【特別調査:各地域における企業倒産の動向】
目立つ建設業の倒産。背景は原材料価格や人件費の上昇など。運輸業では人手不足倒産も
地域シンクタンク・モニター特別調査
帝国データバンク公表の今年上半期の倒産件数が2014年以降で最多となるなど、企業倒産の増加を伝える調査結果や報道が増えている。そこで、地域シンクタンク・モニターに対して、それぞれの地域での企業倒産の最新動向を尋ねた。モニターからは、原材料価格や人件費の上昇を理由とした建設業の倒産の増加や、建設業と同じく新たな労働時間の上限規制が課された運輸業の人手不足などを背景とした倒産増が報告された。能登半島地震から復旧途上にある北陸地域では、9月下旬の豪雨災害の影響が懸念される。
岩手県では1~8月の倒産50件のうち18件を建設業が占める
モニターから言及が多かった建設業の倒産の状況からみていく。
岩手県のモニターによると、2024年1~8月の岩手県の倒産件数は全産業で50件と、前年同期に比べ17件増加した。件数が最も多かった業種は建設業で、そのうちの18件を占めた。なお、建設業に次いで多かったのはサービス業(10件)で、さらに卸・小売業(8件)、運輸業(6件)と続いた。
福島県のモニターによると、2024年1~8月の福島県の倒産状況を業種別にみると、建設業の件数(負債額1,000万円以上)が前年同期比でプラス150%、金額でプラス123%と大幅に増加(帝国データバンク)。建設業の倒産が多い要因としては、復興特需のピークアウトなどからの反動によって受注状況の低迷が続いていることや、建設資材の高騰の影響があげられるという。
北陸地域でも建設業の倒産件数が最多
北陸地域のモニターによると、業種別の倒産件数で最も多かったのが建設業であり、原材料価格の高騰や人件費、光熱費、燃料費など各種コストの上昇が響いたとしている。
中国地域のモニターは、建設業ではコロナ禍を経て工事が長期化しているほか、世界的な木材価格の高騰でコストが上昇し、経営を圧迫している状況を報告した。
東海地域のモニターによれば、建設業の企業からは「同業や下請けの倒産事例はないものの、人手不足・高齢化はいつも話題になる」「働き方改革や最低賃金引き上げに取り組む余裕がない零細ほど深刻」といった声が聞かれるという。
宮城県では前年を下回って推移
一方、宮城県のモニターからは、増勢だった建設業の倒産件数が、このところ前年を下回っているとの報告があった。県内の建設業は、①人手不足②資材価格等の高騰、という全国的な潮流に加えて、③東日本大震災の復興需要の反動、という三重苦に見舞われ、コロナ禍で迎えた震災10年(震災復興計画の一段落)以降、先行きの事業環境を見据えた「諦め型」の倒産・廃業が増勢だったが、「足元ではやや落ち着いたものとみられる」とした。
ただ、同モニターは、コロナ禍の影響はそれほど大きくない業界にもかかわらず、関連融資の借入残高は最も多く、苦しい資金繰りであったことがうかがわれるとして、「返済が開始された今後は、事業継続意欲の頓挫以上に資金繰りの行き詰まりが懸念され、引き続き注意が必要」との見方を示している。
他業種より厳しさがみられる運輸業
建設業と同じく、新たな残業時間の上限規制が課された「2024年問題」の影響を受ける運輸業の経営状況の厳しさも伝わってきた。
北海道のモニターによると、全体では倒産件数に目立った動きはないものの、他業種に比べて運輸業の経営状況に厳しさがみられるという。その理由について、「運輸業は荷主との力関係からガソリン価格等の上昇分を売上に十分転嫁できておらず、利益が圧迫されている」と指摘。また、「長距離輸送を行っている運輸業(トラック、観光バス)は、『2024年問題』から運転手のやり繰り・確保が難しくなっている」とし、倒産件数は目立って増加はしていないものの、「先行きの注視が必要な状況」だとした。
中国地域のモニターは直近で運輸業の倒産が増えていると報告した。残業規制で人手不足が深刻化していることに加え、他社との差別化が図りにくく、経費の価格転嫁が難しいため、賃上げの原資を確保できず倒産に追い込まれるケースが多いとしている。
