<企業・業界団体調査 2025年4~6月期の業況実績/7~9月期の業況見通し>
インバウンド需要が続くも、人手不足もあり今期の業況は悪化。来期は猛暑の影響の判断が業種で分かれる
ビジネス・レーバー・モニター定例調査
JILPTが四半期ごとに実施している「ビジネス・レーバー・モニター調査」によると、2025年第2四半期(4~6月期)の業況実績は、「晴れ」の割合が前期から低下するなど、全体でみれば悪化となった。各モニターから寄せられた判断理由をみると、「晴れ」の業種では、インバウンド需要や猛暑の影響による売上増が好調の要因となっている。「うす曇り」「本曇り」「雨」の業種では、人手不足のほか、6月から義務化された職場での熱中症対策の影響が判断要因にあがった。次期(7~9月期)の業況見通しは、「晴れ」「本曇り」の割合が低下した一方で、「うす曇り」が約12ポイント上昇し、今期よりも判断のバラツキが小さくなった。猛暑の影響については、パン・菓子の業界は消費減衰を懸念する一方、ホームセンターの業界は冷房用品の売上増に期待を寄せる。
調査の趣旨
JILPTでは、企業および業界団体のモニターに対し、四半期ごとに業況の実績と次期の見通しを「快晴」「晴れ」「うす曇り」「本曇り」「雨」の5段階で聞き、企業モニターの回答の平均と業界団体の回答をさらに平均する(端数は四捨五入)ことで各業種の最終的な判断を算出している。そのため、個々の企業、業界団体の業況評価と必ずしも一致しない。
今回は2025年第2四半期(4~6月期)の業況実績と第3四半期(7~9月期)の業況見通しについて調査した。回答は企業と業界団体の計52組織、42業種から得た。
各企業・業界団体モニターの現在の業況
業況実績では今期は「快晴」がゼロ
2025年第2四半期の業況実績は、回答があった42業種中、「快晴」がゼロ、「晴れ」が12(業種全体に占める割合は28.6%)、「うす曇り」が19(同45.2%)、「本曇り」が9(同21.4%)、「雨」が2(同4.8%)(表、図)。前回調査の2025年第1四半期と比べると、「快晴」と「晴れ」を合わせた割合が約6ポイント低下した。
製造業・非製造業別にみると、「快晴」は製造業・非製造業ともにゼロ。「晴れ」は製造業が6業種で非製造業も6業種。「うす曇り」は、製造業が9業種で非製造業が10業種となっている。これに対し、「本曇り」と「雨」の業種は、製造業では合わせて4業種となっており、非製造業では合わせて7業種となっている。
表:前期及び今期の業況実績と業況見通しの概要
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図:調査開始以来の業況調査結果の推移
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今期の業況の判断理由
鉄道は交通のほかホテル・リゾート事業も好調
今期、「晴れ」と評価した業界は、【鉄道】【コンビニ】【遊戯機器】【ホテル】【情報サービス】【電機】【造船・重機】【建設】【自動車】【金型】【パン・菓子】【非鉄金属】の12業種となっている。
【鉄道】の企業モニターは、不動産事業における大型マンション販売の反動減などにより、前年同期比で減収・減益となっているものの、交通事業やホテル・リゾート事業を中心に良好な事業環境が継続しており、「晴れ」と判断した。
一方、業界団体モニターは、大手の鉄道会社を中心に、通勤・通学需要の安定化と観光・レジャー、インバウンド需要の回復が業績を押し上げたものの、燃料費・人件費の高止まりや設備投資負担などが収益性に影響を与えており、「業界全体としては回復基調ながらも課題が残る状況」にあるとして、「うす曇り」と判断。そのため、【鉄道】の総合的な判断は「晴れ」となった。
コンビニは行楽需要でおにぎりなどが売り上げに貢献
【コンビニ】は、大型連休による行楽需要でおにぎりやドリンク、カウンター商材などの売り上げが好調に推移した。6月は猛暑となり、特に冷たい麺やドリンクの売り上げが好調となった。また、インバウンド客は観光地だけでなく、全国のコンビニ店舗にも訪れている。過去には訪日客が発信したSNSの影響で世界的に人気となった商品もあるなか、商品のローマ字表記の追加など、わかりやすい表記への変更を行うことで、インバウンド需要のさらなる取り込みに注力している。
【遊戯機器】は、インバウンド旅行者によるアミューズメント施設の利用が堅調となっている。
【ホテル】は売上高・利益ともに前年同期を上回った。
【情報サービス】は、経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」において、売上高がプラスで推移していることを判断理由にあげた。
電機は猛暑でエアコンの出荷が好調
