<企業・業界団体調査 2025年1~3月期の業況実績/4~6月期の業況見通し>
コメの価格高騰や人手不足のなかでも今期の業況は好転、「快晴」「晴れ」が6年ぶりに3割を超える。来期は悪化の見込みでインバウンド需要が減少する業種も
ビジネス・レーバー・モニター定例調査
JILPTが四半期ごとに実施している「ビジネス・レーバー・モニター調査」によると、2025年第1四半期(1~3月期)の業況実績は「快晴」と「晴れ」を合わせた割合が6年ぶりに3割を超えるなど、改善している。各モニターから寄せられた判断理由をみると、「快晴」「晴れ」の業種ではインバウンド需要が好調の要因となっている。「本曇り」の業種では、コメの価格高騰や人手不足が判断要因にあがった。次期(4~6月期)の業況見通しは「晴れ」の割合が約13ポイント低下するなど、悪化の見込み。インバウンド需要が減少しているとする業種がある。コメの価格高騰の影響について、事業所給食ではコスト増となっているが、パン・菓子では割安感が出たことで持ち直しているという声もある。
調査の趣旨
JILPTでは、企業および業界団体のモニターに対し、四半期ごとに業況の実績と次期の見通しを「快晴」「晴れ」「うす曇り」「本曇り」「雨」の5段階で聞き、企業モニターの回答の平均と業界団体の回答をさらに平均する(端数は四捨五入)ことで各業種の最終的な判断を算出している。そのため、個々の企業、業界団体の業況評価と必ずしも一致しない。
今回は2025年第1四半期(1~3月期)の業況実績と第2四半期(4~6月期)の業況見通しについて調査した。回答は企業と業界団体の計50組織、40業種から得た。
各企業・業界団体モニターの現在の業況
業況は前期から小幅な変化にとどまる
2025年第1四半期の業況実績は、回答があった40業種中、「快晴」が1(業種全体に占める割合は2.5%)、「晴れ」が13(同32.5%)、「うす曇り」が14(同35.0%)、「本曇り」が10(同25.0%)、「雨」が2(同5.0%)(表、図)。前回調査の2024年第4四半期と比べると、「晴れ」の割合が約10ポイント上昇するなど、改善している。「快晴」と「晴れ」を合わせた割合は35.0%で、2019年第1四半期以来、6年ぶりに3割を超えた。
製造業・非製造業別にみると、「快晴」は製造業ではゼロで、非製造業が1業種。「晴れ」は製造業が6業種で、非製造業が7業種、「うす曇り」は製造業が9業種で、非製造業が5業種となっている。これに対し、「本曇り」と「雨」の業種は、製造業では合わせて4業種となっており、非製造業では合わせて8業種となっている。
表:前期及び今期の業況実績と業況見通しの概要
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図:調査開始以来の業況調査結果の推移
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今期(2025年1~3月)の業況の判断理由
鉄道は通勤や外出による需要が回復傾向、インバウンド需要も拡大を継続
今期、「快晴」と判断したのは【鉄道】の1業種だけだった。
【鉄道】の企業モニターは、需要回復により生活サービス事業やホテル・リゾート事業が好調に推移している。また、不動産事業における賃貸収入の増加などにより、営業利益・営業収益ともに前年同期比で増加したことを理由にあげて、「快晴」と判断した。
一方、業界団体モニターは、通勤需要および外出機会が回復傾向にあるほか、インバウンド需要の拡大が継続したことから、運輸収入およびホテル業等関連事業の収入は、大手の鉄道会社を中心に引き続き増加傾向にあるとして「晴れ」と判断。そのため、【鉄道】の総合的な判断は「快晴」となった。
インバウンド需要が続く業種も
「晴れ」と評価した業界は、【遊戯機器】【百貨店】【ホテル】【情報サービス】【造船・重機】【印刷】【建設】【自動車】【金型】【パン・菓子】【非鉄金属】【ガソリンスタンド】【その他】の13業種となっている。
【遊戯機器】は、インバウンド旅行者によるゲームセンターの利用が好調となっている。
【百貨店】は前年同期比で増収増益となっている。ただし3月の天候不順などが影響しており、伸びは鈍化している。
【ホテル】は宿泊、レストラン、宴会の3部門の売り上げがいずれも予算を達成し、前年同期を上回っている。
【情報サービス】は、経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」において、売上高がプラスで推移していることを判断理由にあげた。
