<企業・業界団体調査 2025年7~9月期の業況実績/10~12月期の業況見通し>
悪化の要因は価格転嫁の難しさや人手不足など。来期のインバウンド需要は政治情勢が不安定要因
ビジネス・レーバー・モニター定例調査
JILPTが四半期ごとに実施している「ビジネス・レーバー・モニター調査」によると、2025年第3四半期(7~9月期)の業況実績は、「晴れ」の割合が前期から低下するなど、全体でみれば悪化となった。各モニターから寄せられた判断理由をみると、「晴れ」の業種では、インバウンド需要・行楽需要などが好調の要因となっている。「うす曇り」「本曇り」の業種では、価格転嫁の難しさや人手不足を判断要因にあげるモニターが多い。次期(10~12月期)の業況見通しは、「晴れ」が5ポイント上昇するなど改善の見込み。悪化を予想した業種はなかった。11月が全国的に冷え込んだため、秋冬物商品の販売増の期待がある。インバウンド需要は継続を見込む向きもあるが、政治情勢に不安を示す業種もある。
調査の趣旨
JILPTでは、企業および業界団体のモニターに対し、四半期ごとに業況の実績と次期の見通しを「快晴」「晴れ」「うす曇り」「本曇り」「雨」の5段階で聞き、企業モニターの回答の平均と業界団体の回答をさらに平均する(端数は四捨五入)ことで各業種の最終的な判断を算出している。そのため、個々の企業、業界団体の業況評価と必ずしも一致しない。
今回は2025年第3四半期(7~9月期)の業況実績と第4四半期(10~12月期)の業況見通しについて調査した。回答は企業と業界団体の計50組織、40業種から得た。
各企業・業界団体モニターの現在の業況
業況実績では今期は「快晴」「晴れ」が9ポイント低下
2025年第3四半期の業況実績は、回答があった40業種中、「快晴」が1(業種全体に占める割合は2.5%)、「晴れ」が7(同17.5%)、「うす曇り」が21(同52.5%)、「本曇り」が9(同22.5%)、「雨」が2(同5.0%)(表、図)。前回調査の2025年第1四半期と比べると、「快晴」と「晴れ」を合わせた割合が約9ポイント低下した。
製造業・非製造業別にみると、「快晴」は製造業がゼロで非製造業が1業種。「晴れ」は製造業が2業種で非製造業は5業種。「うす曇り」は、製造業が12業種で非製造業が9業種となっている。これに対し、「本曇り」と「雨」の業種は、製造業では合わせて5業種となっており、非製造業では合わせて6業種となっている。
表:前期及び今期の業況実績と業況見通しの概要

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図:調査開始以来の業況調査結果の推移

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今期の業況の判断理由
遊戯機器は今後も好調が続く見込み
今期、「快晴」と評価した業界は、【遊戯機器】の1業種のみ。業界団体モニターによると、コロナ以前の売り上げを超えた企業が多く、「今後この状況が大きく変わる要因はない」としている。
鉄道は通勤・通学需要の安定に加えインバウンド需要も好調を継続
「晴れ」と評価した業界は、【鉄道】【建設】【金型】【商社】【コンビニ】【情報サービス】【パン・菓子】の7業種となっている。
【鉄道】の企業モニターは、不動産事業における大型物件販売の反動減などにより、前年同期比で減収・減益となっているものの、生活サービス事業やホテル・リゾート事業が好調に推移しており、「晴れ」と判断した。
業界団体モニターも、大手の鉄道会社を中心に通勤・通学需要が安定化しているほか、観光・レジャー、インバウンド需要が継続して好調なことから「晴れ」と判断した。
建設は民間設備投資が持ち直しの動き
【建設】のA社は、「国内建設市場において公共投資の底堅い推移と、堅調な企業収益などを背景とした民間設備投資の持ち直しの動きが見られた」として「晴れ」と判断。B社も、国内建設事業において例年以上に多くの工事で損益の改善が進み、売上総利益率が大幅に改善したことから「晴れ」としている。
【金型】は、主力製品であるハードディスク関連部品の受注量・売り上げが好調となっている。
【商社】は大手7社のうち6社が前年同期比で増益となった。要因として、非資源部門の好調をあげる企業もあった。