【電機】の業界団体モニターは、重電機器について「一般産業向け汎用機器は、国内の製造業向けを中心に設備投資が堅調であり、電子部品や半導体などの設備投資減少の影響も徐々に回復しており、生産額は前年同期を上回った」と報告。白物家電機器も、猛暑でルームエアコンの出荷が好調であり、全体として「晴れ」と判断した。
企業モニターの回答をみると、A社は為替や米国の関税政策の影響はあるものの、増収増益となったことから「晴れ」と判断。B社は売上高、営業利益がともに前年同期比で増加したことを理由に「晴れ」とした。C社は生成AI関連やデータセンター向け蓄電システムが好調を継続しているものの、人件費、物流費、エネルギーコストの上昇がマイナス要因となったことから「うす曇り」とした。
車両事業分野で鉄道車両への投資が再開
【造船・重機】は、前年同期比で増益となった。車両事業分野では、インバウンドの復調などにより鉄道車両への投資が再開したことで、売上収益が増加した。
【建設】のA社は、「国内建設事業において、土木・建築事業ともに大型工事の施工が順調に進捗し、売上総利益率も改善傾向が継続した」として「晴れ」と判断。B社は、大きな動きがないことから「うす曇り」としている。
【自動車】は、米国の関税政策をはじめとする厳しい外部環境下においても、前年同期比の販売台数が増加している。
【金型】は、AIの急速な発展にともない世界的にデータセンターの建設が急増しており、そこで使用されるハードディスク関連のプレス製品の受注が増加している。
食品は引き続き労務費の転嫁が課題
「うす曇り」とした19業種では、人手不足や猛暑が判断要因にあがった。
【食品】の業界団体モニターは、「日銀短観」(6月調査)での食品製造業の景況判断DIが、大企業が8(前回調査比変化なし)、中堅企業が11(同プラス5)、中小企業が5(同プラス1)と、いずれもプラス水準を維持していることから「晴れ」とした。ただし人手不足感は継続しており、「引き続き労務費の転嫁を進めることが課題」とした。
企業モニターは、売上高・売上総利益・営業利益が前年同期を下回ったことから「本曇り」と判断した。
熱中症対策義務化で空調服・ファン付きウェアの売り上げが伸びる
【ホームセンター】は、4月は気温が低かったため、園芸用品を中心に動きが鈍かった。6月は全国的に高温となったことで、夏物商品を中心に好調となった。また、6月に労働安全衛生規則が改正されて職場の熱中症対策が義務化され、空調服・ファン付きウェアの売り上げが伸びた。
【港湾運輸】は、米国の関税政策に左右され、品目によっては駆け込み増や差し控え減が生じた模様。業界全体として労働力不足が解消する兆しがなく、人員不足に起因するコスト増も続いていくと予想している。
猛暑による生育不良で青果物向けの段ボール原紙が低調
【紙パルプ】は、新聞用紙が夕刊の廃止や販売部数の減少の影響によりマイナス基調が続いている。段ボール原紙の青果物向けは、猛暑の影響で生育不良が発生し、荷動きは低調となっている。飲料向けは、猛暑の影響で清涼飲料は堅調だが、ビールなどのアルコール系は4月からの価格改定の前倒し需要の反動減で前年並みとなった。衛生用紙の国内出荷は、インバウンドの増加や行楽シーズンによる人流増を背景に、宿泊・商業施設向けの業務用を中心に引き続き堅調に推移している。
短期・スポット雇用のニーズの高まりで求人も変化すると予測
求人情報を扱う【その他】によると、価格転嫁が難しい飲食・サービス・小売業においては、業務オペレーションの見直しによって、募集人数の削減や充足ラインの引き下げの動きがある。また、「募集するほどではないがシフトの穴を埋めたい」というニーズの高まりから、短期・スポット雇用のニーズが増えており、「求人広告の掲載がスポットワークへ変化していく」と予測している。
【事業所給食】は、コメの急激な価格高騰のほか、人手不足や人件費の上昇で厳しい状況が続いている。
【印刷】は、当期の生産金額が前年同期比1.6%増加した。ただし、2019年同期比では5.0%の減少で、コロナ前の水準には回復していない。
【商社】は大手7社のうち4社が前年同期比で増益となった。減益となった3社では、その要因として資源価格の変動や前年同期に計上した売却益をあげる。
【百貨店】は、国内顧客の売り上げは堅調だがインバウンドの売り上げが低下している。
これらのほかに「うす曇り」と判断した業種は、【繊維】【化繊】【石油精製】【石膏】【金属製品】【工作機械】【ガソリンスタンド】【シルバー産業】【職業紹介】【請負】となっている。
養殖事業に打撃を与える海水温の上昇
「本曇り」と判断した9業種は、【水産】【中小企業団体】【道路貨物】【ゴム】【木材】【硝子】【電力】【自動車販売】【葬祭】。
