【近畿】(アジア太平洋研究所)
大阪・関西万博の影響で、短期的な求人の増加がうかがえる
地域シンクタンク・モニター定例調査
近畿の1~3月期の経済動向は、日銀短観での景況感が横ばいであることや、インバウンドでは訪日客数が堅調となっているものの、円高で購買単価が低下していることから、モニターであるアジア太平洋研究所は【横ばい】とした。4~6月期の見通しも、大阪・関西万博の開催で景況感が改善している業種があるものの、米国の関税政策への懸念もあり、【横ばい】。雇用動向は、1~3月期実績については人手不足感が根強いことから【横ばい】とした。4~6月期見通しも、各種統計の動きをもとに【横ばい】としている。大阪・関西万博の影響もあり、短期的な求人が増加している。
<経済動向>
家計が勢いを欠き、弱い動き
1~3月期について家計部門の動向をみると、家計部門は、全体として勢いを欠き、弱い動きがみられる。物価上昇が長期化するなかで、暮らし向きに対する不安感が根強く、センチメントは悪化している。
企業部門は、先行きに対する警戒感から慎重姿勢が広がり、企業活動は総じて鈍化している。生産は総じて停滞しており、全国に比べて弱い動きが目立つ。設備投資計画や景況感も慎重な見方が広がっている。
対外部門のうち、財部門では輸出入ともに持ち直している。輸出はアジア向けが大きく伸びており、なかでもASEAN向けの半導体関連品目が好調となっている。
インバウンドは訪日客数が堅調だが、円高で購買単価が低下
インバウンド関連は弱含みで、「変調の兆しがみられる」。訪日客数は堅調である一方、円高の影響から購買単価が低下している。
公的部門は弱含みとなっている。大阪・関西万博の需要剥落もあり、公共工事請負金額・出来高ともに全国の伸びを下回っている。
景況感について日銀短観(3月調査)をみると、業況判断DIは11で前期から横ばい。14四半期連続でプラスを維持している。
関西経済連合会・大阪商工会議所「経営・経済動向調査」をみると、当期の自社業況BSIは4.9、国内景気BSIは0.7で、いずれも8四半期連続のプラスとなったものの、前期と比較するとプラス幅は縮小した。
以上を勘案してモニターは、「依然として緩やかに持ち直しているが、回復の持続性の不透明感から内外需とも足取りは鈍い」として、1~3月期の判断を【横ばい】とした。
万博開催で小売やサービス関連を中心に景況感が改善
4~6月期の見通しについても【横ばい】と判断した。
4月の鉱工業生産指数は95.8で、前月から4.4%上昇して6カ月ぶりの増産となった。なお、近畿経済産業局は生産の基調判断を「弱含みで推移」として据え置いている。
5月の景気ウォッチャー現状判断DIは45.1で、前月から0.8ポイント上昇したものの、景気判断の分岐点である「50」を4カ月連続で下回った。大阪・関西万博の開幕でインバウンドや来場者が増加した影響もあり、小売関連やサービス関連を中心に景況感が改善した。
「経営・経済動向調査」によると、4~6月期の自社業況判断BSIはマイナス5.4で、前回調査(4.9)から悪化し、9期ぶりにマイナスに転じた。
モニターは、「コメや食料品などの物価の高止まりに加え、米国の関税政策変更にともなう不確実性の高まりがリスク要因となろう」とコメントしている。
<雇用動向>
新規求人倍率が3四半期連続で上昇
1~3月期の雇用実績について、モニターは【横ばい】と判断した。
雇用統計をみると、有効求人倍率は1.15倍で前期から横ばいだった。新規求人倍率は2.28倍で前期から0.04ポイント上昇した。上昇は3四半期連続。
「経営・経済動向調査」における1~3月期の雇用判断BSIはマイナス39.8の「不足」超で、前期(マイナス38.3)から不足感が強まっている。
日銀短観(3月調査)によると、雇用人員判断DIはマイナス32で前回12月調査(マイナス33)から横ばいで、依然として人手不足感が強い。業種別では製造業がマイナス22、非製造業がマイナス43となっている。
完全失業率は3カ月ぶりに改善
4~6月期の雇用の見通しについても、各種統計の動きをもとに【横ばい】と判断している。
4月の完全失業率(モニターによる季節調整値)は2.6%で前月比マイナス0.2ポイントと、3カ月ぶりに改善した。就業者数と労働力人口が増加して、完全失業者数は減少した。
4月の有効求人倍率は1.16倍で、前月と同水準となった。有効求人数は前月比マイナス0.4%、有効求職者数は同マイナス0.7%で、いずれも3カ月連続で減少した。
新規求人倍率をみると、4月は2.22倍で前月比マイナス0.14ポイントとなっている。新規求人数は同マイナス1.7%、新規求職者数は同プラス4.4%となっている。
新規求人数(原数値)を業種別にみると、「学術研究・専門・技術サービス業」「生活関連サービス業・娯楽業」「医療・福祉業」が前年同月比増加に転じたほか、「その他のサービス業」は2カ月連続で増加している。「宿泊業・飲食サービス業」は再び減少に転じたが、減少幅は小幅にとどまった。「建設業」は11カ月連続、「卸売業・小売業」は18カ月連続で減少している。
「経営・経済動向調査」における4~6月期の雇用判断BSIはマイナス33.6の「不足」超で、前期(マイナス39.8)から「不足」超幅が縮小している。
短期的な求人が増加
近年の求人の動向についてモニターは、「ハローワークを通じた採用から、民間職業紹介所や広告を通じた採用へのシフトが進んでいる」とみており、「労働市場の分析には主としてハローワークの利用情報に依拠していたため、それだけでは労働市場の全貌を捉えにくい側面がある」と認識している。
たとえば、モニターによると、大阪・関西万博の会場内に関する求人は、民間求人サイト3社(インディード、求人ボックス、タウンワーク)の平均求人数は44件と、ハローワークの29件を上回った。サービス業に限定してみても、民間の平均求人件数は26件で、ハローワークの16件を上回っている。
職種別では、民間求人ではガイド、警備、小売、運営・事務関連が多い一方で、飲食や清掃はハローワークのほうが多かった。また、サービス業の求人の平均時給は、民間求人(1,745円)がハローワーク(1,573円)を大きく上回っている。
こうした状況についてモニターは、「関西では短期的な求人が増加しており、雇用拡大効果が出ているようである」とコメントしている。