【茨城】(常陽産業研究所)
米国の関税政策でマイナスの影響があるとする企業が急増との調査結果も
地域シンクタンク・モニター定例調査
茨城県の経済動向は、1~3月期は業況判断の動きをもとに、モニターである常陽産業研究所は【やや悪化】とした。消費マインドの低迷や人手不足が影響している。4~6月期は、業況判断が製造業・非製造業ともに改善しているため【やや好転】。雇用動向は、有効求人倍率や雇用判断DIに動きがないことから1~3月期の実績は【横ばい】とした。新規求人数の増減は業種でバラツキがある。4~6月期の見通しは雇用判断DIの動きをもとに【好転】としている。モニターが実施した調査によると、ベースアップを実施する企業割合は2年連続で4割を超えた。また、米国の関税政策でマイナスの影響があるとする企業割合は、3月時点では3割超だったが、4月時点では7割超に急増している。
<経済動向>
消費マインドの低迷や人手不足を背景に景況感が悪化
モニターが実施した「県内主要企業の経営動向調査(1~3月期)」によれば、県内企業の景況感をあらわす自社業況総合判断DIは「悪化」超20.7%と、前期から約6ポイント低下した。業種別にみると、製造業は「悪化」超26.2%で約6ポイント低下、非製造業は「悪化」超16.5%で約5ポイント低下となっている。
モニターは製造業について「生産・受注の持ち直しが進んだものの、コスト高、外需の低迷、海外経済の先行き不透明感などが、景況感を下押ししたと推測される」とコメントし、非製造業については「消費マインドの低迷や人手不足による売上減少、コスト高や価格転嫁難による経常利益の圧迫などから、景況感が悪化したとみられる」と説明したうえで、1~3月期の地域経済を【やや悪化】と判断した。
なお、調査に回答した企業からは、「主力製品の原料(野菜)が高値となり、売上は増加したものの、利益が大幅に減少」(食料品)、「光熱費や人件費も上昇しているが、今すぐの価格転嫁は困難」(木材・木製品)など、原材料費や販管費の高騰、価格転嫁の難しさなどにより、収益が圧迫されているとの声が多く聞かれた。そのほか、「生活コストの上昇から、家電等の耐久消費財を買い控える傾向がみられる」(家電量販店)、「消費者の節約志向が高まり、価格競争が激化している」(スーパーマーケット)など、物価高などを受けた消費マインドの低迷を指摘する声が多くあがっている。
先行きの業況判断は製造業・非製造業ともに改善
4~6月期については、自社業況総合判断DIは全産業で「悪化」超15.9%と、1~3月期から約5ポイント上昇する見通し。これを業種別にみると、製造業は「悪化」超18.4%で今期から約8ポイント上昇、非製造業は「悪化」超14.0%で約3ポイント上昇の見込みとなっている。
モニターは「先行きは、米トランプ政権の政策を含む海外経済の動向、日本政府による対米交渉や経済政策の行方、金融・為替市場等の動向、国内の物価・賃金の動向、県内企業の価格転嫁の動向などを注視する必要があるだろう」とコメントしたうえで、判断を【やや好転】とした。
日本で自動車部品を製造している限りは業績悪化は免れないとの声も
モニターは3月と4月に県内企業に対して「相互関税の影響に関する企業調査」を実施している。それによると、米国の関税政策の自社の経営への影響について、「マイナスの影響がある」と回答した企業は、3月調査では31.7%だったが、相互関税発表後の4月調査では74.2%にのぼった。また4月調査によると、相互関税が日本経済全体に与える影響について「懸念している」と回答した企業は80.6%にのぼった。
経営への具体的な影響見通し(複数回答)では、「取引先(輸出企業等)の業績悪化」(58.5%)が最も高く、次いで「輸入コストの増加」(28.3%)となっている。
