外食産業でうつ傾向・不安の度合いが最も高い職種は「エリアマネージャー・スーパーバイザー等」
――政府が「2025年版過労死等防止対策白書」を公表
政府白書
政府は10月27日、「2024年度我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」(2025年版過労死等防止対策白書)を閣議決定し、公表した。今回は、過労死等の労災請求件数や労災支給決定(認定)の状況のほか、調査研究の重点業種の1つである外食産業のアンケート調査結果を紹介。外食産業のアンケート調査では、過去1カ月における平均的な1週間あたりの労働時間が「60時間以上」の割合が「店長」で最も高いことや、「重度のうつ・不安障害の疑い」と「うつ・不安障害の疑い」を合わせた割合が「エリアマネージャー・スーパーバイザー等」で最も高いことなどを明らかにしている。
白書は、過労死等防止対策推進法に基づき、国会に毎年報告を行う年次報告書で、今回が10回目。なお、「過労死等」の定義は、①業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡②業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡③死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害――としている。
<外食産業のアンケート調査>
「店長」では1週間あたりの平均労働時間が「60時間以上」の人が29.0%
白書は、「過労死等防止対策大綱」が調査研究の重点対象としている業種の1つである「外食産業」のアンケート調査結果を報告した。調査は、調査会社のモニターとして登録している外食産業の労働者を対象にウェブ調査方式で実施したもの。「エリアマネージャー・スーパーバイザー等」100人、「店長」200人、「店舗従業員(接客)」400人、「店舗従業員(調理)」400人、「その他」100人のデータを得て、集計した。
調査結果をみると、過去1カ月における平均的な1週間あたりの労働時間で、「60時間以上」の人の割合は14.9%。職種別では、「店長」が29.0%で最も高く、「エリアマネージャー・スーパーバイザー等」が24.0%で続き、「店舗の責任者において長時間労働の傾向が認められた」(白書)。
過去1年間で最も忙しかった1週間あたりの労働時間をみると、「60時間以上」と答えた人は28.8%と3割近くいた。職種別にみると、「60時間以上」の割合は「店長」(49.0%)が最も高く、次いで「エリアマネージャー・スーパーバイザー等」(37.0%)が高い。
「60時間以上」の割合が最も高い業態は「パブレストラン/居酒屋・バー」
過去1カ月における平均的な1週間あたりの労働時間を業態別にみると、「60時間以上」の割合が最も高いのは「パブレストラン/居酒屋・バー」で18.7%。次いで高いのは「ディナーレストラン/専門飲食店」(18.2%)で、これに「その他」(13.5%)、「カフェ・喫茶店」(13.3%)、「ファミリーレストラン」(10.7%)などと続き、「夜の時間帯を中心に営業している業態において長時間労働の傾向が認められた」(白書)。
過去1年間で最も忙しかった1週間あたりの労働時間を業態別にみると、「60時間以上」の割合が最も高いのは「ディナーレストラン/専門飲食店」(37.6%)で、これに「パブレストラン/居酒屋・バー」(29.8%)、「その他」(27.1%)、「ファミリーレストラン」(25.4%)などと続いた。
労働時間が把握されていない人は13.0%
労働時間の把握方法をみると、「把握していない」は13.0%と1割程度。把握方法としては「タイムカード、ICカード」が42.5%で最も割合が高く、「PCログイン・ログアウト」(17.8%)、「出勤簿」(14.1%)などの順となっている。
労働時間の把握の正確性についての認識をみると、「正確である」が33.6%、「おおむね正確である」が43.5%、「あまり正確でない」が10.3%、「全く正確でない」が5.6%で、「正確である」と「おおむね正確である」を合わせた割合は77.1%と8割近くとなっている。
カスハラ経験者の割合は18.8%
カスタマーハラスメントの経験をみると、「経験あり」という人は18.8%と約2割。職種別にみると、「エリアマネージャー・スーパーバイザー等」の30.0%が最も高く、次いで「店舗従業員(接客)」(21.3%)、「店長」(19.5%)などの順だった。
カスタマーハラスメントについて「経験あり」と回答した人に経験頻度を聞くと、「時々」が67.6%で最も割合が高く、「1度だけ」が23.1%、「何度も繰り返し」が9.3%となっている。
経験したカスタマーハラスメントの種類をみると(複数回答)、「継続的な執拗な言動(頻繁なクレーム、同じ質問を繰り返す等)」(53.8%)の割合が最も高く、「威圧的な言動(大声で攻める、反社会的なものとのつながりをほのめかす)」(48.4%)が次いで高い。
エリアマネージャーはパワハラ・セクハラ経験も高い傾向
パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントを受けた経験についても、責任の重い「エリアマネージャー・スーパーバイザー等」の割合が高い傾向にある。パワハラ6類型の経験割合は、「精神的な攻撃」22.0%、「過大な要求」および「過小な要求」20.0%、「個の侵害」18.0%、「人間関係からの切り離し」17.0%、「身体的な攻撃」12.0%と、すべての項目で産業全体より高い。セクハラの経験割合も14.0%あり、産業全体(6.8%)と差が開いている。
店長は経費の上昇、エリアマネジャーは欠勤従業員の埋め合わせなどがストレスに
業務に関連するストレスや悩みを職種別にみると(複数回答)、「店長」では「経費(光熱費・材料費等)の上昇」(32.0%)や「売上・業績等の悪化」(30.0%)の割合が他の職種に比べて高かった。「店舗従業員(接客)」では「客からの苦情等」(18.8%)が他の職種に比べて高く、「エリアマネージャー・スーパーバイザー等」では「欠勤した他の従業員の埋め合わせ」(30.0%)などが他の職種に比べて高かった。
何らかの精神的な問題の程度を表す指標で、米国のKesslerらが開発したK6を利用して、うつ傾向・不安を職種別にみると、「重度のうつ・不安障害の疑い」(14.6%)と「うつ・不安障害の疑い」(17.0%)を合わせた割合は31.6%と約3割にのぼった。 両者を合わせた割合を職種別にみると、同割合が最も高いのは「エリアマネージャー・スーパーバイザー等」の39.0%で、「店舗従業員(調理)」が35.3%で次いで高い。一方、「店長」は25.0%で最も低かった。
仕事そのものに対する満足度は高い状況
複数の項目それぞれについて仕事の満足度をみると、「満足」と「やや満足」を合わせた割合は「仕事の内容・やりがい」が44.0%で最も高く、「仕事そのものに対する満足度が高いことが認められた」(白書)。次いで高いのは「人間関係、コミュニケーション」の39.9%となっている。一方、「不満」と「やや不満」を合わせた割合は「賃金・福利厚生」が35.4%で最も高く、次いで「人事評価・処遇のあり方」(28.0%)、「労働時間・休日等の労働条件」(27.8%)などの順となり、「総じて待遇面や労働環境に関する不満が多い結果となった」(白書)。
「仕事の内容・やりがい」の満足度を職種別にみると、「満足」と「やや満足」を合わせた割合は、「その他」を除けば「店長」が54.5%で最も高く、次いで「店舗従業員(接客)」(46.1%)で高かった。一方、同割合が最も低かったのは「店舗従業員(調理)」(33.3%)で、「店舗従業員(調理)」は「不満」と「やや不満」を合わせた割合が最も高い。
「賃金・福利厚生」の満足度についても職種別にみると、「不満」と「やや不満」を合わせた割合が「店舗従業員(調理)」(42.8%)で最も高かった。
これらの調査結果から白書は、「各職種の置かれた立場や状況を踏まえ、ハラスメント防止対策に加え、長時間労働対策についても引き続きしっかり取り組むことが必要」だと指摘。また、「『店舗従業員(調理)』は、『職業生活全体』や『賃金・福利厚生』について、他の職種に比べ、不満と回答した者が多いことから、人材確保の観点からも改善が重要」だとしている。
<民間雇用労働者等の労災補償の状況>
脳・心臓疾患の請求件数は2023年度から2年連続で1,000件台
民間雇用労働者の業務災害の労災補償状況をみると、業務における過重な負荷により、脳血管疾患・虚血性心疾患等(脳・心臓疾患)を発症したとする労災請求件数は、2020年度(784件)~2022年度(803件)の期間に減少したものの、2023年度(1,023件)に大きく増加。2024年度は1,030件と2023年度から7件増加した。
業務災害にかかる脳・心臓疾患の労災支給決定(認定)件数は、2022年度以降、増加傾向にあり、2024年度は241件と、2023年度から25件増加した。
認定件数のうち死亡事案は、2024年度は67件(27.8%)と2023年度から9件増加。死亡以外の事案は174件(72.2%)と16件増加した。
精神障害の請求件数は2024年度で3,780件
一方、業務における強い心理的負荷による精神障害を発病したとする労災請求件数は、年々増加を続けており、特に2023年度(3,575件)に大きく増加した後、2024年度は3,780件と、2023年度から205件増加した。
業務災害にかかる精神障害の認定件数は、2019年度以降増加傾向にあり、2024年度は1,055件と、2023年度から172件増加した。172件の増加は、2022年度(710件)~2023年度(883件)の増加幅173件に次ぐ増加件数となっている。
2024年度の認定件数1,055件のうち、自殺(未遂を含む)事案は88件(8.3%)で、2023年度から9件増加。2010年度の認定件数を100とした場合の推移をみると、自殺(未遂を含む)事案は、2014年度に152.3まで上昇した後、やや減少傾向となっていたが、2023年度が121.5、2024年度が135.4と上昇した。自殺以外の事案は967件(91.7%)と2023年度から163件増加。自殺以外の事案は増加傾向であり、2024年度は397.9と2010年度の約4倍となった。
精神障害(自殺以外)の請求件数は近年、女性が男性を上回る
