済産業省と連携し、シンナーや塗料、接着剤などについて通常量の購入を呼びかけるチラシを作成し、売り場での掲示協力を呼びかけている。