自動車など製造業で拡がる関税への懸念、円高によるインバウンド需要の減少を予測する向きも
――【特別調査】米国トランプ政権による関税政策の影響
ビジネス・レーバー・モニター特別調査
米国のトランプ政権は関税引き上げを相次いで実行しており、各国が翻弄されている。JILPTでは、年4回実施しているビジネス・レーバー・モニター企業・業界団体調査の5月調査において、特別調査項目として、米国の関税政策の影響を尋ねた。その結果をみると、製造業では自動車やその関連産業で懸念がみられるほか、生産調整による雇用への影響に心配を示す業種があった。一方、現地生産・現地販売を行う企業では、軽微な影響となっている。製造業以外をみると、円高の進行でインバウンド需要が減少することを予測する業種もあった。企業モニター18社、業界団体モニター26組織が回答した。
自動車と電機は関税適用の場合の減益額を算出
回答内容をみると、製造業を中心に懸念の声があがっている。【自動車】と【電機】の企業モニターは、関税が適用された場合に減益となる具体的な金額をすでに算出し、リスクに備えている。
【繊維】の業界団体モニターは、「現時点、繊維(綿紡績)は米国に対して輸出入量はわずかであり影響は少ない」としている。しかし、自動車産業用の産業用繊維では影響が生じるとみている。
【ゴム】の業界団体モニターは、主要な客先である自動車業界への影響が大きいとみている。モニターが中小企業会員に実施した調査によると、「今後の受注確保に影響が出る可能性がある」「長期に続くと企業経営そのものに影響を及ぼす」などの声が寄せられている。
非鉄金属は国内での生産調整による雇用への影響に危機感を示す
【非鉄金属】の企業モニターは、「海外に展開している事業に大きな影響を及ぼすものと考えている」としたうえで、海外への事業展開・販売が滞れば国内の生産調整に波及し、「当然雇用にも影響しかねない」と危機感を示した。
【造船・重機】の企業モニターは、エンジン事業などへの影響として100~200億円程度まで達するリスクはあるものの、「今後の政策動向によっては大幅に縮小する可能性もある」としている。モニターは米国拠点において、日本をはじめとする米国外から完成車およびその部品を輸入しているため、関税コストの負担増が見込まれるほか、間接的な影響として市場環境の悪化を懸念している。
印刷は調達先の変更による生産性悪化やコスト高の可能性も
【印刷】の業界団体モニターによると、原材料の多くを海外に依存している日本の印刷業界では、仕入れコストの上昇が、企業収益を圧迫する要因になると予想される。そのため、用紙を海外から調達している企業は、関税引き上げ後の価格上昇により、「調達先を別の国に切り替えるか、日本製品に切り替えざるを得ない」という。海外品への切り替えとなると、品質担保のための検品などに要する作業負荷や事務作業が増えるとともに、リードタイムの悪化も懸念され、「生産性悪化、コスト高を招く可能性がある」ことから、「用紙メーカーや代理店と適正な仕入れ価格の調整を行わなければならない」と報告している。
【石膏】の業界団体モニターは、石膏ボードは輸出入がほとんどないものの、石膏原料の約3割は輸入であることから、為替の影響を受ける可能性を指摘。【化繊】の業界団体モニターは、「日本からの米国向け輸出では、悪影響は明確」だとしている。
現地生産・現地販売のため影響が軽微とする企業も
一方で、製造業でも影響がないとみる向きもある。【食品】の企業モニターは、現地生産・現地販売を基礎としているため、「業績に与える影響は軽微」だとし、【パン・菓子】の業界団体モニターも、「当業界では、パン製品の消費期限が短いこと、体積がかさばること、単価が高くないことなどから、米国向けも含めて輸出は一部製品を除いてほぼないため、米国の関税引き上げの影響はない」としている。
【金型】の企業モニターは、「2025年第2四半期までは、トランプ関税発動前の駆け込み需要もあり業績は好調」と捉えている。
百貨店と遊戯機器は円高を懸念
製造業以外では、為替の変動が影響するとの回答が複数あった。
【百貨店】の企業モニターは、為替の変動による訪日客の売り上げへの影響があり得るとみている。
【遊戯機器】の業界団体モニターによると、関税の直接的な影響はないものの、為替が影響してインバウンド旅行者が減少することに若干の懸念を持っている。ただし、「影響は軽微」とみる。
【港湾運輸】の業界団体モニターは「貿易関係および海運業界とも関係の深いものであり、米国の関税政策の影響は大変大きい」とみている。特に輸出貨物への影響が大きく、自動車や鉄鋼をはじめとした日本を代表する工業製品の取扱量の増減は、直接的に影響すると予想している。また「不透明ではあるが」と前置きしつつ、「米国外船舶の入港料徴収が始まったとすると、海運業界へのさらなる波紋が広がると考えられ、全世界的な荷動きの鈍化が進みそうだ」としている。
【中小企業団体】の業界団体モニターは、4月に「米国自動車関税措置等に伴う特別相談窓口」を設置したが、調査回答時点では具体的な相談は来ていないという。
そのほか、【専修学校等】【建設】の企業モニターおよび【葬祭】【ホームセンター】の業界団体モニターから、「影響はない」あるいは「大きくはない」といった回答が寄せられた。
自動車販売は米国車の輸入に期待を示す
このように多くの業種が懸念を示す一方で、米国の関税政策に対して期待を示す業界もある。【自動車販売】の企業モニターは、米国車の販売・整備もしていることから、「米国が交渉材料として、日本に対して米国車の積極的な購入を求めてくることを期待している」という。
【紙パルプ】の業界団体モニターによると、紙パルプ製品は輸出割合が少なく内需中心のため、「輸出型の他産業との比較では、即時的、直接的な影響は少ない」という。また、原燃料(木材チップ、石油等)の輸入の観点からは、円高によって一時的にはむしろプラスに働く可能性もあると予想している。
【パン・菓子】の企業モニターは、「直接的な影響は軽微だが、関税の引き上げで円高に振れて輸入品の価格が下がるならば良い傾向」だとしたうえで、「マクロでみると、景気悪化による消費の冷え込みが懸念される」と付言している。