事業場内最低賃金を引き上げるために生産性向上に資する設備投資を行った中小企業への助成金に297億円を計上
――厚生労働省の2024年度補正予算
国内トピックス
政府の経済対策の裏付けとなる2024年度補正予算案が12月17日に参議院本会議で可決され、成立した。計上した一般会計の歳出総額は13兆9,433億円。厚生労働省補正予算では、一般会計で8,414億円を計上し、特別会計を含めた追加額全体でみると8,454億円となっている。政策の柱の1つである「持続的・構造的賃上げに向けた支援等」では、中小企業の最低賃金引き上げに向けた環境整備を図るため、事業場内最低賃金を引き上げるために生産性向上に資する設備投資を行った中小企業への助成金に、297億円を計上した。
一般会計額は8,414億円で持続的・構造的賃上げへの支援等が柱
厚生労働省の補正予算額は8,454億円で、一般会計が8,414億円、労働保険特別会計が38億円、年金特別会計が41億円となっている。なお、一般会計から年金特別会計への繰り入れがあるため、39億円が重複する。
厚生労働省が掲げる政策の柱は、①医療・介護・障害福祉分野の更なる賃上げの支援等、医師偏在是正に向けた対策の推進(2,861億円)②持続的・構造的賃上げに向けた支援等(313億円)③創薬力強化に向けたイノベーションの推進、医薬品等の安定供給確保(442億円)④医療・介護DX等の推進(1,447億円)⑤国際保健・次なる感染症に備えた対応等(1,022億円)⑥国民の安心・安全の確保(2,205億円)――の6分野。
このうち、労働関連の施策が主に該当する「持続的・構造的賃上げに向けた支援等」では、「最低賃金の引上げに対応する中小企業・小規模事業者向け生産性向上支援」などが主な取り組みのメニューとなっている(図表)。
図表:補正予算「持続的・構造的賃上げに向けた支援等」の内訳
(公表資料から編集部で作成)
現在の事業場内最賃と地域別最賃の差額50円以内が条件
「持続的・構造的賃上げに向けた支援等」で掲げた施策の具体的な内容をみていくと、最低賃金の引き上げに向けた環境整備を図るため、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)の引き上げを図る中小企業・小規模事業者の生産性向上に向けた取り組みを支援する。
事業場内最低賃金を引き上げるために、機械設備の投入やコンサルティングなど、生産性向上に資する設備投資を行った中小企業に対して、その設備投資の費用の一部を助成する(業務改善助成金)。
助成対象となるには、事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であることが条件。助成額は、生産性向上に資する設備投資等にかかった費用に一定の助成率をかけた金額と、あらかじめ定められた助成上限額とを比較し、いずれか安いほうの額が支給される。
この事業への計上額は297億円で、「持続的・構造的賃上げに向けた支援等」に計上した総額313億円の9割以上を占める。
生衛業者の価格転嫁を支援
飲食業・美容業・クリーニング業などの生活衛生関係営業者(生衛業者)の処遇の改善にも注力し、物価高騰等に対応する中小零細の生衛業者の価格転嫁を支援するため、「生活衛生関係営業物価高騰等対応・経営支援事業」に5.9億円を充てる。
生衛業者の処遇の改善には、消費者や利用者に価格転嫁を受け入れてもらう必要があることから、生活衛生同業組合連合会による消費者・利用者に対する広報やタイアップイベントなどを支援し、生衛業者の価格転嫁を浸透させる。
また、経営状況の改善や衛生水準の適切な確保に向け、全国生活衛生営業指導センターを介した中小企業診断士や税理士などを生衛業者に派遣し、相談に対応したり、社会保険の被保険者適用についての手続きを支援するなど、経営課題解決にむけた伴走型支援を実施する。
フリーランスの両立支援等に0.9億円
2024年11月に施行された「フリーランス・事業者間取引適正化等法」(フリーランス新法)を強力に推し進めるため、「フリーランスの就業環境整備事業」に0.9億円を盛り込んだ。就業環境の整備に取り組むためには、発注業者だけではなく、その上流の発注業者など、業界全体の取り組みが不可欠であることから、業界団体と連携しながら取り組む。
具体的には、業界団体を通してフリーランスの育児・介護等の配慮やハラスメント防止対策に関する好事例の収集・事例集の作成や、発注事業者に対するハラスメント防止研修などを実施し、フリーランスが安心して働くことのできる環境整備を推進する。
両立支援等助成金の支給額や条件などを見直し
両立支援では、「共働き・共育て」の実現に向けて、仕事と育児の両立支援に取り組む中小企業の事業主を助成する「両立支援等助成金」を拡充する(追加予算を計上せず、制度の内容を変更する「制度要求」)。
男性労働者が育児休業を取得しやすい雇用環境整備に取り組む中小企業の事業主を助成する「出生時両立支援コース」では、男性労働者が育児休業を取得しやすい雇用環境整備などを行ったうえで、男性労働者が子の出生後8週間以内に開始する育児休業を取得した場合に支給する「第1種助成金」と、第1種助成金を受給した事業主を対象に、男性の育児休業取得率が30ポイント以上上昇した場合などに助成する「第2種助成金」がある。
今回の補正予算では、「第2種助成金」の支給要件を緩和し、第1種助成金を未受給の事業主でも申請可能とする。
ほかにも、「第2種助成金」では、3事業年度以内に育児休業取得率が30ポイント以上上昇した場合などに支給することとしていたが、これを、申請前年度を基準とし、男性の育休取得率が30ポイント以上上昇し、50%以上となった場合などに見直す。
また、育児休業や育児のための短時間勤務などの業務体制整備のため、業務を代替する労働者の手当支給などに取り組む中小企業の事業主を支援する「育休中等業務代替支援コース」において、支給額の見直しを行う。育児休業中の手当支給を最大125万円から最大140万円に、短時間勤務中の手当支給を最大110万円から最大128万円に引き上げる。
高齢者雇用ではシルバー人材センターの支援に8.5億円
高齢者雇用では、高齢者の就労による社会参加を促進し、安心して働くための職場環境の整備を図るため、「シルバー会員就業支援事業」等に1.9億円を盛り込んだ。
具体的には、高齢等により体力面などで具体的な不安を抱えるシルバー人材センター会員に対して、腰、腕、脚などの筋肉をサポートする高齢者向けアシストスーツ等の就業支援機器を貸与し、環境整備支援を行うモデル事業を実施する。
モデル事業を通して、就業支援機器の貸与等による会員の就業を促進し、会員数および就業延人数の増加を見込む。
シルバー人材センターの契約見直しの説明事業を援助
また、いわゆるフリーランス新法の施行(2024年11月)に伴い、シルバー会員の契約方法の見直しを進める「シルバー人材センター契約見直しに係る説明対応事業」に6.6億円を投入する。
具体的には、シルバー人材センターが、同法の内容を熟知した弁護士や社会保険労務士等を専門員として委嘱し、その専門員が民間企業等の発注者に対して、法の趣旨や同法の規定に課される義務を丁寧に説明し、円滑に契約方法の見直しが行われるようにする。
そのうえで、契約見直しの説明対応による民間企業等の発注を促進し、受注件数の増加を見込む。
厚生労働省の補正予算ではこのほか、介護分野の職場環境の改善や人材確保に向け、「医療・介護・障害福祉分野の更なる賃上げの支援等、医師偏在是正に向けた対策の推進」に2,861億円と最も大きい予算を配分している。
(調査部)
2025年1・2月号 国内トピックスの記事一覧
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