【コンビニ】は、帰省や行楽需要が追い風となり、好調に推移した。
【情報サービス】は、経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」において、売上高がプラスで推移していることを判断理由にあげた。
食品は人手不足感が継続
「うす曇り」とした21業種では、人手不足や消費動向、国内外の需要の状況などが判断要因にあがった。
【食品】の業界団体モニターは、「日銀短観」(9月調査)での食品製造業の景況判断DIが、大企業が6(前回調査比マイナス2)、中堅企業が10(同マイナス1)、中小企業が1(同マイナス4)といずれも低下はしたが、プラス水準を維持していることから「晴れ」とした。価格転嫁は進んでいるものの、「そのことによる買い控えが生産に反映している可能性がある」という。また、人手不足感が継続しているほか、「引き続き労務費の転嫁を進めることが課題」とした。
企業モニターは、売上高・売上総利益・営業利益が前年同期を下回ったことから、「本曇り」と判断した。
電機は半導体製造装置事業やデータセンター向け蓄電システムが好調
【電機】の業界団体モニターは、重電機器について「一般産業向け汎用機器は、国内の製造業向けを中心に設備投資が堅調であり、電子部品や半導体などの設備投資減少の影響も徐々に回復している」と報告。白物家電機器では、国内出荷金額がルームエアコンで前年同期比プラス3.8%、電気洗濯機で同プラス1.4%と増加となったものの、電気冷蔵庫は同マイナス11.4%と減少した。「消費者の節約志向もあり、白物家電機器全体の前年同期比は横ばい」と報告し、全体では「うす曇り」と判断した。
企業モニターの回答をみると、A社は増収増益となったことから「晴れ」と判断。国内IT事業は堅調に推移しており、海外IT事業については、ストレージ事業がコスト削減により収益性を改善した。半導体製造装置事業も好調に推移しているとしている。B社は売上高、営業利益がともに前年同期比で増加したことを理由に「晴れ」とした。C社は生成AI関連やデータセンター向け蓄電システムが好調となっているものの、米国の関税政策の影響で車載電池の悪化がマイナス要因となったことから、「本曇り」とした。
造船・重機は防衛省向けの受注が増加
【造船・重機】は前年同期比で減益となった。事業利益は増益となったものの、円高が影響。航空宇宙システム事業は、防衛省向けや民間機向けの受注が増加したことで増収となっている。
【自動車】は、米国の関税政策の影響があるなかでも、日本・北米を中心に販売台数が増加した。
【工作機械】は、最大の需要業種である自動車関連が内外需ともに弱含みとなっているものの、航空、造船、輸送用向けがやや好調に推移。米国関税の影響が懸念されたが、「今のところ、大きな落ち込みはみられていない」。
非鉄金属はAI関連需要の拡大が継続
【非鉄金属】は、エネルギーコストはやや低減したものの、原料の購入条件などの悪化が収益に影響を与えたほか、人件費などの費用が増加。こうした理由から、上流・中流部門であるベースメタル部門は一定の収益を確保するにとどまっている。一方で下流部門は、AI関連需要の拡大が継続しており、AIサーバー向けやデータセンター関連の電子部品などの多様な商品で好調な売り上げを記録している。自動車の生産が回復基調のため、自動車向けの関連製品の売り上げも堅調となっている。
【印刷】は、当期の生産金額が前年同期比0.2%減少とおおむね横ばい。生活・産業関連の分野は堅調な動きで、個人消費の持ち直しを背景に一定の下支えが働いている。
ホームセンターは熱中症対策の関連商品が売り上げ好調
【ホームセンター】は、全国的な高温により、ファン付きウエアなどの熱中症対策関連商品の売り上げが好調となった。レジャー用品でも動きがみられた。
【事業所給食】は、コメを含めた食材価格の高騰のほか、人手不足や最低賃金の引き上げで厳しい状況が続いている。
【港湾運輸】は、米国の関税政策の影響を懸念していたが、「影響は限定的」とみている。
これらのほかに「うす曇り」と判断した業種は、【繊維】【化繊】【石油精製】【硝子】【金属製品】【電力】【百貨店】【自動車販売】【ホテル】【職業紹介】【その他】となっている。
シルバー産業は人手不足で事業休止や廃業に至る事業所が増加
