2024年度にベアを実施する企業は70.7%で前年度から6ポイント程度増加
――財務省が「地域企業における賃上げ等の動向について(特別調査)」の結果を公表
各種調査からみる賃上げ等の状況
財務省が4月22日に公表した「地域企業における賃上げ等の動向について(特別調査)」によると、2024年度にベアを実施する企業の割合は、前年度の64.4%を上回る70.7%となっている。特に中堅・中小企業等での増加が目立ち、中堅・中小企業等でのベアの実施割合は前年度(54.3%)から8.8ポイント上昇して63.1%となった。
調査は、地域企業における賃上げ等の動向について把握するため、各地域の財務局が管内の企業等にヒアリングを行ったもの。調査対象は、各財務局が管内経済情勢報告をとりまとめる際に従来から継続的にヒアリングを実施している企業で、2024年3月中旬から4月中旬に実施し、4月5日時点の回答を分類した。全国1,125社から回答を得た。
ベア実施率の対前年伸び幅は、大企業は3ポイント程度
2024年度の賃上げの動向をみると(複数回答)、「ベア(ベースアップ)」を実施する企業の割合は70.7%で、前年度調査の64.4%から6.3ポイント増加した。「定期昇給」を実施する割合は81.9%で、前年度の79.4%から2.5ポイント増加。「賞与・一時金・手当等増額」を実施する割合は34.3%(前年度43.0%)などとなっている(図表1)。
図表1:2023~2024年度の賃金引き上げ動向(複数回答)
(公表資料から編集部で作成)
実施する企業の割合を規模別にみると、大企業(回答企業のうち資本金10億円以上の企業)では、「ベア(ベースアップ)」が81.1%(前年度77.9%)、「定期昇給」が86.2%(同86.4%)、「賞与・一時金・手当等増額」が36.2%(同43.3%)など。一方、中堅・中小企業等(回答企業のうち大企業以外)では、「ベア(ベースアップ)」が63.1%(同54.3%)、「定期昇給」が78.7%(同74.2%)、「賞与・一時金・手当等増額」が33.0%(同42.8%)などとなっており、中堅・中小企業等のほうが大企業よりもベア実施率の伸び幅が大きい。
ベア引き上げ率が3%以上の企業は全体の59.8%
2024年度のベアの引き上げ率をみると、「5%以上」が19.8%(同8.8%)、「4.0%~5.0%未満」が15.3%(同8.6%)、「3.0%~4.0%未満」が24.7%(同19.0%)、「2.0%~3.0%未満」が20.5%(同27.6%)、「1.0%~2.0%未満」が15.3%(同22.8%)、「1.0%未満」が4.7%(同13.2%)。3%以上の企業は合計59.8%で、前年度の36.4%から20ポイント以上増加した。
また、ベアと定期昇給を合わせた引き上げ率をみると、「5%以上」が36.5%(同18.9%)、「4.0%~5.0%未満」が15.1%(同17.5%)、「3.0%~4.0%未満」が19.2%(同19.6%)、「2.0%~3.0%未満」が16.3%(同23.9%)など。5%以上の企業の割合は合計36.5%で、前年度の18.9%から大幅に増加している。
ベア引き上げ率が3%以上と回答した大企業は6割、中堅・中小企業等では5割
引き上げ率の結果を規模別にみると、大企業では、「5.0%以上」が22.7%(同6.1%)と前年度から大幅に増加し、3%以上と回答した企業の合計割合が68.5%(同39.5%)と7割近くにのぼった。
中堅・中小企業等も、「5.0%以上」と回答した企業が17.2%(同11.4%)に増加するなど、3%以上と回答した企業の合計割合が52.0%(同33.4%)にまで伸びた(図表2)。
図表2:2024年度の賃金引き上げ率について(2023年度との比較)中堅・中小企業等
(公表資料から編集部で作成)
ベアと定期昇給を合わせて5%以上の引き上げ率が大企業では5割を超える
ベアと定期昇給を合わせた賃金の引き上げ率を規模別にみると、大企業では、「5.0%以上」と回答した企業の割合が前年度(26.1%)から27.7ポイント上昇し、53.8%と半数を超えた。一方、中堅・中小企業等では、「5.0%以上」と回答した企業の割合は前年度(13.4%)から増加はしたものの、24.4%と3割以下だった。
賃上げを実施する理由のトップは「社員のモチベーション向上」
賃金の引き上げを実施する理由を尋ねると(複数回答)、「社員のモチベーション向上、待遇改善、離職の防止」が86.0%で最も割合が高く、次いで「物価上昇への対応」(67.0%)、「新規人材の確保」(54.9%)、「同業他社の動向」(16.7%)、「労使間交渉に対応」(13.2%)、「業績(収益)好調(見通しを含む)」(10.8%)などとなった。
賃金引き上げにより人材を確保できたかを尋ねると(複数回答)、「確保できた」と回答した企業の割合は、正規従業員で7.1%、非正規従業員で9.4%。「ある程度確保できた」は正規従業員で35.7%、非正規従業員で43.3%となっており、これらを合計した一定以上人材を確保できたとする企業の割合は正規従業員が42.8%で、非正規従業員が52.7%だった。
一方、「十分に確保できていない」と回答した企業の割合は正規従業員で38.6%、非正規従業員で32.5%、「全く確保できていない」では正規従業員が4.2%、非正規従業員が2.4%で、正規従業員ついては合計で42.8%が確保できていない状況となっている。
人件費の価格転嫁ができていないとする中堅・中小企業等は5割程度
人件費の価格転嫁の状況をみると、「転嫁できた」は大企業で6.3%、中堅・中小企業等で5.6%、「ある程度転嫁できた」は大企業で23.5%、中堅・中小企業等で26.8%となっており、これらを合計した割合は大企業で29.8%、中堅・中小企業等で32.4%だった。
一方、「十分には転嫁できていない」は大企業で34.8%、中堅・中小企業等で36.6%、「全く転嫁できていない」は大企業で9.8%、中堅・中小企業等で13.6%となっており、これらを合計した割合は大企業で44.6%、中堅・中小企業等で50.2%にのぼった。
人件費の価格転嫁ができない理由(複数回答)を尋ねると、4割近くの企業が「同業他社の動向」(39.8%)と「原材料費の高騰分の価格転嫁を優先している」(38.1%)をあげ、「取引先から理解が得られない」(32.8%)が約3割。「消費者から理解が得られない」が26.3%などだった。
(調査部)