「協賛金(リベート)の負担」など、問題となり得る事例が1,960件報告される
 ――UAゼンセンとフード連合の「取引慣行に関する実態調査」2024年集計報告

2025春闘をとりまく情勢

食品の取引現場における優越的地位の濫用行為の改善に向けた活動を2003年から連携して行っているUAゼンセン(永島智子会長)とフード連合(伊藤敏行会長)は、毎年9月~10月に共同で「取引慣行に関する実態調査」を実施しており、このほど、2024年調査の結果報告をまとめた。独占禁止法・下請法や政府のガイドラインに照らし、問題となり得ると思われる内容に該当する事例は1,960件発生しており、「協賛金(リベート)の負担」(12.3%)や「店舗到着後の破損処理」(11.8%)、「原材料価格等の上昇等の取引価格改定」(11.1%)に関わる内容が比較的多かった。

調査の対象は営業を担当する加盟労働組合員。回答件数は4,615件で、回答者の所属企業数は計100社。

問題となり得る事例を14項目に整理して分析

報告は、独占禁止法や下請法、政府が策定する「食品製造業者・小売業者間における適正取引推進ガイドライン」をもとに、問題となり得る事例を14項目に整理し、それらに当てはまる事例の発生状況をまとめている。

14項目は以下のとおりとなっている。

①前提が異なる場合の同一単価による発注②包材(フィルム等)の費用負担③合理的な根拠のない価格決定④原材料価格等の上昇時の取引価格改定⑤物流センター使用料等の負担⑥協賛金(リベート)の負担⑦店舗到着後の破損処理⑧短納期での発注、発注キャンセル⑨受発注システム使用料等の徴収⑩物の購入強制(押付販売)⑪従業員の派遣、役務の提供(不当な労務提供)⑫客寄せのための納品価格の不当な引下げ⑬プライベートブランド(PB)商品をめぐる不利な取引条件の設定⑭不当な返品。

短納期での発注、発注キャンセルや不当な返品などが1割弱

各事例の発生状況をみると、14項目に当てはまる事例の総発生件数は1,960件だった。

割合にすると、最も高いのは、⑥協賛金(リベート)の負担(12.3%)で、以下、⑦店舗到着後の破損処理(11.8%)、④原材料価格等の上昇時の取引価格改定(11.1%)、⑧短納期での発注、発注キャンセル(8.6%)、⑭不当な返品(8.5%)、⑪従業員の派遣、役務の提供(不当な労務提供)(8.3%)、⑤物流センター使用料等の負担(7.3%)、③合理的な根拠のない価格決定、および⑫客寄せのための納品価格の不当な引下げ(ともに7.0%)、①前提が異なる場合の同一単価による発注(6.3%)、⑩物の購入強制(押付販売)(5.2%)、⑨受発注システム使用料等の徴収(2.7%)、②包材(フィルム等)の費用負担(2.0%)、⑬プライベートブランド(PB)商品をめぐる不利な取引条件の設定(1.8%)――の順となっている。

為替が激しく変動しても同一単価

報告は、14項目それぞれについて、代表的な事例を紹介している。

①前提が異なる場合の同一単価による発注では、「為替が激しく変動したのにも関わらず、価格改定を認めてもらえず同一価格を要求される」など、②包材(フィルム等)の費用負担では、「取引先の要求でデザイン包材に変更したが、デザイン代はメーカー負担かつ最低ロットに満たない数で終売となるので包材が余る」など、③合理的な根拠のない価格決定では、「競合となっていない地域の店舗のチラシ価格を見て、『うちもやらせろや』と販売価格の要求と、それに見合った原価の要求を強いられる」「他の量販店が販売している当社以外が受託しているプライベートブランド(PB)・留型品の価格改定が行われていないことを理由に、当社受託品の価格改定が認められず一方的に赤字を被っている。また、商品終売にも応じてもらえない状況が続く」などといった、実際に回答者が経験したケースを紹介した。

競合店の売価を理由に納品価格は改定せず

また④原材料価格等の上昇時の取引価格改定では、総発生件数218件のうち、<取引先の一方的な理由で、納品価格を据え置かれた>に該当するケースが132件、<納品価格への転嫁は受け入れられたものの、取引先の一方的な理由で、必要な価格まで改定することができなかった>に該当するケースが102件、<価格改定は受け入れられたものの、販促費等の著しく不当な条件を付けられた>に該当するケースが38件、<メール、電話、訪問等を避ける等交渉の場に着くことを拒否された>に該当するケースが32件、<取引先の一方的な理由で、取引を停止された>に該当するケースが11件を占めたと紹介。

