「Webエンジニア」の半数近くに重度を含むうつ・不安障害の疑い。3割超の芸術・芸能従事者(スタッフ)が1週間あたりの拘束時間が60時間以上
 ――2024年版「過労死等防止対策白書」

過労死防止対策

10月に公表された政府の2024年版「過労死等防止対策白書」では、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」で調査研究の重点対象とされている芸術・芸能分野や、調査研究の必要性が指摘されているDX(デジタルトランスフォーメーション)等先端技術担当者などの調査結果分析も主な内容としている。DX等先端技術担当者の調査では、重度を含むうつ・不安障害の疑いがある割合が「Webエンジニア」では50%近くにのぼった。芸術・芸能従事者(スタッフ)への調査では、1週間あたりの拘束時間が60時間以上の人が3割を超え、仕事の関係者から殴られるなどの経験のある人が2割以上にのぼっている。

「過労死等防止対策白書」は、過労死等防止対策推進法第6条に基づき、国会に毎年提出を行う年次報告書で、労働時間やメンタルヘルス対策、自殺の状況や、政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況をとりまとめている。

同法と過労死等の防止のための対策を効果的に推進するために、政府は同法に基づき「過労死等の防止のための対策に関する大綱」を定めており、大綱では、国が取り組む重点対策として、過労死などの調査研究を行うことを明記している。また、大綱はこれまで、「自動車運転従事者」「教職員」「IT産業」「外食産業」「医療」「建設業」「メディア業界」の7業種などを調査研究の重点業種等に指定。これを受けて政府はそれらの7業種等を中心に調査・分析を実施してきた。今年8月に閣議決定された新たな大綱は、重点業種等に「芸術・芸能分野」を加えた。

DX等先端技術担当者や芸術・芸能従事者(スタッフ)への調査結果を報告

2023年度の状況をとりまとめた今回の白書は、2021年度に労災支給決定(認定)された事案と公務災害認定事案(国家公務員は2022年度)を加えて分析を行うとともに、全業種、DX等先端技術担当者、芸術・芸能従事者(スタッフ)についてのアンケート調査結果を収録している。

以下、第4章の「1.労災事案分析」と、「2.労働・社会分野の調査(アンケート調査)」の報告に絞り、その概要を紹介する。

1.労災事案分析

<労災支給決定事案の分析>

脳・心臓疾患事案数の7割以上を50歳台と40歳台の事案が占める

労災事案分析では、はじめに、2010年度~2021年度までの12年分の労災支給決定(認定)事案(脳・心臓疾患事案3,100件、精神障害事案5,728件)を分析している。それによると、脳・心臓疾患事案の男女内訳は、男性が2,954件(95.3%)で、女性が146件(4.7%)。また、脳・心臓疾患事案全体に占める死亡事案は1,198件(38.6%)となっている。

脳・心臓疾患事案での発症時年齢は、50歳台が1,155件(37.3%)、40歳台が1,031件(33.3%)でともに1,000件を超えており、あわせて全体の7割以上を占めている。

脳・心臓疾患事案数は「運輸業、郵便業」が突出して多い

脳・心臓疾患事案数を業種別にみると、「運輸業、郵便業」が1,032件(33.3%)で突出して多く、次いで「卸売業、小売業」438件(14.1%)、「製造業」374件(12.1%)などの順となっている。

脳・心臓疾患での労働時間以外の負荷要因を、過労死認定基準改正(2021年9月)より後の分類でみると、「拘束時間の長い勤務」と「勤務間インターバルが短い勤務」の割合がともに24.7%で最も高く、「不規則な勤務・交替勤務・深夜勤務」も21.6%にのぼった。

精神障害事案数は「製造業」「医療、福祉」で高い

精神障害事案の男女内訳は、男性が3,746件(65.4%)、女性が1,982件(34.6%)。精神障害事案に占める自殺事案(未遂を含む)は985件(17.2%)となっている。

精神障害事案の発症時年齢は、40歳台が1,685件(29.4%)で最も多く、30歳台が1,618件(28.2%)、29歳以下が1,293件(22.6%)などと続く。

精神障害事案数を業種別にみると、「製造業」が988件(17.2%)で最も多く、以下、「医療、福祉」893件(15.6%)、「卸売業、小売業」757件(13.2%)、「運輸業、郵便業」615件(10.7%)などの順となっている。