「本曇り」と判断した9業種は、【シルバー産業】【紙パルプ】【道路貨物】【ゴム】【木材】【石膏】【ガソリンスタンド】【葬祭】【中小企業団体】。
判断理由をみると、【シルバー産業】は人材確保が厳しい状況が続いており、中小零細の多い居宅系介護サービス事業所では、事業休止や廃業に追い込まれるケースが増加している。
【紙パルプ】は、飲料向けでビール会社へのサイバー攻撃によるシステム障害が影響し、段ボール原紙の出荷額がマイナス。衛生用紙の国内出荷は、インバウンドの増加による人流増を背景に、宿泊・商業施設向けなどの業務用を中心に堅調に推移している。
【道路貨物】の業界団体モニターによると、燃料価格の高止まりや物価高による輸送原価の上昇分を十分に転嫁できない状態が継続している。モニターが実施した景況感調査をみても、前期から悪化している。
ゴムの中小企業は価格転嫁と人手不足に悩む
【ゴム】では、業界団体モニターが中小企業会員に実施した景況調査において、業況判断・売り上げは前期に続きプラスであるが、ともに前期より悪化している。経常利益はプラスで前期より改善している。中小企業の声を拾うと、米国関税の売り上げへの影響が出てきていることや、原材料価格の上昇分の価格転嫁が十分ではないこと、人手不足感が大きいなどの意見がある。
【木材】は、主要な需要先である戸建ての住宅着工が依然として低迷している。
熱中症対策の義務化による作業時間の短縮でセメント需要が減少
「雨」と判断した業界は【セメント】【専修学校等】の2業種。
【セメント】は、当期の国内販売が前年同期比マイナス6.7%となっている。6月から職場の熱中症対策が義務化されたことにより、現場の作業時間が短縮されて内需が減少。輸出は同プラス13.0%となった。主要マーケットの1つであるオセアニア向けが堅調となっている。
【専修学校等】は入学者数の減少を理由にあげた。
次期(2025年10~12月)の業況見通し
次期(2025年10~12月)の業況見通しについては、40業種のうち、「快晴」とする業種は1業種(業種全体に占める割合は2.5%)、「晴れ」が9業種(同22.5%)、「うす曇り」が21業種(同52.5%)、「本曇り」が7業種(同17.5%)、「雨」が2業種(同5.0%)となっている。今期と比較すると「晴れ」が5ポイント増加している。
食品の景況判断はいずれの規模でもプラス水準を維持
7~9月期から業況の好転を予想したのは、「うす曇り」から「晴れ」に引き上げた【食品】【ホテル】と、「本曇り」から「うす曇り」に引き上げた【紙パルプ】【ガソリンスタンド】の4業種。
【食品】の企業モニターは、11月に発売した新商品の売り上げに期待する。業界団体モニターによると、「日銀短観」(9月調査)での食品製造業における景況判断の見通しDIは、いずれの企業規模でもプラス水準となっている。
一方、業況の悪化を予想した業種はなかった。
ホームセンターは秋冬物商品の動きを期待
今期の判断を継続した業種は【ホームセンター】など36業種あった。
【ホームセンター】(うす曇り→うす曇り)は、11月は全国的に冷え込む日があったことから、暖房用品をはじめとする秋冬物商品の動きを期待している。
【鉄道】(晴れ→晴れ)の企業モニターは、インバウンド需要の継続を見込む。業界団体モニターは、インバウンド需要の拡大のほか、秋の行楽シーズンを迎えて外出機会が引き続き増加傾向になることから、輸送人員は安定的に推移すると予想する。
【百貨店】(うす曇り→うす曇り)は、海外顧客による時計・宝飾類の売り上げが好調だが、「今後の政治情勢による不安は残る」とした。
【職業紹介】(うす曇り→うす曇り)は、世界経済情勢の不透明感が広がっており、製造業の一部では求人が減少傾向にある。
最賃の上昇も大きな影響はないとパン・菓子
【パン・菓子】(晴れ→晴れ)の企業モニターは、最低賃金の上昇で人件費が増加しているが、大きな影響はないとみる。業界団体モニターは、気候が良くなり販売数量面ではやや回復しているが、厳しい経営環境が続くとみている。
【印刷】(うす曇り→うす曇り)は、出版印刷がコミックなど一部ジャンルで堅調となっているものの、雑誌・書籍全体では縮小基調が続いている。
【石膏】(本曇り→本曇り)の業界団体モニターによると、非住宅関係は首都圏中心の都市再開発以外は低調で、「当面は厳しい状況が続く」と予測する。


