【茨城】(常陽産業研究所)
今期に続き、来期も供給制約や消費マインドの低下が下押し材料か
地域シンクタンク・モニター定例調査
茨城県の経済動向について、1~3月期は、製造業では景況感が悪化する一方、非製造業ではコスト高や消費マインド低下が下押し材料となっており、モニターである常陽産業研究所は【横ばい】と判断した。4~6月期も、企業収益悪化やモノ・サービスなどの供給制約などが下押し材料となる懸念があるとして、【横ばい】とした。雇用動向については、有効求人倍率は上昇したが、新規求人が前年比マイナスの業種もあり、1~3月期は【横ばい】とし、4~6月期の見通しは【やや好転】とした。モニターが実施した調査によると、4割超の企業がベースアップを実施予定で、人材獲得競争を背景に賃上げせざるを得ないという声もある。
<経済動向>
コスト高や消費マインドの低下が下押し材料に
モニターが実施する「県内主要企業の経営動向調査(1~3月期)」によれば、県内企業の景況感をあらわす自社業況総合判断DIは「悪化」超7.6%と、前期調査から約4ポイント低下した。業種別にみると、製造業は「悪化」超が11.6%で前期から約13ポイント低下し、非製造業は「悪化」超4.9%で前期からおおむね横ばいとなった。
モニターは製造業について、「供給制約の残存、自動車メーカーの認証不正問題、海外経済の減速など様々な要因から、製造業の景況感が悪化した」としたほか、非製造業については「経済正常化などが好材料となったものの、コスト高や消費マインドの低下などが下押し材料となり、小幅改善となっている」と説明したうえで、1~3月期の地域経済を【横ばい】と判断した。
人手不足による供給制約が懸念材料
4~6月期については、「自社業況総合判断DIは全産業で『悪化』超4.8%と今期からおおむね横ばいの見通し」。これを業種別にみると、「製造業は『悪化』超3.6%で今期から約8ポイント改善、非製造業は『悪化』超5.8%で横ばいの見込み」となっている。
モニターは、「海外経済の減速、コスト高・価格転嫁難による企業収益の悪化、物価高を受けた消費マインドの低下、人手不足によるモノ・サービス等の供給制約などが景況感を下押しする懸念がある」とコメントし、判断を【横ばい】とした。
6割以上の企業が「2024年問題」が経営に悪い影響と回答
モニターは3月に県内企業に対して「2024年問題に関する企業調査」を実施している。それによると、「2024年問題」による経営への影響については、全産業で「どちらかと言えば悪い影響がある」が47.4%で最も多く、次いで「わからない」が18.9%、「かなり悪い影響がある」が17.4%、「影響はない」が11.1%などとなった。
「かなり悪い影響がある」または「どちらかと言えば悪い影響がある」とする企業割合を業種別にみると、製造業が71.3%で、非製造業(60.0%)を約11ポイント上回った。もっとも、モノの移動が不可欠な「卸売業」(88.2%)、労働時間の上限規制の直接的な影響を受ける「建設業」(72.4%)では、「悪い影響がある」とする割合が全産業の平均(64.8%)を上回っており、業種によって影響度合いはまだら模様となっている。
「2024年問題」による経営への影響の内容(複数回答)については、「配送コストの上昇」が69.9%で最も多く、次いで「配送遅延・スケジュールの見直し」が41.4%、「人件費の上昇」が29.3%などとなった。
工期遅延や受注機会の損失への懸念も
企業からの具体的な声では、建設業からは「建設現場の進捗、配送計画の調整が当面混乱する」「工期の見直し設定や受注制限などが必要になる」など、工期遅延や受注機会の損失を懸念する声や、「納期が遅くなるので発注者の理解促進が必要」といった、取引先への理解を求める声が多くあがっている。また、「職人たちが収入不足になる」「(収入が減るので)人手不足に拍車がかかる」など、残業規制による従業員の収入減少、ひいては業界全体の人手不足の加速を懸念する声も聞かれた。
運輸・倉庫業からは、「高速道路の利用で時間短縮は可能。荷主にその経費を負担してもらいたいが、交渉が難しい」「燃料費や高速代などの負担が重くなる反面、運賃は上がらない。このままでは残業規制による収入減少で、更なる人離れが懸念される」「車両の重量によっては高速道路が利用できない場合もある。高速道路の利用制限緩和が不可欠」など、荷主や国に対し理解・支援を求める声が目立っている。
モニターは「企業にとっては、予算や人員等の制約、他社との調整の必要などもあり、簡単には進まないのが現状だ」と指摘したうえで、「問題がより深刻化する場合には、国だけでなく地方自治体でも、企業の対応をサポートする支援策などの検討が必要になる」とコメントしている。
<雇用動向>
宿泊業・飲食サービス業、建設業などで新規求人が前年下回る
1~3月期の雇用動向をみると、3月の有効求人倍率は1.35倍(前月比0.02ポイント上昇)と、2カ月連続で上昇している。新規求人数は前年同月比マイナス10.6%で、10カ月連続で前年水準を下回った。新規求人数を業種別にみると、運輸業・郵便業(前年同月比プラス4.8%)などが増加した一方、宿泊業・飲食サービス業(同マイナス19.9%)、建設業(同マイナス14.2%)、製造業(同マイナス9.5%)、卸売・小売業(同マイナス8.4%)などは減少した。
3月の雇用保険受給者数は7,290人で、前年同月比プラス1.8%と12カ月連続で前年水準を上回った。同月の事業主都合離職者数は同プラス11.0%の574人で、4カ月連続で前年水準を上回っている。
モニターが実施した「県内主要企業の経営動向調査結果(1~3月期)」によると、雇用判断DIは0.0%で前期からおおむね横ばいとなった。業種別にみると製造業が「増加」超2.4%で前期から約9ポイント上昇、非製造業が「減少」超1.7%で前期から約4ポイント低下している。なお、日銀短観(3月)の雇用人員判断DIはマイナス32で、前回(マイナス34)に続き大幅な「不足」超の状態にある。
こうした動きをもとにモニターは、「横ばい圏内で推移している」として1~3月期の雇用の実績を【横ばい】と判断した。
4~6月期の雇用状況の見通しについては、モニターが実施した同調査の先行き(4~6月期)の結果をもとに、「雇用判断DIは全産業で『増加』超3.9%と今期から約4ポイント上昇。業種別では、製造業が『増加』超9.6%で約7ポイント上昇、非製造業が0.0%でおおむね横ばいの見通し」であることから【やや好転】とした。
県内企業でベアを行う割合は41.9%
モニターは3月に県内企業に対して「春季賃上げに関する企業調査」を実施している。それによると、2024年に「賃上げを実施する」企業は66.3%と、前年から0.6ポイント上昇し、比較可能な2015年調査以降で最も高くなった。賃上げの中身に注目すると、定期昇給を行う企業が56.5%、ベースアップを行う企業が41.9%となっている。
ベアを実施予定の企業からは、「物価高騰のなか、従業員の生活の質の維持・向上のため賃上げを行う」(測量業)、「人材獲得競争に勝つには、地域や業界の賃金水準を参考にベア・昇給をせざるを得ない」(建設業)といった声があり、モニターは「県内企業がベアを含む賃上げに前向きとなっている背景には、2022年度から続く物価高、深刻な人手不足がある」とみている。