精神障害での具体的出来事の上位、男性は「仕事内容・量の大きな変化」など

2012年度~2021年度における特別な出来事の上位項目を男女別にみると、男性では「極度の長時間労働」(334件、10.1%)が多く、女性では「心理的負荷が極度のもの」(179件、10.1%)が多い。

また、具体的な出来事の上位項目では、男性は「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」(812件、24.5%)が多く、女性では「セクシュアルハラスメントを受けた」(383件、21.6%)や「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」(357件、20.1%)が多かった。

<脳・心臓疾患の労災認定事案における拘束時間、勤務間インターバルの分析>

1勤務あたりの拘束時間が「16時間以上」の割合が最も高いのは「漁業」

次に、脳・心臓疾患の労災認定事案における過重負荷について、拘束時間や勤務間インターバルの状況を報告した。2010年度~2020年度に脳・心臓疾患で労災支給決定(認定)された事案のうち、「長期間の過重業務」が過重負荷として認定された事案で、労災認定の評価期間における始業・終業時刻等の必要なデータが整っている事案を対象に分析している。

それによると、1勤務あたりの拘束時間の平均が「16時間以上」の割合は8.2%だった。「16時間以上」の割合を業種別にみると、「漁業」が46.7%で突出して高く、以下、「運輸業、郵便業」(19.8%)、「農林業」(16.7%)、「電気・ガス・熱供給・水道業」(16.7%)の順で高かった。

さらに職種別にみると、「保安職業従事者」が38.2%で最も高く、これに「農林漁業従事者」(29.6%)、「輸送・機械運転従事者」(20.0%)などと続いた。

「農林業」「漁業」の7割で1カ月あたりの平均拘束時間が320時間超に

1カ月あたりの拘束時間の平均をみると、「320時間以上」の割合は32.9%にのぼる。同割合を業種別にみると、「農林業」(75.0%)や「漁業」(73.3%)が7割を超えており、「運輸業、郵便業」(43.9%)、「宿泊業、飲食サービス業」(41.5%)なども比較的高くなっている。

職種別にみると、「農林漁業従事者」が70.4%で最も高く、以下、「保安職業従事者」(45.5%)、「輸送・機械運転従事者」(45.3%)などと続く。

勤務間インターバルが11時間未満となる日は約37%

勤務間インターバルの確保状況について、各インターバルの日の割合をみていくと、全体では「9時間未満」の日が12.3%、「9時間以上11時間未満」の日が24.6%。両者を合わせた36.9%が、国が目安とする時間に満たない「11時間未満」の日となっている。

「11時間未満」の日の割合を業種別にみると、「漁業」が46.7%で最も高く、次いで「運輸業、郵便業」(46.5%)、「情報通信業」(43.1%)、「学術研究、専門・技術サービス業」(42.8%)、「宿泊業、飲食サービス業」(42.8%)などの順で高くなっている。

さらに職種別にみると、「輸送・機械運転従事者」が46.8%で最も高く、以下、「農林漁業従事者」(44.3%)、「サービス職業従事者」(41.7%)などと続いた。

<医療従事者(医師、看護師)における労災支給決定(認定)事案の分析>

11年間での精神障害の労災支給決定(認定)は「医師」31件、「看護師」193件

今回の白書は、大綱の重点業種等の「医療従事者」について、医師・看護師の過労死等の労災支給決定(認定)事案のうち精神障害事案についても分析を行った。

それによると、2010年度~2020年度までの11年間で、精神障害で労災支給決定(認定)された事案総数は、「医師」が計31件、「看護師」が計193件となっている。

「医師」は2010年度~2015年度の事案数は計10件だが、2016年度~2020年度の事案数は計21件と、近年は増加傾向にある。「看護師」は2010年度~2019年度までは毎年、おおむね10~20件前後で推移していたが、2020年度は42件にのぼっている。

事案総数を男女別にみると、「医師」は男性17件(54.8%)、女性14件(45.2%)、「看護師」は男性14件(7.3%)、女性179件(92.7%)となっている。

医師、看護師ともに精神障害の発症時年齢は30歳台が最多

発症時年齢階層別の事案数をみると、「医師」は30歳台が14件(45.2%)で最も多く、29歳以下が8件(25.8%)、40歳台が7件(22.6%)と続く。「看護師」は30歳台が57件(29.5%)で最も多く、40歳台が55件(28.5%)、29歳以下が45件(23.3%)と続いている。

また、事案総数に占める死亡事案は、「医師」が13件(41.9%)、「看護師」が7件(3.6%)。「医師」の同割合を研修区分別にみると、「初期・後期臨床研修医以外」が6件(46.2%)で最も多く、「後期臨床研修医」が4件(30.8%)、「初期臨床研修医」が3件(23.1%)となっている。

