フリーアドレスが浸透、服装や髪型はカジュアル化が進む
――企業・業界団体に聞く、働きやすい職場環境に向けた取り組み
ビジネス・レーバー・モニター特別調査
働きやすい職場空間の整備や働き方改革の一環として、オフィスのリニューアルやビジネスファッションのカジュアル化などに取り組む企業が目立ってきた。そこでJILPTでは、年4回実施しているビジネス・レーバー・モニター企業・業界団体調査の8月調査において、特別調査項目として、働きやすい職場環境のためのこうした取り組みについて尋ねた。結果をみると、オフィスの移転時にフリーアドレスを導入する事例が多く報告されたほか、休憩室や食堂をリニューアルする企業もあった。服装や髪型についてはカジュアル化が進んでいる。これらの取り組みの結果として、仕事の効率向上や採用費削減というプラスの効果のほか、職場が明るくなったとの報告もみられた。
特別調査項目では、企業モニター20社、業界団体モニター21組織から回答を得た。
6割の企業モニターがフリーアドレスを導入
はじめに働きやすい職場空間づくりの取り組みをみると、多くの企業モニターがここ数年でフリーアドレスを導入したことを報告した。
【建設】【硝子】【非鉄金属】【電機】【造船・重機】【百貨店】【ガソリンスタンド】【シルバー産業】【専修学校等】に属する計12社がフリーアドレスの導入を報告。これは、調査に回答した企業モニター全体の6割にのぼる。導入のタイミングは、オフィス移転時に実施したとする企業が多かった。座席を完全に自由にするのではなく、「大まかに部門等でエリア分けしている」(【電機】)とする、いわゆるグループアドレスを導入している企業もあった。
業界団体モニターからも、やはり会員企業においてフリーアドレスの導入が進んでいることが報告された。【非鉄金属】は、「大手企業の多くが本社移転やコロナ禍における在宅勤務の増加などを契機に、フリーアドレス制を導入している」と報告。【出版】は、人事・総務委員会において、オフィス家具・事務機器を販売する企業が実施するフリーアドレス制の導入事例の見学会を開催したと報告した。
【職業紹介】では「面談業務などはプライバシー保護が義務づけられているが、事務所内に面談専用ブースを設けることによるオンライン面談も定着している」としている。
レイアウト変更で部門間のコミュニケーションを促す
そのほかのオフィス環境に関する取り組みをみると、【自動車販売】の企業は、本社のレイアウト変更を順次進めており、部内はもちろんとして各部門間のコミュニケーションも取りやすくするために、立ち寄りやすい打ち合わせスペースやオアシスのような休憩場所を設置するなど、明るく活気のある雰囲気を醸し出すことを目指しているという。
【非鉄金属】の企業は、立ったまま仕事ができるハイテーブルや、集中して仕事をするための個別ブースなどを設け、仕事の状況に応じて机や場所を選べるようにしていると回答した。
自動車は工場の環境整備でトイレ・ロッカーの更新・新設など
【自動車】の企業は、春の労使協議会で議論した「総合的な人への投資」の1つとして、「働きやすいものづくり環境の整備」を掲げ、各種施策を進めた。具体的には、工場の環境整備として、場内外注の人たちも含めたトイレ・ロッカーの更新や新設、暑熱・寒冷対策、休憩所や駐車場の改善などを早期にスケジュール化し、順次着手しているという。
【ホテル】は従業員食堂のメニューを充実させたほか、従業員用化粧室の改装を予定していると回答。【事業所給食】の業界団体モニターによると、ある会員企業は本社ビル内にテストキッチン・プレゼンルームを設け、メニュー開発、調理研修等に活用。昼は社員食堂として利用することで、従業員から好評を得ているそうだ。
商社ではオフィス移転とあわせた「働きやすさ」の工夫が進む
【商社】の業界団体モニターは、月刊の広報誌において会員企業のオフィスを紹介している。それによると、オフィスの移転とあわせて、働きやすい環境を整備する取り組みがみられる。
たとえば2022年に日本橋のオフィスに移転したA社は、多様なワークスタイルに柔軟に対応するために、従来の固定席からフリーアドレスに変更した。なお、オフィス内の社員の所在をスマートフォンで瞬時に検索できるため、フリーアドレスでも社員の所在を把握できるという。
2021年に大手町に移転したB社では、移転前に実施したアンケートでは「固定席」を希望する部署が多かったものの、コロナ禍で柔軟な働き方への必要性が高まったことから「自由席」にした。座席割合は組織人数の70%。1 on 1ミーティング専用の会議室や集中できる個人デスクも完備することで、効率化の観点からもメリハリのある業務を可能としている。
