労務費の増加分を、4割以上価格転嫁できた企業は約3割にとどまる
――日本商工会議所の価格転嫁に関する調査結果
各種調査からみる賃上げ等の状況
日本商工会議所(小林健会頭)が全国の会員企業を対象に実施しているLOBO(商工会議所早期景気観測)調査の4月調査(4月30日発表)では、今月のトピックスとして、コスト増加分の価格転嫁の動向を取り上げた。調査結果によると、価格協議が実施できた企業は7割超にのぼったが、労務費増加分を、4割以上価格転嫁できた企業は約3割にとどまった。
調査は、4月12日~18日に実施。4月調査は、全国326商工会議所の会員2,472社に調査票を配布し、2,033社から有効回答を得た。
価格協議ができた企業の割合は73.7%
発注側企業との「価格協議の動向」をみると、「協議を申し込み、話し合いに応じてもらえた」が66.0%、「コスト上昇分の反映の協議を申し込まれた」が7.7%、「協議できていない」が16.0%、「維持や減額協議を申し込まれた」が2.8%などとなっており、協議できている企業(「協議を申し込み、話し合いに応じてもらえた」+「コスト上昇分の反映の協議を申し込まれた」)の割合は合計73.7%と7割を超えた。
協議できている企業の割合を業種別にみると、「建設業」が74.9%、「製造業」が82.8%、「卸売業」が79.5%、「小売業」が64.8%、「サービス業」が62.4%となっており、「製造業」では8割を超えたものの、「小売業」と「サービス業」では7割を下回った。 従業員規模別にみると、「100人以上」が82.3%、「50人以上100人未満」が84.7%、「10人以上50人未満」が79.6%、「10人未満」が58.9%となっており、「10人未満」では6割を下回った。
4割以上の価格転嫁ができている企業はほぼ5割
コスト増加分の価格転嫁の動向をみると、「10割」転嫁できた企業が4.6%、「7~9割程度」が21.9%、「4~6割程度」が24.5%、「1~3割程度」が34.8%、「0割」が12.2%、「マイナス」が0.8%、「コストが増加していない」が1.2%で、4割以上の価格転嫁ができている企業を合計すると50.9%とほぼ5割となっている。
4割以上の価格転嫁ができた企業の割合を業種別にみると、「建設業」が56.4%、「製造業」が54.7%、「卸売業」が68.7%、「小売業」が51.2%、「サービス業」が35.9%で、「卸売業」では7割近くに及ぶものの、「サービス業」では3割台にとどまっている。 従業員規模別にみると、「100人以上」が54.4%、「50人以上100人未満」が60.6%、「10人以上50人未満」が56.2%、「10人未満」が44.0%となっており、「10人未満」では5割以下となっている。
労務費増加分を10割転嫁できた企業はわずか3%
次に、コスト増加分のうち、労務費増加分をどれだけ価格転嫁できたかについてみていくと、「10割」転嫁できた企業が3.0%、「7~9割程度」が12.7%、「4~6割程度」が18.3%、「1~3割程度」が35.6%、「0割」が25.6%、「マイナス」が0.7%、「コストが増加していない」が4.1%。4割以上の価格転嫁ができている企業は合計して33.9%と3割台にとどまった。
4割以上の価格転嫁ができた企業の割合を業種別にみると、「建設業」が49.6%、「製造業」が33.5%、「卸売業」が40.3%、「小売業」が29.2%、「サービス業」が25.1%となっており、「小売業」と「サービス業」では3割を下回った。
従業員規模別にみると、「100人以上」が36.3%、「50人以上100人未満」が43.6%、「10人以上50人未満」が37.0%、「10人未満」が27.4%となっており、「10人未満」が最も低い割合となっている。
希望支援策は協議実施企業と協議未実施企業で違いも
価格協議を行うにあたり、希望する支援策を聞くと(複数回答)、「自社にて対応可能なため支援策はない」が39.5%で最も高く、次いで「合理的な根拠で協議を行うための、原材料・人件費等の価格推移・増減を示した資料作成ツールの提供」(25.3%)、「自社のコストを正確に把握するための専門家による原価計算手法の習得支援」(17.4%)、「『労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針』の活用推進・実効性確保」(16.3%)、「団体あるいは組合で価格協議できる仕組み」(14.5%)などの順となっている。
これを、協議をしていない企業だけでみると、「自社にて対応可能なため支援策はない」(31.9%)の割合が最も高いのは同様だったが、次に割合が高かったのは「団体あるいは組合で価格協議できる仕組み」(23.9%)だった。
協議未実施企業では転嫁できた割合が「マイナス~3割」が7割超
価格転嫁の動向をみると、協議できた企業では「10割」転嫁できたのが5.3%、「7~9割」が29.0%、「4~6割」が30.5%、「マイナス~3割」が35.2%となる一方、協議できなかった企業では、「10割」が2.0%、「7~9割」が10.7%、「4~6割」が15.8%、「マイナス~3割」が71.4%。協議できなかった企業では「マイナス~3割」が7割を超えるとともに、協議できた企業との間で、転嫁の状況に大きな格差がみられた。
(調査部)