造船・重機はLPG/アンモニア運搬船などの受注が増加
【造船・重機】は、航空宇宙システム事業、精密機械・ロボット事業での改善もあり前年同期比で増収増益となった。エネルギーソリューション&マリン事業においては、国内外の分散型電源需要やエネルギーインフラ整備需要が依然根強いほか、LPG/アンモニア運搬船などの受注が増加している。
【印刷】は当期の生産金額が前年同期比2%増加した。その理由についてモニターは、「印刷産業が影響を受けやすい個人消費は、物価上昇の影響を受けてはいるものの、所得の増加による緩やかな増加基調であり、生産金額に寄与した」とみている。
【建設】のA社は「国内建設事業において、土木・建築事業ともに大型工事の施工が順調に進捗し、売上総利益率も改善傾向が継続した」ことから「晴れ」と判断。B社は「うす曇り」としている。
【自動車】は価格改定効果のほか、バリューチェーン収益の拡大などの改善努力を積み上げ、高水準の利益を確保している。
【金型】は、ハードディスク関連部品と自動車の酸素センサー関連部品の受注量が増加傾向にある。
ホームセンターは3月の高温で園芸用品や農業用品に動き
「うす曇り」とした14業種では、天候やインバウンド需要が判断要因にあがった。
【食品】の業界団体モニターは、「日銀短観」(3月調査)での食品製造業の景況判断DIが、大企業が8(前回調査比マイナス2)、中堅企業が6(同マイナス7)、中小企業が4(同変化なし)と、いずれもプラス水準を維持していることから「晴れ」とした。ただし人手不足感は持続しており、「引き続き労務費の転嫁を進めることが課題」としている。
企業モニターは、機能性表示食品の発売が売り上げの伸長に貢献しているものの、高付加価値型商品の売上増が一巡しており、全体の売上高・売上総利益・営業利益は前年同期を下回ったことから「本曇り」と判断した。
【ホームセンター】は、1月は園芸用品や防犯用品で動きがみられたものの、暖房用品やペット用品は伸び悩んだ。2月は暖房用品や除雪用品で動きがみられ、3月は全国的に気温が高かったことから園芸用品や農業用品で動きがみられた。
【港湾運輸】は、国内ではインバウンドの増加や万博開催で、人やモノの流れが増加傾向にあることがプラスとなっている。一方、海外では中東情勢に起因するスエズ運河の回避問題が依然として継続している。
電機は冬の低温でエアコンの出荷が好調
【電機】の業界団体モニターは、重電機器については「一般産業向け汎用機器は、国内の製造業向けを中心に設備投資が堅調であり、電子部品や半導体などの設備投資減少の影響も徐々に回復しており、生産額は前年同期を上回った」と報告。白物家電機器については、冬の気温の低さによりルームエアコンの出荷が好調だったほか、電気シェーバー、ヘアドライヤーなどの理美容機器も好調に推移したと報告し、全体では「うす曇り」と判断した。
企業モニターの回答をみると、A社は主要3セクターがいずれも増収増益となったことから「晴れ」と判断した。DX分野は大口案件を含めて好調に推移している。B社は売上高、営業利益がともに過去最高を更新したことを理由に「晴れ」とした。C社は生成AI関連の事業が好調を継続しているものの、人件費、物流費、エネルギーコストの上昇がマイナス要因となったことから「うす曇り」とした。
紙パルプは天候安定で青果物向けの段ボール原紙が堅調
【紙パルプ】は、天候が安定していたことで青果物向けの段ボール原紙が堅調に推移した。飲料向けはビールなどのアルコール系が、4月からの価格改定の前倒し需要の反動減で低調となった。衛生用紙については、インバウンドの増加などによる人流増を背景に、宿泊施設や商業施設向けの業務用を中心に引き続き堅調に推移している。
【金属製品】は、4月からの建築基準法改正を前にした駆け込み需要で、当期の住宅着工数は前年同期比プラス2%となった。ただし、住宅建設コストは高止まりしている状況。
【商社】は大手7社のうち3社が前年同期比で増益となった。非資源分野の好調や為替が主な要因となっている。
これらのほかに「うす曇り」と判断した業種は、【繊維】【化繊】【石油精製】【硝子】【工作機械】【水産】【職業紹介】となっている。
事業所給食はコメの高騰に加えて最賃の引き上げや人手不足も打撃に
「本曇り」と判断した10業種は、【事業所給食】【自動車販売】【シルバー産業】【ゴム】【木材】【石膏】【電力】【道路貨物】【葬祭】【中小企業団体】。
判断理由についてみていくと、【事業所給食】はコメの急激な価格高騰のほか、最低賃金の引き上げや人手不足が経営に影響している。
