【宮城】(七十七リサーチ&コンサルティング)
鈍い景気の回復感。非製造業では経営上の課題に「人件費の上昇」をあげる企業割合が過去最高に

地域シンクタンク・モニター定例調査

宮城県の4~6月期の経済動向は、生産活動は緩やかに持ち直しているものの、企業の景況感は回復が鈍いことなどから、モニターである七十七リサーチ&コンサルティングは【横ばい】と判断した。7~9月期の見通しも、生産活動は持ち直す見込みだが、全体では足踏みが続くとみて【横ばい】の見込み。雇用については、4~6月期実績は労働需要の弱さをふまえて【横ばい】とし、7~9月期見通しも最低賃金の50円引き上げで新規求人が弱含んで推移するとみて【横ばい】とした。モニターが実施した調査によると、経営上の課題として「人件費の上昇」をあげる企業の割合が、非製造業で5割超となり過去最高を更新した。

<経済動向>

輸送機械は下振れ、建設・住宅は弱めの動き

モニターは4~6月期の地域経済を「長引く物価高や慢性的な人手不足などから、全体として足踏みしている」として【横ばい】と判断した。

判断理由を詳しくみていくと、生産は、輸送機械が自動車の認証不正問題による出荷停止の影響などで下振れする一方、主力の電子部品や生産用機械(半導体製造装置)で持ち直しの動きがみられるなど、全体としては緩やかに持ち直している。

建設需要は、公共投資が底打ちしてからの足取りがやや重い。住宅投資は貸家が個人建築物件で底打ちし、超大型マンションの着工などで上振れしたものの、全体としては弱めの動きとなっている。民間非居住(産業用)建築物では目立った大型物件の着工がなく、いわゆる「2024年問題」など人手不足による工期の長期化、資材高による建設コストの上昇などから投資の見送り・先送りなどがみられ、引き続き投資姿勢は消極的な状況。

大型連休以降は家計の支出抑制が強まる

個人消費は、定額減税や賃上げなどによる可処分所得の増加が押し上げるには至らず、大型連休以降は家計の支出抑制が強まった。

企業の景況感や業況は、原材料や労務コストの上昇が響いて回復の鈍いものとなっている。

7~9月は出荷停止解除で自動車生産は挽回か

7~9月期の経済動向をみると、生産は、輸送機械が認証不正問題による出荷停止の解除から挽回生産が想定され、半導体関連の需要回復により生産用機械(半導体製造装置)や電子部品・デバイスなども持ち直していくものと見込まれる。

建設需要は、公共投資が持ち直しに向かうと見込まれるが、震災復興事業により需要が先食いされた影響などもあり、回復ペースは全国に比べて緩慢なものになるとみられる。住宅投資も建設コストの高止まりや不確実な金利情勢などから低調な推移が見込まれ、民間非居住建築物は仙台近郊で活発だった物流施設などの大型物件が一巡し、追加の再開発プロジェクトまでは低調に推移する見通しとなっている。

個人消費は、賃上げによる実質賃金の改善が遅れるなかで家計の防衛的行動が広がることが想定される一方、原油価格や円安修正などが支援材料となる可能性もあり、総じて底堅さがうかがわれる。

こうしたこともふまえて7~9月期の見通しは、「『賃金と物価の好循環』への道筋を描けないまま、足踏み状態が続く」とみて前期同様に【横ばい】と判断した。

<雇用動向>

人手不足の背景に労働需給の職種によるミスマッチも

4~6月期の雇用をみると、有効求人倍率は1.25倍で前期から0.07ポイント低下した。当期の新規求人数は前年同期比マイナス9.3%となっている。産業別にみても、「運輸・郵便業」など人手不足が顕著な業種を除いて前年割れとなっており、「労働需要は依然として弱めの動き」となっている。

こうした状況の一因としてモニターは、賃金上昇をあげている。前年度の最低賃金改定(2023年10月)は、過去最大の引き上げ幅(40円)となったが、以降10月から直近(2024年7月)までの新規求人数は前年同期比マイナス6.3%と、全国平均の同マイナス3.5%よりも大きく減少している。また、2024年6月末の求人・求職バランスシート(原数値)によると、有効求人数から有効求職者数を差し引いた労働需給は、「介護関連従事者」が3,296人の求人超過、有効求人倍率3.34倍の需要超過である一方、「事務従事者」が8,048人の求人不足、有効求人倍率0.30倍にとどまるなど、大幅な需給ギャップも残存している。

モニターはこうした状況をもとに、「労働需要の改善に足踏みがみられる一方、需給のミスマッチなどに起因した人手不足なども企業の活動に影響を与えている」とコメントしたうえで、4~6月期の雇用動向を【横ばい】と判断した。

雇用DIの不足超幅は拡大の見込み

7~9月期の見通しについては「景気(需要)の回復ペースが緩慢なもとで最低賃金が過去最大の上げ幅(50円)となるなど賃上げ圧力が一層強まるため、新規求人が一段と弱含むことが見込まれる」とコメントしたうえで、判断については【横ばい】とした。

モニター実施の「県内企業動向調査」によると、7~9月期の雇用DIの見通しはマイナス37の「不足」超で、前期(マイナス33)から不足超幅が拡大する見込み。ただし、製造業(マイナス19)や建設業(マイナス37)では人手不足感は残存するもののいくらか緩和している。不足感がただちに労働需要に結びつくかどうかについては、「近年にない労働コスト上昇のもとで見通しが難しくなっている」。

経営上の課題で非製造業の「人件費の上昇」の割合が初の5割超

同調査で尋ねた「経営上の課題」(複数回答)をみると、非製造業では「人手不足」(58.1%)が最も回答割合が高い状況が継続している(製造業は35.0%)。さらに「人件費の上昇」は非製造業で53.2%と、1995年の調査開始以降で初めて半数を超えた(製造業は38.3%)。モニターは「雇用の問題は量の確保以上にコスト抑制にシフトしつつあることがうかがえる」としている。