賃上げで目立つ満額回答。初任給の大幅増も
 ――【単組】賃金・一時金の取り組み状況

ビジネス・レーバー・モニター定例調査

単組から寄せられた報告では、賃上げで満額回答を得た組合が多くみられたほか、一時金でも満額回答や組合要求に近い水準での妥結が報告された。出張旅費や物価上昇手当の扱いについて議論したと報告する組合もあった。

モニターの2組合はいずれも賃金・一時金ともに満額獲得――自動車の単組

春闘の牽引役である金属関連の単組から、報告の内容をみていくと、【自動車】のA社労組は賃金について、物価上昇等をふまえた水準底上げのほか、家族手当の増額、競合他社との比較もふまえた若年層の賃金底上げ、正社員に連動した期間従業員・パートの賃上げを求めた。一時金は年間7.6カ月分を要求。その結果、賃金・一時金ともに、要求どおりで妥結した。

B社労組は、賃金について1万8,000円の引き上げ、年間一時金については5.8カ月分をそれぞれ要求し、要求どおりで妥結。モニターは要求作成の考え方について、「連合の統一要求として掲げた5%以上の賃上げ目標は、日本経済を牽引していく企業の労使として越えなければならない一方で、会社の業績や取り巻く環境を考慮し、要求を引き上げすぎることはせず、本要求の決定に至った」としたうえで、「昨今の物価上昇から全組合員の生活を守ることを目的とした特別配分を要求することとした」と説明した。

賃金は満額、初任給は要求を上回る回答が――電機の単組

【電機】の単組は、電機連合方針にもとづく要求ポイントで、賃金体系を維持したうえでの4.3%の賃金水準改善を要求し、満額回答となった。初任給は大卒27万2,300円、高卒20万9,600円を要求したところ、会社からは組合要求を上回る大卒28万円、高卒21万2,300円の回答があった。一時金は業績連動方式となっている。

これまでの春闘と異なる点として、2024年4月からジョブ型人材マネジメントが導入されることに伴い、報酬を年収ベースとし、昇給は「額」から「率」へと考えを変更することになった。そのため、春闘でも要求を年収換算での「率」ベースとして交渉した。会社側からは、早々に人への投資に対して前向きな発言が聞かれたものの、その「率」については回答指定日ギリギリまで検討が続いたため、「満額回答が得られるかどうかは終盤まで予断を許さない状況だった」という。また、一律での加算を要求した組合と、成果に応じて水準改善を行いたい会社側で平行線をたどり、最終的には一律加算の達成とはならなかった。

そのほか、国内出張時の宿泊料について上限見直しを要求したが、適正額を見極めるため結論は先送りとなり、継続協議となった。

賃金改善は2単組とも、1万8,000円の満額回答――造船・重機の単組

【造船・重機】では2つの単組から報告があった。A社の労組は賃金改善として1万8,000円を要求し、要求どおりで妥結。年間一時金は6.5カ月(約243.7万円)を要求し、6.1カ月(約239.6万円)で妥結した。

要求作成の背景についてモニターは、賃金改善については「物価上昇分、人への投資、相場賃金確保、人材不足への対応など総合的に勘案し策定」したと説明。一時金は「会社施策への協力・努力への成果配分や中期目標達成見込み(要求策定時)といった観点から策定」したと報告した。その他の労働諸条件改正要求については、上部団体である基幹労連の2年サイクルの動きにならい、次年度に要求するとしている。

B社労組も1万8,000円の賃金改善を求めた。企業内最低賃金は満18歳ポイント18万円を19万3,000円へ改定することを要求。一時金は、労使で合意した業績連動算式による金額および月数を要求した。いずれも要求どおりで妥結した。

労働条件の改善として要求した①自然災害発生時の社会貢献活動に対する特別休暇の新設②年次有給休暇における育児・介護・看護・通院等に対する時間単位使用の新設③育児のための短時間勤務の適用範囲の拡大④介護のための短時間勤務の適用期間・取得回数の拡大⑤国内出張における宿泊料の改善――の5点も、要求どおりで妥結した。

決着した賃金改善は組合員平均で月額2万円――非鉄金属の単組

【非鉄金属】の単組は、組合員平均1万5,000円の賃金改善を要求。さらに現行の物価上昇手当(1万円/月)について、2024年4月以降は基準内賃金・月額基本給および月額賃金に一律で配分することを求めた。年間一時金は180万円を要求。さらに付帯要求として、人間ドック受診費用等の補助拡大と、健康増進に取り組んだ人や健康状態を保っている人への表彰制度の導入を求めた。

