【特別調査:地域企業における大幅な賃上げ事例】
人材確保や物価上昇への対応から幅広い業種・地域で賃上げの動きが進む

地域シンクタンク・モニター特別調査

2024年春闘は例年にない大幅な水準の賃上げとなった。地域シンクタンク・モニターに対して、地域企業における大幅な賃上げの事例を尋ねたところ、地方銀行などの金融機関、電力や鉄道といったインフラ関連、製造業、小売・飲食と幅広い業種での事例の報告があった。賃上げの実施理由では、人材確保や物価上昇への対応、従業員のモチベーションアップなどがあがっている。小売・飲食では人手確保への強い危機感もうかがえる。茨城県(株式会社常陽産業研究所)、北陸(一般財団法人北陸経済研究所)、九州(公益財団法人九州経済調査協会)のモニターの報告をもとに紹介する。

地方金融機関の賃上げが相次ぐ

いずれのモニターからも、地方銀行などの金融機関における賃上げが報告された。

めぶきフィナンシャルグループの常陽銀行(水戸市)と足利銀行(宇都宮市)は、採用競争力の強化や優秀な人材の確保等を目的に、2024年4月入行者の初任給を引き上げた。大卒の総合職(隔地転勤あり)が26万円(3万円増)、大卒の総合職(隔地転勤なし)が21万8,000円(2万2,000円増)、短大卒・高卒の総合職(隔地転勤なし)が20万3,000円(2万2,000円増)となった。さらに7月からは、ベースアップなどにより平均7%程度の賃上げも実施している。

ほくほくフィナンシャルグループの北海道銀行(札幌市)と北陸銀行(富山市)は、物価上昇から従業員の生活を守り安心して働くことができる環境の整備や従業員のモチベーション向上などを目的に、平均4.6%以上となる賃上げを7月から実施した。若手行員では最大10%超の賃上げとなる。

肥後銀行(熊本市)は、物価上昇等の社会状況への対応ならびに従業員のエンゲージメント向上、多様な人材の確保などを目的に、4月から5.8%の賃上げを行った。内訳はベースアップが3.8%、定期昇給が2.0%。ベースアップを含む賃上げは、昨年度に続き2年連続となる。

富山信用金庫(富山市)は大卒の初任給を21万円(2万8,000円増)に引き上げる。改定は2014年以来。

電力は組合要求を上回るベースアップも

電力や鉄道などのインフラ関連でも、各地域を代表する企業の賃上げ事例が報告された。能登半島地震による設備の被災もあった北陸電力(富山市)は、25年ぶりにベースアップを実施した。春闘での組合要求は9,000円だったが、それを上回る9,500円で妥結した。

九州電力(福岡市)は今春闘で1万1,500円のベースアップ(定期昇給込み4.3%の引き上げ)で組合と妥結した。初任給は全学歴で1万円引き上げる。同社は「更なる生産性向上への意欲喚起に向けて全体を引き上げると共に、早期戦力化の観点から若年層に対する引き上げと、職場の変革を牽引する管理職層に対する引き上げを行い、組合員平均で1万円を超える賃上げを実施する」とコメントしている。

JR九州(福岡市)は9.3%の賃上げを実施した。

製造業では従業員のチャレンジに期待を込める企業も

製造業の賃上げ事例でも、複数の報告が寄せられた。

茨城県日立市に事業所がある大手電機メーカーの日立製作所(東京都千代田区)は、今春闘で1万3,000円の賃金水準改善で妥結した。初任給は大卒が1万8,000円増の25万円、高卒が9,000円増の18万7,000円となる。同社は「従業員のモチベーションを高め、一丸となってチャレンジして欲しいという強い思いと大きな期待を込め、回答を決断しました」としている。

産業用ロボットを製造する安川電機(北九州市)は、組合要求の水準改善1万3,000円に対して満額回答している。衛生陶器を製造するTOTO(北九州市)も、組合要求の5%賃上げに満額回答した。

小売は質の高い人材の入社・定着に賃上げが不可欠と判断

小売や飲食では、人材確保を目的とした賃上げ事例の報告があった。ドラッグストアを運営するゲンキー(福井県坂井市)は、正社員基本給を平均5%引き上げたほか、新卒の初任給を1万5,000円アップした。同社は「出店に必要な人財を確保し、質の高い人材を入社に繋げ、定着させることが不可欠だと考えています」としている。

外食は人材確保が事業における最大の課題に

外食やホテル事業を手掛けるロイヤルホールディングス(福岡市)は、今春闘において1万5,000円のベースアップで組合と妥結した。さらに店長・料理長の役職手当を1万円増額した。2025年4月入社の初任給は2万円引き上げて24万8,000円とする。同社はこれらの賃上げについて、「当社を含む外食産業では人手不足は益々厳しさを増しており、人材確保と働く環境の整備はロイヤルグループの最大の課題」「すべての人材は付加価値を生む源泉であり、一過性ではなく継続的な投資による人材の成長そのものが会社の成長につながる」とコメントしている。