【茨城】(常陽産業研究所)
小売業から異常気象による消費マインド低迷の声も。進まない非製造業での価格転嫁
地域シンクタンク・モニター定例調査
茨城県の経済動向は、4~6月期は業況判断の動きをもとに、モニターである常陽産業研究所は【横ばい】とした。小売業では、これまでの物価高に加えて異常気象による消費マインドの低迷を指摘する声が多くあがっている。7~9月期は、業況判断が製造業で悪化しており、【やや悪化】。雇用動向は、求人が底堅く推移していることから、4~6月期の実績は【やや好転】とした。7~9月期の見通しは雇用判断DIの動きをもとに【横ばい】としている。モニターが実施した調査によると、夏の賞与では3割超の企業が昨年から支給額を増額。また、価格転嫁は非製造業において進んでおらず、消費者の反発を懸念して価格転嫁をためらう企業もある。
<経済動向>
企業の業況判断は前期から横ばい、米国関税政策影響の声も
モニターが実施した「県内主要企業の経営動向調査(4~6月期)」によれば、県内企業の景況感をあらわす自社業況総合判断DIは「悪化」超18.7%と、前期から約2ポイント上昇した。業種別にみると、製造業は「悪化」超21.8%で約4ポイント上昇、非製造業は「悪化」超16.6%で横ばいとなっている。この結果をもとにモニターは、4~6月期の地域経済を【横ばい】と判断した。
調査に回答した企業からは、製造業では「円安や異常気象による原料高・人件費高騰に対し、価格転嫁ができていない。コストダウン対策等の社内活動により利益を確保しなければならない状態」(食料品)、「製造原価部分で、部材の仕入単価、人件費の高騰で原価率が3%程度上がる」(電子部品・デバイス)など、コスト高や価格転嫁の難しさを指摘する声が多く聞かれた。また、一部の企業からは「川上の取引先より中国や北米向け商品関連の受注が増加した。米トランプ関税に対する駆け込み需要とみられる」(はん用機械)、「米トランプ関税の影響で、すでに得意先では受注が減少しており、当社にも影響が出る見込み」(はん用機械)といった、米国の関税政策の影響により受注状況が左右されたという声が聞かれた。
一方、非製造業の企業からは、「天候に恵まれず、季節商品、白物家電の売り上げが想定より弱い」(家電量販店)、「催事やセールにより集客は良いものの、不安定な気温差により季節商材が鈍い」(小売業)など、これまでの物価高に加え、異常気象による消費マインドの低迷を指摘する声が多くあがっている。
製造業で先行きの業況が大幅悪化の見通し
7~9月期については、自社業況総合判断DIは全産業で「悪化」超22.4%と、4~6月期から約4ポイント低下する見通し。これを業種別にみると、製造業は「悪化」超35.5%で今期から約14ポイント低下、非製造業は「悪化」超13.7%でおおむね横ばいの見込みとなっている。
モニターは「先行きは米トランプ政権の政策をはじめとする海外経済の動向、海外における地政学リスク、金融・為替市場の動向、国内の物価・賃金の動向、県内企業の価格転嫁の動向などを注視する必要があるだろう」とコメントしたうえで、判断を【やや悪化】とした。
仕入価格は前年から上昇するが、販売価格へ転嫁している企業割合は減少
モニターは6月、県内企業に対して「仕入価格等の動向に関する企業調査」を実施している。それによると、前年と比べた仕入価格は「上昇した」が69.8%と最も高く、次いで「変わらない」が22.0%、「わからない」が6.6%、「低下した」が1.6%だった。「上昇した」割合は前回調査(2024年12⽉)比1.6ポイント低下と、おおむね横ばいだった。
仕入価格の上昇の転嫁状況を尋ねたところ、販売価格へ「転嫁している」は58.4%で、前回調査比で9.9ポイント低下した。「転嫁している」と「転嫁予定」を合わせた「価格転嫁意向あり」は87.6%と、前回調査から横ばい。業種別にみると、「転嫁している」は製造業が同0.5ポイント低下に対し、⾮製造業は同16.9ポイント低下となっており、特に非製造業で価格転嫁が進んでいない状況がうかがえる。
7割超の企業で人件費が「上昇した」、価格転嫁している割合は4割弱
また、前年と比べた人件費の動向を尋ねたところ、「上昇した」が74.4%と最も高く、次いで「変わらない」が20.0%、「わからない」が5.0%、「低下した」が0.6%となっている。「上昇した」は前回調査比でおおむね横ばい。
人件費上昇分の価格転嫁動向をみると、「転嫁している」は38.1%で、前回調査に比べ4.8ポイント低下した。また、人件費上昇分の価格転嫁率は「1〜20%」が48.3%で最も高く、約半数を占めた。
