【茨城】(常陽産業研究所)
人手不足で技術・ノウハウの伝承や人材育成が困難との調査結果。改定後の最低賃金を「高すぎる」とする企業が増加
地域シンクタンク・モニター定例調査
茨城県の経済動向は、7~9月期は日米関税の合意により先行きの不透明感が緩和しており、モニターである常陽産業研究所は【横ばい】とした。10~12月期も、業況判断の動きをもとに【横ばい】。雇用動向は、人手不足を背景に状況に大きな変化がないことから7~9月期の実績は【横ばい】とした。10~12月期の見通しも雇用判断DIの動きをもとに【横ばい】としている。モニターが県内企業に実施した調査によると、正社員が「不足」とする企業は5割を超え、人手不足で技術・ノウハウの伝承や人材育成が困難という声もあがる。また、改定後の最低賃金1,074円を「高すぎる」と捉える企業は21.5%で、前回の引き上げ時よりも約9ポイント増加している。
<経済動向>
主要企業の業況判断は前期から横ばい
モニターが実施した「県内主要企業の経営動向調査(7~9月期)」によれば、県内企業の景況感をあらわす自社業況総合判断DIは「悪化」超18.9%と、前期から横ばいだった。業種別にみると、製造業は「悪化」超22.8%で約1ポイント上昇、非製造業は「悪化」超16.0%で約1ポイント低下と、いずれも横ばいの動きとなっている。この結果をもとにモニターは、7~9月期の地域経済を【横ばい】と判断した。
非製造業では酷暑が生産性低下や集客減少を招いたとの声も
調査に回答した製造業の企業からは、「売上は前期並みだが、人件費や材料費上昇による経費増加により、収益面は厳しい状況にある」(電気機械)、「日米関税合意により関税率が15%になることを受け、市場が動き出した。少しずつ引き合いも伸びている」(金属製品)などの声が聞かれた。
一方で非製造業の企業からは、「昨年以上の猛暑により、社員などの仕事の効率が下がっている」(不動産賃貸)、「イベント・催事により集客が好調である一方、猛暑の影響で高齢者の来店が鈍い」(小売業)など、酷暑の影響による従業員の生産性低下や集客の減少についての意見がみられた。
モニターはこの調査結果について「前期の予想(『悪化』超35.5%)では、米国の通商政策への懸念から大幅悪化の見込みであったが、7月の日米関税合意により先行き不透明感が緩和したことや、半導体関連の素材産業が好調であったことなどから、その影響は限定的であった」とコメントしている。
先行きの業況判断は製造業・非製造業ともにおおむね横ばい
10~12月期については、自社業況総合判断DIは全産業で「悪化」超16.7%と今期から約2ポイント上昇で、おおむね横ばいの見通し。これを業種別にみると、製造業は「悪化」超18.5%で今期から約4ポイント上昇、非製造業は「悪化」超15.3%で今期からおおむね横ばいの見込みとなっている。
モニターは「先行きの県内経済については、トランプ関税を含む海外経済の動向や、金融・為替市場の動向、国内物価、最低賃金を含めた賃上げ、価格転嫁などの動向を注視する必要がある」とコメントしたうえで、判断を【横ばい】とした。
<雇用動向>
新規求人数は7カ月連続で前年同月比マイナス
7月の雇用動向をみると、有効求人倍率は1.18倍で前月から変化がなかった。新規求人倍率は1.91倍で、前月から0.09ポイント低下した。低下は3カ月ぶり。
7月の新規求人数は前年同月比マイナス6.2%と、7カ月連続で前年水準を下回った。新規求人数(パートを除く)の内訳を業種別にみると、「学術研究、専門・技術サービス業」(前年同月比プラス27.0%)、「建設業」(同プラス6.6%)、「生活関連サービス業・娯楽業」(同プラス5.5%)、「製造業」(同プラス2.3%)などが増加した一方で、「情報通信業」(同マイナス27.1%)、「サービス業(他に分類されないもの)」(同マイナス24.1%)、「教育・学習支援業」(同マイナス19.8%)などが減少した。
7月の新規求職者数は前年同月比プラス1.0%で、2カ月連続で前年水準を上回った。
雇用保険受給者数は7月が前年同月比プラス9.4%で、3カ月連続で前年を上回った。
従業員数判断BSIでは依然として大幅な「不足気味」超
関東財務局水戸財務事務所「法人企業景気予測調査」によると、茨城県の7~9月期の従業員数判断BSIは33.1で、依然として大幅な「不足気味」超となっている。
「県内主要企業の経営動向調査結果(7~9月期)」によると、雇用判断DIは「減少」超8.3%で前期から約5ポイント低下した。業種別にみると、製造業が「減少」超7.6%で前期から約5ポイント低下、非製造業が「減少」超8.8%で前期から約5ポイント低下となっている。
モニターは「人手不足を背景に、総じてみれば労働需給がタイトな(引き締まった)状況に大きな変化がない」とコメントし、7~9月期の雇用の実績を【横ばい】と判断した。