【自動車販売】は売上高・経常利益ともに計画値を大きく下回った。新車販売は、依然としてEV販売が伸び悩んでいることから在庫偏在が続き、流動資産に悪影響を与えている。整備事業と中古車販売については大きな落ち込みはなく、「ほぼ計画通り」で推移した。
シルバー産業は人材が流出、規模縮小や倒産が増加
【シルバー産業】では介護職の処遇改善が進んでいるものの、賃金は依然として全産業平均との差が大きく、全産業的な人材不足のなか、他産業に人が流れている状況。介護報酬改定で基本報酬が引き下げられた訪問介護サービスなどの経営は特に深刻で、休止や規模縮小、倒産が増加している。
【ゴム】では、業界団体モニターが中小企業会員に実施した景況調査において、業況判断は改善を示しているが、売り上げ・経常利益は悪化している。3月の日銀短観をみても、主要な客先である自動車の業況判断DIにおいて、大企業・中堅企業では若干の改善がみられるが、中小企業は悪化している。
セメントの国内需要は前年同期比マイナス4.6%
「雨」と判断した業界は【セメント】【専修学校等】の2業種。
【セメント】は、当期のセメント国内需要が前年同期比マイナス4.6%となっている。モニターはその背景について、公共工事では、人手不足などによる工期の長期化、労務単価・建設資材費の上昇により、金額あたりのセメント使用量が低下していることをあげた。民間工事も同様の状況で、需要が伸び悩んだ。加えて建設業での時間外労働上限規制への対応がさらに進んでおり、「土曜日の出荷が減少していることも一要因と考えられる」という。
【専修学校等】は入学者数の減少を理由にあげた。
次期(2025年4~6月)の業況見通し
次期(2025年4~6月)の業況見通しについては、40業種のうち、「快晴」とする業種は1業種(業種全体に占める割合は2.5%)、「晴れ」が8業種(同20.0%)、「うす曇り」が19業種(同47.5%)、「本曇り」が10業種(同25.0%)、「雨」が2業種(同5.0%)となっている。「晴れ」が今期の32.5%から約13ポイント低下するなど、今期から悪化する見込みとなった。
石膏は駆け込み需要で出荷量が増える見込み
1~3月期から業況の好転を予想したのは、「うす曇り」から「晴れ」に引き上げた【食品】と、「本曇り」から「うす曇り」に引き上げた【石膏】の2業種。
【石膏】の業界団体モニターによると、石膏ボードは住宅着工から4カ月ほど遅れて連動するが、先行指標である新設住宅着工戸数の第1四半期は前年同期比プラス39.1%と大幅増となった。建築物の構造関連規定について、4月から審査省略の特例が縮小されることを前に、「駆け込みの着工が行われたものと思われる」としており、その結果として「4~6月期の石膏ボード出荷量に反映される可能性が高い」という。
ただし、住宅関係では建築資材や住設機器などの値上げから建築費の上昇が続いており、当面は低調な状態が続く見通し。非住宅関係は首都圏中心の都市再開発は回復しつつあるが、地方は低調で、全体では厳しい状況が続くと予測している。
百貨店は首都圏以外が苦戦、求人情報はスポットワークが台頭
一方、悪化を予想したのは、1~3月期の「晴れ」から「うす曇り」に引き下げた【百貨店】【その他】【建設】【印刷】【非鉄金属】【ガソリンスタンド】と、「うす曇り」から「本曇り」に引き下げた【水産】の7業種。
【百貨店】は首都圏以外が苦戦しており、インバウンドの客数も減少傾向にある。
求人情報を扱う【その他】は、求人公告の掲載がスポットワークへ変化していくことを予測している。
【建設】のA社は、「国内建設事業は堅調な建設需要が継続する一方で、建設コストの動向や協力会社の確保などに注意が必要。海外事業は、各国における金利や通商政策の動向を今後も注視する必要がある」として「晴れ」から「うす曇り」に引き下げた。B社は今期に続き「うす曇り」としている、
コメの価格高騰で事業所給食は苦戦、パン・菓子は割安感から持ち直す
今期の判断を継続した業種をみると、【事業所給食】(本曇り→本曇り)はコメの価格高騰もあり、厳しい状況が続く見通しだ。
一方、【パン・菓子】(晴れ→晴れ)の業界団体モニターによると、パン製品のコメに対する割安感がでてきたことで、食パンの販売数量が持ち直してきたという声もある。
【ホームセンター】(うす曇り→うす曇り)は、初夏を思わせる日が多かったことから、園芸関連用品を中心に売り上げの増加を期待している。
【商社】(うす曇り→うす曇り)は大手7社のうち3社が増益見通し。引き続き非資源分野の好調が見込まれるが、資源セグメントの比率が高い企業は、価格下落により減益となる見込み。