<企業・業界団体調査 2024年1~3月期の業況実績/4~6月期の業況見通し>
小売やホテルがインバウンド需要で好調となるも、幅広い業種で物価上昇に伴うコスト増に苦慮する声が。来期は公共事業や好天による需要を見込む業種も
ビジネス・レーバー・モニター定例調査
JILPTが四半期ごとに実施している「ビジネス・レーバー・モニター調査」によると、2024年第1四半期(1~3月期)の業況実績は前期からそれほど変化がなかった。各モニターから寄せられた判断理由をみると、「晴れ」とした小売やホテルなどの非製造業はインバウンド需要が好調で、製造業からは価格転嫁を吸収できているとする声があった。「うす曇り」「本曇り」の業種からは、物価上昇によるコスト増に悩む声が寄せられた。次期(2024年4~6月期)の業況見通しも、今期からそれほど変化がみられない。造船・重機は公共事業による需要増を見込む。小売では好天による売上増の期待もある。
調査の趣旨
JILPTでは、企業および業界団体のモニターに対し、四半期ごとに業況の実績と次期の見通しを「快晴」「晴れ」「うす曇り」「本曇り」「雨」の5段階で聞き、企業モニターの回答の平均と業界団体の回答をさらに平均する(端数は四捨五入)ことで各業種の最終的な判断を算出している。そのため、個々の企業、業界団体の業況評価と必ずしも一致しない。
今回は2024年第1四半期(1~3月期)の業況実績と2024年第2四半期(4~6月期)の業況見通しについて調査した。回答は企業と業界団体の計53組織、43業種から得た。
各企業・団体モニターの現在の業況
前期からの変化は小幅
第1四半期の業況は、回答があった42業種中、「快晴」がゼロ、「晴れ」が11(業種全体に占める割合は25.6%)、「うす曇り」が20(同46.5%)、「本曇り」が10(同23.3%)、「雨」が2(同4.7%)(表、図)。前回調査の2023年第4四半期と比較すると、全体として小幅な変化にとどまっている。
製造業・非製造業別の傾向をみると、「晴れ」は製造業が3業種で非製造業が8業種、「うす曇り」は製造業が12業種で非製造業は8業種となっている。これに対し「本曇り」と「雨」の合計は、製造業が4業種、非製造業が8業種となっている。
表:前期及び今期の業況実績と業況見通しの概要
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図:調査開始以来の業況調査結果の推移
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現在の業況の判断理由
鉄道・百貨店・ホテルはインバウンド需要を取り込み
今回、「晴れ」と評価した業界は【鉄道】【百貨店】【ホテル】【パン・菓子】【食品】【職業紹介】【情報サービス】【自動車】【コンビニ】【ガソリンスタンド】【遊戯機器】の11業種。
【鉄道】の企業モニターは、外出機会の増加やインバウンド需要の取り込みにより、交通事業やホテル・リゾート事業部を中心に各事業で利用者数が回復したほか、不動産事業におけるマンション販売の増加や鉄道の運賃改定等もあり、増収・増益となったことから「快晴」とした。業界団体モニターは、運賃の引き上げにより運輸収入は大手の鉄道会社を中心に回復傾向にあると報告したうえで、判断を「うす曇り」とした。
【百貨店】はインバウンド需要の増加や経費構造改革を背景に、営業利益・当期純利益がともに過去最高を記録した。
【ホテル】はインバウンドの回復もあり、宿泊・レストラン・宴会の売り上げがいずれも予算を大きく上回った。
パン・菓子は価格を引き上げても需要の減退はほとんどみられず
【パン・菓子】では業界団体モニターが、「多くの事業者で価格改定を実施したが、需要の減退はほとんどみられず、売上額や業績は総じて回復・改善した」として「晴れ」と判断した。この背景には、価格改定への取引先・消費者の理解やインバウンドの増加に加えて、輸入小麦の政府売渡価格の抑制措置で、値上げ幅が抑制されたこともあるとみている。企業モニターは「売上は回復基調にあるものの、材料費やエネルギー価格が高止まりしている」ことから「うす曇り」とした。
食品は景況判断がすべての企業規模で改善
