<企業・業界団体調査 2024年4~6月期の業況実績/2024年7~9月期の業況見通し>
「本曇り」「雨」の割合が5年ぶりに25%を下回る。インバウンド需要で好調な業種も。来期は、国内外の金利政策や為替相場の動向などが懸念材料

ビジネス・レーバー・モニター定例調査

JILPTが四半期ごとに実施している「ビジネス・レーバー・モニター調査」によると、2024年第2四半期(4~6月期)の業況実績は改善傾向がみられ、「本曇り」「雨」の割合が5年ぶりに25%を下回った。各モニターから寄せられた判断理由をみると、「晴れ」の業種では鉄道・コンビニ・遊戯機器がインバウンド需要で好調。「うす曇り」「本曇り」の業種からは、物価上昇によるコスト増が判断要因にあがった。次期(2024年7~9月期)の業況見通しは、今期からやや悪化する見込み。引き続き物価高が影響しているほか、最低賃金の大幅な引き上げによる人件費の増加や、新紙幣の対応によるコスト増を懸念する業種もみられた。

調査の趣旨

JILPTでは、企業および業界団体のモニターに対し、四半期ごとに業況の実績と次期の見通しを「快晴」「晴れ」「うす曇り」「本曇り」「雨」の5段階で聞き、企業モニターの回答の平均と業界団体の回答をさらに平均する(端数は四捨五入)ことで各業種の最終的な判断を算出している。そのため、個々の企業、業界団体の業況評価と必ずしも一致しない。

今回は2024年第2四半期(4~6月期)の業況実績と2024年第3四半期(7~9月期)の業況見通しについて調査した。回答は企業と業界団体の計54組織、44業種から得た。

各企業・団体モニターの現在の業況

「本曇り」「雨」をあわせた割合は前期に比べ約5ポイント低下

第2四半期の業況は、回答があった44業種中、「快晴」が1(業種全体に占める割合は2.3%)、「晴れ」が10(同22.7%)、「うす曇り」が23(同52.3%)、「本曇り」が7(同15.9%)、「雨」が3(同6.8%)(表、図)。「本曇り」と「雨」をあわせた割合(22.7%)は前回調査の2024年第1四半期から約5ポイント低下しており、25%を下回るのは2019年第2四半期以来で5年ぶりとなる。

製造業・非製造業別にみると、「快晴」は製造業がゼロで非製造業が1業種。「晴れ」は製造業が5業種で非製造業が5業種、「うす曇り」は製造業が11業種で非製造業が12業種となっている。これに対し「本曇り」と「雨」の合計は製造業が3業種、非製造業が7業種となっている。

表:前期及び今期の業況実績と業況見通しの概要
画像:表
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図:調査開始以来の業況調査結果の推移
画像:図
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現在の業況の判断理由

鉄道・コンビニ・遊戯機器はインバウンド需要が追い風に

今回、「快晴」と判断したのは【百貨店】のみで、営業利益・経常利益がともに過去最高を更新したことを理由にあげた。

「晴れ」と評価した業界は【鉄道】【コンビニ】【遊戯機器】【商社】【情報サービス】【造船・重機】【食品】【自動車】【化繊】【金型】の10業種。

【鉄道】では、企業モニターは、交通事業やホテル・リゾート事業を中心に利用者数が回復したことや、不動産販売業における大型物件の引き渡しなどから前年同期比で増収・増益となったため、「快晴」とした一方、業界団体モニターは、通勤需要や外出機会の増加、円安にともなうインバウンド観光客の増加により「運輸収入は大手の鉄道会社を中心に引き続き回復傾向にある」と報告したうえで、判断は「うす曇り」としたことから、総合的な判断は「晴れ」となった。

【コンビニ】は、新型コロナの5類移行後では初めてのゴールデンウィークとなり、おにぎりやカウンター商材、ソフトドリンク等が好調に推移したと説明。また、訪日外国人の増加やキャンペーン実施等も売上増の要因となった。