同調査の先行き(10~12月期)をみると、「減少」超6.5%で今期からおおむね横ばいとなっている。業種別では、製造業が「減少」超7.7%と今期から横ばい、非製造業が「減少」超5.6%で今期から約3ポイント上昇となっており、モニターはこの結果をもとに10~12月期の雇用動向についても【横ばい】と判断した。
正社員が「不足」とする割合は再び50%超に
モニターは9月に県内企業に対して「人手不足に関する企業調査」を実施している。それによると、2025年9月時点における県内企業の正社員の充足度は「不足」が56.0%で最も割合が高く、次いで「適正」が36.1%、「過剰」が3.2%、「その他」が3.2%、「わからない」が1.4%となっている。調査は毎年実施されており、正社員を「不足」とする割合はコロナ禍からの回復が落ち着いた2024年は47.6%に低下したものの、今回調査では約8ポイント上昇し、再び50%を超えた。
人手不足による悪い影響を尋ねたところ(複数回答)、「技術・ノウハウの伝承、人材育成が困難」(59.3%)が最も高く、次いで「受注増加への対応が困難」(54.0%)、「時間外労働の増加、人件費の増加」(49.6%)などとなっている。
人手不足のなかで求められる多様な人材の受け入れ体制整備やデジタル技術活用
企業が行う人手不足対応(複数回答)については、「中途採用の強化」(66.7%)が最も高く、次いで「賃金の引き上げ」(47.8%)、「高齢者の採用・活躍の強化」(33.8%)、「未経験者採用の強化」(28.4%)、「女性の採用・活躍の強化」(27.9%)などとなっている。
モニターはこうした調査結果をふまえ、「多様な人材を受け入れるための体制整備や、若手人材の定着・育成に向けた仕組みづくり、さらに少人数でも業務を維持できるように業務効率化やデジタル技術の活用を進めることが求められる」とコメントした。
冬季賞与を「支給しない」企業割合が調査開始以降で最低に
モニターは12月に県内企業に対して「冬季賞与に関する企業調査」を実施している。それによると、2025年の冬季賞与の支給状況(総額ベース、前年比)は「増加」が32.8%、「横ばい」が48.7%、「減少」が6.2%、「未定」が6.7%、「支給しない」が5.6%だった。「増加」は5年連続で3割超となっている。また、「支給しない」と回答した企業割合は、調査を開始した2013年以降で最も低い割合となった。
冬季賞与を支給する企業における支給理由(複数回答)は、「従業員の意欲の維持・向上」が81.7%で最も割合が高く、次いで「従業員の生活の質の維持・向上」(70.4%)、「従業員の貢献・能力の評価」(65.7%)、「従業員の離職防止」(55.6%)などとなっている。
調査に回答した企業からは、「物価高など社員の生活のためにも賞与は必須と考える」(建設業)、「利益は出ていないが、物価が上がっている状況では従業員の生活を考えると出さないわけにはいかない」(業務用機械製造業)など、物価高から従業員の生活水準を守るためという声が聞かれた。
また、「業績と従業員のモチベーションの向上を含めて、全体的に支給額を増やした」(電気機械製造業)、「雇用定着、新規採用強化の観点から継続的な賃金の引き上げは必須と考える」(建設業)など、深刻な人手不足や人材難への対応を主な理由として賞与を支給する企業もみられた。
モニターは調査結果について、「県内における賃金水準全体の上昇傾向が足元で続いていることが確認された」「2026年もこうした流れが続き、所得環境の改善が家計において実感されれば、これまで消極的であった消費マインドも上昇し、県内経済の回復に向けた足取りが強まるだろう」としている。
求められる賃金上昇への実効性ある支援策
茨城県の最低賃金は、昨年10月に1,074円に改定された。モニターは12月に県内企業に対して「最低賃金引き上げの影響に関する企業調査」を実施している。それによると、改定後の最低賃⾦の捉え⽅は「⾼すぎると思う」が21.5%、「適正だと思う」が71.3%、「低すぎると思う」が7.2%となった。「⾼すぎる」と捉える企業割合は、2024年調査の12.7%から約9ポイント上昇した。
調査に回答した企業からは、「時間給1,074円は適正と思うが、毎年引き上げられることに対しては不安がある」(化学製造業)、「物価⾼、税⾦や社会保険料の情勢に変化がないのに、賃⾦のみ上がっていってしまっては、会社が成り⽴たなくなるのではという不安がある」(運輸・倉庫)など、今後の最低賃⾦の引き上げに不安を感じるコメントが多くみられた。
モニターは調査結果について、「継続的かつ⾼⽔準の賃⾦上昇が続くためには、企業の⾃助努⼒だけでは難しくなっており、政府や⾃治体がこれまで以上に実効性のある⽀援策を打ち出していくことが求められる」とコメントした。


