【宮城】(七十七リサーチ&コンサルティング)
コメなど食品価格の上昇で個人消費は弱めの動きを見込む。人手不足感は強い状況が継続
地域シンクタンク・モニター定例調査
宮城県の1~3月期の経済動向は、生産活動で持ち直しがうかがわれ、建設では住宅着工の駆け込み需要があったものの、家計の購買力・購買意欲は低下がうかがえたことから、モニターである七十七リサーチ&コンサルティングは【横ばい】と判断した。4~6月期の見通しも、コメをはじめとする食品価格の上昇で個人消費は弱めの動きが見込まれることから、【横ばい】。雇用については、1~3月期実績は各統計の動きもふまえて【横ばい】とし、4~6月期見通しも人手不足感は依然として強いと見込んで【横ばい】とした。宮城労働局によると、今春に宮城県内の大学等を卒業した人の県外就職率は6割近くとなっている。
<経済動向>
生産は持ち直しがうかがわれる、観光は国内客が低調
モニターは1~3月期の地域経済について、「長引く物価高や人手不足などが重石となり、全体としては足踏みしている」として、【横ばい】と判断した。
判断理由を詳しくみていくと、生産は、基調としては持ち直しがうかがわれるものの、振れの大きな動きとなっている。鉱工業生産指数をみると、米国による追加関税の対象となる自動車関連では、輸送機械が挽回生産などもあり前期比プラス10.4%となったほか、車載用電池を含む電気機械が同プラス2.3%、タイヤを含むゴム、皮革製品が同プラス8.3%となっている。
一方、半導体製造装置を中心とする汎用・業務用・生産用機械が同マイナス26.7%と大きく低下したほか、電子部品・デバイスは同プラス2.8%にとどまっており、AI主導で半導体需要が回復するなかでも、勢いを欠いている。
なお、県内4港における通関ベースの米国向け輸出額は前年同期比プラス16.8%で、特に電池(おもに車載用)は同2.9倍と高い伸びとなっている。
建設需要は、公共投資に下げ止まりがみられた。住宅着工件数は建築基準法の改正前の駆け込み需要がみられたものの、建設コスト高や人手不足などの供給制約が重石となっている。
個人消費は、コメの価格高騰など生活必需財価格の再上昇により、小売業などの名目販売額は増加しているものの、実質ベースでは前年割れが続いており、家計の購買力・購買意欲の低下がうかがえる。
なお、サービス消費のうち観光は、外国人延べ宿泊者数が前年同期比プラス32.1%と好調だが、全体では同マイナス1.4%と振るわない。物価高による節約志向などのため、全体の9割弱を占める国内客が低調となった。
個人消費は弱めの動きが見込まれる
4~6月期の経済動向をみると、生産は、米国の関税引き上げによる直接的な影響は小さいものの、自動車や半導体のシェアが全体の4分の1を占めており、「追加関税をめぐる政府間交渉や海外需要動向の様子見が続くものとみられる」。
なお、自動車の基幹部品に位置づけられる原動機(ガソリン)は、5月の輸出数量は前年同月比マイナス0.2%と微減にとどまっているものの、輸出金額は同マイナス46.8%と大幅に減少した。
建設投資は、住宅投資が駆け込み需要の反動で低調な水準で推移するほか、民間非居住建築物も、仙台市内中心部の再開発が労働需給のひっ迫や工事原価上昇などからやや停滞しており、当面は慎重な動きとなるものと見込まれる。
個人消費については、賃金の上昇を上回るペースで物価上昇が続いており、特にコメ類をはじめとする食品価格の上昇が再び加速しているため、弱めの動きとなることが見込まれる。
インバウンドは引き続き好調なものの、ハイ・シーズンの冬場を過ぎて香港便が減便したことや為替の動きの影響で、増勢が鈍化することが見込まれる。
