中小組合への支援やジェンダー平等も
――【産別労組】今期の運動方針の特徴、活動の重点
ビジネス・レーバー・モニター定例調査
JILPTはこのほど、「ビジネス・レーバー・モニター」を委嘱している産別労組・単組に対し、今期の運動方針の特徴点や活動の重点を尋ねた。各産別からの報告をみると、賃金・労働条件の改善だけでなく、運動の変革や政策実現活動、中小組合への支援、組織拡大、ジェンダー平等など、幅広い内容に関する記載があった。JEC連合では中小支援に本腰を入れるため、部会と本部の連携を深め、オルガナイザーの育成も強化する。紙パ連合は40周年を見据え、2028年度のあるべき姿に向けた検討を行う。印刷労連は、運動方針に「男女平等参画・ジェンダー平等の推進」を明記。全建総連は、国会請願署名を力にして、賃金・単価引き上げの要求を展開する。(単組の結果については別記事で紹介)
産別については、24組織に調査票を配付し、11組織から回答を得た。調査期間は2024年10月7日~11月1日。
運動変革プロジェクトで議論/電機連合
製造業の産別組織からみていくと、電機業界の労働組合でつくる電機連合(組合員56万5,000人)は昨年、1953年の結成から70周年を迎えたが、「結成70周年を単なる節目とするのではなく、電機連合の今日的な存在意義や、産業発展と社会課題の解決を実現する運動の展開のあり方などについて、一人ひとりが深く考え、真に必要な活動は何かを精査する好機とし、新たな時代に向けて電機連合の運動をリスタート」するとして、昨年から運動変革プロジェクトを開催した。
プロジェクトでの議論を経て、基本理念や基本目標を具現化するために活動の絞り込みを行ったほか、部門単独では解決困難な課題への対応力強化に向けた組織体制の見直しと運動方針の整理を行ったという。
AP25でも「人への投資」を求める/基幹労連
鉄鋼、造船重機、非鉄などの労働組合でつくる基幹労連(組合員27万1,000人)は、政策実現活動や安全衛生の取り組み、賃上げの取り組みなどを主な活動として報告した。
政策実現活動では、第27回参議院選挙における比例代表候補予定者の必勝に向けた取り組みをあげた。安全衛生活動の取り組みでは、2024年の災害発生状況が悪化したことをうけ、情報提供や研修会の充実等に取り組むとしている。組織基盤の強化と人材育成に資する取り組みも推進する。
賃上げでは、AP24(2024年の賃上げなどの交渉)は高水準の回答を引き出すことができたが、AP25についても「基本理念にもとづき継続した『人への投資』を求める」としている。このほか、GX・DXへの対応など、「産業・企業の競争力強化」のための政策推進を強力に進めるなどとしている。
中小組合を部会と本部が連携して支援/JEC連合
化学、エネルギー、医薬などの労働組合でつくるJEC連合(組合員12万5,000人)は、雇用対策や組織拡大、中小組合の支援のほか、2025春闘などをあげた。
雇用対策では「組合員の雇用を守ることは労働組合の重要な役割」だとし、企業の倒産や事業所の統廃合などで雇用が脅かされる状況が発生した場合に「雇用対策委員会(仮称)」を立ち上げて、加盟組合員の支援ができる体制を構築するとしている。
また、各種政策を取り組むにあたり、「政府、政党、連合、企業団体、加盟組合、マスコミなど多くの情報からの取捨選択が大切になる」として、効率を重視しながら産別として最大限の力を発揮できるよう、情報発信までの流れを構築するとし、政策の遂行では「政治活動」も意識した活動を行う。
組織拡大では、連合の「組織拡大プラン2030フェーズⅠ」が2025年9月に終了し、2025年10月からフェーズⅡとなるなか、JEC連合は2021年度から10年間の組織拡大目標を1万8,000人と設定して取り組んできた。約4年が経過した時点での組織拡大実績は約50%。連合のフェーズⅡの見直しに合わせ、目標設定を上方修正する。取り組みでは、2019年度に作成したターゲットリストを用いて取り組みを進めてきたが、「効果的に活用できていなかった」と振り返り、「今後、ターゲットリストの見直しも含め、部会と連携しながら定期的に進捗を確認し、組織拡大の取り組みを強化する」などとしている。
