医療・介護等従事者に対する賃上げ支援に1兆3,649億円を計上
 ――厚生労働省の2025年度補正予算

政府の経済対策

政府の総合経済対策の裏付けとなる2025年度補正予算が2025年12月16日に国会で成立した。一般会計の歳出総額は18兆3,034億円。厚生労働省の補正予算では、2兆3,252億円を計上。政策の柱の1つである「医療・介護等支援パッケージ」では、厚生労働省の補正予算のうち最も予算額の大きい1兆3,649億円を充てる。医療、介護分野等の人件費や医薬品・医療機器費などについては、原則として2年に1回改定される医療報酬、介護の場合は3年に1回改定される介護報酬でまかなわれる。だが、昨今の物価上昇に賃上げが追いつかず、人材流出の懸念もあり、医療・介護等従事者の処遇を早急に改善する必要があることから、医療、介護従事者の賃上げ支援等を重点的に取り組む。

補正予算額は2兆3,252億円

2025年度の厚生労働省補正予算での追加額は2兆3,252億円。

掲げる政策の柱は、①「医療・介護等支援パッケージ」(1兆3,649億円)②物価上昇を上回る賃上げの普及・定着に向けた支援等(360億円)③医療・介護の確保、DXの推進、「攻めの予防医療」の推進等(2,277億円)④創薬力強化に向けたイノベーションの推進、医薬品等の安定供給確保や品質・安全性の確保等(1,527億円)⑤次なる感染症危機等に備えた体制強化、国際保健への戦略的取組等(627億円)⑥包摂的な地域共生社会の実現等(4,683億円)の――6分野。

このうち「医療・介護等支援パッケージ」(1兆3,649億円)では、医療分野に1兆368億円、介護等分野に3,281億円を充てる(図表)。

図表:補正予算「医療・介護等支援パッケージ」の内訳
画像:図表1

(公表資料から編集部で作成)

医療分野の賃上げ支援に5,341億円

「医療・介護等支援パッケージ」で掲げられた内容をみていくと、医療従事者の処遇改善を図るため、「医療機関・薬局における賃上げ・物価上昇に対する支援」に同施策の中で最多の計上額となる5,341億円を投入する。

その内容をみると、病院への基礎的な支援については、1床あたり賃金分8.4万円と物価分11.1万円を補助する。救急病院等に対しては、基礎的な支援に加え、救急受け入れ件数に応じて、さらに加算する。具体的には救急車受入件数1件以上~1,000件未満では500万円、1,000件以上では1,500万円、2,000件以上では3,000万円、3,000件以上では9,000万円、5,000件以上では1.5億円、7,000件以上では2億円を補助する。なお、3次救急病院については、受け入れ件数にかかわらず1億円を加算し、1億円未満の加算はしない。

有床診療所への支援については、1床あたり賃金分7.2万円と物価分1.3万円の合計8.5万円を補助する。医療無床診療所と歯科診療所への支援については、1施設あたり賃金分15万円と物価分17万円の合計32万円を補助する。

病院や診療所以外にも保険薬局や訪問看護ステーションも幅広く対象に含め、手厚く支援する。保険薬局への支援をみると、1法人あたりの薬局数に応じて傾斜配分され、1~5店舗では1施設あたり賃金分14.5万円と物価分8.5万円の合計23.0万円、6~19店舗では賃金分10.5万円と物価分7.5万円の合計18万円、20店舗以上では賃金分7万円と物価分5万円の合計12万円を補助する。訪問看護ステーションでは、1施設あたり賃金分22.8万円を補助する。

施設設備費用の補助や経営支援も展開

物価高騰の影響を受けた病院等への財政支援を行う。施設設備が困難である病院への支援として、「施設整備促進支援事業」に462億円を充てる。増改築等の整備計画を進めており、国庫補助事業の交付対象となる医療機関等に対して、平方メートル数に応じた建築資材高騰分の補助を行う。

経営支援については、「福祉医療機構による優遇融資等の実施」に804億円を計上し、そのうち独立行政法人福祉医療機構が実施する無利子・無担保等の優遇融資の速やかな実行や適切な債権管理を行うための体制等の強化に564億円を計上する。物価高騰の影響を受けた医療機関が事業を継続できるよう支援を行い、地域の医療サービスの安定的な提供につなげる。