モニターが実施した「県内企業動向調査」によると、4~6月期の県内景気のDI見通しは前期比4ポイント上昇のマイナス17と改善する見通しではあるが、回答のうち3分の2は米国が相互関税を発表する前に回収したものであることから、「相当程度下振れすると考えられる」。
モニターは4~6月期の見通しについて、「物価高や人手不足に加えて、米国の通商政策などが下押しとなり、回復の足どりが一層重くなる」とみて、前期同様に【横ばい】と判断した。
<雇用動向>
新規求人数は幅広い業種で減少
1~3月期の雇用をみると、有効求人倍率は1.22倍で前期比マイナス0.01ポイントと小幅な動きとなった。
当期の新規求人数は前年同期比マイナス6.8%となっている。業種別にみると、「製造業」(前年同期比プラス0.2%)が一部企業の大量求人という特殊要因で9四半期ぶりに前年を上回ったものの、いわゆる「2024年問題」の対象業種である「建設業」(同マイナス8.9%)や「運輸業」(同マイナス3.4%)が減少したほか、「卸売・小売業」(同マイナス9.7%)、「宿泊・飲食サービス」(同マイナス10.8%)なども前年を下回っており、業種を問わず労働需要は減少基調にある。
しかし「県内企業動向調査」をみると、当期の雇用DIはマイナス44の「不足」超。業種別にみると、製造業がマイナス26、建設業がマイナス54、サービス業がマイナス55と、バラツキはあるものの不足超幅は過去最大の水準となっている。
なお、同調査によると経常損益DIは製造業がマイナス18、建設業が4、サービス業がマイナス9となっており、モニターは「企業収益と人手不足感には相関的な関係はみられないが、企業側からみても賃金上昇を上回る収益が見込めない状況が続き、人手不足がただちに相応の求人・採用に結びついていない」と指摘。結果的に、「既存雇用へのしわ寄せが広がっており、一部では働き方改革に逆行した負担の増加もみられている」という。
モニターはさらに、「エッセンシャルワーカーをめぐる需給のミスマッチも拡大しており、求人側の企業・求職者の双方にとって厳しさのうかがえる状況と言える」とコメントしたうえで、1~3月期の雇用動向を【横ばい】と判断した。
今後の労働市場のポイントは自動車・半導体をはじめとする製造業の動向
4~6月期の見通しについては、「企業収益の先行き見通しに不透明感があるなかで労働市場価格(賃金)は上昇しており、労働需要には下押し圧力が続くとみられる」とコメントしたうえで、判断を【横ばい】とした。
「県内企業動向調査」によると、4~6月期の雇用DIの見通しはマイナス40の「不足」超で、前期から不足超幅が縮小する見込みだが、不足感は依然として強い見込み。
モニターは今後のポイントとして、自動車・半導体をはじめとする製造業の動向をあげる。米国の追加関税次第では、工場稼働率の低下や労働条件の後退などを通じて労働需要を減退させる懸念がある。賃上げや賞与への影響はまだ先になるとみられるが、すでに追加関税を前提とした下請け事業者への値下げ要請なども生じており、「企業収益の悪化による求人の減少が顕在化する可能性もある」という。
大学等卒業者の6割近くが県外に就職
宮城労働局によると、2025年春に宮城県内の大学等を卒業した学生の県内就職率は、男女計で42.5%となり、前年の39.2%から上昇した。
モニターによると、仙台市には15の大学があり、人口あたりの学生数が政令指定都市において京都市に次いで2番目に多いことから、仙台市は「学都」と呼ばれている。一方、県外企業の支店割合は首都圏を除くと県庁所在地で第1位と、全国一の支店経済となっており、「首都圏への転入超過率は東北地方・宮城県・仙台市が地域・都道府県・政令市で最も高く、就職時の若者の流出が課題となっている」という。
そのため、今年の県内就職率は前年から上昇したものの、6割近くが県外就職する状況については、「県内就職率向上の取り組みは道半ばと言える」とした。