<企業・業界団体調査 2024年10~12月期の業況実績/2025年1~3月期の業況見通し>
インバウンド需要で好調な業種がある一方、人件費や物流費の上昇に悩む業種も。来期は製造業を中心にトランプ政権の通商政策に不安が広がる

ビジネス・レーバー・モニター定例調査

JILPTが四半期ごとに実施している「ビジネス・レーバー・モニター調査」によると、2024年第4四半期(10~12月期)の業況実績は前期から小幅な変化にとどまっている。「快晴」と「晴れ」を合わせた割合は3年超にわたり2割台で推移している。各モニターから寄せられた判断理由をみると、「快晴」「晴れ」の業種ではインバウンド需要が売り上げの増加に寄与している。「うす曇り」「本曇り」の業種では、人件費・物流費の上昇や天候不順による農作物の不作などが判断要因にあがった。次期(2025年1~3月期)の業況見通しは「晴れ」の割合が約7ポイント低下するなど、悪化の見込み。引き続きインバウンド需要が見込まれるほか、大雪による暖房用品や除雪用品の売り上げ増加が見込まれる業種がある一方で、コメの価格高騰や人手不足に懸念を持つ業種もある。さらに、製造業を中心にアメリカのトランプ政権の通商政策への不安が広がっている。

調査の趣旨

JILPTでは、企業および業界団体のモニターに対し、四半期ごとに業況の実績と次期の見通しを「快晴」「晴れ」「うす曇り」「本曇り」「雨」の5段階で聞き、企業モニターの回答の平均と業界団体の回答をさらに平均する(端数は四捨五入)ことで各業種の最終的な判断を算出している。そのため、個々の企業、業界団体の業況評価と必ずしも一致しない。

今回は2024年第4四半期(10~12月期)の業況実績と2025年第1四半期(1~3月期)の業況見通しについて調査した。回答は企業と業界団体の計51組織、42業種から得た。

各企業・業界団体モニターの現在の業況

業況は前期から小幅な変化にとどまる

2024年第4四半期の業況実績は、回答があった42業種中、「快晴」が1(業種全体に占める割合は2.4%)、「晴れ」が10(同23.8%)、「うす曇り」が19(同45.2%)、「本曇り」が10(同23.8%)、「雨」が2(同4.8%)(表、図)。前回調査の第3四半期と比べると、小幅な変化にとどまっている。「快晴」と「晴れ」を合わせた割合は26.2%で、2021年第2四半期以降は2割台で推移している。

製造業・非製造業別にみると、「快晴」は製造業ではゼロで、非製造業が1業種。「晴れ」は、製造業、非製造業ともに5業種で、「うす曇り」は、製造業で9業種、非製造業が10業種となっている。これに対し、「本曇り」と「雨」の業種は、製造業では合わせて5業種となっており、非製造業では合わせて7業種となっている。

表:前期及び今期の業況実績と業況見通しの概要
画像:表
画像クリックで拡大表示

図:調査開始以来の業況調査結果の推移
画像:図
画像クリックで拡大表示

今期の業況の判断理由

鉄道はインバウンド需要を背景に運輸・ホテル業の収入が増加傾向

今期、「快晴」と判断したのは【鉄道】の1業種だけだった。

【鉄道】の企業モニターは、交通事業やホテル・リゾート事業で利用者数が回復したことに加え、不動産事業におけるマンション販売の増加や生活サービス事業での需要回復などにより、営業収益・営業利益ともに前年同期比で増収・増益となったことを理由にあげて、「快晴」と判断した。

一方、業界団体モニターは、通勤需要や外出機会の増加、インバウンド需要の拡大を背景に、「運輸収入およびホテル業などの関連事業の収入が大手の鉄道会社を中心に引き続き増加傾向」と報告し、「晴れ」と判断。そのため、【鉄道】の総合的な判断は「快晴」となった。

コンビニは猛暑とインバウンド需要が追い風に

「晴れ」と評価した業界は、【コンビニ】【百貨店】【情報サービス】【造船・重機】【食品】【印刷】【金型】【自動車】【商社】【遊戯機器】の10業種となっている。

【コンビニ】は、例年と比較し気温が高く雨も少なかったため、行楽などの外出機会の増加や訪日外国人の増加で好調。

【百貨店】は、増収となったほか経費構造改革の推進による販売管理費の減少もあり、営業利益・経常利益ともに過去最高を記録した。

【情報サービス】は、経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」において、売上高がプラスで推移していることを判断理由にあげた。

