【茨城】(常陽産業研究所)
海外経済の減速、供給制約などから景況感は大きく低下。仕入価格の上昇分を転嫁している企業割合が7割弱との調査結果
地域シンクタンク・モニター定例調査
茨城県の経済動向は、4~6月期は海外経済の減速、供給制約、物価高による消費マインドの低下などで景況感が大きく低下しており、モニターである常陽産業研究所は【悪化】とした。7~9月期は、賃上げによる消費マインドの改善を期待して【やや好転】。雇用動向は、新規求人数の改善などをもとに4~6月期の実績は【やや好転】とした。7~9月期の見通しは企業への動向調査の結果から【横ばい】としている。モニターが実施した調査によると、仕入価格の上昇分を転嫁している企業は7割弱にのぼる。
<経済動向>
自社業況総合判断DIが「悪化」超19.1%に
モニターが実施した「県内主要企業の経営動向調査(4~6月期)」によれば、県内企業の景況感をあらわす自社業況総合判断DIは「悪化」超19.1%と、前期から約12ポイント低下した。業種別にみると、製造業は「悪化」超21.4%で、前期から約10ポイント低下。非製造業は「悪化」超17.4%で、前期から約13ポイント低下となっている。
モニターは製造業について、「海外経済の減速、供給制約の残存など様々な要因に加え、価格転嫁も課題となった」としたほか、非製造業については「コロナ禍脱却に伴う人流の活発化が好材料となったが、物価高による消費マインドの低下や人手不足等が景況感を下押しした」と説明したうえで、4~6月期の地域経済を【悪化】と判断した。
賃上げによる消費マインドの改善に期待
7~9月期については、自社業況総合判断DIは全産業で「悪化」超13.3%と、4~6月期から約6ポイント上昇する見通し。これを業種別にみると、製造業は「悪化」超14.8%で今期から約7ポイント改善、非製造業は「悪化」超12.1%で約5ポイント改善の見込みとなっている。
モニターは、「賃上げや賞与の増額等による消費マインドの改善が期待される一方で、海外経済の減速、コスト高・価格転嫁難による企業収益の悪化、実質賃金の上昇を上回る物価高、人手不足によるモノ・サービス等の供給制約等が、景況感を下押しする懸念がある」とコメントしたうえで、判断は【やや好転】とした。
7割以上の企業が前年同期から仕入価格が上昇したと回答
モニターは6月に県内企業に対して「仕入価格の上昇に関する企業調査」を実施している。
その調査結果によると、前年の同時期(2023年4~6月期)と比べた仕入価格の動向は、「上昇した」が73.8%と最も回答割合が高く、次いで「変わらない」が19.1%、「わからない」が5.5%、「低下した」が1.6%だった。前回調査(2023年12月)と比べると、いずれの選択肢も変化幅は2.0ポイント未満で小幅な動きとなっている。製造業は「上昇した」の回答割合が2022年6月調査(93.6%)をピークに低下傾向にある。非製造業では足元の方向感は上昇ないし横ばいとなっている。
こうした動きについてモニターは「製造業が仕入価格の上昇分を企業努力等である程度吸収していること、仕入価格の上昇から価格転嫁までにタイムラグがあることなどから、業種間で動向の差異が生じている」と推測している。
非製造業でも「転嫁している」割合が7割に到達
仕入価格が「上昇した」と回答した企業における、販売価格への転嫁状況および今後の方針については、「転嫁している」が68.5%と最も回答割合が高く、次いで「未転嫁だが、今後は転嫁予定」が18.9%、「未転嫁であり、今後も転嫁しない」が7.9%、「わからない」が4.7%だった。「転嫁している」の割合は製造業が65.5%で前回調査比12.4ポイント低下した一方、非製造業は71.0%で同8.7ポイント上昇している。