生産性向上支援に200億円

人手不足解消に向けた病院の「生産性向上に対する支援」に200億円を充てる。具体的には、業務効率化・職場環境改善に関する目標値を設定し、進捗管理を行う「業務効率化推進委員会(仮称)」を設置する。そのうえで、スマートフォンによるカルテの閲覧等、ICT機器等の導入などの取り組みを行った病院に対して、その必要経費について1病院あたり1億円を上限として助成する。

また、効率的な医療提供体制の確保を図るため、人口減少などをふまえた病床数の適正化を進める医療機関に対する財政支援として、「病床数の適正化に対する支援」に3,490億円を投入する。交付対象は一般病院、療養病院、精神病院で、削減病床1床あたり410万4,000円、休床の場合は205万2,000円を支給する。

このほか、出生数が減少するなかでも、地域で子どもを安心して産み育てることできるよう「産科・小児科医療機関等に対する支援」に72億円を盛り込み、産科施設等が一定規模の分娩取り扱いを継続するための費用を助成していく。

介護分野の処遇改善に1,920億円

介護従事者等に対する処遇改善をみると、「介護分野における物価上昇・賃上げ等に対する支援」に1,920億円を投入し、2025年12月~2026年5月までの半年分の賃金を月額1万円引き上げるための補助金を支給する。対象は処遇改善加算の対象事業所に加え、処遇改善加算の対象外であった訪問介護、ケアマネジャー等も一定の要件を満たすと支給される。

さらに、生産性向上や協働化に取り組む事業者の介護職員に対しては、月額0.5万円を上乗せして支給し、他職種と遜色ない処遇改善を行い、人材流出を防ぐ。

設備・備品の購入費用や食費補助も盛り込む

物価上昇を受けた介護事業所・施設への支援として、必要な介護サービスを円滑に継続できるように、「介護事業所等に対するサービス継続支援事業」に510億円を充てる。

そのうち、訪問・送迎など移動に伴い必要となる経費や、大規模災害に備えるため衛生用品や備蓄物資、ポータブル発電機など将来的に必要となる設備・備品の購入費用等に対する補助に278億円を計上する。

具体的にみると、介護事業所・施設に対しては1事業所20万円を支給する。訪問介護事業所は訪問回数に応じて1事業所あたり20万円、30万円、40万円、50万円の4区分の上限額を設定して支給する。通所介護では、利用者数に応じて、20万円、30万円、40万円の3区分の上限額を設定して支給する。特別養護老人ホームなどの施設では、定員1人あたり6,000円を支給する。

また、食事提供への支援については、210億円を充てる。介護老人福祉施設、介護老人保健施設などを対象に、食材料費分として定員1人に対して1.8万円の補助を行い、食事提供サービスが円滑に継続するための支援を行う。

人手不足解消に向けた生産性向上の取り組みでは、「介護テクノロジー導入・協働化・経営改善等支援事業」に220億円を充てる。見守り機器等の介護テクノロジー導入への費用補助や、小規模事業者を含む事業者グループが協働して行う職場環境改善の取り組みなどの支援、経営改善の支援に関するモデル事業を展開する。

訪問介護事業ではケアマネジャー支援など

訪問介護サービスに対する支援については、「訪問介護・ケアマネジメントの提供体制確保に対する支援」に71億円を投入し、中山間地域等における在宅介護の提供体制づくりや利用者へ必要なサービスを安定的に提供できるよう支援を行う。

「訪問介護等サービス提供体制確保支援事業」(56億円)における個別の施策をみると、「地域の体制作り支援事業」を拡充する。「訪問介護におけるタスクシェア・タスクシフトの推進支援」(5.9億円)では、都道府県等が行う訪問介護事業所と学生・若者・ボランティア団体等の地域の多様なリソースとの協働モデルの構築や業務の役割分担に関するルールの策定等を支援し、訪問介護員の負担を軽減する。

また、訪問介護事業所が存在しない中山間地域に対しては「通所介護事業所等の役割の多機能化(訪問機能の追加)の推進支援」に11億円を計上する。通所介護事業所等に訪問機能を追加するため、訪問機能の導入に向けたアドバイザーの伴走支援や訪問機能追加に必要な広告費や備品購入費等の初期費用の助成、経営安定までの定額補助費用の導入等の支援を行う。

