キャリアコンサルタントは「解決型」支援だけでなく、「開発型」支援の能力向上を
 ――厚生労働省の「経済社会情勢の変化に対応したキャリアコンサルティングの実現に関する研究会」が中間とりまとめ

キャリアコンサルティング

経済社会情勢の変化に対応したキャリアコンサルティングに必要な能力や、キャリアコンサルタントがその能力を得るために有効な施策のあり方などについて検討してきた厚生労働省の「経済社会情勢の変化に対応したキャリアコンサルティングの実現に関する研究会」(座長:坂爪洋美・法政大学キャリアデザイン学部教授)は7月4日、中間とりまとめを行った。今後のキャリアコンサルティングに必要な能力として、中間とりまとめは、労働者のニーズなども変化していることから、「解決型」の支援の能力だけでなく、労働者が自らキャリアを形成する力を身につけることを支援する「開発型」の支援の能力が求められるなどと指摘した。最終報告のとりまとめは、年内をめどに行う予定だとしている。

キャリアの多様化が進み、自律的人材の育成が求められる方向に

中間とりまとめはまず、キャリアコンサルティングをとりまく状況を整理。仕事に対する価値観や生活スタイルの多様化が進み、職業人生も長期化するなかで、労働者のキャリアの多様化が進展しているとした。一方、企業では、人材の最適配置やエンゲージメント向上を通じた持続的な成長の実現に向けて、働く人々が意欲を持って継続的に成長できる環境を整え、キャリア形成や能力開発に自ら取り組む自律的人材の育成を進めることが求められているとした。

また、DXやAI技術の進展により、労働需要が大きく変化するとともに、さまざまな職種において業務内容と必要とされるスキルの急激な変化が進んでいるとの見方を示した。

こうしたなかで、労働者が生涯にわたり充実した職業人生を送るためには、「労働者が自身の将来のキャリアについて考え、主体的に能力開発に取り組み、必要に応じて内部・外部労働市場において自らの能力をより発揮できる仕事に移動していく『キャリア自律』に取り組むことが不可欠」と強調。さらに、労働者のキャリア自律に向けた取り組みを支援するキャリアコンサルタントに対する期待はますます高まっているとし、「その活動の場が、企業や需給調整機関のほか、学校、行政機関、各種支援機関など、様々な領域に広がるにつれ、キャリアコンサルタントには、それぞれの活動領域に応じた専門性が求められるようになっている」と言及した。

自分を高め続けられる力を養うコンサルティング能力が必要に

そのうえで中間とりまとめはまず、今後のキャリアコンサルティングに必要な能力を説明。経済社会情勢や労働者自身のニーズの変化が激しい現在において、キャリアコンサルタントには、自らのキャリア形成について問題を抱えた労働者に対する「解決型」の支援だけでなく、労働者が自ら目指す姿を設定し、その実現に向けた課題を明らかにしたうえで、課題の達成に向けて取り組み、最終的には労働者が自らキャリアを形成する力を身につけることを支援する「開発型」の支援を行うことが求められると述べた。

このためキャリアコンサルタントには、「労働者が経済社会情勢の変化を理解した上で自己洞察を促す面談を行い、労働者がキャリアを自ら決定していくとともに、自分を継続的に高め続ける力を養うキャリアコンサルティングを行える能力が必要」だと指摘。

こうした支援を行う際には、労働者に対して業界や職業の現状や将来の予測についての情報を提供するほか、将来のキャリアへの期待を持ってもらえるように具体的な選択肢を提示したうえで、能力開発の方向性の助言を行うとともに、新規就職や社内での職種転換・再配置によるキャリア形成支援、転職・再就職・起業など企業外への移動におけるマッチング支援を行うことが求められるとした。

マッチング支援においては、単に希望や能力に応じた労働移動先を提示するだけでなく、「労働者の自己理解・仕事理解・環境理解が進むよう支援するとともに、労働者が在籍する企業や求人者に対しても、自社や業界、社会環境の理解が深まるよう働きかけや提案等を行うことにより、条件の再調整を図っていくことが重要」だとしたほか、労働者への支援にあたっては、「職種変更等の大きな変化を求められる労働者の心理的受容に対する支援もあわせて行うことが重要」だとした。

