ストレスチェック実施義務対象を50人未満の事業場にも拡大するよう提言
――厚生労働省「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」の中間とりまとめ
スペシャルトピック
ストレスチェック制度の効果の検証や必要な対応を検討してきた厚生労働省の「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」(座長:川上憲人・東京大学大学院医学系研究科デジタルメンタルヘルス講座特任教授)は11月、先行して議論していた50人未満の事業場におけるストレスチェックなどについて、中間のとりまとめを行った。中間とりまとめは、現行では努力義務としている50人未満の事業場におけるストレスチェックについて、義務化の対象とするよう提言した。一方、事業場規模にかかわらず努力義務とされてきた集団分析・職場環境改善の取り組みについては、引き続き検討課題とするとした。同省では今後、労働政策審議会でとりまとめの内容をふまえ、必要なメンタルヘルス対策について議論するとしている。
50人未満の事業場でのストレスチェックなどのあり方を先行して議論
ストレスチェック制度(ストレスチェックおよび面接指導、集団ごとの集計・分析、その結果に基づく職場環境の改善等)は、事業者によるメンタルヘルス不調の未然防止(1次予防)を強化する観点から、2014年の労働安全衛生法の改正により創設され、2015年12月に導入された。
「労働安全衛生調査(実態調査)2023年」によると、ストレスチェックを実施している事業場の割合は、50人以上の事業場で81.7%。一方、実施が努力義務となっている50人未満の事業場では34.6%となっている。
2014年の安衛法改正の附則で、政府は施行後5年を経過した際に施行状況を検討し、必要があれば必要な措置を講ずることになっている。また、2020年11月の労働政策審議会安全衛生分科会が「今後、ストレスチェック制度について効果検証を行い検討していくべきである」と指摘したことをふまえ、厚生労働省は2024年3月から「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」を開催し、今後のストレスチェック制度などメンタルヘルス対策の方向性について、実施状況などをふまえながら検証し、必要な対応を検討するための議論を行ってきた。
検討会はこのほど、先行して議論を進めてきた「50人未満の事業場におけるストレスチェック」「集団分析・職場環境改善」の今後のあり方などについて、中間的にとりまとめを行った。なお、現行のストレスチェック制度の実効的な運用やストレスチェック制度以外も含めたメンタルヘルス対策全般については、引き続き検討会で議論するとしている。
小規模事業場ではストレスチェックの外部委託を推奨
中間とりまとめでは、「50人未満の事業場におけるストレスチェック」の今後のあり方について、①労働者のプライバシー保護②医師の面接指導の事後措置③50人未満の事業場に即した実施内容④実施コスト⑤地域産業保健センター(地産保)等による支援、その他50人未満の事業場に対する支援策――の5点から検討を行った。
それぞれの内容をみていくと、「労働者のプライバシー保護」については、現在は産業医の選任義務のない50人未満の事業場での実施は、労働者のプライバシー保護などが懸念されていることから、当面の間努力義務とされているが、中間とりまとめは、現時点において「外部機関の活用等により、対応可能な環境は一定程度整備されてきている」などと指摘。そうしたことを理由に、今後の方向性について、「十分な支援体制の整備等を図った上で、ストレスチェックの実施義務対象を50人未満の全ての事業場に拡大することが適当」だと結論づけた。
なお、産業医がいない小規模事業場では、適切な情報管理が困難な場合もあるため、「原則として、ストレスチェックの実施は労働者のプライバシー保護の観点から外部委託することが推奨される」と指摘。ただし、その場合でも、事業者の取り組みが形骸化しないよう、事業者は実施方針の表明・実施計画の策定などに主体的に取り組むことを基本として、実施体制・実施方法を整理し、示していくべきだと言及した。
50人未満の事業場に即したマニュアル作成・周知の徹底を明示
「医師の面接指導の事後措置」については、50人未満の事業場でも、50人以上の事業場と同様に実施すべきとの意見や、50人以上の規模の事業場に比べて配置転換が難しいなどの意見があったことをふまえ、「事業場の実情に応じて、対応可能な措置や配慮を講じることが重要」とし、国が事後措置を含めた好事例や効果、トラブルになりやすいケースなどをとりまとめ、展開していく必要性を示した。
「50人未満の事業場に即した実施内容」については、50人未満の事業場に対して、「現在の50人以上の事業場における実施体制・実施方法を一律に求めることは困難」だと指摘。50人未満の事業場に即した現実的で実効性のある実施内容を求めていくことを強調した。また、ストレスチェックの実施結果の労働基準監督署への報告義務を、負担軽減の観点から課さないことや、50人未満の事業場に即したマニュアルの作成・周知の徹底なども、今後の方向性として提起した。