JEC連合では、全組合の約75%、「中小・一般部会」を除く5部会でも約62%の組合が300人未満の中小労組となっている。中小労働運動については、これまで「中小・一般部会」が積極的に取り組んできたものの、「JEC連合全体に波及させる必要がある」ことから、「中小・一般部会」の名称から「中小」という規模の文言を取り除き、「一般部会」に変更。そのうえで、中小組合に対して部会と本部が連携しながらサポートに取り組むことにした。
中小支援にはそれに携わるオルガナイザーが不可欠なことから、人材の確保・育成にも努める。2025年度の中小労組支援プロジェクトでは、2024年度の取り組みを踏まえた組合活動点検表の取り組みを行い、中小規模の組合の課題整理と対応をサポートするとしている。
2025春闘に向けては、「より加盟組合にとって交渉に役立つ情報提供を行う」。また、本部としての単組支援体制を強化するため、交渉のバックアップの充実についても検討。全加盟組合が回答ゾーンを強く意識した回答指定日の設定を行うことでさらなる共闘体制・バックアップ体制の強化を目指すとしている。
類似災害の防止に向けて速報や報告書を内部展開/ゴム連合
タイヤなどゴム業界の労働組合を束ねるゴム連合(組合員4万4,000人)は、雇用維持の取り組み、災害防止、春季生活改善、格差是正などを今期の運動方針の特徴点にあげている。
雇用維持では、「雇用を維持するために有益な情報の提供および相談対応を行う」とともに、「必要に応じて支援を行う」。災害防止では、類似災害の防止に向けて、休業災害速報・対策報告書を内部で展開する。また、休業災害速報の提出ルールを周知徹底することで、提出率の向上を図り、災害傾向を正確に把握しながら課題に応じた活動を行うとしている。
春季生活改善の取り組みでは、加盟単組の取り組みに関する情報共有を強化し、「一体となる春季生活改善のとりくみを展開する」とともに、要求案策定の後押しとなるよう、取り組みの日程を見直す。
格差是正では、「雇用形態や性別による労働条件の不合理な格差の是正に向け、実態を把握し、格差がある場合は改善に向けて取り組む」。また、「育児・介護・治療と仕事の両立、性別の違いや障害の有無など、働く者の置かれた事情に応じた多様な働き方を可能にする制度の整備に向けて先進事例の情報収集・展開を実施する」としている。このほか、ジェンダー平等に向けた産別・単組での意見交換や、研修会の企画、実施などをあげた。
2028年度のあるべき姿を示す中期ビジョン案を提起/紙パ連合
紙・パルプ業界の労働組合でつくる紙パ連合(組合員2万6,000人)は、7月の定期大会で2024~2025年度運動方針を決定したが、あわせて、「中期ビジョン(案)」を提起し、確認した。
今回の中期ビジョン(案)は、2028年度におけるあるべき姿をめざして取り組む内容を盛り込む。中期ビジョン(案)は、「紙パ連合は結成から36年が経過し、これまでも魅力ある産業・企業と魅力ある紙パ連合をめざし、時代の変化に即応しながら運動を進めてきた。一方、社会・経済・産業構造などが大きな変貌を遂げてきた中、産別運動に求められている役割は多様化してきており、とりわけ、紙パ産業内における人材不足対策や男女平等参画をはじめとする一人ひとりが尊重された労働環境づくり、カーボンニュートラル実現などの産業政策課題、被災者が高年齢化している労働災害対策などの課題については、短期間での解決が困難であることからも、計画性をもって段階的に対策を講じていく取り組みが求められている」とし、「安全衛生」「組織拡大」「産業政策」「ジェンダー平等」それぞれについて具体的な内容を提起しているという。
「印刷労連・産業政策」を刷新/印刷労連
印刷業界の労働組合を束ねる印刷労連(組合員2万2,000人)は、「印刷労連・産業政策」を2023年度版として刷新した。この「印刷労連・産業政策」を中核として、産業政策や組織強化、労働条件の向上、ジェンダー平等などをポイントに引き続き取り組みを進めるとしている。
産業政策では、印刷産業の社会的・経済的・政治的地位の向上と発展などを掲げ、組織の充実・強化と組織拡大では、中小組織の労働運動の充実・強化と組織拡大をあげている。総合的な労働諸条件維持向上の取り組みでは、2025春季生活闘争の取り組みと、すべての労働者の立場に立った働く環境の実現が柱。