【遊戯機器】は円安による外国人旅行者の来日が堅調なことから、外国人客のゲームセンターへの来場も堅調となっているとした。

【商社】は資源・金属・エネルギー事業が好調で、円安もプラス要因となっている。

【情報サービス】はシステムインテグレーション、受注ソフトウェア、計算事務等情報処理、システム等管理運営受託の需要が引き続き高い状況だと説明した。

造船・重機は防衛省向けなどが売上収益に寄与

【造船・重機】は、航空宇宙システム事業で防衛省向けや民間航空エンジン分担製造品などが増加したことで、前年同期比の売上収益が増加。またロボット事業分野も、前年度後半から半導体製造装置向けの需要が回復したことなどから、前年同期比の売上収益が増加したとしている。

【食品】の業界団体モニターは、6月のチェーンストア・百貨店・コンビニエンスストアの食料品販売金額(既存店ベース)がいずれも前年比プラスであることや、「日銀短観」(6月調査)での食品製造業の景況判断DIが、大企業が21(前回調査比マイナス3)、中堅企業が15(同プラス6)、中小企業が15(同プラス3)と、いずれも大幅なプラスを維持していることから「晴れ」とした。企業モニターも、売上高・売上総利益は前年同期を若干下回ったものの、営業利益は前年同期並みの高い水準を維持していることから「晴れ」と判断した。

【自動車】は、認証問題やリコール等で国内での安定した生産が維持できないなかでも、増益を確保しているとした。

電機は猛暑でエアコンが好調

「うす曇り」とした23業種では、猛暑、円安、資源価格、物価高などが判断要因にあがった。

【電機】の業界団体モニターは、重電機器について「一般産業向け汎用機器は電子部品や半導体などの設備投資減少の影響が現れて、輸出、国内出荷ともに下回った」とする一方、「受注生産品は前年同期を上回り、発電用原動機の蒸気タービン、ガスタービン、電力・産業向け電気設備の変圧器、開閉制御装置等も前年同期を上回った」としている。白物家電機器は「主要製品の多くが低調だが、全国的な暑さなどによりエアコンが好調に推移した」と報告し、全体では「うす曇り」と判断した。

企業モニターの回答をみると、A社はストレージ事業やDX・クラウドサービスの好調な推移もあり「晴れ」と判断。B社も売上増を理由に「晴れ」とした。C社は合理化の進捗や円安がプラス要因となったものの、人件費やエネルギーコストの増加がマイナス要因となったことから「うす曇り」とした。

非鉄金属は生成AI向けの半導体需要が拡大

【非鉄金属】の業界団体モニターによると、銅の価格は一部の海外鉱山の閉鎖による供給懸念を背景に上昇基調で推移しているという。亜鉛価格も上昇。下流分野では、自動車向けの製品やサプライチェーンの在庫正常化のほか、生成AI向け高性能半導体用途の需要拡大で回復がみられた。こうしたことをふまえつつ、判断は「うす曇り」とした。企業モニターも「うす曇り」と判断している。

事業所給食はコスト増に価格転嫁が追いつかず

【事業所給食】では、値上げ交渉やオペレーションの改善などの効果が現れている企業もある。しかし、食材費や人件費の高騰に価格転嫁が追いつかず、業績の悪化が続く企業も多いことから「楽観できる状況ではない」という。

【ホテル】は宿泊が想定以上に好調だが、宴会が苦戦していると報告。レストランは人件費を含むコストがかさんでいる。

【ホームセンター】は6月に夏物商品で動きがみられたが、日用消耗品は伸び悩んだとした。

【職業紹介】では、求人意欲の一服感が一部にみられる。求職者不足により、求人条件に合致した人材紹介が実現しづらくなっているほか、求職者を確保する費用が上昇している。

求人情報を扱う【その他】は、「求人メディアの利用以外に、スポットワークへの移行も感じられる」としている。

これらのほかに「うす曇り」と判断した業種は、【建設】【パン・菓子】【繊維】【木材】【紙パルプ】【印刷】【石油精製】【石膏】【金属製品】【工作機械】【港湾運輸】【自動車販売】【ガソリンスタンド】【外食】【シルバー産業】【請負】だった。

ゴムは中小企業の業況判断が悪化

「本曇り」と判断した7業種は【ゴム】【道路貨物】【水産】【硝子】【電力】【葬祭】【中小企業団体】。

判断理由についてみていくと、【ゴム】では、業界団体モニターが中小企業会員に実施した景況調査で、当期は業況判断・売上が前期から悪化し、経常利益は大幅なマイナスに転じた。自動車タイヤの出荷金額は4月、5月はプラスだったが、6月はマイナスに転じたという。