社員のキャリア自律は企業経営にもプラスの効果

企業内で活動するキャリアコンサルタントが果たすべき役割については、社員のキャリア自律は企業経営にもプラスの効果があることや、キャリア自律は必ずしも他社への転職を前提としたものではなく転職を防ぐ効果もあることなどについてデータやメカニズムも含めて関係者に説明することにより、「企業の理解を促し、社員のキャリア自律を企業として支援するよう働きかけることが重要」だと強調。

また、労働者を取り巻く環境が激しく変化するなかにおいては、「労働者自身の将来のキャリア形成に対する意識や保有スキルの状況を定期的にチェックする仕組みの導入・活用が効果的」だと述べた。

定期的なチェックの仕組みにより、労働者のキャリア自律に向けた意識の向上や労働者自身をとりまく環境に対する理解の促進が図られるとともに、保有スキルが可視化され、企業による能力開発支援や適切な人材配置が円滑に行われるようになることが期待できるとした。

キャリアコンサルタントもAIの効果的な活用など多様な能力の会得を

キャリアコンサルタントの能力開発の促進についても触れた。

経済社会情勢が激しく変化するなかでは、例えば、倫理面にも留意しつつAIを適切かつ効果的に活用してキャリアコンサルティングを行える能力など、さまざまな能力を身につけることが期待されていると指摘。現在、キャリアコンサルタントの能力開発は、養成講習においてすべてのキャリアコンサルタントに求められる基礎的な能力を身につけた後、更新講習においてより高度な能力を身につけ、さらに、現場で実際にキャリアコンサルティングを行うなかで実践的な能力を身につける仕組みになっているが、中間とりまとめは「活動領域ごとに求められる能力を体系的に身につけられるような仕組みにはなっていない」と言及した。

そのため、キャリアコンサルタントの能力開発を促進するためには、「その活動領域とレベルに応じて必要な講習を受けられるようになっていることが必要」だとするとともに、講習だけでなく、現場で実際にキャリアコンサルティングを行うなかでの実践的な学びが行われる機会を設けることも重要だと強調した。

十分な理解が進んでいないキャリアコンサルティングの意義・効果

キャリアンコンサルタントの活用促進も提起した。

キャリアコンサルタントとして登録している者の約3割はキャリアコンサルティングに関連する活動を行っていないが、その理由は、「キャリアコンサルティングとは関係のない組織、部署等に所属している」「周囲にキャリアコンサルティングの仕事(ニーズ)がない」などが多い。また、企業がキャリアコンサルティングを実施しない理由としては、「労働者からの希望がない」が最も多い。

こうした状況について中間とりまとめは、「キャリアコンサルティングの意義や効果について、労働者のみならず、経営者や管理職においても十分に理解が進んでいないことに起因」するとし、「ニーズが存在しないことを意味するものではない」との見方を提示。実際には、制度や機会の認知不足や相談経験の乏しさが、活用へのハードルとなっている場合も多いとし、「多様な立場の関係者がキャリア支援の価値を理解し、実際に体験する機会を拡充していくことが、今後の活用促進に向けて重要」だと提言した。

こうしたなか、キャリアコンサルティングのさらなる活用を図るためには、さまざまな場面での具体的な活用事例やキャリアコンサルティングの意義・効果について、労働者、企業、学校等教育機関、各種支援機関などをはじめ、広く一般に周知することが必要だと強調。

また、職業能力開発推進者の選任や事業内職業能力開発計画の作成といった職業能力開発促進法の措置について、役割や重要性、キャリアコンサルタントとの関係についてわかりやすく示し、現場で実践されるよう促すことによって、「キャリアコンサルタントの活躍の機会の創出に寄与することが期待される」とした。さらに、ITなど専門性の高い業種に精通したキャリアコンサルタントの活躍を促進することも有効だと主張した。

(調査部)