委託する外部機関を適切に選定できるチェックリストの見直しも指摘
「実施コスト」については、ストレスチェックの実施を外部委託する場合のコストについて、50人未満の事業場が負担し得るものか、現状を確認し、その結果、ストレスチェックの実施を外部委託することが多くなると、サービス内容・費用の設定が外部機関ごとに異なるため、その適切性が一層問われると指摘。
そのため、50人未満の事業場が、委託する外部機関を適切に選定できるよう、厚生労働省が「ストレスチェック制度実施マニュアル」で示す「外部機関にストレスチェック及び面接指導の実施を委託する場合のチェックリスト例」について、50人未満の事業場が活用できるよう内容の見直し・周知をすべきだとした。
「地域産業保健センター(地産保)等による支援、その他50人未満の事業場に対する支援策」については、中間とりまとめはまず、産業医の選任義務がなく、産業保健スタッフがいない、または体制が脆弱な50人未満の事業場では、ストレスチェック制度が適切に導入・実施されるためには都道府県産業保健総合支援センター(産保センター)・地産保による支援が重要であり、その充実が必要だと強調。特に、地方はストレスチェックの外部資源が乏しく、専門家等の人員が手薄なことから、産保センター・地産保の支援体制の充実が重要だと指摘した。
そのうえで、現在でも地産保で50人未満の事業場に対して、登録産業医・保健師等による産業保健支援サービスを無償で提供し、高ストレス者の面接指導について登録産業医により対応していることを紹介しながら、ストレスチェックの義務対象を50人未満の事業場に拡大する場合は、面接指導の対象者が大幅に増えることが予想されることから、「円滑な施行に資するよう、登録産業医等の充実など、地産保で高ストレス者の面接指導に対応するための体制強化を図る必要がある」と提言した。
集団分析・職場環境改善まで含めた一体的な制度への理解促進を図る
中間とりまとめはまた、現在、事業場規模にかかわらず努力義務とされている、集団的分析とその結果を活用した職場環境の改善についても、①集団分析・職場環境改善の実施状況②集団分析・職場環境改善の実施体制③外部の支援――の3点で検討を行った。
「集団分析・職場環境改善の実施状況」については、2023年度の安全衛生調査(実態調査)において、集団分析を活用した事業所の割合が50人以上の事業所では52.1%、10~49人の事業所では17.3%にとどまっていたことを紹介。そのうえで、国がストレスチェック制度について、「労働者がメンタルヘルス不調になることを未然に防止する1次予防の効果が得られるものであり、集団分析及び職場環境改善まで含めた一体的な制度であることを、事業者や労働者に対して明確に伝えることができるような方策を検討し、関係者の理解を図っていくべき」と主張した。
「集団分析・職場環境改善の実施体制」では、ストレスチェック制度が職場のメンタルヘルスの改善を目的とする1次予防の制度として「集団分析・職場環境改善を通じて、健康管理部門と人事労務管理部門が連携して取り組むことが重要」だと強調。現行のマニュアルは実施体制が健康管理の責任者を中心としたものになっていることから、事業者や人事労務の役割・責任が明確になるよう反映すべきだとしている。
「外部の支援」では、「事業場における具体的な職場環境改善の実施を促進する上で、外部の支援の充実を図るべき」として、集団分析結果を活用した職場環境改善の取り組み事例について、働く人のメンタルヘルスポータルサイト「こころの耳」などによる事例収集・情報提供、産保センターにおける研修等の支援の充実の必要性を示した。
義務化は引き続き検討し、適切な取り組みの普及を
①~③の検討結果から、集団分析・職場環境改善については、活用する情報や実施体制・実施方法などが多様であることをふまえ、「現時点では、何を、どの水準まで実施したことをもって、履行されたと判断することは難しく、事業場規模に関わらず義務化することは時期尚早」と結論づけ、義務化について引き続き検討課題としつつ、適切な取り組みの普及を図るとした。
また、集団分析は労働者のプライバシー保護等の観点から、個人を特定できない方法での実施を努力義務とすることが適当だと述べた。
集団分析・職場環境改善の具体的な実施の促進に向けては、ストレスチェックの集団分析結果を活用した職場環境改善の取り組み事例の収集・とりまとめを行い、そのうえで、取り組み事例を含めた制度の周知啓発・取り組み事例を活用したストレスチェック制度関係者に対する研修の実施など、国や事業者、労働者、医療関係者において今後も計画的かつ確実に進めていくべきだとしている。
(調査部)
2025年1・2月号 スペシャルトピックの記事一覧
- ストレスチェック実施義務対象を50人未満の事業場にも拡大するよう提言 ――厚生労働省「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」の中間とりまとめ
- 製造業では企業規模にかかわらず大きい熊本県の給与上昇率 ――毎月勤労統計調査地方調査を使った都道府県別の賃金水準の経年比較