【道路貨物】は、運賃・料金の水準は改善基調にあるものの、燃料高・物価高等に対するコスト転嫁の進捗が遅れている。

【水産】は全般的に不漁が続いている。魚価は上昇しているものの、加工原料不足や飼料原料高で経営環境は厳しい。

セメントは建設業の「2024年問題」の余波で土曜日の出荷減が影響

「雨」と判断した業界は【セメント】【出版】【専修学校等】の3業種。

【セメント】は当期のセメント国内需要が前年同期比マイナス3.8%だったとし、減少の背景について、人手不足等による工期の長期化や、労務単価、建設資材費の上昇により、金額あたりのセメント使用量が低下したことをあげた。また建設業での時間外労働の上限規制が進んだことで、「土曜日の出荷が減少していることも一つの要因」としている。

【専修学校等】は学生数の停滞を理由にあげた。

次期(2024年7~9月)の業況見通し

次期(2024年7~9月)の業況見通しについては、44業種のうち「快晴」とする業種はゼロとなり、「晴れ」が10業種(業種全体に占める割合は22.7%)、「うす曇り」が22業種(同50.0%)、「本曇り」が9業種(同20.5%)、「雨」が3業種(同6.8%)となっている。

水産はクロマグロの漁獲可能量の拡大がプラスに

4~6月期から業況の好転を予想したのは、「うす曇り」から「晴れ」に判断を引き上げた【自動車販売】と、「本曇り」から「うす曇り」に引き上げた【水産】の2業種。

【水産】はカツオが好漁であることや、クロマグロの漁獲可能量が拡大されたことが好材料となっているとした。

【自動車販売】は、春先には入荷(輸入)の見通しが立たなかった売れ筋の高額モデルについて、7月末から潤沢に入荷して登録も順調に進んでいることから、増収増益を見込む。

パン・菓子は小麦価格が落ち着くも、消費者の節約志向を懸念

一方、悪化を予想したのは、4~6月期の「快晴」から「晴れ」に引き下げた【百貨店】、「晴れ」から「うす曇り」に引き下げた【化繊】と【造船・重機】、「うす曇り」から「本曇り」に引き下げた【パン・菓子】【石膏】【ガソリンスタンド】の6業種。

【パン・菓子】では小麦価格が落ち着いていることもあり、パン類の価格改定の動きはないとしたものの、糖類や油脂など原材料価格の高止まり、エネルギー・物流費や人件費の上昇等によりコストが増加しているほか、消費者の節約志向の継続が懸念されるとしている。

【石膏】は出荷量の減少を理由にあげた。【化繊】は円高の進行を懸念材料としている。

猛暑や自然災害で売り上げを伸ばす業種も

今期の判断を継続した業種をみると、【コンビニ】(晴れ→晴れ)は猛暑の影響でソフトドリンク・アイスクリーム・冷たい麺類の売り上げが好調となっている。【ホームセンター】(うす曇り→うす曇り)も猛暑の影響で冷房用品の売り上げが伸びているほか、南海トラフ地震臨時情報の発表や台風の上陸もあり、日用品・防災用品の需要が高まると見込む。

非鉄金属と電機は需要拡大に期待

【非鉄金属】(うす曇り→うす曇り)は電子材料分野で半導体向けの回復の兆しがみられるものの、本格的な回復は10~12月期以降とみている。

【電機】(うす曇り→うす曇り)は、生成AI関連市場の拡大を見込んでいる。

事業所給食は最賃の引き上げと新紙幣への対応に苦慮

【事業所給食】(うす曇り→うす曇り)では、最低賃金の大幅な引き上げにともなう人件費の増加や、新紙幣への対応によるコスト増を懸念する声が強い。

【港湾運輸】(うす曇り→うす曇り)は、パナマ運河の運行船舶の制限が緩和される見通しだが、中東での紛争に起因する海運の混乱が継続しているとした。

なお来期の判断については、国内外の政策金利や為替相場の動向、アメリカ大統領選挙の行方などをもとに、不透明感があるとする回答が多くの業種から寄せられた。