子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現する措置や、介護離職防止のための支援策を強化
 ――予定される「仕事と育児・介護の両立支援対策」の充実策の内容

行政の動向

すべての労働者がライフステージにかかわらず仕事と生活を両立できる職場環境を整備するため、政府では、法改正も含め、仕事と育児・介護の両立支援対策を充実させるための作業を進めている。育児との両立では、3歳以上の小学校就学前の子を養育する労働者が、「始業時刻等の変更」や「テレワーク」などの措置のなかから選択して利用できるようにすることを事業主に義務づける。介護との両立では、介護離職を防止するため、労働者が介護に直面した旨を申し出たときに、両立支援制度についての個別周知や意向確認を行うことを事業主に義務づける。国会に提出された改正法案は、施行期日を2025年4月1日としている。

<両立支援対策を見直す背景>

男性の育児ニーズは高いが休業利用割合は高くない

現在の育児休業取得率は、女性が80.2%、男性が17.13%となるなど、男女間で両立支援制度の利用状況に差がみられる。また、育児負担が女性に偏りがちになっている状況も指摘される。一方、両立支援制度の利用に関するニーズをみると、正社員の男性でも、育児休業を利用していないが、利用したかったとする人が約3割いる。育児期の働き方に関するニーズをみると、正社員の女性は、子が3歳以降は短時間勤務を希望する人もいる一方で、子の年齢に応じて、フルタイムで残業をしない働き方や、フルタイムで柔軟な働き方を希望する割合が高くなる状況にある。

十分でない介護休業制度の目的の理解

介護との両立の現状では、家族の介護や看護による離職者が、年間約10.6万人にのぼる。多くの事業場で介護休業制度などの規定が整備されている状況にあるものの、介護休業が「介護の体制を構築するために一定期間休業する場合に対応するもの」と位置づけられている一方、「介護休業期間は介護に専念するための期間である」と考える人が事業主・労働者に一定程度みられるなど、介護休業制度の目的が正確に理解されていない面がある。離職の背景の1つとして、労働者が介護休業制度などの両立支援制度について、制度内容や利用方法などの知識が十分でなかったこともあると考えられている。

そのため労働政策審議会雇用環境・均等分科会が昨年12月にまとめた報告は、こうした現状をふまえ、「介護休業を始めとした両立支援制度が知られずに利用されていないことや、制度の趣旨への理解が不十分で効果的な利用がされていないことから両立が困難となっている状況を改善し、介護離職を防止していくことが喫緊の課題と考えられる」と指摘した。

<予定される対策の見直し内容>

子が3歳になるまでのテレワークの活用を事業主の努力義務に

こうした課題意識から政府は、労政審雇用環境・均等分科会の報告の内容に沿って、制度見直し作業を進めている。必要な法改正も行う予定で、すでに育児・介護休業法の改正案を今通常国会に提出した。

予定されている措置の具体的な内容をみると、子の年齢に応じた両立支援に対するニーズに対応するため、子育てのステージごとに対策を拡充させる。「子が3歳になるまでの両立支援策の拡充」に向け、男女ともに育児休業制度や短時間勤務制度などを気兼ねなく利用できるようにするため、子が3歳になるまでの両立支援としてテレワークを活用できるようにすることを事業主の努力義務とする。

また、短時間勤務制度について、柔軟な勤務時間の設定に対するニーズに対応するため、1日6時間とする措置を必ず設けなければならないとする現行の制度は引き続き維持したうえで、他の勤務時間もあわせて設定することを促す。なお、他の勤務時間では、例えば、1日の所定労働時間を5時間や7時間とする措置や、1週間のうち所定労働時間を短縮する曜日を固定する措置、週休3日とする措置などを想定している。

さらに、労使協定により、短時間勤務制度を講ずることが困難な業務に従事する労働者を短時間勤務制度の適用除外とする場合の代替措置に、テレワークを追加する方向だ。

始業時刻変更、テレワーク以外に短時間勤務制度や新たな休暇の付与なども

「子が3歳以降小学校就学前までの両立支援の拡充」に向けては、労働者が仕事と育児との両立支援のあり方やキャリア形成への希望に応じて、柔軟な働き方を活用しながらフルタイムで働ける措置も選ぶことができるようにするため、事業主が、柔軟な働き方を実現するための措置の選択肢として、①始業時間等の変更②テレワーク等③短時間勤務制度④保育施設の設置運営等④新たな休暇の付与――のなかから、2つ以上の制度を設置することを義務づけ、労働者が1つを選択できるようにする。

なお、テレワークと新たな休暇については、原則、時間単位で所得できるようにする。テレワークについては、頻度に関する基準を設け、1カ月で10日を基準とする。新たな休暇の付与では、子の人数にかかわらず年間10日とする。

看護休暇制度を学校の行事参加でも利用可能に

子の看護休暇制度の見直しも講じる。感染症に伴う学級閉鎖や子の行事参加(入園式、入学式、卒園式を対象)にも利用できるようにする。この取得事由の拡大に伴い、名称を「子の看護等休暇」に変更する予定だ。

このほかの子の年齢に応じた両立支援に対するニーズへの対応策では、育児期の両立支援のための面談と、心身の健康への配慮を打ち出している。子が3歳になるまでの適切な時期に、事業主が労働者に対して制度の説明と取得意向を確認するための面談などを行わなければならないようにする。現行では、本人または配偶者が妊娠・出産等を申し出たときに、育児休業・産後パパ育休に関する制度などを個別周知したり、事業主が育児休業・産後パパ育休の取得意向を確認するために面談等の措置を講じなければならないことは定められている。

見直し後はさらに、本人または配偶者が妊娠・出産等を申し出たときも、また、子が3歳になるまでの適切な時期でも、労働者の離職を防ぐ観点から、勤務時間帯や勤務地、両立支援制度の利用期間の希望などの意向を確認するように定める。

心身の健康への配慮については、仕事と育児の両立のためにフレックスタイム制やテレワークなどを活用する際に、育児負担と相まって、夜間の勤務や長時間労働などを理由に心身の健康の不調が生じることのないよう、育児期の労働者について、事業主が配慮を行うことなどを指針で定める。

介護直面前の早期での情報提供も

介護との両立支援対策の充実に向けては、介護離職を防止するために、仕事と介護の両立支援制度の周知を強化する。具体的には、事業主に対して、①介護に直面した労働者が申し出をした場合に、両立支援制度等に関する情報を個別周知し、意向確認する②介護に直面する前の早い段階(40歳等)に両立支援制度等に関する情報提供を行う③研修や相談窓口を設置するなど雇用環境を整備する――の措置を講じることを義務づける。

また、介護期の働き方について、労働者がテレワークを選択できるよう、事業主に努力義務を課す予定だ。

改正法案では、施行期日を2025年4月1日としている。

(調査部)