調査に回答した企業からは、「主要取引先の主戦場は北米であり、日本で自動車部品を製造している限りは、業績悪化は免れない」(輸送用機械)という厳しい⾒⽅や、内需型企業からの「米国からの原材料の⼊庫に影響があると思われる」(倉庫業)という声があったほか、「コロナ禍以上に帰休を実施しなければならないかもしれず、政府には雇用調整助成金の柔軟な運用を期待する」という意見もあった。
この調査結果についてモニターは、「影響の程度が変わる可能性はあるものの、今回の事態が先行きの県内経済への下方圧力となることは避けられない」としたほか、「県内企業の警戒感がより一層強まるとともに、先行きの実体経済への深刻な影響も懸念され、県内企業が設備投資や雇用、賃上げなどに今後どう対応していくかを注視していく必要がある」とコメントしている。
<雇用動向>
有効求人倍率、雇用判断DIともに横ばいの動き
1月の雇用動向をみると、有効求人倍率は1.32倍(前月比0.01ポイント上昇)で4カ月ぶりに上昇したのに対して、新規求人倍率は2.04倍(同0.20ポイント低下)で3カ月ぶりに低下した。
1月の新規求人数は前年同月比マイナス4.2%と、2カ月ぶりに前年水準を下回った。新規求人数(パートを除く)の内訳を産業別にみると、「学術研究、専門・技術サービス業」(前年同月比プラス56.1%)、「サービス業(他に分類されないもの)」(同プラス16.4%)、「卸売業・小売業」(同プラス13.7%)などが増加した一方、「情報通信業」(同マイナス38.5%)、「運輸業・郵便業」(同マイナス28.6%)、「宿泊業・飲食サービス業」(同マイナス19.5%)、「製造業」(同マイナス9.3%)、「建設業」(同マイナス9.1%)、「医療・福祉」(同マイナス0.5%)などが減少した。
ただし、人手不足を背景に県内の広告求人件数は前年水準を上回って推移するなど、民間職業紹介における県内の求人動向は、総じてみれば底堅く推移している。
雇用保険受給者数は1月が前年同月比マイナス1.1%で、2カ月ぶりに前年を下回った。
「県内主要企業の経営動向調査結果(1~3月期)」によると、雇用判断DIは「減少」超13.8%と前期から横ばいだった。業種別にみると、製造業が「減少」超14.7%で横ばい、非製造業が「減少」超13.1%でおおむね横ばいとなっている。
調査に回答した企業からは、「定年退職により人手不足が悪化。ハローワーク求人を進めるとともに、外注を強化する予定」(プラスチック部品等製造業)、「新卒だけではなく、中途やシニアも含めて採用を進めたい」(木材・木製品製造業)など、人材の獲得のほか外注や省力化などの人手不足対応を強化する声が聞かれた。
こうした動きをもとにモニターは、1~3月期の雇用の実績を【横ばい】と判断した。
先行きは製造業・非製造業ともに改善の見通し
同調査の先行き(4~6月期)をみると、「減少」超3.0%と今期から約11ポイント上昇している。業種別では、製造業が「減少」超5.7%と今期から約9ポイント上昇、非製造業が「減少」超0.9%で今期から約12ポイント上昇する見通しとなっており、モニターはこの結果をもとに4~6月期の雇用動向を【好転】と判断した。
ベア実施企業は2年連続で4割超、背景に深刻な人手不足と物価高
モニターは3月に県内企業に対して「春期賃上げに関する企業調査」を実施している。それによると、2025年に「賃上げを実施する」企業は65.0%で、前年調査から1.3ポイント低下したものの、初めて6割を上回った2023年調査(65.7%)から3年連続で6割を超えている。
賃上げの中身に注目すると、定期昇給を行う企業が56.3%、ベースアップを行う企業が42.0%で、ベアの実施率は2024年に続き4割を超えた。
この調査結果についてモニターは、「県内企業が賃上げに前向きな姿勢を示した背景には、深刻な人手不足や物価高への対応があるとみられる」とコメントしている。