造船・重機は防衛省向けなどの売り上げが伸長

【造船・重機】は、国内向けごみ処理施設整備・運営事業の大口案件や、防衛省向け艦艇用機器での増収などにより、前年同期比で増収増益となった。

【食品】の業界団体モニターは、「日銀短観」(12月調査)での食品製造業の景況判断DIが、大企業が10(前回調査比マイナス5)、中堅企業が13(同マイナス4)、中小企業が4(同マイナス6)と、いずれもプラス水準を維持していることから「晴れ」とした。企業モニターは、高付加価値型商品の売上増が一巡し、売上高・売上総利益・営業利益は前年同期を下回ったものの、営業利益は高い水準を維持していることから「うす曇り」と判断した。

【印刷】は当期の生産金額が前年同期比で2.2%増加した。その理由についてモニターは、「12月は気温の低下とともに重衣料など冬物商材が好調となったほか、インバウンド需要が好調を維持したため、印刷生産金額に好影響があった」とみている。

【金型】は、主力のデータセンター向けハードディスク用プレス製品の売り上げが好調となっている。

【自動車】は認証不正問題への対応などもあり、前年同期比で減益となったものの、仕入先や販売店も含めた現場の地道な改善努力により、依然として高水準の利益を確保している。

ホームセンターは防災用品で売上増

「うす曇り」とした19業種では、天候、インバウンド需要、物価上昇などが判断要因にあがった。

【ホームセンター】は、全国的に防災用品の売り上げが増加したものの、ペット用品、プリンター用インクが伸び悩んだ。

【非鉄金属】の業界団体モニターによると、金属価格は銅、亜鉛などのベースメタルが引き続き高水準で推移し、上流・中流部門は一定の収益を確保している。下流部門では、自動車の生産が低調となったことから、自動車向けの関連製品の売り上げが低調となった。

【港湾運輸】は、中東情勢に起因するスエズ運河の回避問題が依然として継続している。

【化繊】は自動車用を中心とした産業資材用の需要回復が遅れている。

電機は気温の低下でエアコンの出荷が好調

【電機】の業界団体モニターは、重電機器について「一般産業向け汎用機器は、電子部品や半導体などの設備投資減少の影響が払拭されず、生産額は前年同期を下回った」と報告。白物家電機器は、冬の気温の低さによりルームエアコンの出荷が好調だったほか、電気シェーバー、ヘアドライヤーなどの理美容機器も好調に推移したと報告し、全体では「うす曇り」と判断した。

企業モニターの回答をみると、A社はデジタルシステムやグリーンエネルギーを含めた各事業分野が増収増益となったことから「晴れ」と判断した。円安もプラスに寄与している。B社も売上増を理由に「晴れ」とした。C社は生成AI関連が好調だったものの、車載電池の価格改定がマイナス要因となったことから「うす曇り」とした。

紙パルプは猛暑・雨不足の影響で青果物向け段ボールが前年割れ

【紙パルプ】は、段ボール原紙が青果物向けで前年割れとなった。猛暑による作柄不良に加え、雨不足による不作が影響した。白板紙はトレーディングカード向けや医薬品向けが堅調に推移していたが、一服感がみられた。衛生用紙は、インバウンドや人流の増加を背景に宿泊施設や商業施設向けの業務用を中心に引き続き堅調に推移している。

【パン・菓子】の業界団体モニターは、物価上昇で消費者の生活防衛意識が高まり、節約・低価格志向が強まっているとしたほか、糖類や油脂、包装資材の価格の高止まりに加え、人件費や物流費などの上昇もあり、厳しい経営環境になっていると報告して「うす曇り」と判断した。企業モニターも、10月からの最低賃金引き上げで人件費が上昇しており、経営環境を圧迫していることをもとに「うす曇り」と判断した。

【ホテル】は宿泊が好調で、宴会・レストランの売り上げをカバーしている。

これらのほかに「うす曇り」と判断した業種は、【建設】【繊維】【石油精製】【金属製品】【工作機械】【自動車販売】【ガソリンスタンド】【葬祭】【職業紹介】【請負】【その他】となっている。