男女平等参画・ジェンダー平等の推進では、運動方針に「男女平等参画・ジェンダー平等の推進」を明記し、連合「女性リーダー養成講座」を含めた各種研修などへの積極的な参加や構成組織リーダーの積極的参画などに取り組む。
「第4次組織拡大とりくみ方針」に基づき活動を展開/セラミックス連合
セラミックス業界の労働組合でつくるセラミックス連合(組合員2万人)は、組織拡大や産業政策、安全衛生対策などを主な柱に掲げている。
組織拡大では、全組合が70%達成をめざす組織率の向上と、組織人員3万人をめざす組織拡大への対応を強化するため、「第4次組織拡大とりくみ方針」に基づいた活動の展開や、具体的数値目標に対する各種取り組みの強化、パート等正規従業員以外の労働者と60歳以降の継続雇用者の組織化(過半数労働組合の達成)などを展開する。
産業政策の推進では、「新たな産業政策のとりくみ方針」に沿った活動を展開するほか、連合を中心とする関係団体、友好議員(やきもの振興議員連盟等)との連携強化などに努めるとしている。安全衛生対策では、安全点検・衛生点検活動のさらなる強化と安全衛生に関する法令の遵守徹底・予防対策、メンタルヘルス・ストレスチェック制度に関する情報提供などをあげた。
構成組織の組織強化や地方本部、構成組織との連携強化に向けて、教育資料の拡充や周知・教宣活動の展開、各種研修会・セミナー参画による資質向上の取り組み、「事例発表」「経験発表」を通じた問題解決力、交渉力の強化なども掲げている。
また、春季生活交渉関連では、賃金カーブ・個別賃金(30歳・35歳)の策定、あるべき姿への改善の取り組みなど、基本方針の地本内討議を進める。ジェンダー平等では、「ジェンダー平等推進計画プラス1」に沿った活動を展開する。ゆとり・豊かさの追求の取り組みでは、ワーク・ライフ・バランス実現に向けた活動の推進・強化や、「第6次時短中期活動方針」に沿った活動の展開などをあげている。
「社会的使命達成に向けた生保産業労使共同宣言」を実践/生保労連
製造業以外の産別組織についてみていくと、生命保険会社の労働組合でつくる生保労連(組合員23万人)は、8月に決定した「2024年度運動方針」のなかで、「生保産業の社会的使命の達成」と「総合生活改善闘争」を主な項目として掲げた。
「生保産業の社会的使命の達成」では、「営業職員一人ひとりが引き続きモチベーションを高く持ち続けられ、お客さまや地域・社会に一層貢献するとともに、営業職員の役割・活動がより理解・周知されるよう、『生保産業・営業職員の社会的理解の拡大』に引き続き強力に取り組む」とし、取り組みにあたっては、2023年度に採択した「社会的使命達成に向けた生保産業労使共同宣言」の実践と周知に努めるとともに、その一環として「労使フォーラム」を開催するとしている。また、社会貢献活動の実践と意識の醸成の推進に向け、2018年度に取りまとめた取り組み事例集を更新し、積極的に活用するとしている。
「総合生活改善闘争」では、「積極的な賃金改善の流れを一層加速させていく必要があるとの認識の下、統一闘争を展開する」とした。
「運輸労連政策推進議員懇談会」との連携をより強化/運輸労連
トラック運送など輸送業界の労働組合を束ねる運輸労連(組合員16万人)は、最近の政治情勢、深刻な労働力不足、春闘での賃金引き上げの流れの継続、自動車運転者への「時間外労働の上限規制:年960時間」「改正改善基準告示」の適用開始によるトラックドライバーの労働環境の改善、物流の持続的成長を図るための物流関連2法(①物資流通効率化法②貨物自動車運送事業法)の改正といった情勢をふまえ、今年の大会の議案書のなかで、「産別運動の前進、政策諸課題の解決に向け『運輸労連政策推進議員懇談会』との連携をより強化し、国政への対応、行政への働きかけをさらに強化していかなければならない」と掲げるとともに、「すべての活動にジェンダー平等の視点を取り入れ、若者や女性をはじめ多様な人材が集まる持続的で魅力ある運輸産業の構築とともに、誰もが働きやすい職場環境の整備に取り組む」と盛り込んだ。