【食品】の業界団体モニターは、3月のチェーンストア・百貨店・コンビニエンスストアの食料品販売金額(既存店ベース)がいずれも前年比プラスであることから、「価格転嫁が進むなか、全体として売上増が続いている」とみて「晴れ」とした。「日銀短観」(3月調査)での食品製造業の景況判断DIをみても、大企業が24(前回調査比プラス6)、中堅企業が9(同プラス5)、中小企業が12(同プラス2)と、いずれの規模でも改善している。企業モニターも、原材料高の影響を一部受けたものの「乳製品の高付加価値型商品の売上拡大効果により、売上総利益は前年同期を上回った」ことから「晴れ」と判断した。
【職業紹介】は求人が旺盛であることを理由にあげたうえで、「求人者が求めるスキル能力のある人材は不足しているため、マッチングの難易度は相変わらず高いままであり、『快晴』とまでは言えない」とした。
【情報サービス】は主力のシステムインテグレーション、受注ソフトウェア、システム等管理運営受託が堅調。【自動車】は原価改善で収益構造が改善している。
電機は物価高騰による消費者の節約志向の強まりも影響
「うす曇り」とした20業種では、物価の上昇や海外の経済・政治状況が判断要因にあがっている。
【電機】の業界団体モニターは、重電機器について「一般産業向け汎用機器は、電子部品や半導体などの設備投資減少の影響が現れ、輸出・国内出荷ともに下回った」としたほか、「受注生産品は、電力・産業向け電気設備の変圧器、開閉制御装置等は前年同期を上回ったが、発電用原動機のボイラ、蒸気タービン、ガスタービンが前年同期を下回った」としている。また、白物家電機器は「外出機会がコロナ禍以前の水準に戻ったことにより、旅行・外食等のサービス消費へシフトしたことや、物価高騰により消費者の節約志向が強まったことが影響した」ものの、「製品単価の上昇による出荷金額の押し上げがあり、出荷金額は直近の10年平均を上回る水準を維持した」。こうしたことから、全体では「うす曇り」とした。
企業モニターは、A社は主要3セクターが増収増益となったことから「晴れ」と判断。B社も売上増を理由に「晴れ」とした。一方、C社は自動車・航空機の市場回復や価格改定がプラス要因となったものの、原料費と人件費の高騰や、中国市場の低迷がマイナス要因となったことから「うす曇り」とした。
非鉄金属では一部の部門で一時帰休を余儀なくされる企業も
【非鉄金属】の業界団体モニターは、上流・中流分野について「エネルギーコストを含む製造コストが依然として高水準で推移しており、厳しい環境が継続している」とした。下流分野は「自動車向けの製品や一部素材で回復がみられた」ものの、「電子材料向けは、関連する市場の回復にはしばらく時間がかかると想定しており、販売量は低調な状況」と報告。企業モニターは「一部の部門で一時帰休を含む減産を余儀なくされ、2024年3月期決算で減収減益となったものの、全事業部門では黒字を確保できた」と報告し、ともに判断を「うす曇り」とした。
【港湾運輸】は、昨年から続くパナマ運河の渇水による通航船舶隻数の制限と、紅海周辺での商船攻撃リスク回避のために、スエズ運河を迂回した喜望峰経由のルートで運航するなど、海運の混乱が止まない状況にある。
【紙パルプ】は主要製品のグラフィック用紙、パッケージング用紙、衛生用紙の国内価格が価格改定で上昇した一方で、ユーザーの使用量減少や買い控えにより、生産・出荷ともに減少傾向が続いている。ただし紙パルプの上場企業全体では、原燃料価格の高騰が一服したことや価格改定が販売数量減少を補ったことにより、おおむね増収・増益傾向となっている。
【自動車販売】は新車販売台数の計画達成率が約85%と低調だが、中古車販売や整備事業が好調であることに加え、全社的な経費削減効果と新車の値引き抑制により、ほぼ予算通りの利益を計上している。
【商社】は、総合商社7社のうち5社が前年同期比で減益となった。その要因として「資源価格の下落により各社の資源・エネルギー・金属部門の収益が減少した」ことをあげた。
このほかに「うす曇り」と判断した業種は、【建設】【繊維】【印刷】【硝子】【石膏】【金属製品】【工作機械】【金型】【造船・重機】【電力】【ホームセンター】【請負】【その他】だった。
ゴムは大手自動車メーカーの認証不正問題の影響で減産の動きも
「本曇り」と判断した10業種は【ゴム】【事業所給食】【木材】【水産】【化繊】【出版】【道路貨物】【葬祭】【シルバー産業】【中小企業団体】。