事業所給食はコメの高騰に価格転嫁が追いつかない状況

「本曇り」と判断した10業種は、【ゴム】【事業所給食】【木材】【硝子】【電力】【道路貨物】【水産】【専修学校等】【シルバー産業】【中小企業団体】。

判断理由についてみていくと、【ゴム】では、業界団体モニターが中小企業会員に実施した景況調査において、業況判断・売り上げ・経常利益は前期より若干改善したものの、依然としてマイナス水準となっているとした。中小企業からは、円安への対応に苦慮していることや、受注が急減している状況も報告されているという。

【事業所給食】は、従前から食材価格の上昇に悩んでいたが、今期は特にコメの高騰に対して価格転嫁が追いついていないと報告。また、最低賃金が10月から大幅に引き上げられたことも経営に影響している。

セメントは人手不足による工期の遅れで需要が伸び悩む

「雨」と判断した業界は【セメント】【石膏】の2業種。

【セメント】は、当期のセメント国内需要が前年同期比マイナス6.5%となっており、モニターはその背景について、公共工事では人手不足などによる工期の長期化や、労務単価、建設資材費の上昇により、金額あたりのセメント使用量が低下していることをあげた。民間工事も同様で、人手不足や建設コストの上昇による設計変更や建設計画の見直しで工事遅れが生じ、需要が伸び悩んだ。

【石膏】は、当期の出荷量が前年同期比マイナス2.2%だった。エネルギーコストの高止まりや物流経費、人件費の高騰も業績を圧迫している。

次期(2025年1~3月)の業況見通し

次期(2025年1~3月)の業況見通しについては、42業種のうち、「快晴」とする業種は1業種(業種全体に占める割合は2.4%)、「晴れ」が7業種(同16.7%)、「うす曇り」が23業種(同54.8%)、「本曇り」が9業種(同21.4%)、「雨」が2業種(同4.8%)となっている。「晴れ」が今期の23.8%から約7ポイント低下するなど、悪化の方向となっている。

水産は輸出の緩やかな回復やインバウンド需要に期待

10~12月期から業況の好転を予想したのは、「本曇り」から「うす曇り」に引き上げた【水産】と【硝子】の2業種。

【水産】では全般的な不漁が続いてはいるものの、イワシ、イカ、サンマなどはやや回復している。また、輸出の緩やかな回復やインバウンド需要も「大きくはないが期待できる」とする。

印刷は円安による輸入コスト増加の影響が続く

一方、悪化を予想したのは、10~12月期の「晴れ」から「うす曇り」に引き下げた【印刷】【金型】【造船・重機】と、「うす曇り」から「本曇り」に引き下げた【自動車販売】の4業種。

【印刷】は、円安による輸入コスト上昇の影響が残存しており、中小企業の占める割合が大きい印刷業界の企業経営は引き続き厳しい状況にある。

【金型】は、ハードディスク関連を含むプレス製品は好調だが、金型製作の受注件数が減少傾向にある。

【自動車販売】は、1月の中古車の販売台数は予算どおりだったものの、新車の対予算達成率は約70%と、前期から急激に悪化した販売環境に改善がみられない。3月までに環境が好転する材料はなく、「このまま年度末まで推移すると思われる」としている。

ホームセンターは大雪で暖房用品や除雪用品の売り上げが伸びる見込み

今期の判断を継続した業種をみると、【ホームセンター】(うす曇り→うす曇り)は厳しい寒さや大雪の影響で、暖房用品や除雪用品などの売り上げが増加するとみている。

【事業所給食】(本曇り→本曇り)は、コメの価格高騰や人手不足により厳しい状況が続く見通しだ。

港湾運輸は大阪・関西万博の開催にともなう貨物量の増加を期待

【港湾運輸】(うす曇り→うす曇り)はEXPO2025大阪・関西万博の開催による、人流の増加に伴う貨物量の増加に期待している。

【遊戯機器】(晴れ→晴れ)では、インバウンド需要も含めたアミューズメント施設利用者の好調が維持するとみている。

アメリカの通商政策の不透明感を懸念

【石膏】(雨→雨)は、住宅関係では建築資材や住設機器などの値上げから建築費の値上げが続いており、1戸あたりの建築着工床面積が減少傾向となり、石膏ボードの使用にも影響している。非住宅関係は首都圏中心の都市再開発は回復しつつあるものの、地方は低調な状況で、全体としては厳しい状況が続くと予測している。

そのほか、アメリカのトランプ政権による通商政策の不透明感を懸念していることが、【化繊】【ゴム】【金属製品】【電機】【造船・重機】【港湾運輸】という製造業を中心とした業種から報告された。