交渉の結果、賃金改善は組合員平均で月額2万円となり、物価上昇手当は2024年7月から廃止となった。年間一時金は178万円で妥結した。

付帯要求のうち「人間ドック受診費用等の補助拡大」は、満40歳の社員が人間ドックを受診した場合の個人負担費用(上限1万2,400円)について、1回に限り会社が負担することとなった。「健康増進に取り組んだ人や健康状態を保っている人への表彰制度の導入」は2024年度中に導入することとなった。

交渉の経過についてモニターは、「物価上昇手当の取り扱いは、交渉終盤まで労使で考え方に隔たりがあり、会社も歩み寄りをみせなかった」としたうえで、「そのため、賃金改善要求(1万5,000円)と物価上昇手当(1万円)を合わせ、賃金改善2万5,000円の要求額として改めて『人への投資』を求めて交渉を進めた」と報告している。

要求していない課題事項についても会社側が対応を提案――事務・精密機器の単組

【事務・精密機器】の単組は、定期昇給6,500円と一律の臨時昇給1万2,000円(賃金改定率で5.37%程度)を要求。初任給については、大学院(修士)卒27万3,500円(1万2,000円増)、大卒25万円(1万2,500円増)、高専卒21万5,000円(1万2,000円増)、高卒19万2,000円(1万2,000円増)を求めた。企業内最低賃金の引き上げは1,190円(40円増)を要求。再雇用者、契約社員、時給制契約社員は月額5,000円相当額の引き上げを、営業系契約社員(店頭販売員等)は月額4,000円相当額の引き上げを求めた。その結果、いずれも要求どおりで妥結した。

また、正式な要求は行っていなかったが、会社側との協議のなかで課題として組合側があげていた「物価上昇に伴う出張費の改善」「給食施設がない事業所の食事手当の改善」「赴任手当の改善」「借り上げ社宅の入居条件の緩和」について、会社側から4月1日付で、規程改定するとの提案があった。

賃金は2万2,900円の満額回答で妥結――陶業の単組

金属以外の製造業をみていくと、【陶業】の単組は、賃金カーブ維持およびベースアップとして2万2,900円の賃上げを要求し、満額回答となった。一時金は201万円の要求に対して回答は195万円。企業内最低賃金の引き上げは1,090円を要求し、同額の回答となった。

ベア1万2,500円(3.58%)で妥結――化繊の単組

【化繊】の単組は、今春闘ではベースアップ分として1万3,953円(4%)を要求し、1万2,500円(3.58%)で妥結した。

交渉では、上部団体であるUAゼンセンの製造産業部門の先行交渉グループとして、3月15日までの解決を目指して交渉し、期限内での解決となった。モニターは交渉結果について、「世間との比較では厳しい業況にある経営実態と賃上げのあり方が交渉の争点となるなかで、適切な妥結となったと捉えている」と振り返った。

【化学】の単組はベースアップ1万3,700円(3.83%)、定期昇給7,928円(2.22%)の計2万1,628円(6.05%)で妥結した。

【医薬品】の単組は、定期昇給時に組合員平均1.5%の追加昇給を実施することや、契約社員(組合員)も正社員に準ずる対応を実施することを要求し、組合要求どおりの回答を得た。

物価上昇や2024年問題を根拠に交渉――運輸の単組

【運輸】の単組は、定期昇給1.2%、ベースアップ4.2%、一時金5.0カ月を要求した。交渉の結果、定期昇給1.2%、ベースアップ1.9%、一時金3.2カ月で妥結した。

妥結の背景についてモニターは、「2023年度の会社の業績は減収・減益という厳しい結果となり、2024年度も直近の実績が減収・減益であったことなど、厳しい状況が続くことが想定された」とする一方で、「物価上昇により組合員の生活が影響を受けていること、2024年問題への対応や社会全体で賃金引き上げが求められていることなどを主張し交渉を行った」と報告。その結果、「賃金については、すべての組合員に行き渡る3%の増額を確保したこと。また、一時金についても厳しい業績のなかで年間3.2カ月を実現できたことなど、総合的に判断した」とした。