判断理由についてみていくと、【水産】は、サバが不漁となっているほか、養殖は海水温の上昇などの影響でホタテ・カキが水揚げ前に死ぬ「へい死」が大きく増加している。
【中小企業団体】によると、会員企業からは「梅雨明けが早く、暑さ対策の商品が好調」という声がある一方で、「物価高により買い控えが強まる」という声もある。
【道路貨物】は、燃料価格の高止まりや物価高による輸送原価の上昇分を十分転嫁できない状態が継続している。
ゴムの中小企業は人手確保が困難な状況
【ゴム】では、業界団体モニターが中小企業会員に実施した景況調査において、業況判断・経常利益はプラスに転じたほか、売上高も前期から改善した。しかし、中小企業の声を拾うと、米国関税の間接的な影響に加え、人手不足感も大きい。例えば、新卒採用が困難化していることや、派遣労働者の確保難などの意見がみられる。6月の日銀短観をみると、主要な客先である自動車の業況判断DIにおいて、大企業と中小企業は3月比で悪化、中堅企業は変化なしとなっている。
【木材】は、主要需要先である戸建て住宅着工が依然として低迷している。
【硝子】は、生産トラブルなどにより業績が悪化した。
工期の長期化、現場の作業時間の短縮でセメント需要は底打ちが見通せず
「雨」と判断した業界は【セメント】【専修学校等】の2業種。
【セメント】は、当期の国内販売が前年同期比マイナス6.4%となっている。モニターはその背景について、工事現場における働き方改革による残業の減少や週休2日制の浸透で、工期が長期化していることをあげた。加えて、職場の熱中症対策の義務化で現場の作業時間はさらに短縮されており、内需減少の底打ち時期が見通せない状況となっている。輸出は前年同期比プラス7.3%となった。主要マーケットであるアジア・オセアニア向けが堅調となっている。
【専修学校等】は入学者数の減少を理由にあげた。
次期(2025年7~9月)の業況見通し
次期(2025年7~9月)の業況見通しについては、42業種のうち、「快晴」とする業種は1業種(業種全体に占める割合は2.4%)、「晴れ」が8業種(同19.0%)、「うす曇り」が24業種(同57.1%)、「本曇り」が7業種(同16.7%)、「雨」が2業種(同4.8%)となっている。今期から「晴れ」が約10ポイント低下し、「本曇り」も約5ポイント低下した一方で、「うす曇り」は約12ポイント増加している。
鉄道はインバウンド需要を期待
4~6月期から業況の好転を予想したのは、「晴れ」から「快晴」に引き上げた【鉄道】、「うす曇り」から「晴れ」に引き上げた【請負】【工作機械】と、「本曇り」から「うす曇り」に引き上げた【硝子】【電力】【水産】【自動車販売】の7業種。
【鉄道】の企業モニターは、インバウンド需要の増加を見込む。業界団体モニターはインバウンド需要のほか、各地でのイベント開催による乗客増を期待している。
【請負】は、アルバイト給与管理代行と年末調整事務代行のサービスをさらに伸長させることにより、増収増益が見込めるとしている。
事業所給食はコメや農作物の価格上昇がマイナス要因に
悪化を予想したのは、4~6月期の「晴れ」から「うす曇り」に引き下げた【建設】【パン・菓子】【電機】【造船・重機】【ホテル】と、「うす曇り」から「本曇り」に引き下げた【事業所給食】【ガソリンスタンド】の7業種。
【事業所給食】は、コメの価格高騰に加えて、天候不順で農作物の価格が上昇しているほか、慢性的な人手不足が深刻化している。
【パン・菓子】の企業モニターは、労務費負担の増加や物価上昇で「今後の事業展開は相当厳しくなる」と予想。業界団体モニターは、コメの価格高騰でパン製品に割安感が生じているとみるが、猛暑の影響による消費減衰を懸念している。
建築基準法改正に起因する駆け込み需要の反動減が響く
今期の判断を継続した業種は【石膏】など28業種あった。
【石膏】(うす曇り→うす曇り)の業界団体モニターによると、石膏ボードは住宅着工から4カ月ほど遅れて連動するが、先行指標である新設住宅着工戸数は第2四半期が前年同期比マイナス25.6%と大幅減となった。2025年4月の建築基準法改正に起因する駆け込み需要からの反動減となったかたち。さらに、確認申請の遅れなど現場の混乱が続いているほか、非住宅関係は首都圏中心の都市再開発以外は低調で、「当面は厳しい状況が続く」と予測している。
米国関税政策の影響で製造業求人が一部で減少
【職業紹介】(うす曇り→うす曇り)では、米国の関税政策の影響もあり、製造業の一部で求人が減少傾向にある。
【コンビニ】(晴れ→晴れ)は、大阪・関西万博の開催や訪日外国人による売上増を見込む。
【非鉄金属】(晴れ→晴れ)は、AIセンター、データセンター向けなどの高機能材料が引き続き堅調に推移する見込み。
【ホームセンター】(うす曇り→うす曇り)は、猛暑による冷房用品、熱中症対策商品の販売増を期待している。