そのうえで、これらのケースの代表的な事例として、「競合店での店頭売価を理由に、納品価格の改定を行わない。取引先側の値入率を削って店頭価格を据え置く等の対応は行わない」「売上の柱となる商品の価格改定の際に必要な価格まで改定できず、また交渉期間が長引いたため価格改定実施日も後ろ倒しとなった。また、販促条件の提示を求められた」「価格改定の見積提示後、価格交渉があり、改定日が近づいていたこともあり、先方の提案を受け入れた。その後、価格を下げられるならもっと下げろとさらなる要求があり、根拠も無かったためゼロ回答したところ、『お前は頭がおかしい、もう信用できないし、会うことはない』等と人格否定を含めた暴言を受けた。その後はメールをしても何も返答がなく、価格改定も1カ月以上経つができていない」などの内容を紹介した。

販売達成状況に関係なく2~3%のリベートを徴収される

⑤物流センター使用料等の負担では、代表的な事例として、「卸売店に対し、急なセンターフィーの引き上げ要求をされている。引き上げについては、物流費高騰の観点からあり得るが、引き上げ率や時期等が、普通ではない」など、⑥協賛金(リベート)の負担では、「販売の達成状況に関わらず2%~3%徴収されている。また取引先の人件費の高騰を理由に引き上げの要求があった」など、⑦店舗到着後の破損処理では、「商品納品後、数日~10日ほど経過した段階で商品のカビや真空漏れの指摘を受ける。納品して開封時にカビが発生していればメーカーの責任だと思うが、納品後数日~10日でのカビは店舗での管理だと思われる」などといった内容を紹介した。

⑧短納期での発注、発注キャンセルについては、全発生件数は169件だったが、複数回答での発生状況は、「取り決めたリードタイムよりも短納期での発注」が100件、「確定後の一方的な数量変更(増減)」が75件、「確定後の一方的な発注キャンセル」が58件だったとしている。

従業員派遣、役務の提供の頻度の最多は「年間1~6回」

⑪従業員の派遣、役務の提供(不当な労務提供)は全発生件数が162件だったが、頻度としては「年間1~6回」が41.2%で最も多く、次いで「年間12~24回」が19.6%で多かったと報告した。

また、日当・交通費に関する取り扱いをみると、「日当や交通費の条件は所属会社と取引先にて取り決められているか不明であり、請求もしていない」(99件)が最も多く、「日当や交通費の条件は所属会社と取引先にて取り決められているが、請求はしていない」が25件、「日当や交通費の条件は所属会社と取引先にて取り決められており、請求している」が16件、「日当や交通費の条件は所属会社と取引先にて取り決められているか不明だが、請求はしている」が3件だったとした。

報告は、「取引先にて自社の直接的な利益にならない労働が発生している。中には、年間61回以上も他社で働かされており、疲弊している。危険な作業や過酷な環境での労働も強いられている。日当や交通費等の請求は食品メーカーの立場では『しない』、『できない』のが実情」と訴える。

不当な返品では取引先の一方的な都合のケースが最多

⑭不当な返品の全発生件数は166件だったが、複数回答で内訳をみると、「取引先の一方的な都合により、売れ残り商品や在庫となった商品を返品された」(100件)が最も多く、「取引先が独自に賞味期限より短い販売期限を定め、その販売期限を経過したことを理由に返品された」が47件、「取引先が独自に納品期限を定め、その納品期限を経過したことを理由に返品、納品を拒否された」が42件、「あらかじめ返品の条件を取り決めていないにもかかわらず、軽度な汚破損商品を返品された」が38件、「その他の理由により返品された」が28件だったとしている。

報告は、「取引先の都合や合理的な理由の無い返品の負担を食品メーカーが被っている。また、食品ロス削減の観点からも改めるべき商慣習である『1/3ルール』による返品は納品期限、販売期限の双方で未だに発生している」としている。

半数超が人件費上昇を理由とする価格改定の取引を行っていない

報告は、労務費の価格転嫁に関する取引の状況について尋ねた結果も掲載している。それによると、「人件費(労務費)上昇を理由とした価格改定の取引で問題が生じたことがある」とした回答者の割合は2.2%で、「人件費(労務費)上昇を理由とした価格改定の取引で問題は生じていない」が42.4%、「人件費(労務費)上昇を理由とした価格改定の取引を行っていない」が55.4%となっている。「社内人件費、原材料費等の上昇に関する根拠を示した価格改定について、競合他社の販売価格を理由に価格改定に応じない」などの事例があったという。

また、問題となり得る取引の要請を、受けざるを得なかった理由について尋ねたところ、「今後の取引に不利な影響があると思ったから」が28.3%で最も多く、「競合他社も対応しているから」が22.2%、「取引の付き合いの範囲内と考えたから」が18.9%、「その他」が14.9%、「業界の慣習であり対応して当たり前と思ったから」が11.6%、「違反行為であるという認識がなかったから」が4.2%だった。

報告は「営業担当者としては今後の取引に不利な影響があることを懸念して断ることができない状況がある。また、他の食品メーカーが同様の対応をしているために応じてしまう状況もある。食品業界全体で公正な取引を実行する必要がある」としている。

取引慣行の改善状況をみると、「改善している」が31.2%、「変化は感じない」が64.8%、「悪くなっている」が4.0%で、前年と比べると、「改善している」割合は0.4ポイント減となった。

(調査部)