企業からは「パートナーシップ構築宣言のおかげで価格転嫁ができている」(電気機械製造業)など、価格転嫁がスムーズに進んでいるとの声がある一方で、「取引先の理解は進んできたが、なかには値引きを要求してくる取引先もある」(卸売業)、「物価上昇分は価格転嫁できているが、人件費上昇分の扱いが悩ましい」(運輸・倉庫業)など、価格転嫁率の向上に課題を抱えているとの声も多くあがっている。
<雇用動向>
新規求人数が11カ月ぶりに前年同月比プラスに転じる
4月の雇用動向をみると、有効求人倍率は1.38倍(前月比0.03ポイント上昇)と、3カ月連続で上昇している。新規求人倍率は2.12倍(同0.06ポイント低下)で、2カ月連続で低下した。
新規求人数は前年同月比プラス1.4%と、11カ月ぶりに前年水準を上回った。産業別にみると、宿泊業・飲食サービス業(前年同月比プラス79.8%)、情報通信業(同プラス23.9%)、卸売業・小売業(同プラス15.0%)、運輸業・郵便業(同プラス2.5%)などが増加。一方、製造業(同マイナス12.4%)、サービス業(他に分類されないもの)(同マイナス5.6%)、建設業(同マイナス0.3%)などは減少した。
雇用保険受給者数は前年同月比プラス7.6%と13カ月連続で前年水準を上回った。一方、事業主都合離職者数は同マイナス0.8%で5カ月ぶりに前年水準を下回った。また、民間職業紹介における県内の求人動向をみると、正社員は緩やかな増加傾向で、アルバイト・パートは横ばいだった。
雇用判断DIは前期からおおむね横ばい
モニターが実施した「茨城県内主要企業の経営動向調査結果(4~6月期)」によると、雇用判断DIは「減少」超2.5%と前期からおおむね横ばいとなった。業種別にみても、製造業は0.0%とおおむね横ばい、非製造業も「減少」超4.5%とおおむね横ばいとなった。
調査に回答した企業からは、「コロナ後の人手不足により職人が給料のよい作業現場に移り、昔から作っている製品の仕上りができなくなり、品不足になっている」(小売業)、「(夏季賞与の前年並みの支給は)人員確保の意図が大きい」(その他非製造業)など、人手不足の影響に関するさまざまな声が聞かれた。
こうした動きをもとにモニターは、「持ち直しの兆しがみられる」として4~6月期の雇用の実績を【やや好転】と判断した。
同調査の先行き(7~9月期)をみると、「増加」超0.5%と今期から横ばいとなっている。業種別では、製造業が0.0%と横ばい、非製造業が「増加」超0.9%と約5ポイント上昇する見通しとなっており、モニターはこの結果をもとに7~9月期の雇用動向を【横ばい】と判断した。
目立つ「従業員の意欲の維持・向上」のためのボーナス支給
モニターは6月に県内企業に対して「夏期賞与に関する企業調査」を実施している。それによると、夏期賞与の支給状況(総額ベース、前年比)は、全産業で「横ばい」が38.3%で最も高く、次いで「増加」が31.9%、「未定」が13.3%、「支給しない」が10.6%、「減少」が5.9%となっている。2023年調査と比べた変化幅は小さく、支給状況は前年同様の傾向にある。
夏季賞与の支給理由(複数回答)は「従業員の意欲の維持・向上」が78.9%で最も割合が高く、次いで「従業員の生活の質の維持・向上」が66.9%、「従業員の離職防止」が54.9%、「従業員の貢献・能力の評価」が53.5%となっている。
調査に回答した企業からは、「昨年よりも利益が増加したので支給額を増やす」(建設業)といった前向きな声がある一方で、「受注が減少し収益は低下しているものの、従業員のモチベーション維持のため支給する」(自動車部品製造業)、「業績は良くないが、物価高の中、社員の生活給として支給する」(樹脂製品製造業)など、業績は厳しいものの企業努力によって支給を継続するとの声が寄せられている。
こうした結果についてモニターは「賞与はかつて『社員への利益分配』という性格が強かったが、近年は深刻化する人手不足・人材難への対応として、賞与の支給により既存社員のモチベーションを維持・向上させる、離職防止を図る、という企業が多くなっている」とコメントしている。