判断理由についてみていくと、【ゴム】の業界団体モニターが中小企業会員に実施した景況調査では、当期は業況判断・売上・経常利益がいずれも前期から悪化している。会員企業からの具体的な声では、「大手自動車メーカーの認証不正問題の影響を受け減産が続いている」「円安分の価格転嫁が引き続き困難」「賃上げ分の価格転嫁が課題」といった意見があるという。
事業所給食は「過去に経験がない人手不足」に直面する企業も
【事業所給食】の業界団体モニターによると、会員企業の具体的な声として「コロナ禍から売上は回復しているが、価格転嫁が十分にできていない」「人手不足や食材費その他のコスト上昇に伴い、契約金額の見直しをクライアントにお願いしているが、わずかな見直しにとどまるところが多く、収益改善には至っていない」「過去に経験がない人手不足となっている」などがあるという。
【木材】は木造住宅の新築住宅着工戸数が伸び悩んでいることから、合板の受注が停滞している。また、急激な円安がコスト増につながっている。
【水産】はイワシが豊漁となっているが、光熱費や人件費の高騰で苦しい経営を余儀なくされている。
セメントは工事現場の人手不足のしわ寄せで需要が減少
「雨」と判断した業界は【セメント】【専修学校等】の2業種。
【セメント】は当期のセメント国内需要が前年同期比90.6%で、マイナスが続いている。当期は公共工事向けの需要が期待できる時期だが、不振が続いた。その背景には、人手不足等による工期の長期化や、労務単価・建設資材費の上昇によって、金額あたりのセメント使用量が低下したことがある。加えて、民間工事も同様に人手不足、建設コスト上昇による設計変更や建設計画の見直しで工事遅れが生じており、需要が伸び悩んだ。
【専修学校等】は学生数の停滞を理由にあげている。
次期(2024年4~6月)の業況見通し
次期(2024年4~6月)の業況見通しについては、42業種のうち「快晴」とする業種はゼロ、「晴れ」が10業種(業種全体に占める割合は23.3%)、「うす曇り」が21業種(同48.8%)、「本曇り」が10業種(同23.3%)、「雨」が2業種(同4.7%)となっている。
造船・重機は防衛省の予算増による需要増加に期待
業況の好転を予想したのは今期の「うす曇り」から「晴れ」に引き上げた【造船・重機】【商社】と、今期の「本曇り」から「うす曇り」に引き上げた【化繊】【水産】【事業所給食】の合計5業種。
【造船・重機】は航空宇宙システム事業の防衛省向けで、「抜本的な防衛力強化に向けた国内調達予算の増加により、引き続き需要増が期待できる」状況。民間向けも「航空旅客需要はコロナ以前の水準にほぼ回復している。機体はコロナ禍からのリバウンド需要が旺盛で、事業環境は更に好転している」という。
【商社】は4~6月期を含む2024年度予想では、7社のうち5社が2023年度実績と比較して増益を予想している。資源・エネルギー周辺の価格下落が見込まれるものの、非資源セグメントの好調を見込んでいる。
自動車販売はガソリン価格の高止まりもマイナス要因に
一方、悪化を予想したのは、今期の「晴れ」から「うす曇り」に引き下げた【パン・菓子】【ホテル】【ガソリンスタンド】と、今期の「うす曇り」から「本曇り」に引き下げた【自動車販売】【電力】【その他】の6業種。
【パン・菓子】では物流費や人件費が上昇しているほか、レーズンやチョコレートの価格上昇も打撃となっている。
【ホテル】は宿泊が予算をクリアしているほか、宿泊と連動するレストランも今後の伸びを見込むが、宴会の伸びが弱く全体では前年割れする可能性もある。
【自動車販売】は中古車販売と整備事業は安定しているものの、車両価格の上昇やガソリン価格の高止まりで輸入車の新車購買意欲が低く、4月の計画達成率は80%弱まで落ち込んでいる。加えて、売れ筋の車種がマイナーチェンジに伴う生産の端境期となっており、輸入数量がほとんどない状態で「収益面でのマイナスは避けられない状況」。
ホームセンターは買い控えの動きが続くも全国的な好天がプラスに
今期の判断を継続した業種をみると、【ホームセンター】(うす曇り→うす曇り)は、生活関連用品の価格高止まりから買い控えの動きが続いているものの、全国的に天候に恵まれていることから園芸用品や外回り関連用品で動きがあるとみている。
【ゴム】(本曇り→本曇り)は、自動車メーカーの不認証不正問題の影響から持ち直す見込みのほか、堅調なインバウンド需要、春闘賃上げの拡大などのプラス要因もあるものの、円安をはじめとする景気の下振れリスクが依然として大きいとみている。