販売数量が減って、「値上げしないほうがよかった」とする企業も
調査に回答した企業からは、仕入価格の動向に関して「ほぼ全ての商品と配送費が10〜20%上昇」(小売業)、人件費に関して「最低賃金の上昇により、人件費負担は大幅に増える」(製造業)などの声があった。
価格転嫁に関しては、「得意先の値上げに対する理解はあるが、全て転嫁すると販売数量が減少し、値上げしないほうがよかったという状況もある」(製造小売業)など、消費者の反発を懸念して価格転嫁をためらう声が多く聞かれた。
調査結果についてモニターは、「各企業には、県などの支援策を効果的に活用しつつ、価格転嫁交渉を継続的に進めるとともに、商品やサービスの付加価値向上をさらに追求していくことが望まれる」とコメントしている。
<雇用動向>
有効求人倍率が3カ月連続で低下
4月の雇用動向をみると、有効求人倍率は1.21倍(前月比マイナス0.04ポイント)と3カ月連続で低下したほか、新規求人倍率は1.91倍(同マイナス0.24ポイント)で2カ月ぶりに低下した。
4月の新規求人数は前年同月比マイナス9.8%と、4カ月連続で前年水準を下回った。新規求人数(パートを除く)の内訳を業種別にみると、「学術研究、専門・技術サービス業」(前年同月比プラス67.9%)、「生活関連サービス業・娯楽業」(同プラス8.7%)などが増加した一方、「宿泊業・飲食サービス業」(同マイナス60.2%)、「情報通信業」(同マイナス43.0%)、「卸売業・小売業」(同マイナス15.8%)、「運輸業・郵便業」(同マイナス11.6%)などが減少した。
雇用保険受給者数は4月が前年同月比マイナス0.4%で、小幅ながら3カ月ぶりに前年を下回った。
従業員数判断BSIは「不足気味」超幅が拡大
関東財務局水戸財務事務所「法人企業景気予測調査」によると、茨城県の4~6月期の従業員数判断BSIは36で、前期から「不足気味」超幅が約9ポイント拡大した。
「県内主要企業の経営動向調査結果(4~6月期)」によると、雇用判断DIは「減少」超3.0%で前期から約11ポイント上昇した。業種別にみると、製造業が「減少」超2.5%で前期から約12ポイント上昇、非製造業が「減少」超3.4%で前期から約9ポイント上昇となっている。
調査に回答した企業からは、「高齢化による定年退職で、受注や売り上げが減少する可能性がある」(はん用機械製造業)、「同業の後継者不足で品物が製造困難になり、弊社に依頼が来る」(化学製造業)など、高齢化や後継者不足により、受注や売り上げに影響を及ぼす可能性を指摘する声もあがっている。
モニターは「県内の広告求人件数も前年水準を上回って推移しており、民間職業紹介を含めた県内の求人動向は底堅く推移している」とコメントし、4~6月期の雇用の実績を【やや好転】と判断した。
雇用動向の先行きはおおむね横ばいの見通し
同調査の先行きの雇用判断DI(7~9月期)をみると、「減少」超5.6%で今期からおおむね横ばいとなっている。業種別では、製造業が「減少」超7.6%と今期から約5ポイント低下、非製造業が「減少」超4.3%で、ともに今期からおおむね横ばいの見通しとなっており、モニターはこの結果をもとに7~9月期の雇用動向を【横ばい】と判断した。
夏の賞与が増加した企業割合が3年連続で3割超に
モニターは6月に県内企業に対して「夏期賞与に関する企業調査」を実施している。それによると、2025年の夏期賞与の支給状況(総額ベース、前年比)は「横ばい」が40.3%で最も高く、次いで「増加」が32.3%、「未定」が11.8%、「支給しない」が9.1%、「減少」が6.5%だった。「増加」が3割を超えるのは3年連続。
夏季賞与の支給理由(複数回答)については、「従業員の意欲の維持・向上」(78.8%)が最も高く、次いで「従業員の生活の質の維持・向上」(61.6%)、「従業員の貢献・能力の評価」(58.9%)、「従業員の離職防止」(51.4%)などとなっている。
調査に回答した企業からは、「継続安定支給はモチベーション維持に欠かせない」(電気機械製造業)、「人材の確保とモチベーション維持のため、零細企業も最低限アップをせざるを得ない」(医療・福祉業)、「業績が厳しい中でも、人材の確保や流出防止のために賞与支給することはやむを得ない」(運輸・倉庫業)など、従業員のモチベーションの維持や、離職防止のために夏季賞与を支給するという声が多く聞かれた。