医師は男性・女性ともに「極度の長時間労働」が特別な出来事の上位に

2012年度~2020年度における特別な出来事の上位項目を男女別にみると、「医師」は男性・女性ともに「極度の長時間労働」(男性3件・20.0%、女性3件・21.4%)が多く、「看護師」は女性で「心理的負担が極度のもの」(12件・7.6%)が多い。

同期間での具体的な出来事の上位項目では、「医師」は男性で「1カ月に80時間以上の時間外労働を行った」(4件・26.7%)が特に多く、女性では「仕事の内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」と「2週間(12日)以上にわたって連続勤務を行った」(ともに7件・50.0%)などが多くなっている。「看護師」は、男性・女性ともに「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」(男性3件・30.0%、女性72件・45.9%)が最も多かった。

2.労働・社会分野の調査(アンケート調査)

アンケート調査については、全国の就業者、事業場を対象に実施した労働・社会調査(全業種調査)と、DX等先端技術担当者および、芸術・芸能従事者(スタッフ)の調査それぞれの結果を報告した。

<全業種調査>

労働時間が長くなるほどうつ・不安障害は増加傾向に

全業種調査では、就業者1万人と1,410事業場に対し、就業者はおおむね2023年12月時点、事業場はおおむね2023年12月~2024年1月までの労働時間やうつ傾向・不安の状況、商慣行・契約等の課題などを尋ねた。

就業者調査で、1週間あたりの実労働時間別うつ傾向・不安(K6の指標)をみると、「うつ・不安障害の疑い」と「重度のうつ・不安障害の疑い」のある人を合わせた割合は、「20時間未満」が23.6%、「20時間以上40時間未満」が21.8%、「40時間以上60時間未満」が26.9%、「60時間以上」が33.5%。1週間あたりの実労働時間が20時間以上になると、労働時間が長くなるほど増加する傾向がみられる。

なお、K6とは、米国のKesslerらによって、うつ病・不安障害などの精神疾患をスクリーニングすることを目的として開発され、一般住民を対象とした調査で心理的ストレスを含む何らかの精神的な問題の程度を表す指標として広く利用されている。6つの質問について5段階(「まったくない」(0点)、「少しだけ」(1点)、「ときどき」(2点)、「たいてい」(3点)、「いつも」(4点))で点数化し、合計点数が高いほど、精神的な問題がより重い可能性があるとされている。

また、疲労の持ちこし頻度についてみると、「翌朝に前日の疲労を持ちこすことがよくある」人と「翌朝に前日の疲労をいつも持ちこしている」人を合わせた割合は、「20時間未満」が25.7%、「20時間以上40時間未満」が26.5%、「40時間以上60時間未満」が30.3%、「60時間以上」が42.0%と、労働時間が長くなるほど翌朝に持ちこす頻度が増加している。

契約金額で困難な経験をした事業場は3割以上に

事業場調査で、事業場における商慣行、契約等における状況について、事業場における困難な契約の経験の頻度を要因別にみると、困難な経験が「時々ある」と「よくある」を合わせた割合は、「十分な利益を得るのが困難な契約金額」が30.6%で最も高く、「納期に困難のある契約内容」で25.7%、「人員確保に困難のある契約内容」で23.6%、「自社の技術では難しい業務内容」で16.5%などとなっている。

「時々ある」と「よくある」を合わせた割合を業種別にみると、「十分な利益を得るのが困難な契約金額」では、「運輸業、郵便業」(47.7%)や「学術研究、専門・技術サービス業」(46.2%)などで高く、「納期に困難のある契約内容」では、「製造業」(46.5%)が最も高い。「人員確保に困難のある契約内容」では、「建設業」(38.1%)や「情報通信業」(34.8%)で3割を超えており、「自社の技術では難しい業務内容」では、「情報通信業」(30.4%)が最も高かった。

<DX等先端技術担当者に関する調査>

実労働時間が「60時間以上」の割合は「Webデザイナー」がトップ

DX等先端技術担当者に関する調査では、DX等先端技術担当者808人およびDX等先端技術担当者の存在する423事業場に対し、就業者はおおむね2023年12月時点、事業場はおおむね2023年12月~2024年1月までの状況を尋ねた。