いまだ残るコロナ禍の打撃
多くはなかったが、コロナ関連の言及もみられた。岩手県のモニターは、新型コロナウイルス関連の倒産が8月だけでも6件あり、1~8月の累計で24件にのぼったと報告。すでに2023年の年間累計(25件)とほぼ同じ水準に達したという。
山形県のモニターは、2024年1~8月の倒産件数(東京商工リサーチ)の「サービス業他」の内訳をみると、「宿泊業」「飲食業」「生活関連サービス業」「娯楽業」「医療、福祉事業」の増加がやや目立つことを指摘。「コロナ禍による売上高激減後、採算性の改善が進まず、倒産に至るケースが多くなっている」としている。
九州地域のモニターによると、長崎県では7月の企業倒産件数7件のうち3件が新型コロナウイルス関連の倒産であり、コロナ禍での業績低迷から浮上できない企業の倒産リスクが高まっているという。
市内最大級の旅館の倒産も
東海地域のモニターは地元有力企業の倒産事例として、岐阜県郡上市にある市内最大級の旅館である「ホテル郡上八幡」が8月に営業を停止し、自己破産の手続きに入ったことを報告。同社によると、コロナ禍の影響で資金繰りが厳しくなったのだという。
また、同モニターによれば、岐阜信用保証協会ではゼロゼロ融資を受けた企業が返済開始により資金繰りが困難になることを防ぐため、「ポストコロナ室」を設置して、金融機関等と連携して融資借換支援や経営支援などを行っているという。
中国地域では訪問介護の小規模事業者が苦境に
このほかの報告内容もみていくと、中国地域のモニターは、訪問介護事業で特に小規模事業者が苦境に立っているとしている。ヘルパーの年齢が高齢化し、他業界との賃金格差が理由で若手の採用が難しいため、人手不足が深刻化しているのが理由だ。さらに、介護報酬が公定価格で物価上昇分をサービス料金に転嫁しづらい構造も影響しているとしている。
山形県のモニターによると、2024年1~8月の全産業での倒産件数は51件で、同期間としては2010年(62件)以来14年ぶりの高水準だという。業種別にみると、サービス業他が18件(前年9件)、製造業が8件(同3件)、小売業が7件(同3件)で、いずれも前年の倍以上の件数となっている。
茨城県のモニターによると、2024年4~6月期の県内企業の倒産件数は40件で、前年同期と比べると2件増となった。倒産金額は総額46億2,900万円で、前年同期に比べればマイナス53億200万円となっている。
東海地域では地場の不動産屋の廃業も
東海地域のモニターは、不動産関連は倒産が増加傾向にあるものの、事業所数は減っておらず、従来からの地場不動産屋が廃業しているなどと報告した。
近畿地域のモニターによると、今年上半期に関西で倒産した(1,000万円以上の負債を抱えて破産や民事再生などの法的な手続きをとった)企業は1,238社となり、上半期としては2013年以来、11年ぶりの高い水準となったという(帝国データバンク)。また、経済産業省近畿経済産業局のデータによると、企業倒産件数は7月までで、20カ月連続で前年を上回ったという。
奥能登では100超の事業所が廃業を決める
北陸地域のモニターによれば、2024年1月に発生した能登半島地震の影響で倒産した企業は、北陸3県で6社とされているという。建物や設備の被害のほか、津波や断水等で事業継続が困難になったことが理由としては多いという。
奥能登4市町(輪島市、珠洲市、能登町、穴水町)では事業所の再開が進んでいない。同市町の商工会議所・商工会の調査では、廃業を決めた事業所が100を超える。被災した店舗などの復旧に見通しが立たないことに加え、人口減少が進む地域の先行きへの不安が背景にあるという。
奥能登では9月下旬に発生した記録的豪雨により、またもや甚大な被害が発生した。地震からの復旧途上であった住民や中小事業者からは「心が折れた」との声も聞かれるとし、「今後、事業継続を断念する事業者も出てくるかもしれない」とモニターはコメントしている。