2020年に大手町に移転したC社は、グループアドレスを導入。移転前からトライアルで実施しており、ペーパーレス化やモバイル活用も加速していたため、コロナ禍での在宅勤務中心の働き方にもスムーズに移行できたという。
2022年から2023年にかけて本社オフィスをリニューアルしたD社は、フリーアドレスを導入した。これまでの部署ごとに固定された画一的なデスク配置をやめ、さまざまなタイプのデスクをランダムに配置し、社員同士が交流しやすい座席レイアウトにすることで、組織の垣根を超えたコミュニケーションの活性化を図っている。
社内カフェでアルコールを提供して懇親の機会に
2022年に丸の内のオフィスに移転したE社は、16階と17階の2フロアに入居しているが、フロア間に内階段を設けることでエレベーターを使わずに手軽に移動できるようにしており、人の移動が活発化するとともに、社員同士の出会いの機会も増えている。また、オフィス内のカフェでは週に2回アルコールを提供する「Bar Time」を設けており、仕事終わりの軽い飲酒や懇親会等に利用している。
通年でのノーネクタイが浸透
服装についての回答をみると、明文化や規則の改正は行っていないが実態としてカジュアル化が進んでいるという企業がある一方で、ドレスコードを廃止した企業もあった。
【建設】ではドレスコードについて、「明文化された社内規程はなく、以前は夏期にクールビズの周知を図っていた程度で、現状ではクールビズの周知もしなくなった」という。ただし「自然な成り行き」で服装の自由化が進んでおり、以前の夏期のスタイルはスーツから上着・ネクタイを省略した形がメインだったが、最近は色物のポロシャツなどのカジュアルな服装が若手を中心に目立ってきているという。こうした変化に対して「否定的な意見が聞かれることもない」としている。
【食品】では従来は、夏期以外はネクタイの着用を基本としていたが、現在では通年でネクタイを着用しなくてもよくなっているとした。【請負】も、以前は5月から9月をカジュアルシーズンとしてノーネクタイでの就業を進めていたが、2年前から通年に変更している。
【鉄道】は服装について「自身の職務・環境に合わせつつ、他人に不快な思いを感じさせない範囲」としており、Tシャツやスニーカーで通勤する社員も多いという。
シルバー産業は間接部門でドレスコードを導入
【シルバー産業】は今年4月から本社等の間接部門でドレスコードを導入した。これまで医療関連部門・介護部門等は制服を定めていたが、間接部門は就業規則で「清潔かつ自らの業務にふさわしい服装を着用し、身だしなみを整えること」と定めている以外には、明確な基準は設けていなかった。在宅勤務の導入やクールビズ等により服装のカジュアル化が進んでいることから、TPOに応じた服装・身だしなみの基準を設けることにした。「今のところは、大きな反響もなく受け入れられている」としている。
外食では髪色や髪型の規程変更が採用費削減につながる企業も
【外食】の業界団体モニターによると、長い髪をゴムで結ぶ、ヘアピン等でまとめるなど「清潔感」があれば問題ないとして、髪色や髪型に関する規程を変更し、従業員の個性を尊重する企業事例がみられる。こうした取り組みの結果、店舗で働きやすい雰囲気が生まれ、それにより求人の応募者が増加して採用費の削減につながった企業もあるという。
【事業所給食】の業界団体モニターによると、会員企業の具体的な取り組み事例として「身だしなみ・ヘアスタイルの規定変更」「事務職の制服の廃止」があるという。
電機では業務外のコミュニケーション機会創出という効果も
【電機】のA社では服装について、コミュニケーションの活性化や柔軟なアイデアの創出、健康意識・ウェルビーイング向上を目的とし、TPOに合わせて自身で判断する取り組みを導入した。その結果、「業務外も含めたコミュニケーションの機会創出、快適さの向上による仕事の効率向上等のプラスの効果が見られている」という。B社はスーツを基本とするドレスコードを廃止した。C社では「もともと私服が許容されており、何ら規定の変更等は実施していない」という。
コンビニは服装のカジュアル化が若手に好評
【コンビニ】の業界団体モニターによると、会員企業のなかには、服装をカジュアル化したうえで、来客・訪問等は各自の判断での対応としている企業が複数ある。その結果として「発想が自由になる」「職場内が明るくなった」などの声もあり、特に若い職員から好評を博している。
【百貨店】は、接客時以外はオフィスカジュアル(襟なしも可)を推奨しており、自由度の向上でエンゲージメントが高まっているという。