精神障害事案での労災保険給付の請求件数(3,780件)を男女別にみると、男性が1,817件(48.1%)で、女性が1,963件(51.9%)。男性の総数1,817件のうち、自殺(未遂を含む)事案は169件(9.3%)で、自殺以外の事案が1,648件(90.7%)。女性の総数1,963件のうち、自殺(未遂を含む)事案は33件(1.7%)で、自殺以外の事案は1,930件(98.3%)となっている。自殺以外の請求事案では、男女とも件数が年々増加し続けており、近年は「女性」が「男性」を上回る水準となっている。
精神障害の自殺事案での請求件数が最も多いのは「製造業」
精神障害事案での労災保険給付の請求件数を業種別にみると、自殺(未遂を含む)事案については、「その他の事業(上記以外の事業)」を除くと、「製造業」が46件(1.2%)で最も多く、「卸売業、小売業」が33件(0.9%)、「建設業」が28件(0.7%)など。
自殺以外の事案では、「その他の事業(上記以外の事業)」を除くと、「医療、福祉」が969件(25.6%)で最も多く、次いで「製造業」が537件(14.2%)、「卸売業、小売業」が512件(13.5%)などとなっている。
出来事別の労災決定件数は「対人関係」が最多、認定では「パワハラ」が最多
出来事別の労災決定件数をみると、2024年度は「対人関係」が1,519件で最も多く、「仕事の量、質」が519件、「パワーハラスメント」が389件。「対人関係」は特に2023年度(972件)から2年連続で大きく増加した。
また、支給決定(認定)件数をみると、2024年度は「パワーハラスメント」が224件で最も多く、「仕事の量、質」が 209件、「対人関係」が197件などとなっている。
国家公務員の精神障害の認定件数は7件
国家公務員・地方公務員の公務災害の補償状況をみると、国家公務員の脳・心臓疾患の認定件数は、2024年度は1件(前年度3件)で、精神障害の認定件数は7件(同6件)。
地方公務員の脳・心臓疾患の認定件数は、2024年度は8件(前年度11件)で、精神障害の認定件数は70件(同75件)だった。
<労働時間やメンタルヘルス対策等の状況>
勤務間インターバル制度の導入割合は5.7%で前年から低下
労働時間やメンタルヘルス対策等の状況のなかから、勤務間インターバル制度(終業時刻から次の始業時刻までの間に一定時間以上の休息時間を設けること)の導入状況などについてみていくと、勤務間インターバル制度を導入している企業(就業規則または労使協定等で定めているもの)の割合は、2024年では5.7%と前年から0.3ポイント減少した。「制度を知らない」と回答した企業は14.7%と前年から4.5ポイント減少した。
なお、過労死等防止対策大綱では、労働者数30人以上の企業のうち、2028年までに勤務間インターバル制度を導入している企業割合を15%以上とすること、勤務間インターバル制度を知らなかった企業割合を5%未満とすることを目標としている
制度の導入状況を企業規模別にみると、規模が大きいほど「導入している」と「導入を予定又は検討している」を合わせた割合が高くなっており、「30~99人」ではそれぞれ4.8%、13.8%にとどまるが、「1,000人以上」では16.1%、21.1%となっている。
勤務間インターバル制度の導入割合が最も高い業種は「情報通信業」
産業別にみると、「導入している」割合は、「情報通信業」が10.0%と最も高く、次いで、「金融業、保険業」が9.4%、「運輸業、郵便業」が8.1%などとなっている。「導入を予定又は検討している」は、「運輸業、郵便業」が29.3%と最も高く、「建設業」が24.0%で次いで高い。
「制度の導入の予定はなく、検討もしていない」は、「複合サービス事業」が91.1%と最も高く、次いで「鉱業、採石業、砂利採取業」が89.8%、「教育、学習支援業」が87.5%などとなっている。
制度の導入の予定はなく、検討もしていない企業に、導入していない理由を聞くと、「超過勤務の機会が少なく、当該制度を導入する必要性を感じないため」が57.6%で最も割合が高く、次いで「当該制度を知らなかったため」(18.7%)、「人員不足や仕事量が多いことから、当該制度を導入すると業務に支障が生じるため」(10.4%)などが高い。
「制度を知らなかったため」と回答した企業の割合を産業別にみると、「宿泊業、飲食サービス業」(30.4%)、「学術研究、専門・技術サービス業」(24.4%)、「建設業」(21.9%)などの順で高くなっている。
メンタルヘルス対策に取り組む事業所の割合は63.2%
メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は、2024年は63.2%。事業所規模別にみると、50人以上の事業所はいずれの規模区分も9割を超えている一方、10人~29人の事業所は55.3%となっている。なお、過労死等防止対策大綱では、2027年までにメンタルヘルス対策に取り組む事業場の割合を80%以上とすることを目標としている。
メンタルヘルス対策として「ストレスチェックの実施」に取り組んでいる企業は65.3%。過労死等防止対策大綱では、2027年までに使用する労働者数50人未満の小規模事業場におけるストレスチェック実施の割合を50%以上とすることを目標としているが、50人未満の事業場では同割合は33.5%だった。
白書は以上の内容のほか、2022年度までの労災支給決定(認定)事案及び公務災害認定事案(国家公務員は2023年度)の分析なども収録している。
(調査部)