さらに、「訪問介護事業所のサテライト(出張所)設置の推進支援」には12億円を盛り込み、中山間地域などの訪問介護事業所において、地域の需要に応じた柔軟な人員配置が可能なサテライト(出張所)の設置を促進するための伴走支援や初期費用の助成などを行う。

ケアマネジャーに対する支援では、「地域のケアマネジメント提供体制確保支援事業」に14億円を充て、地域の特性に応じたケアマネジャーの人材確保体制の構築やタスクシフト支援、事業所の規模や地域の特性に合わせた経営改善支援を行う。

障害福祉分野でも処遇改善支援や経営支援を実施

精神保健福祉士等の障害福祉分野の処遇改善については、「障害福祉分野における賃上げ・テクノロジー導入等に対する支援」に453億円を投入する。

個別の施策をみると、「障害福祉分野における賃上げに対する支援」に439億円を充てる。職員1人に対し月額1.0万円を補助し、2025年12月~2026年5月の賃上げ相当額を支給する。対象は、処遇改善加算の事業所だけではなく、計画相談支援、地域移行支援、地域定着支援など、従来は対象外のサービスについても一定要件を満たす場合に支給する。

物価上昇に対する障害福祉施設の経営支援については、「福祉医療機構による優遇融資の実施、社会福祉法人の連携・協働の推進」に106億円を盛り込む。物価高騰を受けた福祉施設等の資金繰りを支援するために、無利子・無担保等の優遇融資を行う独立行政法人福祉医療機構の体制整備を強化し、速やかな貸付の実行を図る(105億円)。

人材確保対策については、「医療・介護分野等へのマッチング支援の強化のためのハローワークの体制整備」に0.5億円を投入し、「人材確保対策総合推進事業」を拡充する。具体的には、医療・介護分野等の人材確保支援の専門窓口としてハローワーク内に設置されている「人材確保対策コーナー」を現在の119カ所から124カ所に増設する。また、アウトリーチによる事業所への求人充足支援強化のために就職支援コーディネーターを15人に増員し、体制整備を図る。

最賃引き上げに対応した中小企業の業務改善助成金に352億円

医療・介護分野以外の労働関連の施策が主に該当する「物価上昇を上回る賃上げの普及・定着に向けた支援等」では総額360億円を計上する。

施策の具体的な内容をみると、「最低賃金引上げに対応した業務改善助成金による中小企業等の賃上げ支援」に総額の9割以上を占める352億円を充てる。生産性向上に資する設備投資などを実施し業務改善を行うとともに、事業内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を一定額以上引き上げる中小企業や小規模事業者に対して、その業務改善に要した設備投資の費用の一部を助成する。

助成対象は事業内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内である中小企業事業者。助成される金額は、生産性向上に資する設備投資等にかかった費用に一定の助成率をかけた金額と助成上限額とを比較し、いずれか安いほうの金額が助成される。

生衛業者の処遇改善では価格転嫁の取り組みを支援

飲食業・美容業・クリーニング業などの生活衛生関係営業者(生衛業者)の処遇改善については、「生活衛生関係営業者の物価高騰への対応に向けた価格転嫁の取組支援等」に6.9億円を計上し、そのうち「生活衛生関係営業物価高騰等対応・経営支援事業」に5.8億円を充てる。

生衛業者の処遇の改善には、消費者や利用者に価格転嫁を受け入れてもらう必要があることから、全国生活衛生同業組合連合会による消費者・利用者に対する広報等の取り組みを支援し、生衛業者の価格転嫁を浸透させる。

また、経営状況の改善や衛生水準の適切な確保に向け、全国生活衛生営業指導センターを介した中小企業診断士による経営診断や税理士による税制優遇措置等の相談支援など専門家による多様な現場のニーズに応じた伴走型支援を実施する。

非正規雇用労働者のキャリアアップに向けてオンライン活用の職業訓練を実施

非正規雇用労働者のキャリアアップについては、全国の非正規雇用労働者等が働きながら学べる環境を整備するため、オンラインを活用した職業訓練の実施に5,000万円を充てる。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が民間教育機関等へ委託して実施する。原則2カ月以上6カ月(最長1年)の訓練期間で、オンラインで対応できる訓練コースを全国規模で展開し、正社員就職等のキャリアアップにつなげる。

(調査部)