運動後半期となるこの先1年間の運動方針では、自動車運転者への「時間外労働の上限規制:年960時間」「改正改善基準告示」の適用で労働環境の改善が図られようとしているものの、ドライバーの人手不足や高齢化、「2024年問題」への対応など課題が残存していることから、政府の「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」の設置・開催(2023年3月)や「物流革新緊急パッケージ」の策定(同年10月)、法制化の動きなどを後押しにして、「産別運動の前進、取り巻く状況の改善を図るため、『運輸労連政策推進議員懇談会』との連携をより強化し、政府・与党を含めた国政への対応、行政への働きかけをさらに進めていくことが必要」だと強調。
運動の大きな柱として、①賃金・労働条件の引き上げ②政策・制度実現の取り組み③産別組織の強化と拡大――を掲げ、ジェンダー平等の視点をもって取り組むとし、特に賃金・労働条件の改善では①年間所得の引き上げと賃金制度の確立・改善②最低賃金協定の取り組み③定年延長の取り組み④退職金の取り組み⑤総労働時間の短縮と改善基準告示および労働基準法改正への対応⑥安心して働ける職場づくりと福利厚生の充実⑦パート・有期・派遣労働者の処遇改善――などに取り組むとした。
「100万人国会請願署名の歴史的成果」を力に運動/全建総連
建設業界では最大の産別組織であり、大工・左官の労働者や一人親方などを組織する全建総連(組合員57万8,000人)は、「持続可能な建設業に向けた100万人国会請願署名」に2023年10月~2024年4月まで取り組んだ。その結果、署名119万6,248筆(衆議院60万1,314筆、参議院59万4,934筆)、賛同議員368人(衆議院247人、参議院121人)と、過半数を超える国会議員から賛同を獲得(100万筆が必達目標)。請願は、衆議院では国土交通委員会、参議院では厚生労働委員会に付託されることになり、6月21日の参議院本会議で「建設労働者の雇用改善、担い手確保・育成に関する請願」が全会一致で採択された。
全建総連の取り組みにおける国会請願の採択は、2003年の「建設国保組合の育成に関する請願」以来、21年ぶり。全建総連は「衆議院での取り扱いは、審査未了となったものの、過去20年間で50万筆を超える請願署名を国土交通委員会に提出したのは、全建総連が唯一であり、改正建設業法等の附帯決議において、請願の趣旨が盛り込まれたことは、請願採択と同等の価値があり、極めて大きな成果となった」と報告。「100万人国会請願署名の歴史的成果を力に、改正担い手3法を好機とした、大幅な賃金・単価引き上げの『要求・請求運動』に取り組む」としている。
誰もが働きやすい産業をめざし「建設業みらい共創会議」を開催/日建協
建設業界の労働組合でつくり、建設産業のホワイトカラー層最大の産別組織である日建協(組合員3万9,000人)は、2024年度活動方針で、産業政策活動と加盟組合支援という2つの柱を掲げた。
産業政策活動では、「建設産業全般の労働環境改善にむけて、建設産業の実態把握をはじめとする情報収集、および加盟組合単独ではできない提言活動に重点をおいて取り組んでいく」とし、「2024年度は次世代を担う若者に対し、出前講座を通して建設産業の社会的役割と魅力を発信するとともに、女性技術者に限らず誰もが働きやすい産業をめざす会議体として『建設業みらい共創会議』を開催し、『女性・男性』に限らないDE & I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)社会の実現のための会議として課題解決にむけた取り組みを行う」としている。
2つ目の加盟組合支援では、労働環境の改善を中心に、働き方改革と賃金交渉の2つを中心として連帯活動を進めていくとしている。建設業にも時間外労働の罰則付きの上限規制が適用されたことから、「規制適用後の時短推進、時間外労働の調査分析を行い、また、時短ハラスメントやサービス残業(勤務報告の過少申告)をなくすべく改善に取り組んでいく」。あわせて、働き方事例集の作成の検討を行うとともに、「賃金交渉では昨年改訂した日建協賃金政策を推進し、私たちの賃金が公正で魅力あるものとなるよう、建設産業で働く私たちのあるべき賃金水準をめざし、日建協全体が一体となって目標を共有しながら取り組む」としている。