就業者調査によると、1週間あたりの実労働時間が「60時間以上」の先端技術担当者は5.4%だった。同割合を職種別にみると、「Webデザイナー」の8.7%が最も高く、次いで「開発、設計、製造、生産技術などの技術者」(8.6%)、「コンサルタント」(7.7%)などで高い。

仕事に就くにあたり感じた負担のトップは「技術の習得に時間がかかった」

先端技術関連の仕事に就くにあたり感じた負担をみると、「いままで担当していなかった先端技術関連の仕事に就いたために、技術の習得に時間がかかった」が29.6%で最も高く、次いで「通常の仕事に加えて先端技術関連の仕事も行うこととなり、仕事の負担が増加した」(23.0%)、「先端技術の内容を分かる人がいないため、特定の人に仕事が集中した」(14.0%)などとなっている。

先端技術担当者が有効と考える先端技術担当者の負担軽減策をみると、「教育・研修・知識の充実」が39.1%で最も高く、「専門家・知識を持った者の採用や登用」(15.5%)、「予算面・人員面の充実、時間的余裕の確保」(15.0%)などと続く。

また、先端技術担当者の職種別に、うつ傾向・不安(K6の指標)をみると、「うつ・不安障害の疑い」と「重度のうつ・不安障害の疑い」のある人を合わせた割合は、「Webエンジニア」が48.6%で最も高く、「Webデザイナー」(46.4%)、「企画、技術相談などを行う担当者」(46.1%)などと続いた。

<芸術・芸能従事者(スタッフ)に関する調査>

拘束時間が「60時間以上」の割合が最も高い職種は「技術スタッフ」

芸術・芸能従事者(スタッフ)の調査は、芸術・芸能の各分野の主要な団体に所属し、個人事業主(劇団に所属等する自営業・フリーランスを含む)または雇用契約等に基づき活動する芸術・芸能従事者(スタッフ)488人に、2023年10~12月の状況を尋ねた。

それによると、1週間あたりの拘束時間が「60時間以上」の人の割合は35.2%と3割以上にのぼった。同割合を職種別にみると、「技術スタッフ」(46.2%)や「舞台監督・制作関係・演出関係」(40.7%)で高くなっている。

1週間あたりの拘束時間に占める仕事の性質の割合をみると、「芸術・芸能分野の制作の仕事」と「芸術・芸能分野の技術技能を生かした仕事(制作技術講師等)」を合わせた割合は94.1%。同割合を拘束時間別にみると、「20時間未満」が84.2%、「20時間以上40時間未満」が95.4%、「40時間以上60時間未満」が94.6%、「60時間以上」が96.2%となっており、拘束時間が長くなるほど割合が高くなる傾向がみられる。

さらに職種別にみると、多くの職種で9割を超えており、最も高いのは「舞台監督・制作関係・演出関係」(99.3%)となっている。

職種別にスケジュール上の1カ月あたりの休日数をみると、「7~10日(週2日相当)」以上の割合は、「脚本家・劇作家」が61.6%で最も高く、次いで「芸術・芸能分野のその他の職種」が58.5%で高い。一方、「0~3日(週1日未満相当)」の割合が高いのは、「脚本家・劇作家」の30.8%、次いで「映像監督・助監督・演出家・プロデューサー」の28.8%だった。

「脚本家・劇作家」の約半数が心が傷つくことを言われる

ハラスメントの経験をみると、スタッフ全体では「仕事の関係者に、心が傷つくことを言われた」が42.0%で最も割合が高く、以下、「仕事関係者から殴られた、蹴られた、叩かれた、または怒鳴られた」(22.3%)、「仕事の関係者に必要以上に身体を触られた」(4.5%)、「性的関係を迫られた」(3.5%)と続く。

職種別にハラスメントの経験をみると、「仕事の関係者に、心が傷つくことを言われた」は「脚本家・劇作家」(52.6%)で最も高く、「仕事の関係者から殴られた、蹴られた、叩かれた、または怒鳴られた」は「舞台監督・制作関係・演出関係」(34.8%)で最も高い。「仕事の関係者に必要以上に身体を触られた」は「舞台監督・制作関係・演出関係」(6.1%)で、また「性的関係を迫られた」は「芸術・芸能分野のその他の職種」(8.3%)で最も高かった。

職種別にうつ傾向・不安(K6の指標)をみると、「うつ・不安障害の疑い」と「重度のうつ・不安障害の疑い」のある人を合わせた割合は、「脚本家・劇作家」(52.6%)や「芸術・芸能分野のその他の職種」(36.1%)などで高くなっている。スタッフ全体では30.5%となった。

(調査部)